俺はあまりにも貧弱すぎる自分の肉体を悲しく思っている。
あの日、芋掘りで痛感した運動不足を解消すべく俺は武蔵ブートキャンプを行った。
案の定、翌日と言わずその日のうちに筋肉痛になりましたね。はい。
まあ、あれよ。何日も経ってから筋肉痛になるみたいな年寄りみたいなことにならなくてよかったわ。
と言うか、俺の超人細胞は仕事してくれないの? 劣化版とは言え艦娘細胞。少しぐらいはパワー側にも恩恵あるでしょ。
そう思って改めて明石に聞いたんだけど、
「え? ないですよ? 前にも言いませんでしたっけ? 提督に怪我をしてほしくないって想いで作った物ですからね。それに凄いパワー、要ります? 考えても見てください。私達艦娘は言わば提督の手足です。提督のパワーと言っても過言ではありません。つまり、提督は既に凄いパワーがあるようなものですね」
そんな感じで押し切られた。
いや、ちゃうねん。やっぱ、男に生まれたからには的な感じあるじゃん?
例えそれが自分の努力の末手に入れた物でなくてもやっぱ貰えるものは欲しかった。
力が欲しいかって聞かれたら欲しいって答えるし継承しろって言われたら継承する。
まあ、何が言いたいかと言うと筋肉痛をどうにかしてぇ……
いつもの調子で体を動かそうとして走る痛みがどうにも嫌なんだよね。
勿論、最初の頃は「この痛みは筋肉が喜んでる証拠」って思ってたんだけど数日続くとね。つらいよね。
クエン酸とビタミンCがいいらしいですとか言って色んな子が料理を持ってきてくれたけどそれ食べたらなんのために体をいじめてるのか分からなくなってしまうのよ。
分かってんのか、特に厨房組このやろう。
あとはマッサージも良いんですよ組かなぁ。
金剛がやってくれようとしたけどあれはもうマッサージの域を超えてた。
一応マッサージの部類に入るんだろうけど筋肉痛には効かないと思うんだよね。
流石は愛し合う方法は一つじゃないデースみたいなことを言ってのけただけはあるなと感心してしまったよ。
もちろんマッサージ案は却下した。だって、そうしないと周りがどんな反応示すかわからんもの。
やだよ。金剛の提案だと一日中風呂場に居る事になるからな。ふやけちまう。
「で、そんなのから逃げてここに来たわけ? はい」
「まあ、そうなる。今はタブレットがあるから執務室じゃなくても艦これ出来るしな。ありがと」
「ふーん。そこはアタシに会いに来たって言ってくれてもいいんじゃない、クソ提督」
「流石に誰がどこで何してるかまでは把握してないからたまたまだな。それに曙は俺より後にこの部屋に来たじゃないか」
「それでもそう言うのが大人の男性だって潮が言ってたんだけど?」
「あの子はちょっと夢見る乙女な部分があるからね」
「アタシもそういう部分があるって言ってんのよ」
「……曙がここに来るかもしれないと思ってここで待ってたんだよ」
「まあまあ。棒読みな所が大幅減点ね」
「……そうか」
「……てゆうかさー提督もぼのぼのもイチャイチャするなとは言わないけど鈴谷も居るんだけど? なんなら提督の腕の中に居るんだけど? 鈴谷挟んでイチャイチャするのはなんか違くない? あと、ぼのぼの。鈴谷にもみかん剥いて!」
「その体勢で自分はイチャイチャしてないって無理があるわよ? 先に見せつけてきたのはそっちじゃない。あと、そのぐらい自分でして」
このぐーたら重巡は俺がこの部屋。つまりは、娯楽室に入ってきた時には既に居て、ジャージ姿でゴロゴロとゲームをしていた。
熊野が前に「鈴谷は娯楽室の主って言われてもおかしくないぐらいあそこに居るんですのよ? そのせいなのか服装も……」って延々と愚痴ってた。
ゲーム内のキラキラとまぶしい青春真っ盛りJKみたいな鈴谷はうちには居ない。
うちに居るのは干物女鈴谷。ゲームとアニメを好み、娯楽室で「神珠でないなぁ」って言ってる奴。
そんな鈴谷は俺が部屋に入ってくるのを見て、ちょいちょいと手招きしてきた。
「はいここ座ってー」と座椅子に座らされ次の瞬間には鈴谷が俺の上に座っていた。
正直、駆逐艦達の感覚で座られると……重い。比較的育ってるなって駆逐艦よりも育ち切って肉肉してる重巡のが重たいってのは当たり前か。
だから、「重いからどいて」って言いたい。言いたいんだけどね。
鈴谷には悪いけどこの重みって、こう、とても、いやらしいって感じ。
俺がこんな体じゃなかったら爆発してたと思う。
まあ、流石に太ももの血が止まって痛くなってきたから膝上から股の間に移動してもらったけどね。
「てかさーさっきの話なんだけど、どっちかって言うとぼのぼのが提督を探してこの部屋に入ってきたって方が正しいよね? もしかしたら二人きりになれるかもって? ぼのぼのは可愛いなぁ」
「うっさいわよ」
「で、どうなん提督」
「タブレットに漣からメッセージ入ってるぞ。ぼのぼのがルンルン気分でスキップしながらそっちに行ったから相手したげてーって」
「なーんだ。やっぱりそうなんじゃん。素直じゃないなーぼのぼのは」
「漣め……あとで覚えてろ……」
「そう送っとくよ」
「顔真っ赤なぼのぼのかわいい~。うりうり」
「触んな!」
「あんぎゃ! みかんの汁が目に!」
「んごぁ!」
「あっ」
みかんの汁にHPが減るほどのダメージ判定は無かったらしく痛みで鈴谷の頭が後ろにはねる。そして、ピタゴラ式で鈴谷の後頭部が俺の顎に直撃して俺の頭が後ろに吹き飛んだ。
いくら防御力に振ってるって話でも艦娘の攻撃力にはかなわないんだぞ……
全く意識してなかったタイミングで艦娘の後頭部を顎で受けても失神しない程度には頑丈という事は確認できてしまった。
くっそ痛いけどね……痛み耐性もください……下の歯折れてないだろうか……
「ほれのふぁふぉれてたりしふぁい? ふぃとかふぇてふぁい?」
「ご、ごめんなさい、提督。えーっと大丈夫? あー! えーっと、痛い? 痛いわよね? えーっと、痛いの痛いのーとんでけー! え、えーっと!」
「うべぇぁ……」
曙は卓を飛び越え、俺の横に来て鈴谷をどかして俺の口の様子を見てくれている。
完全に血の気が引いている顔で見てくるもんだから俺より具合が悪そうで逆に心配になる。
でも、曙が絶対に言わなそうなランキング上位に食い込みそうなワードが飛び出すレベルでテンパってるのが可愛い。
それと、そろそろ曙の膝の下で呻いている鈴谷も割とかわいそうなのでやめるように。
みかんの汁という昼戦を超えて膝の追撃戦とでも言えばいいんだろうか。
「ん、ん、あーあーうん。大丈夫。曙、俺はもう大丈夫だから。ほら、鈴谷も痛そうだからそろそろどいてあげて」
「ホントに?」
「ホント。だから、どいてあげて」
「目と後頭部と背中がヒリヒリするぅ……」
「鈴谷のは自業自得よ。いいから提督に謝って」
「ごめん、ていとくぅ~大丈夫だった?」
「あぁ、思ってた以上に頑丈な体になってたおかげで助かったわ。鈴谷の後頭部がぶつかって唇すら切れてないのはちょっと驚いたけど」
「クソ提督の体も順調に人を超越しつつあるって事ね」
「どんどん鈴谷達の力が馴染んでいって最終的には提督も艦息子になっちゃうのかな」
「艦息子ってなんか響きが嫌だな」
勢いのある後頭部を喰らって外傷無しな上にもう痛みまで引いてやがる。
艦娘が近くに居ると細胞が活性化されるって明石が言ってた気がするしたぶんそれだな。
鈴谷が居て曙が俺の顔に手をやってたからバチバチに回復力が上がったんだろう。
これ、そのうち部位欠損のZ指定な現象が起こっても治りそうだな。
実際艦娘もバケツで何でもかんでも治せる凄い体だしなくはないか。
デイリー消化で傷付いた子達を入渠させてはバケツをぶっかけていく作業をしながら納得する。
そういや、今の季節限定衣装は秋刀魚だったな。
秋刀魚。あいつ骨がうざくて食べたくないんだよなぁって言ったら鳳翔さんが秋刀魚の骨全部抜いてから出してくれたんだよね。
そういうつもりで言ったんじゃない。ごめんなさいって言ったら「こういう料理なので問題ありませんよ」ってフォローされたわ。
もう今後は小さいガキじゃあるまいし好き嫌いはしないし言わないようにって心に決めたよね。
それはさておき。秋刀魚mode。
慣れ過ぎて忘れてたけど俺もうーちゃんから秋刀魚Tシャツ貰って着てたなって。
それに目の前の曙。今は普通にいつもの服装だけど画面の向こうじゃ今までのF作業ガチ勢の服装じゃなくて三角巾にエプロンと秋刀魚祭りお手伝いmodeで非常にキュートな格好をしておられる。最高か? 最高か。
「なあ、曙」
「何? みかん食べるの?」
「いや、これ。この公式衣装とかって持ってないのかなって」
「どれ? あぁ、あるわよ。あるけど、それ三角巾とエプロン付けたらいいだけだから別に公式衣装とか無くても出来るわよ」
「……確かに。そう言われたらそうか」
「鈴谷も秋刀魚modeになれちゃうよ。なろうか?」
「うちの鎮守府だけ期間限定衣装とか関係ないっての強すぎんな」
「クソ提督の目の前に居るのなんて期間限定衣装ですらないわ」
「鈴谷グータラニートmode」
「ホント神アプデ」
いやー衣装チェンジとか最近は割とよくあるシステムだし運営さんもこれに関しては実装してみてもいいのではと。やってくれたら喜ぶ人多いんじゃないかな。絵描きの人とか大喜びよ。
瑞鶴の決戦仕様とか好きだからそれで置いておきたい。たぶん、瑞鶴からは恥ずかしいから変えてと言われるだろうけど俺が好きなので絶対に変えない。絶対に、変えない。
そこで一旦会話が途絶えて、各々自分がやりたい作業をし始めた。
俺は艦これ、鈴谷は狩り、曙は何するわけでもなく俺をぼーっと眺めたり鈴谷の狩りを見たりしていた。
これ、俺が曙を構わないとダメな流れなんだろか。
後で、漣が何を言ってくるかわからないし潮と朧もあれで結構圧が強い所がある……
というか現在進行形で圧をかけられている。
明石が作った鎮守府内限定メッセージアプリにさっきから「お前を見ているぞ」「提督……」「曙ちゃん、暇そうですよ?」って漣、朧、潮からピコンピコンと通知が鳴りやまない。
この部屋監視カメラでもあんの? 暇そうですよってこの状況を把握してないと書けないよね?
「あー、んー。あー曙」
「なに?」
「最近、その岸波が曙について回ってるって聞いたんだけどどうなんだ?」
「どうって……別に?」
「そっか」
「……いや、二人とも会話急に下手になりすぎでしょ。え、さっきまで普通に話してたじゃん。あ、なに? さっきあまりにもテンパり過ぎて痛いの痛いのとんでけーとか言ったの今更恥ずかしくなったとぉふぁ?」
「は、はぁ? 何言ってんのこの口は!」
「にゃはは! にぇじゅぼしぃじゃん!」
「何言ってんのかわかんないわよ!」
「そら、曙が鈴谷の頬を鷲掴みしてるからな」
「冷静なツッコミ入れんな!」
「ごみん」
「にゃはは!」
小さい子供に威嚇されておとなしく引く大人はちょっとカッコ悪い気がするけど曙おっかないんじゃ。
女性を怒らせたらとりあえず謝っとけって教えてくれたのは腹を押さえてうずくまった親父。
俺の妹は勇ましいのでビンタなんて生易しい事はせず、音を置き去りにしそうな正拳突きをしてくる。
小さい時から俺が集めた漫画を読んでたせいかなって気もしないでもない。
てか、親父……謝っても殴られてるじゃん。
「あ、いきなり怒鳴ってごめんなさい。ちっ……鈴谷が悪いのよ!」
「え~ぼのぼのの自爆じゃーん。てか、そんなに恥ずかしがらなくてもいいと思うよ。ぼのぼの可愛かったし」
「かわいいとか言うな」
「提督もそう思ったでしょ?」
「そうだな。あのテンパり具合は正直凄く可愛かった」
「はぁ!? ちょ、クソ提督何言ってんの?」
「真実」
「こ、ぐっ、クソ提督!」
「ぼのぼの罵倒に切れがないぞぉ?」
「うっさい。黙ってなさい、ぐうたら重巡」
「うぼぉ。み、みふぁんふぁ!」
「さっきみかん欲しいって言ってたでしょ? 嬉しい? 嬉しいわよね? クソ提督もこの緑みたいになりたくなかったらそれ以上変な事言わないでよね」
「わかった。わかったからみかんを置いてくれ。それは一気に口に放り込むには大きすぎる」
「わかればいいのよ。わかれば」
そう言って曙は手に持っていたみかんをむしりむしりと小分けにしてから俺の方へと寄せてくれた。
ちなみにその間も鈴谷は口の中に放り込まれた少し大きめのみかんと格闘していた。
下手に噛むと汁がえらいことになると察したのか舌をもごもごと動かしてどうにかしようとしていた。
一度口の中に入った物を外に出さないというのは非常に好ましい事だけど「んく、んく」って喉鳴らしたり、時折疲れたように息を吐くのもどうにかしてもらいたい。
そんでもって最後は「結構大きくて大変だったよ」ってしなだれかかってくるもんだからやばい。
この調整済みの体じゃなかったらどうなってたんだ……
最近はこんな感じでちょっと攻めた感じでじゃれてくる子が多くなってきた。金剛とか金剛とか金剛とか……
この部屋に逃げてきた理由でもあるんだけど困る。
据え膳とは言うもののお互いに食べる部分がほぼない。俺なんて立たないわけだし。
ちなみに金剛にそのまま言ったら「? 提督は面白い事言いますネー! 食べる所なら一杯ありマース!」って元気よく俺の意見を否定してきた。
どこをどうするのか気にはなるけど取り返しがつかなくなりそうだったから俺はここに居るわけよ。
「あんた口の周りべっとべとよ。食べるの下手ね」
「えぇ……いや、あの食べ方しかできないようにしたのぼのぼのじゃん」
「は?」
「圧。駆逐艦の圧じゃないから。そういうのはもっと別の子が出す類の圧だから」
「知らないわよ」
今のは機嫌が悪い時の満潮と霞レベルだな。一瞬そう口に出そうとしたけど多分良くないことが起こる。
こういう女性同士のじゃれ合いに口出しすると大体めんどくさい事になる。ソースは、高校時代の俺。今でも泣きそうになる。
「クソ提督。顔に出てるから」
「……何が?」
「霞と満潮だったらどっちの方が優しいのかしらね」
「まあ、落ち着け。俺、何も言ってないだろ?」
「クソ提督って自分で思ってるよりも顔に出てるからね?」
「いや、二人の名前が挙がった時点で顔に出てるってレベルじゃないんだけど? 顔に書いてあるの? スタンド能力でも使った?」
「漫画やアニメじゃあるまいしそんなの使えるわけないじゃない」
「君がそれを言ったらおしまいじゃないか……」
「で、どうするの?」
「話を聞こう」
「七駆と岸波と一緒に晩御飯でいいわ。今日は、いいアジが釣れたのよ」
「いいなぁ。鈴谷の分は無いの?」
「今、鳳翔さんに開いてもらってるから1枚ならあげるわ」
「ぼのぼのはやっぱり優しいなぁ」
「みりん干しとか作る予定だからクソ提督は楽しみにしてなさい」
「それは楽しみだ。最近はよく飲むからおつまみが増えるのは嬉しい」
酒、飲まずにはいられないって勢力がね。強いんだよ。
毎晩じゃないけど拉致られて食堂で飲むかすでに出来上がった奴らが執務室になだれ込んでくるかで飲んでる。
ここに来る前じゃあり得なかった頻度よ。飲食より課金だった頃からすると健全になったのかどうなのか。
しかし、さっき聞きそびれた岸波との関係は良好らしい。晩御飯を一緒に食べる仲なら悪いとは言わんでしょ。
日がな一日糸を垂らしているらしい曙とそれに倣って糸を垂らす岸波ってのは結構有名。
岸波がこっちに来た次の日にはもうそんな感じだったから岸波が押し切ったのか曙がラブリーマイエンジェルだったのか漣たちに確認までした。
結果は勿論ラブリーマイエンジェルだったというのは今更な話。
そんな感じで仲がいいのは知ってたけど実際に曙の口から聞けたのはよかった。
ゲームだと岸波からのボイスはあるけど曙からは無かったからどうなのかなって思ったけどやっぱり曙は面倒見がいい子だった。
「クソ提督は何枚までアジの開き食べられるのかしら? 10枚? 20枚?」
「俺は君たちと違うんだからそんなに食べられるわけないだろ」
「でも、ほら。あたしってクソ提督から面倒見がいい艦娘って評価らしいしクソ提督の面倒も見てあげようかなって。一先ずお腹がはち切れそうなぐらい食べなさい」
「もう普通に俺の考えてる事が読まれてるのはこの際横に置いておこう。ただ、その怒ってるのか恥ずかしいのかわからない八つ当たりはやめよ? 食事ってのは美味しく食べれる量がいいんだ。わかるだろ?」
「晩御飯に出るのはアジフライよ? 今日のアジは肉厚で噛み応えもいいわ。それに鳳翔さん特製のタルタルソースもたっぷりとつけてあげる。クソ提督ってタルタルソース好きでしょ? ご飯にかけて食べるぐらい好きだってみんな知ってるぐらいだし」
「あーね。提督って結構な頻度でタルタルソース丼食べてるよね。鳳翔さんが無理なく提督が太ってくれるって喜んでた」
「え、そんな馬鹿な。タルタルソースは美味しいからカロリー0だってうーちゃんが……」
「いや、そんなトンデモ理論はないからね? 提督ってばイヤイヤ言いながらも順調に鳳翔さん達に堕とされていってるね」
「なんてこった……」
「そもそも卯月の言ってる事信じたらだめでしょ」
「いや、まあ、流石に信じてたわけじゃないけど、もしかしたらうーちゃんもたまにはホントの事言うのかなって」
「残念だったわね。当然嘘よ。じゃ、今日もたっぷりとタルタルソースを食べて肉付き良くなりなさい。潮が提督はもう少し肉付けた方がいいって言ってたわよ」
「潮までそっちサイドなのか……意地でも筋肉つけてやる」
「いや、潮はどっちかというと……まあ、いっか」
「あ、神珠」
出たことが嬉しかったのかやったーっと今まで以上に鈴谷が俺にもたれ掛かってくる。
褒めて褒めて―と夕立みたいな事を言いながら頭を鎖骨にぐりぐりと押し付けてくるから、はいはいと左手で適当にわしゃわしゃと頭を撫でてあげる。
なんだかここに来てからこんな感じで女性に触れるのに抵抗がなくなってきた気がする。
最初の頃にはあった女性に触れるのはいかがなものかとっていう思考時間が日に日に減っていく感覚……艦娘達による調教は上手くいっているようですね……
「また変な事考え始めたでしょ」
「え、いや、まあ、世間一般的には変な事ではあるかもしれないな」
「どのみち細かい事でしょ。クソ提督はもっと大雑把に物を考えちゃえばいいのよ」
「そうそう。ここに一般常識なんて関係ないない。艦娘は提督に触れてもらえてうれしい。提督も女の子に触れられてうれしい。これでいいじゃーん」
「その緑の言ってるのは極論だけどまあそういうことよ。ね? 難しくないでしょ?」
「また、緑って言った―! ねぇ、なんかぼのぼのがこの数時間で随分と鈴谷の扱いが酷くなってる気がするんだけど? けど?」
「今までの自分の行いを思い出してみなさい。そうしたら、自ずと答えは出てくるでしょ」
「いつもとそう変わらないやり取りだったと思うんだけどなぁ。あと、鈴谷ってどっちかって言うと緑よりも水色じゃない?」
「どっちでもいいわ」
ほらほら提督も見て見てーと髪の毛をフリフリと振る鈴谷とそれを呆れた目で見る曙。
曙的には鈴谷は漣と同じ枠組みなんだなって。たまにあんな目で漣を見てるのを目撃する。
鈴谷も漣も曙を構い倒すタイプだからだと思う。曙を構いたくなる気持ちはわからんでもない。
口ではあーだこーだ言いながらも最後は付き合ってくれる捻デレだしね。
なんて二人のキャットファイトを眺めていると部屋のドアが勢いよく開いて件のピンク髪が入ってきた。
「すぽおおおおおおおおおおん! いえーい、ご主人様元気してますー? おやつの時間ですぞー!」
「うるさ。あんた、もっと静かに入ってこれないの?」
「失敬失敬。ご主人様が居ると思ったらちょっとばかしテンション上がり過ぎちった」
「漣ちゃん前に進んで~」
「こらまた失敬。潮も朧もどうぞどうぞ。前に進んでくだされ」
「提督。今日のおやつです。はい」
「大学芋、スイートポテト、さつまいもケーキにさつまいもスティック。さつまいも羊羹なんてのもありますよ。どれにします?」
「さつまいもしかないじゃん。鈴谷、しょっぱいおやつな気分だったんだけどー」
「さつまいも、文字通り山のようにありまするからなぁ。お塩持ってきてますけど、さつまいもスティックにかけてみます? もしかしたらもしかするかもしれませんぞ?」
「漣は何を目的としてこのラインナップに塩が必要だと判断したんだ?」
「いやーご主人様。漣もこのラインナップはちょっと甘すぎるかなって思ってます。なんで、定期的に塩舐めて緩和できないかなって」
「じゃあ、他になんか別のおやつ持ってきなさいよ……なんで調味料チョイスしたの……」
「漣も分かんにゃい……」
そんな二人をよそにさつまいも大好き娘な潮はさつまいもスイーツのプレゼンを行い、朧はこっそり「これ朧が作ったので食べてください」とスイートポテトを差し出してきたので食べてあげた。
うん。美味い。学生の頃に弁当に入ってた冷凍ものとは全然違って口の中に匂いが広がる感じがいい。何個でも食べれそうだわ。
まあ、実際に何個でも食べれそうって言ったら山みたいに置いてあるスイートポテト全部口の中に放り込まれそうだから言わないけど。
「おぼろんはぼのぼのと違って攻め攻めじゃん?」
「提督って受け身ですしガンガン行こうぜの方がいいかなって」
「結構肉食系な意見で鈴谷びっくりだよ」
「朧、他の子と違って影が薄いので提督に少しでも覚えててもらえたらなって」
「影が薄いなんてそんな事ないよー! ほら、提督もなんか言ったげで!」
「え、あーそうだな……気の利いたことは言えないが朧の事を忘れたりなんかしないから心配しなくても大丈夫だぞ」
「でも、漣みたいに明るくないし潮みたいなさつまいもおっぱいも無ければ曙みたいなツンデレでもないし……」
「誰がツンデレか、誰が」
「さつまいもおっぱい……?」
「え、ぼのぼのツンデレの自覚無かった系? まあ、最近はツンデレというか捻デレというか」
「は?」
「暴力は反対ですぞー!」
「こんな感じで個性に埋もれるというか」
「言わんとすることはわかるけど気にし過ぎはよくないぞ。この子らがあまりにも個性的すぎるだけだって。可愛い真面目一途は十分に強個性だ」
「さつまいも……」
「わかりました……でも、提督へのアタックは続けます!」
「そ、そうか……まあ、そのお手柔らかにね? 俺、食い過ぎて太っちゃうから」
てか、さつまいもおっぱいに対するフォローは誰も入れないのか。潮がさっきから死んだ目で「さつまいも」としか言ってないぞ?
俺が言ったらセクハラになっちゃうから! 誰かフォロー入れたげてよ!
いや、しかしさつまいもおっぱいはドメ肉に通じるものを感じてちょっといいなって思ってしまった。
略すならさつぱい? あ、でも、これだと皐月っぽいからなんか違うか。
とりあえず、俺が食べる分減らしたいから潮の口の中におかし突っ込んて行くか。
言葉にはしないけどなんとなくフォローしてます感出していこう。
そう思って、潮におかしを食べさせた事を俺は後悔した。
いや、最初は潮だけだったんだよ? 次にこの部屋に居る全員に食べさせた。ここまでは良かった。
気が付いたら新客の赤城が居て「よろしくお願いします」って……
そこからあれよあれよとどんどん艦娘が増えていって俺はその日寝るまで誰かにあーんをしてました……