ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ\ま゛か゛せ゛ろ゛/
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時は2004年
日本にて行われる魔術師達の壮絶な争い『聖杯戦争』
この物語は異形狩りを生業とする男のハートフルコメディバトルノベルである
「ところでバゼット。どうして俺の連絡先を知っている。前にあった時は教えてなかった筈だ」
「知り合いに聞いただけよ。一時的にとはいえ互いに背中を預けたのですから何も知らないというのはどうかと思うわ」
「なるほど一理ある」
朝食のモーニングを同じ席で食べる男女
男性は夜を狩る一族。ヴァンパイアハンターのユーリ・ベルモンド。
女性の方はスーツ姿にワインレッドの様なショートヘアー。いかにも仕事のできる雰囲気を醸し出しているバゼット・フラガ・マクレミッツ。脳筋でポンコツな一面が愛らしい人である。
「そっちも聖杯戦争絡みで来ているのだろうが......あまり一般の人に迷惑はかけるなよ」
「問題ありません。その点に関しては重々承知しておりますので」
まだまだ寒い日本の2月。オープン席で飲むコーヒーは冷たい外気に当てられて湯気とともに冷めていく。 熱しては冷めていく様に世の中の単純さがコーヒーには詰まっているようにも思えてくる。
「バゼット......」
「なにしら?」
「聖杯って、本当にあるんでしょうかね」
「どうしたのよ急に」
疑問もそのはず。既に過去四回の聖杯戦争において御三家と呼ばれる魔術師の家系『遠坂』『真桐』『アインツベルン』が根源に至ったという資料はない。だがこうして聖杯戦争が行われている事実がある以上、何しらの問題があると疑うのは必然なこと
「いや。ただ本当に聖杯なんてものがあるなら、そいつに水道水か安物のワインでも注いで飲んでろうってだけだよ」
「魔術師全員を敵に回すようなこと言わないでくれるかしら」
「............」
「..................」
「なあバゼット。俺は......」
バゼットは一言『分かってるわ』と言葉を遮った
「でもね。私が選ばれたのには何かわけがあると思うの。だから引き下がることは出来ないの」
「............」
「でも、ありがとう。こうして面と向かって心配してくれる人って君くらいだから」
「バゼットさんが雲の上の存在みたいに思われてるから、話しかけにくいんですよ。きっと」
男装の麗人と言われる彼女が「フフっ」と笑う。
「そういえば、初めて会った時もカフェのオープン席だったわね。しかも相席。その時は......君から声を掛けてくれたのを思い出したわ」
「忘れちゃいましたよ。何時のことですか」
「『不老』の君にとっては些細な瞬間かも知れないけど、私にとっては掛け替えのないものよ」
「......思い出した。丁度3年前くらいでしたね。あの時もこんな寒い時期でしたっけ」
「ええ......」
それ以上は何も言わない。2人はただコーヒーを飲むだけ。全くもって有意義な時間とは言えないが当事者にとっては大切なものなのかも知れない
「それじゃ、俺はこれで」
「ええ。もしかしたら近いうちに会うかもね」
「お互い生きていればですが」
「そうね」
駅近くのビジネスホテル
そこに宿を取ることで優雅な夜を過ごしている
(あー。バゼットを誘って夜景が綺麗なところでディナーと思ったけど......)
ユーリの感じ取った気配。人払いのルーンと結界。一瞬で構築されたところから相当腕の立つ魔術師だという事だけしか分からない
(念には念を入れるか)
トランクから取り出す1冊の魔導書と聖鞭vanpaia killer。それからいくつかの道具。
廊下に誰もいないのを確認し非常階段から屋上に上がるとローブで顔を隠すくらいに深く被った女性が待っていた。
「あら?子供は寝る時間よ。それとも、私とイイコトしたいのかしら?」
「参ったなー。美人の誘いには弱くてね。いまからここで一発ってのもそれはそれで興奮しちゃうな。」
「あいにく獣の交尾には興味がありせんの。」
彼女が聞き取り不可レベルの速度で何か呟く。すると周囲に複数の魔法陣が展開され、巨大なバターナイフを持つ頭部のない骸骨が召喚される。
「ヒューッ。ミステリアスな美人だと思ったらマジシャンだったとはな。益々好きになりそうだ。」
「随分と余裕ね。死ぬかもしれないとか考えないのかしら?」
「後悔は死んでからでも出来るからな。出来ることなら、今を楽しみたいんだ。」
「そう。なら死んでちょうだい。」
一斉に襲いかかる竜牙兵。ユーリは懐から鞭を取り出し応戦する。するとどうだろう。振るわれると同時に鞭はその姿を変えモーニングスターの様にチェーンの先端にトゲのついた鉄球モノへとなった。
聖鞭Vanpaia-killerによって正面の竜牙兵は胸骨を砕かれ無惨。飛びかかってきた竜牙兵は引き戻された鉄球により骨盤と背骨を砕かれ無惨。左右から切り掛る竜牙兵は8の字を横にした様な軌道で振るわれる鞭と鉄球に文字通り全身の骨を砕かれ無惨。
そのまま真っ直ぐ向かってくる鉄球を彼女は魔術の結界で防御。が破壊される。しかしそれは彼女の狙い通りであった。結界が破壊された勢いを利用し道路を挟んで反対の屋上へと離脱した。
「ほんの挨拶程度のつもりだったけれど楽しかったわよ坊や。私を誘いたかったら次はワイルドさを出して欲しいわね。」
そう言って霊体化し姿を消した。
「恐ろしい相手だった」
彼は内心震えていた。
ほんの僅か。時間にして1分にも満たない程度であったが目の前にいたローブの女性の力の片鱗を感じ取っていた。
(あれほどの詠唱に触媒を使わずの召喚。そして霊体化したあたりを見ると神代の魔女の英霊......)
人類史において魔女と呼ばれる存在は多いが、誰を師に仰いだか、どこの系統の詠唱か、どの国の言語か、そういったものから判断出来る要素がある。
今回のケースは明らかに聞き取れない逆再生3倍速のような詠唱。未熟ながら魔術の知識がある故に、その危険性というのを把握している。
(次会う時はそれ相応の準備が必要だな......)
彼は一人になった屋上から静かに部屋に戻った。