職場ではパワハラ兄家には自称小悪魔な姉、しまいには世界が滅びてるってもう終わってるだろ 作:睡眠欲求
「うわー、ほんとに攻めてきたよ。グレン的にはどれが司令塔だと思う?」
「今探してるとこだ」
新宿の交差点が見渡せるビルの屋上で、双眼鏡片手に司令塔を探す二人。ぱっと見はただの変人にしか見えない。
「うへ~、この距離で気づくのかよ」
「気づかれた?」
「ああ、もう少し左の銀髪の吸血鬼」
グレンに言われた通り左の方に視界を移した。
「ああ、めんどくさいのがいるな」
そこにはフェリドがいた。相も変わらず、腹が立つ笑みを浮かべて戦場を俯瞰している。とすると、あれがミカエラか…。俺と同じ吸血鬼と人間の間の半端もの。
「あ、あの、グレン様。こんなところで悠長に休んでいる場合では……」
「ああ?別に悠長にしてはいねえよ?防衛線には見張り塔がいる。っとすればだ。吸血鬼どもはここも狙ってくるだろ?」
「早速お出ましだ、後方注意だ。花依少尉!」
「ッ!?」
彼女が気付いた時には、吸血鬼は迫ってきていた。吸血鬼は油断していた得物を狩り逃すことなくその剣を振り下ろす・・・がその剣は届くことはなかった・・・。
十条美十が吸血鬼の鳩尾に重い拳を決めたからだ。
「おせーよ美十」
「何が遅いよ、いきなりこんなところに呼び出しておいて」
「ただいま参りましたグレン様」
「なんかスゲーことになってるな、どうするんだ?新宿の防衛部隊が全然機能してないぜ?」
「よし、全員揃ったな」
「司令塔は5丁目の交差点だ。頭を潰せば状況も変わんだろ?先行ってるぞ、緋色」
「……銀髪の吸血鬼は俺にやらせてほしい」
「あ?どういうことだ」
グレンは怪訝そうに眉をひそめて問い返す。
「あの吸血鬼とは前に戦ったことがある。俺の方が勝率が高い」
「……勝てんのか?」
「グレンたちが他の吸血鬼を押さえておいてくれるなら」
「ハッ、生意気なガキだ…いいぜ。必ず殺してこい」
正直フェリドと本気で戦う気はない。少し、場所を移動して今回の落としどころを探るだけだ。
「開幕、詩織の能力で奇襲を仕掛ける。俺はそのままあの吸血鬼を押さえるから、残りのは頼む。詩織たちもその場に残って吸血鬼を狩ってくれ」
遅れて入ってきた詩織たちに向けて今回の作戦の概要を話す。詩織は不服そうだが、蓮司と京時は無言で頷いた。
「よし、吸血鬼狩りだ!」
詩織の『斬音鬼』で周辺から音が消える。それを合図に、全員それぞれの武器を手に取る。
『起きろ、天見童子』
刀を抜刀し鬼を呼ぶ。瞬間、体の中から力があふれ出したのを感じ、緋色はフェリドに向かって突っ込む。
「よう、久しぶりだな!!!」
開幕の一言と共に振るわれる渾身の刃。辛うじて、フェリドは刃を割り込ませ防いだが衝撃に吹き飛ばされ、100m先のビルの三階に吹き飛んだ
後方からマズった殺し損ねたというぼやきが聞こえたが聞かなかったことにして、緋色はフェリドが吹き飛んでいったビルに向かって跳んだ。
「やあ~、久しぶりだね。それにしてもひどいな~、いきなり斬りかかってくるなんて」
フェリドの軽薄な笑顔に緋色は顔をしかめた。
「仮に当たったとしてもあの程度じゃお前は死なないだろ?…それよりも、今回の目的はなんだ?」
「アハ~、あんまりせっかちなのは嫌われますよ?」
「あまり無駄話をしてると不審に思われる」
「まあ、そうですね~。今回は僕個人としても目的はないんだよね~。あえて言うなら観察かなぁ」
「あくまで女王の命令に従ってるだけってことか?」
「まあ、面白いものが視れるっていう確信はありますがね」
「面白いもの……ね」
「ヒー君は好き勝手動いてもらって構いませんよ。仲間を守りたいなら守ればいいし、血を飲みたいなら飲めばいい。ただし、ミカくんを殺すのは避けてください。まだまだ使えるので」
『血』という言葉に僅かに反応した緋色をフェリドは見逃さなかった。
「本当に君たちはどうしてそんなにかたくなに血を飲もうとしないんでしょうね~」
「………本格的なお前の計画っていうのはまだ先なんだな?」
あからさまに話題を変えた緋色に対してさらに愉快そうに笑みを浮かべるフェリドは快く緋色の質問に答える。
「そう思ってもらっていて構いませんよ、ヒー君」
「いい加減その呼び方やめろ。反吐が出る」
「あは~つれないな~。僕と君の仲じゃないか~」
「ただの共犯者だ、それと忘れるなよ。シノアに手を出したら………どんな手を用いても———殺す」
空気が震えたのかと錯覚するほどの殺気を受けてもフェリドの顔色は変わらなかった。
「愛だな~、その感情が歪む瞬間が楽しみですよ」
「あっそ!!!」
剣を横なぎに払ってフェリドを再度吹き飛ばし、ビルから交差点まで叩き出した。
緋色も交差点に戻ろうと膝を曲げた瞬間、後ろから気配を感じ横に飛んだ。先ほど緋色が立っていた場所には剣が刺さっている。
(フェリドの応援に来た吸血鬼たちか。邪魔だな)
そう思った緋色だが、渇きを癒すにちょうど良いと判断し即座に吸血鬼たちの手足を切りつけ抵抗力を奪い、血をすすり始めた。
新宿に向かっている途中轟音が鳴り響き、何が起こっているのかを確認するためシノアたちは車を走らせていた。
「次の角を曲がったら新宿の防御壁が見えるはずだ」
車が角を曲がった瞬間に見えたのは新宿の防御壁から黒い煙が立ち上ってる光景だった。
驚いていると、道の真ん中に一人の男が居るのが見えた。
「止まるな君月!!!貴族だ!このまま轢けっ!」
優が声を上げ、君月がアクセルを全開にする。そして、全員が扉を開け、激突する手前で車外に飛び出た。車は吸血鬼に向かって走るが、吸血鬼は猛スピードで迫る車を避けもせず、片腕で受け止めた。ひしゃげて飛び散る車の破片。
吸血鬼は車を持ち上げ、シノア達目掛け投げる。五人は散開して車を躱し、与一は爆発に紛れて矢を五本放つ。
しかし、吸血鬼に届くことはなく、いとも簡単に矢を弾かれてしまう。
さらに、吸血鬼は矢を弾くだけにとどまらず与一に向けて衝撃波を放った。与一をシノアと三葉が武器を重ね合わせ衝撃波から守るが、想定以上の威力にシノアが顔をしかめる。
「これはまずいですね………みなさん独断で動かないで!相手は一級武装した吸血鬼です!今までの相手とは!」
シノアが指示を飛ばしてると、吸血鬼はシノアが隊長だと判断したのか、シノアの背後に回り、剣を振り下ろそうとする。
その剣戦を優は読み切り、剣ごと弾き飛ばす。
「へ~、人間の割にはやるね」
吸血鬼は焦ることも無く、ただ嬉しそうに笑う。
「どうするシノア?」
「相手は貴族ですが、五対一。数ではこちらが有利です。まず、一対一でも殺されない優さん、君月さんの二人を前衛に、私、みっちゃん、与一さんで援護しながらあの吸血鬼を狩ります」
「…ああ、君どこかで見たことあると思ったら………そうか、彼の…」
シノアたちは僅かに隙ができた好機を逃すまいと刀を構え、作戦を行動に移そうとすると貴族の吸血鬼の傍に二人の金髪と青髪の女の吸血鬼が降り立った。
「くそ、状況が変わった………」
シノアは冷や汗と共に思わず悪態をこぼす。
「どうする?撤退か?」
優が尋ねるが、シノアは首を振る。
「逃げられるならそうしたいですが、あのレベルの吸血鬼が3体もいては無理でしょう。だから戦います…鬼が暴走する限界まで……しかしそれでもおそらくは」
「死者が出る。だが、それが戦場だ。分かってて来たんだろ?」
重ぐるしい空気をかき消すように優は吠えた。
「なうほどそういう展開か…誰も殺させねぇ、死なせねぇ。俺は………そのために力を手に入れたんだ。……そうだろ?阿修羅丸」
「クローリー様ぁ~、こんなところでなにやってるんですか?」
「前線で第七位始祖がお呼びです。クローリー様」
「んー?フェリド君が私を?それは行かないとねぇ。……ここも面白くなってきたんだけど……まぁいいか、また今度にしよう。それにあの子の手を出したら本気で彼に殺されそうだ」
金髪の吸血鬼の伝言を聞き、クローリーと呼ばれた貴族は渡された剣を鞘に仕舞い、斬られた右腕を左腕で掴む。
「今回は見逃してあげるよシノアちゃん」
「え?」
シノアは自分の名前を呼ばれたことに驚きを隠せず、目を見開いた。
「でも次は君達の血を吸わせてもらうからね~」
「ああん!?」
クローリーはそう言い、優の肩をポンっと叩く。
「またね、可愛い家畜君達」
そう言い残し、クローリーは女の吸血たちと何処かへと消える。
「……助かった」
シノアはその場に座り込む。
「なんだよこれ!鬼呪装備手に入れてもこんなに差があんのかよ…!」
優の慟哭を聞きながら、シノアは必死に頭を働かせる。
(何であの吸血鬼は私の名をしていた?優さんが私の名前を呼んだのを聞いていたから?でも…)