青い空、白い雲、そして周りに流れる喧噪をBGMに、私は家族で公園に来ていた。周りは私たちと同じように、家族連れの人たちでいっぱいだ。
「パパ!ママ!詠(ヨミ)も早く早く!」
久しぶりに家族でのピクニック。私は弾む気持ちのままに、一人で先に駆けていく。早くしないと座る場所がとられちゃうから。
「お姉ちゃん待ってよぉ」
「こーら奏、一人で先に行かないの。みんなで荷物を運ぶから戻ってきなさーい」
「まあ良いじゃないか。久々のお出かけなんだ。奏も抑えきれなかったんだよ」
ぷりぷりと怒るママに、少し苦笑するパパ。泣きそうな顔で私を追いかけてくる美冬。私は返事をしてすぐに家族の下へと駆け寄る。
「ごめんなさーい」
「分かればよろしい。じゃあ奏はこれを持って行って。中身はパパ特製のお弁当よ。ハンバーグもばっちり」
「たこさんウィンナーは!?」
「もちろん」
パパのにんわりした笑顔に、私は「やった!」と声を上げる。詠の方はお茶の入った水筒を持っていく。
広がる青い空の下で、私はお弁当を食べる。
「そう言えれば、高校の方はどう?クラスの子と仲良くできてる?」
「もちろん!クラスのみんな、すっごい良い人たちだった。すぐに友達になれたよ。それと部活は陸上に入ったの。先生も、私の足の速さに驚いていたわ。ふふん、新人戦では間違いなく1位になれるって」
「こぉら、調子に乗らない」
こつんとママの指が私の額を突く。えへへと私は照れ隠し。詠の方も、転入した新しい小学校のことを話してくれた。みんな優しいと、満面の笑顔で話してくれる。
ああ、やっぱり家族っていいな。私は目の前で笑いあう家族が好きだ。みんなみんな、大好きだ。
『本当に?』
「・・・!?」
「奏、どうしたの?」
私は突如聞こえた声と、まるで電気が走ったようにピリッと痛んだ頭を押さえる。その様子に、ママが心配そうな声をかけてくれた。顔を上げれば、パパも詠も心配している。
「何でもないよ。ただこの揚げ餃子についたカラシに驚いちゃって」
「もう、奏は辛い物が好きだからって限度があるわよ。注意しなさい」
「はーい」
私は笑う。
まただ。最近、私は良くわからない幻聴が聞こえ、頭痛が走る。これはまだいい方で、時には幻覚さえも見えたことがあった。
『本当に?』『思い出せ』『忘れろ』『君はそのままでいて』エトセトラエトセトラ。幻覚の方は、白い服を着た存在や、晴れているのになぜか雨の景色が見えた。もはや自分がおかしくなったんじゃないかと思ったほどだ。
家族の方にはこのことをまだ話していない。話すと心配するから。でも、そろそろ話す気になってきた。ごまかしきれなくなってきたから。チラリと家族の方を見る。ママやパパそれに詠の方も、話さないだけで、なんとなく察している。でも、とても不安だ。だって頭のおかしなことを言うのだから。もしも、もしもそのせいで家族の中が壊れたら・・・そのせいで、私は板挟みだった。
でも大丈夫だよね?だって、だって私の家族だもの。久々のピクニック。だから私は家族と一緒に楽しむことにした。青い空の下、私は幸せだ。
「なに・・・これ?」
私は目の前で起きていることに、頭が追いつかなかった。
だって私の目の前では、血まみれの家族が横たわっていたんだから。
「パパ?」
熊みたいに大きな体で、私たちを抱きしめてくれたパパ。それがうつ伏せで倒れている。
その背中は、まるで虎か何かに引き裂かれたのか、深い爪痕が残っている。
「ママ?」
町でも美人で少し有名なママ。
いつも笑顔で、私たちの頭を撫でてくれた。その顔が、真っ赤に染まっている。
「詠?」
私とは性格が正反対の、私の大切な妹。その詠が、口から血を流して倒れている。
「なんなの、なんなのよこれ・・・!」
私が鉛筆を買いに出かける前までは、みんな元気だったのに、笑っていたのに。
なんでこんなことになってるのよ。
私は真っ白になった頭のまま、ゆっくりと家族に近づいてく。
早く、助けないと・・・!
私は亀のように横たわってる家族に近づき、その身体に触れる。
ねちょりと、粘着質の手触りが伝わり、一瞬手を引っ込める。見れば、私の手は真っ赤だった。
胃の中から何かが込み上がり、そのまま床の上にぶちまけた。すえた臭いが酷く気持ち悪い。鉄を含んだ臭い、テーブルに置かれた御飯の匂い、私が吐き出した、どろどろに消化されたものの臭い。その混ざった臭いに、また吐いた。ひとしきり吐いた後、私は口元を拭い、もう一度触れる。
まだ暖かい、まだ生きてる!まだ助けられる!私は混乱する頭で携帯電話を取り出し、119の番号を押す。
「早く早く早く早く!」
プルルルルとなる電話に焦るも、必死につながるように祈る。ガチャリと音がした。
『はい』
「あのもしもし!?助けてください!家族が・・・家族が!」
口が遅い。しゃべりたいのにしゃべれない。ノロマな口が憎い。
『落ち着いてください。今あなたはどこにいますか?』
電話越しの声に諭され、私は震えながらも言葉を紡ぐ。家にいること、家族が怪我をしていること、早く救急車を呼んでほしいこと。私の言葉に、相手は終始黙ったままだ。
『わかりました』
受話器から声がする。良かった、これでみんなたすか
『ったく、事を荒立てんなってつったのに何無関係の奴をヤッてんのよ。まったく、これだからイキリ系テンセイシャは厄介ったらありゃしない』
「え?」
相手の口調が変化した。さっきまでは優しい言葉遣いだったのに。
『悪いけど黙って殺されて頂戴。まあ、これも仕方がないことなのよ』
ガチャリと切られた音。今の会話が理解できず、私はツーツーとなる受話器を握りしめていた。
だから、私はそいつに気づかなかった。
「おうおうようやくご到着ですか」
突如背中に激痛が走った。まるで何かに切られたような感覚。鋭い痛みに私は受話器を手放し、そのまま倒れるように床に転がる。
「おいおい、今ので瀕死ですかぁ?こりゃたいしたことなかった奴?それとも舐めぷ?」
痛みにうめきながらも身体を起こそうとして、次に腹部に鈍痛が走り、次に背中に硬い物がぶつかる。その衝撃で、空気の塊が口から飛び出した。そしてぶつかったのが壁だと認識するのに5秒くらいかかった。
「おいおいおいおいマジでこいつハズレ転生者?ああっ!?だったら無駄に手間かけさせんじゃねえぞこの屑!てめみてぇな奴が一番邪魔なんだよ!」
痛みで朦朧とする思考の中、私は曖昧な視界で相手を見る。
それは奇妙な存在だった。まるでどこかのヒーロー番組に出てくるそうな出で立ち。テレビの中で、恐ろしい悪と戦う正義のヒーローが、まるで劇中の悪党のように、身体を真っ赤に染めて立っていた。その口調も、ヒーローらしからぬ、むしろ真逆の言葉づかい。仮にこれを子供たちが見たら、嫌悪と悲しみでで号泣するだろう。
「おら立てよ屑転生者。オレ様に無駄な時間を取らせたんだ。きっちり嬲ってやるからまだ死ぬんじゃねぇぞ」
痛みで動けない私は、髪の毛を引っ張られて無理矢理立たされる。ヒーローのマスク越しでもわかる、暴力の塊という印象。その視線から感じる、身体を舐めまわしてくるような感覚。うめきながらも、私は嫌悪感に犯される。
「へぇー?良く見ると結構いいからだしてんジャン。どうせ殺すんだから、愉しんでもいいよな」
ゾクリとした。言葉の意味を、私は理解してしまったからだ。こいつは私で遊ぶ気だ。泣き叫ぶ私の声をBGMに私をおもちゃにする気だ。
『生きたい?』
朦朧とする意識の中、私は幻聴を聞く。そして微かに目を開けば、目の前に見えるヒーローの奥で何かがいた。それは真っ黒な姿で、目だけが真っ赤だった。ヒーローはそいつに気づかず、私の服に手をかけようと手を伸ばしている。
『それともここで死ぬ?』
「い、や」
「あん?」
私は呟く。
「いやだ・・・」
私は言葉を漏らす。微かに、私の心に何かが生まれた。それは幻聴への答えでもなければ、ヒーローへの答えでもない。私の中に生まれた声だ。
「いやだいやだいやだいやだいやだいやだ・・・!!」
想いは溢れ、まるで駄々っ子のように叫び続ける。だが首に圧迫感を感じ、万力のように絞められる。空気を吐く吸うこともできず、私は首を絞める相手の手を外そうともがく。
「あ・・・がぁ・・・・・・くぁ・・・」
「いいねいいね、嫌がるてめぇのその顔。てめぇみてえな屑転生者は幸せになる資格はねえんだよ。絶望に苛まれて死ぬことが、
ぎりぎりと首に食い込む指。
このまま私は死ぬのかな。ぼやけていく視界。遠のいていく意識。そして目の前に広がる血まみれの家族。
「い、やだぁ!」
キィンと音がした。
「ごぁ!?」
私は
「くそがぁ!今のでセンサーがぶっ壊れたじゃねぇか!なんだよ真っ暗だぞクソッタレ!」
叫び声を聞きながら、私は玄関から外へと飛び出した。取りあえず病院か、それとも警察署か、私はふらつく足取りで走り出した。
逃げなきゃ
幼い足を必死に動かす。
逃げなきゃ・・・
擦り傷だらけの足を前に出す。
逃げなきゃ・・・!
もはや呼吸すら惜しい
逃げなきゃ・・・!!
寒空の下、月明かりだけが私を照らしていた。
絶え絶えの息が白く見える。呼吸をするのも苦しく、足もおぼつかない。
それでも私は必死に走る。
擦り傷だらけの手足、空腹と疲労を訴える身体。
それでも、今の私にはただ逃げる事しか考えられなかった。
「どうして」
私は何度も繰り返した言葉を吐く。
『ねぇ神様』
私はこんなことを望んでいなかった。私はただ、普通に幸せになりたかっただけなのに。
「どうして・・・」
『私の望みはね』
「どうしてよ・・・・!」
『家族と一緒に生きていたいこと』
新しい世界で、新しい家族と一緒に生きて、幸せをつかむはずだったんだ。
でも、それはもう叶わない。だって、今の私は必死に逃げているんだから。こうなった理由は解っている。それはあいつが言った言葉。
それでも私は認めたくなかった。認められるわけがなかった。
「あっ!?」
疲れか、それとも何かにつまづいたのか、私は路上に倒れてしまった。
しかも、少し擦ったようで、傷ついた掌から血が滲んでいる。
「痛い、痛いよぉ・・・」
私はポケットにあったハンカチで傷を覆う。
動物の絵が付いたハンカチは、少しずつ血に染まっていく。
「もう・・・いいや」
ボロボロの身体と擦り切れた心は、もう限界だった。
私はもう、何もかもが嫌になってしまった。もう一歩も動けない。
彼奴らが私に追いつくのも時間の問題だ。そして私は死ぬんだ。
滅茶苦茶にされて、私は死ぬんだ。私は、訪れるだろう私の未来を見た。
あはは、悲しいなぁ。
どうしてこうなったんだろ?私はただ、幸せになりたかっただけなのに。
ぽろぽろと私の目から涙が溢れる。景色が滲んで見える。
そのために私は願ったのに。でも、それが間違いだったんだ。
月に照らされた夜の中、私は一人思いに耽る。私はようやく思い出した。
ここは箱庭。ここは舞台。筋書のあったドラマの中。そこに、自分を役者だと勘違いした観客が入り、滅茶苦茶になった群像劇。
これはただの夢、これはただの余韻、本来なら得られるはずのなかった幸せ。死人がほんの微かに夢見た幻。
「よぉやくみつけたぜこの屑転生者ぁ・・・」
「ひ・・・」
後ろから聞こえてきた声に、私の身体は固まった。震える首を、油の切れた人形のように動かしす。ギチギリギリギリと身体から音が聞こえてきそうだった。
「俺の特典に傷をつけやがってよぉ・・・。てめえのせいで俺のヒーロースーツが故障したじゃねぇか。そのせいで無駄に時間を食わしやがって・・・!」
『まったく、何ヤッってんだか。言っとくけど、これは貸しだからね』
さっきのヒーローもどきの隣には、身体に無線機を巻きつけた女性。その声は、さっき電話越しから聞こえた声だった。
「どうして・・・」
「あん?」
私は心の中に渦巻く想いを吐き出す。
「どうしてこんなことをしたのよ!私は、私は!ただ幸せになりたかっただけだった!特典なんて知らない!私も転生者だったことも知らなかった!家族と一緒に生きたかった。それだけだったのに!どうして!どうして私の幸せを壊したのよ!」
『原作の・・・ためよ』
女性の言葉に、私の何かがぴぃんと張り詰める。
『私たちはイレギュラー。
私の何かがキリキリと引っ張られていく。
「知らない知らない!私は原作なんて知らない!ねぇ?この世界って何?原作って何なの?それって誰かが不幸にならなきゃいけないの?私の幸せを壊していいものなの!?」
「ぎゃあぎゃうぜぇんだよ!この屑転生者!」
ヒーローもどきが叫ぶ。
「言っただろうが、てめぇみてえな屑は死ぬべきだ。死人はさっさと死ねよ。未練たらしくよその世界で幸せになろうなんて自分勝手すぎるんだよ!キャハハは!せいぜい自分の不幸を呪って無様に死ねよ!」
ヒーローもどきが私の声を消し飛ばす。それはそれは、酷く醜い子供のように見えた。女性の方は、そんなヒーローもどきの言葉に、顔を顰めるが何も言わない。
そしてヒーローもどきは、私に向かって一歩進む。でも私の身体は動かない。でも私の中では、何かが蠢きだしている。
「まあでもよ」
ヒーローもどきが声を上げる。
『な!?』
「俺も原作なんて知ったこっちゃねけどな!」
飛び散る赤い液体。どさりと崩れ落ちる身体。私の目の前で、ヒーローが女の人の腹部を貫いた。
「ぎゃあぎゃあうっせぇんだよなぁ、てめえもよぉ。原作原作ってよぉ。原作?はぁ?それって重要なことですか?まああんたにとっては重要なんだろうな。でもそんなの関係ねぇ」
倒れこんだ女の人の腹部を、ヒーローもどきは踏みつける。
「俺がてめえに協力してたのは、俺以外の
仮面越しだというのに、私はそいつの口元が歪んだように見えた。
「
ぐりぐりと傷口を踏みつけるヒーローもどきに、それにうめく女。
目の前で広がる、勝手な理由による仲間割れ。一方的な理由で私の幸せを壊し、一方的な理由で殺し合い、一方的な理由で世界が壊れる。
ああ、なんて・・・なんて自分勝手な理由。
『許せるかい?』
幻聴が私に問う。目の前に立っていたのは、輪郭のぼやけた黒い影。赤い目が私を見つめている。
『君はこれを許せるかい?』
光の入らない瞳で私は影を見つめる。
『なら、壊さなきゃね』
私の中で何かが音を立てて崩れ、張り詰めていた何かがキレた。
結局のところ、どいつもこいつも自分勝手な理由だ。原作がどうのこうの言われたところで私は知らない。私は知らなかったからだ。挙句の果てに、結局は自分の欲望に任せて原作を壊すつもりの存在が目の前にいる。
結局のところ、私の世界は壊され損だった。
『ふざけないでよ』
私の中に何かが灯った。
『ふざけるなよ』
その光は少しずつ燃え出し、次第に黒い炎となる。私の幸せ。私の幸福。
『ふざけんなよ』
それは私のものだった。私の望みだった。誰かに否定されるものじゃない。誰かが否定していいものじゃない。
『ふざけんな』
俺の胸の中に宿る思いが、濁流のごとく渦巻く。ああそうだ、俺は幸せだった。優しい夢だろうが、俺にとってはそれが
ああそうだ。お前だ。お前らだ。お前らが俺の世界を壊しやがった。許せるか?いいや、許せるわけがない。良いのか?言いわけがない。
キィンと音が響く。そして破砕音とともに、道路が抉れ、電柱が抉れ、ガードレールが一部消滅した。
「な、なんだ!?」
突然の出来事に、目の前の
反吐が出る。ああ反吐が出る。てめぇのような存在は俺にとっての害悪だ。俺にとっての邪魔者だ。路傍の石が、俺の前を塞いでんじゃねぇよ。
キィンと音がした。そして身体に感じる感覚。自分の身体が何かに包まれていく感覚。それはとても心地よく、そして心に湧き上がる高揚感。
そして
「な、なんだおまえは!?その姿はなんなん!?」
俺は目の前のを、思いっきり蹴とばした。何かがへし折れていく小気味いい音が、足から頭に伝わった。
「ただいっまー!」
「お帰りー」
私は仕事で疲れた身体に鞭を打ちつつも、なんとか元気な声で扉を開けた。聞こえてくる声に、私は「はぁ~」と情けない言葉を上げつつも、限界に腰を下ろした。
「あー疲れたー!もう動けませーん!というか動きたくなーい!」
「はいはい、姉ちゃんは大変ですね。ほら、御飯作ったから早く食べに行って」
私の叫びを適当に相槌を打つ住人に、私は口元を突き出す。
「ぶーぶー、『なつ』が私に優しくなーい。まあでも、『なつ』の御飯は美味しいから許しちゃう」
「はいはい女王様、ありがとうございます。ほら、みんな待ってるから」
私は仕事用のスーツの上着を夏に渡す。
「『まこと』も『ひかる』も待ってるの?みんな先に食べてってメール送ったのに。でも嬉しい!お姉ちゃん感激して泣いちゃいそう」
「でも相も変わらず、志穂之(しほの)さんは部屋で食べるってずっと籠りっきり。なんでも仕事が立て込んでて徹夜だってさ」
「ふーん」
私は『なつ』の言葉に適当に相槌を打つ。そんなことよりも今は御飯である。私は、「ごっはっん!ごっはっん!」と言葉を歌いながら、ルンルンと台所へと足を運ぶのであった。
そして時計の針が12を越え、私たちが住んでいる家の周りが静寂に満たされる中、俺は目を覚ます。ゆっくりと身体をお越し、スーツ姿のままで廊下へと進み、家にある一室の扉の前へと足を止める。『志穂之 璃瑠(しほの りる)』と可愛い名札が掛けられている。私はノックもせず、そのまま扉を開ける。
カーテンで閉め切られ、天井の電球に照らされた部屋の中に埋め尽くされているのは、数々のモニター。それぞれが別々の画面を映し出している。そしてその画面を見ているのは、白い髪の女。彼女が志穂之璃瑠だ。
「対象は?」
「3人よ」
俺に顔を向けることもせず、画面を見つめたまま璃瑠は答える。俺はその言葉を受け取ると、俺は扉を開けて出ていこうとして、足を止める。
「何?」
「『なつ』たちが心配している。いい加減、御飯を一緒に食べろよ」
「私にそんな資格はないわよ。それに、どういう顔をして彼らに会えばいいのよ」
「そんなの知るか。勝手に自己嫌悪に陥ってるお前が自分でどうにかしろ」
「まあ善処するわ。あと援護はしてあげる。それにしても、こんなことをしてどういうつもり?貴女のやっていることは・・・って、私が言うこともでもないわね。貴女に負けた私には・・・ね」
俺はその言葉を無視し、玄関の扉を開けて外に出た。外では、画面越しで見た3人の男女が立っていた。
一人はまるで熱血少年のような出で立ちで、もう一人は赤と緑のオッドアイのキザっぽい出で立ち。そして最後は髪をピンク色に染めた、頭のおかしい少女。どいつもこいつも美少年で美少女の面だ。反吐が出る。
「何か用か?」
「彼らを解放するんだ」
いかにも熱血少年の面をした少年が、これまた熱血少年のような言葉を吐く。キザっぽいオッドアイの少年がヤレヤレといった顔でため息を吐く。
「貴女が彼らを拘束しているという情報があってね。君のせいで世界は滅茶苦茶になっている。だから僕らは正しい世界に直すために来たのさ。だから、おとなしく彼らを僕らに明け渡してほしい」
「て、手荒なことはしたくないんです。これも、世界を救う為なんです」
おどおどした様子でピンク髪が言う。その言葉に、俺は口元を歪め、三人がいる手前で大声で笑う。俺の姿に、彼らは口を変えて呆ける。だが構うものか。俺はしきりにわらい続けた。だがその声は周りに聞こえることはない。そういう風に璃瑠が援護しているからだ。
「な、何がおかしい!」
「そりゃおかしいだろうよ」
熱血君を見据え、俺は言葉を吐き出す。
「正しい世界?なんだそれは。そもそも正しいとは何だ?何をもって正しいと言える。仮に
「でもだからって、だからって!彼らを!」
「知るか。俺は俺のやりたいことをしているだけだ。追い出されたあいつらを
「「それは・・・」」
俺の言葉に、言葉を詰まらせる熱血とピンク髪。だがそれを手で制するキザ野郎。
「もういいだろ。こいつは世界を壊す悪だ。俺たちはこいつを倒して彼らを取り戻すために来たんだろ。だったらもう力づくでしかない」
「くっ・・・!」
「分かっ・・・た!」
キザ野郎の言葉に、悔しそうな熱血とピンク髪の姿に、俺は臭い三問芝居を見ているようで酷く退屈だった。そして2人が躊躇しつつ、一人が楽しげに口元を歪め、各々の力を使おうとして、
『遅いよ』
俺は彼らを蹴り飛ばした。
「あれ、かな姉ちゃんあくびなんかしてどうしたんだよ?」
「ふわぁああああ。ごめんね『まこと』。昨日、急な仕事で起こされちゃってさ。それからずっとパソコンとにらめっこして寝不足なのよ」
「仕事も大変ですけど、身体は大切にしてくださいよ」
「はいはい、『ひかる』のお小言は耳に染みわたります。大丈夫大丈夫。ちゃっちゃと終わらせたから」
「だといいですけどね」
私の返答に苦笑する『ひかる』。あれ?私って結構情けない印象を抱かれている?これはダメね。ダメダメね。このままでは家長である私の沽券に係わるのです。
ならばここは私がびしっと決める一言を言ってあげ・・・
「いい・・・匂いね」
「あ、志穂之さん!仕事が終わったんですか?」
「ええ、取りあえずわ・・・ね」
チラリと私を見る璃瑠の視線を受け私は黙って肯く。
「じゃあ、みんなで朝ごはんですね。いやぁ久々で嬉しいですよ」
『なつ』の言葉に、それぞれが食器を取りに行く。私は璃瑠の側へと行くと、璃瑠は私の耳元へと囁く。
「いつまで続けるか、私は貴女を見続けることにするわ。私を生かしてくれている恩、でもないけれどね」
「好きにすればいい。『俺』は『私』の好きに生きるだけよ。それが世界にとっての悪だとしてもね」
楽しく、そして我儘に生きる。正しい世界なんてどうでもいい。邪魔するものは全て踏み潰して、自分の為に世界を生きる。
これからたくさん来るだろう
さあ来なさい、同じ人でなしの皆さん。好きに生き、好きに殺し合おうか。