艦娘と提督   作:ためきち

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2話

 艦娘達の提督を駅で回収し車を走らせること30分。彼が現在暮らしているアパートに着いた。

それなりに年季の入ったアパートだけあって外観はあまり綺麗とは言いがたい。まあ、住む分には問題はなさそうだ。

 

 

「さあ、着きましたよ。申し訳ないのですが天龍さんを起こしてもらっても良いでしょうか?」

 

「え、あ、はい。天龍起きろ。着いたぞ」

 

 

 彼が天龍に声をかけると彼女はパチッと目を開いて涎を乱暴に腕で拭ってから彼の方を見て「おぉ、提督じゃねーか! 居たんなら起こしてくれよなー!」と笑顔で彼の肩を少し乱暴に叩いた。

 

 我々も一応確認のために艦娘達と軽いふれあいをした事がある。彼女達は誇張なしにとても硬かった(・・・・・・・)。人肌に見えたそれは鋼鉄だったというのがほとんどの自衛官の感想だった。

私は担当した艦娘にお願いをして手以外に足や髪の毛も触らせてもらったがそのどれもが鉄と同じぐらいの硬度に感じられた。胸については流石に確認を取ってはいないがおそらく硬い。あんなにもやわらかそうな見た目に反して鉄そのものだったのだ。ちなみに匂いは普通に女性らしい良い匂いがしたのがどうにも不釣り合いで印象に残っている。

 

 しかし、その感想は男性の自衛官のみで一緒に確認を取った女性の自衛官達は一様に柔らかかったし大きかったと言っていた。何が大きかったのか聞き返そうとして彼女達の目が犯罪者を見るそれになっていたため聞き返せなかった。

ゆえに艦娘達は自分が認めた提督と同性にはその柔らかさを解禁しているのではないかという仮説が出ている。

現に彼も叩かれて痛いという風に天龍を叱ってはいるが鉄の塊で叩かれてあの程度で済むはずがない。

やはり、提督には我々に対する硬さは発揮されていないらしい。帰ったら報告書に書いておこう。

 

 4人が降りてから忘れ物が無いか座席の確認をしてから改めて彼のほうへ向き直る。

 

 

「それでは我々はこれで一旦帰らせていただきます。明日の予定に関しては大淀さんから報告があると思いますので後ほど確認しておいてください」

 

「大淀も来るんですか?」

 

「いえ、おそらく既に部屋の中に居るのではないかと思われます」

 

「あーえーほー……マジかー……」

 

 

 彼も男だ。そういう物が部屋に転がっていたのかもしれない。男として同情はするがこれだけの女性に囲まれているんだからざまー見ろという感情が芽生えなくも無い。

 

 

「……心中お察しします」

 

「大丈夫だとは思いたいですけど、まあ、見つかったら見つかったで諦めます」

 

「ははは、流石は提督。肝が据わっていますね。それでは自分達はこれで。また明日お迎えに上がります」

 

「あ、はい。すいません。ご迷惑をおかけします」

 

 

 まあ、こうやって突然の事態にもかかわらず人に頭を下げられる奴は嫌いではないかな。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 寝ている天龍を起こせと菊池さんに言われたので肩を軽く揺すって声をかけた。

天龍は一瞬身を捩ったがすぐに目を開き涎を乱暴に拭いて肩に乗っている手の先に居る俺を見つけてキラキラのエフェクトが付きそうな笑顔と共に俺の肩をお返しとばかりに叩いてきた。超痛いんだけど。

 

 

「おぉ、提督じゃねーか! 居たんなら起こしてくれよなー!」

 

「流石にあんだけぐっすり寝てる奴を起こすのも忍びなかったからな。つか、肩痛いから。お前ら自分の力の強さ分かってんの!?」

 

「分かってる分かってるって!」

 

 

 いや、分かってねーだろ。お前らのゴリラパワーで肩叩かれて外れなかった俺を褒めて欲しいレベルだわ。

そんな感じのやり取りをしながら車を降りる。忘れ物は大丈夫かどうか聞かれたがリュックぐらいしか手荷物が無かったから忘れようがない。

そして、菊池さんは明日の予定と大淀という聞き捨てならない単語を口にした。

 

 いや、確かに艦娘が現実世界に現れましたなんて話がこんな30分ぽっちの顔合わせで事が済む訳がないよね。分かってた。てことは、明日の仕事は休めるのかな? 最高じゃんこの子達。流石俺の艦娘。俺の事分かってるわ。

ただし大淀。てめーは微妙だ。流石に青年雑誌を床にそのままというわけではないけど本棚にはしっかりと収納してある。一人暮らしだしね。隠すって習慣がそもそも抜け落ちてる。女性が家に来るわけでもないしね……

 

 菊池さんも俺の表情を見て察してくれたみたいだ。やはり男同士だし通ずるものがあったんだろうなぁ。

肝が据わってると褒められたがここまで来てしまったらもう手遅れ以外の何も無いわけだしな。諦めよう。大淀を俺は信じる。

てか、なに。迎えに来るって事は明日にでも艦娘がいる所に案内してくれるって事なんだろうか。というよりもこの子達を当然の様に置いていったけど。え、俺の部屋5人も入るかな……入れても寝るとき布団敷いて寝転がれる気がしないんだけど。てか、人数分も布団無いし。

 

 

「よっしゃ、ここに居てもしょうがないし提督の部屋行こうぜ。どこなんだ?」

 

「……そうだな。大淀待たせるのも悪いし行くか。1階の奥から2番目の部屋だよ。他にも住んでる人がいんだから静かにしろよ天龍」

 

「わーってるわーってる。川内じゃねーんだからよ。夜になったから騒ぐとかそんな事はしねーよ」

 

「天龍ちゃん偉いわね~」

 

「てめっ龍田! 撫でんな!」

 

「さあー行きましょう!」

 

 

 この中で一番肝が据わってるのは俺じゃなくて五月雨なんじゃないかって俺は思うんだ。

んで、歩き出した時にわざわざ五月雨が俺の前に出てきた。気づけば天龍と龍田もほぼぴったりくっつくように俺の後ろを陣取ってきた。多分、わざわざ五月雨が前を歩いて軽巡二人が後ろを固めたのは俺が提督だからとかなんだろう。

彼女達が1年間どうやって過ごしてきたかはまだ知らないけれど彼女達の常識から考えてみれば上官を守るためにとか考えてるんだろうなぁ。艦隊行動とか詳しくないけど。とりあえず可愛ければいいか。

 

 そいで、アパートなんて端まで行くのに1分も掛からない。俺の部屋まで速攻で着いた。

ちなみに部屋の外に大淀が待っているなんて事は無かったので部屋の中に居るのだろう。今年の暑さは狂ってるからなぁ。エアコン付けて涼んで待ってるのが一番よ。

ドアノブを回したら案の定鍵が掛かっていなかったのでそのまま入った。が、問題発生。靴が入りきらん。

艦娘って上げ底だったりブーツだったりが多いもんだからウチみたいなちっこいアパートだと5人分も靴が並ぶと狭いのなんのって……しょうがないからビニールの上にでも並べるか。

 

 

「提督お帰りなさい。エアコンを付けて部屋を涼しくしておきました」

 

「ただいま。冷房ありがとな。他になんかした? 部屋が少しすっきりしてるような」

 

「はい。部屋の掃除を軽くしておきました。あと洗濯と晩御飯の用意もしておきました」

 

「あぁ、大淀は料理できる勢だったか。あんがとさん」

 

「いえ、提督に喜んでいただけるように頑張って作りましたので楽しみにしておいてくださいね?」

 

「おーい。入ってすぐの所でいちゃこらしてんなー。後がつかえてんだ、後がよ」

 

「悪い悪い」

 

 

 明らかに機嫌が悪いですといった空気の天龍に頭を乱暴に撫でて部屋の中に入っていく。

天龍は龍田の時みたいに怒ったりはしなかったがぐぬぬと怒るべきか喜ぶべきかという難しい顔をしながら俺の後に続いた。

中に入って改めて部屋を眺めるとやはりすっきりしていた。主に本棚が。本棚が!!!

どうゆう事だと大淀の方を見るとにっこりと微笑み返してきた。ははーんなるほどな。俺のウ=ス異本は異界に葬り去られたようだ。

ガッテム! てか、本棚にしまってあった物だけじゃなくて入りきらなくなって床に積み上げられていたウ=ス異本も無くなってんよ! 

あれ? 待てよ。よくみたら艦これの日常系の本は残ってんな。大淀の奴、艦これの全年齢向けの本以外のウ=ス異本と青年雑誌を全部捨てやがったのか……まあ、いい加減量が多くなりすぎてどう減らしていこうか悩んでたしちょうどいいっちゃいいんだけど……

 

 

「大淀さんや?」

 

「はい。なんでしょうか提督」

 

「本棚のこのスペースと床のここら辺に積んであった本はどこ行ったんだい?」

 

「そこにあった本なら私と一緒に来た自衛官の方にお渡しして焼却処分していただくことにしました」

 

「ほー俺の許可なく?」

 

「はい。しかし、提督。ああいった本はやはり不健全かと思います」

 

「いや、まあそれは分かってるんだけどね?一応捨てる前に一言欲しかった。もう一度鑑賞しておきたかったなーって」

 

「あらいやですわ提督。もう本物が目の前に居るんですから本じゃなくてもいいじゃないですか」

 

 

 だめだ。大淀の奴楽しんでやがるわ。多分俺がそんなに怒らないことまで考えての犯行なんだろう。

俺はそんな愉快犯の眼鏡に人差し指の指紋を付けることで仕返しとした。しかも両方のレンズに。

大淀は声にならない悲鳴をあげ急いでレンズを拭いてからこちらを睨んできた。フゥーハハハ! 次からはちゃんと確認を取るんだな助手よ。

そんな感じで大淀で遊んでいたら人をダメにするクッションでダメになっていた天龍が声をかけてきた。

 

 

「なあ提督ぅ。テレビつけろよテレビぃ」

 

「そうだな。今の時間ならクイズ番組でもやってんじゃねぇか?それ見ながら晩飯にでもするか」

 

「あ、でしたら提督。先にお風呂に入ってきてはどうでしょうか? 晩御飯でお腹一杯になってからお風呂というのは人の胃にあまりよくないそうですから」

 

「そうなの? じゃあ、先に風呂入ろうかな。あ、俺からでいいのか?」

 

「もちろんよ~。上司が先に入ってくれないと部下が入りにくいじゃない」

 

「そんなもんか。分かった。先に入らせてもらうよ」

 

 

 そう言って立ち上がり脱衣所に向かおうとすると部屋に入ってからずっと俺の横をキープしていた五月雨も一緒に立ち上がった。

五月雨に向かってなんで立ち上がったんだろうと視線を向けて答えを促したが返ってきたのは首をかしげた可愛い仕草のみ。

言わないって事はトイレかなと納得して脱衣所に向かう。まあ、やっすいアパートだけあって脱衣所なんてありゃしないんだけどね。服脱ぐときは居間のドア閉めればいいか。

と、考えながら五月雨を引き連れてトイレの前兼脱衣所に到着した。俺は手でトイレなら先にどうぞとジェスチャーで促したがやはり彼女は首をかしげる可愛い仕草しかしてくれない。

 

 

「五月雨はトイレのためにここまで付いてきたんじゃないのか?」

 

「え、違いますよ?」

 

「え、じゃあ何か忘れ物? あ、飲みものが欲しいとか?」

 

「いえ、それも違いますよ! 私はお風呂に入る提督のお背中を流そうと思って付いてきました!」

 

 

 ふんす! と気合たっぷりにそう言う五月雨ちゃん。

気合! 入れて! いきます! ってか? うん。アパートの風呂の狭さをなめたらいけない。俺でいっぱいいっぱいなのに五月雨ちゃんもとか無理なのよ。

 

 

「五月雨ちゃん。その申し出は嬉しいよ」

 

「ホントですか! 私頑張って提督のお背中流しますね!」

 

「あぁ、でも今日はやめておこう。この風呂場を見てごらん。でら狭いのよ。二人なんてとてもじゃないけど入れないのさ。それに、ね? 俺は確かに君達の上司的な立場なんだろうけど背中まで流してもらう必要はないんだぞ?」

 

「いえ、それだけじゃありません! だって、提督と私はふ、夫婦じゃないですか! 背中ぐらいいつでも流しますよ!」

 

 

 え、カッコカリって現実世界でも適用されるの? ぐっと両手を胸の前で握り締めて有り余る気合を表現している五月雨を横目に五月雨が帰るようにとまだ開けてある居間のドアの向こうでくつろいでいた大淀に視線を向けた。

大淀はこちらの視線に気が付いて微笑みすがすがしいまでのサムズアップを俺に送ってくれた。

あ、適用されるんですね。よく見りゃ龍田の頭の上のわっかがちょっと早めに回転してる。やっぱ、あれ龍田の心情を表に出す装置なんじゃないですかね。だって、さっきまで欠片も動いてなかったじゃないかあのわっか。天龍はクイズの答えがわからなくてうんうん唸っていた。

 

 

「それに提督。私達ケッコンして4年も経つんです。今まで出来なかった分ちょっとでも夫婦っぽい事もしてみたいな~なんて」

 

 

 やめて。その赤らめた頬が俺の理性を削っていってしまう。しかし、ここは踏ん張りどころだ。ここは五月雨に諦めてもらうんだ。普通に考えて五月雨を風呂場に入れたら色々と我慢できないもん。色々と!

それでなくてもこの場に3人も他に人がいるんだもん。我慢しよう。

 

 

「五月雨ちゃん。今日はこの風呂場の狭さだし諦めてくれ。後日機会があればその時は頼むよ。な?」

 

「大丈夫ですよ提督! 村雨からそういった場合の対処方法を聞いてきましたから!」

 

 

 え、村雨からのアドバイス? あの村雨からのアドバイス? 超気になるんだけど。え、どんなびっくりドッキリな対処方法なの? あの村雨だよ?

 

 

「……………………いや、五月雨ちゃん。その対処があったとしても今日はやめておこう」

 

「提督。そんな顔で断っても説得力がありませんよ。でもまあ、五月雨ちゃんも今日はやめておきましょう? 私の手料理の前に五月雨ちゃんでおなかが一杯になったらやるせないですからね」

 

「うーん。提督と大淀さんがそこまで言うなら今日はやめておきますね。でも、提督とお風呂に入るの楽しみにして待ってますね!」

 

 

 五月雨はそう言うと背伸びをして俺の頬にキスをしてきた。キスをしてきた。ほっぺにちゅーである。やわらか。一瞬だったのにやわらか。まじか。やわらか。

キスをして離れた五月雨はふふっと笑って居間に戻っていった。

なんだよ。俺の嫁がめちゃくちゃ大人な女な件。なに? あれも村雨からのアドバイス? 

はえーどちらにせよだ。この歳までこんな経験の無かった俺にはかなり心臓への負担がきつい。バックンバックンいっとるがな……恋愛クソ雑魚ナメクジすぎんだろ。

 

 えぇ……少なくとも提督LOVE勢筆頭戦艦金剛はこれ以上の火力を秘めていると考えると俺、自分の艦娘達に会ったら死ぬんじゃね? 心臓発作で死ぬよこれ。つか、提督LOVE勢は金剛だけじゃないという恐怖……

いや、まだ全員が全員設定どおりの性格をしているとは限らないし五月雨はケッコンしてるから特別という可能性もある。そうそれだ。五月雨は特別。これでいこう。あいやでも、龍田はケッコンもしてないのに割と俺とスキンシップを取ってきてたな……あの子ケッコンお断り勢じゃなかったか? 天龍LOVE勢のはず。なぜだ……

 

 あーーーーまあ、とりあえず、考えるのは後にして風呂に入ろう。あの子ら待たせるのも悪いしチャッチャと入って出てしまおう。でも、いつも以上にしっかり洗おう。夏だし。女性が居るのに風呂に入ってまだ汗臭いとか絶対ドン引き案件だろうし。

というか、なんか俺が掃除したときよりも心なしか風呂場が綺麗なんだけど。風呂場キラ付け? 艦娘パワーで掃除したら綺麗になるのかそれとも妖精さんパワーなのか。

 

 正直部屋に入った時は本棚へのツッコミでスルーしてたけどコタツ机の上とか大淀の頭の上とかに沢山の妖精さんがくつろいだり走り回ったり飛び回ったり好き放題してたし。

よくある二次創作じゃ妖精さんが話したりしてたけど俺は今のところ彼女達の声を聞いてないんよね。やっぱあれか。よくある提督適性が低いと姿は見られるけど声は聞こえないとかそういう類の話なんだろうか。

 

 つか、一緒に風呂に入ってキャッキャと遊んでいる彼女達の声が聞こえないのがどうにも気持ち悪い。こんだけはしゃいでいるのに音が聞こえてこないというのがある種ホラーだよこれ。

しっかし、一人手に乗せてほっぺたを触ってみると非常にやわっこい。赤ちゃんのほっぺたに近い物質らしい。

 

 

「君らは喋れないのかい?」

 

「! …! っっ! ?」

 

「あー口をパクパク開いてるところを見ると喋れないわけじゃないのか。そーなると俺の提督適性、提督レベルが低いのが原因と考えるべきか。それとも二次元と三次元の壁なのか。そもそも声だけじゃなくて君らが発する音が全部聞こえないところを考えると次元の壁という線が濃厚という事になるのかなぁ」

 

 

 妖精さん達は俺に向かって口の開閉に加えて身振り手振りと何かを伝えようと必死に動いているが何一つ伝わってこない。中には手旗信号で言葉を交わそうとする猛者も居たけど俺が手旗信号を知らないがゆえに全く伝わらない。悲しみ。

まあ、なんで声が聞こえないのかは後であの子らに聞いておこう。

意思疎通が出来るようになれば秋刀魚が捗る。羅針盤で運ゲーなんてものがなくなるかもしれない。

意思疎通が可能になれば2-4ストレートクリア出来るかもしれない。

意思疎通が出来れば大型建造で大当たりを一発で引き当てられるかもしれない。うはー夢がひろがりんぐ!

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