職場ではパワハラ兄家には自称小悪魔な姉、しまいには世界が滅びてるってもう終わってるだろ 作:睡眠欲求
遺誡 連司
24歳。もともとは、暮人の部下だったが緋色に戦う理由を聞きほれ込み、そこから行動を共にしている。
載寧 詩織
15歳
吸血鬼にとらわれていたところを、緋色に助けられて以来行動を共にしている。緋色に好意を寄せている。
金田 京時
20歳。皮肉屋だが、お人よしであり、暮人のことを嫌っている。同じく、暮人を嫌っている緋色のことは好ましく思っており、同時にほおっておけないと思っている。
「以上が報告です」
「ご苦労だったな」
場所は執務室。偉そうにふんぞり返っている、兄さんを見ながら報告する。
「来週から、お前も少佐だ。喜んだらどうだ?」
「別に、そんなうれしくない」
「フッ・・・もう帰っていいぞ」
剣を抜刀し、暮人に向かって振りぬき、首にあたる瞬間に止めた。
「なぜ避けない」
「お前が止めるからだ」
「何故?」
「俺は、お前にとって重要なシンボルだろう。何せ、俺の下についているうちは他の柊の人間からちょっかいを掛けられない」
「・・・・・・・」
俺は、刀を鞘に戻す。
「帰る」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「鬼呪に呑み込まれた壊れた天才・・・柊 真昼が残した遺産・・・か」
「ただいま」
「やっと帰ったんですか、いや~、朝帰りどころか、日にちを跨ぐとは・・・大人の階段でも上りました?」
「残念ながら、登ってない」
「いや~、それは残念ですね~。まあ、知ってましたが」
物珍しげに見る緋色の視線に気付いたのか、シノアはにやりと笑った。
「何ですか? シノアちゃんの寝間着姿が可愛すぎて惚れちゃいましたか?いや~、童貞には刺激が強すぎましたか」
「それはない」
「そうですかね~」
心底楽しそうに顔を覗き込んでくるシノアを無視して緋色は言った。
「疲れたから俺は寝る」
「え~、帰ってそうそう寝るんですか~」
「疲れたんだよ」
「まあ、いいです。特別に、食事の準備は私がしてあげましょう」
「やけに優しいね。何が目的なの?」
シノアは咳払いを一つして言った。
「失礼ですね~。任務で疲れた弟の心を癒してあげようという姉の優しさですよ」
「あっそ」
結局、この後シノアはダークマターを作り上げ、俺が食事を作る羽目になった。
「ってことがあったんだよ」
「災難だな大将は」
廃ビルの屋上で、俺は連司に愚痴をこぼしていた。
連司たちは、いうなれば暮人兄さんの元私兵みたいなものだ。1年前俺が、部隊を結成するにあたって俺のところに来た奇特なやつら。
「そういえば聞いたぜ。少佐に昇格したんだってな。最年少だろ。流石は柊家だな」
「何それ?嫌味かよ」
「いやいや、大将は、それだけの実績があるだろ」
「だが、俺一人で成したわけじゃない」
「それはそうだけどよ、大将の力は大きいぜ」
「だけど、俺ばかりが昇進していく」
「ハァ~。なんだよ、やっぱ大将は、気にしてたのかよ。俺らだって、名家じゃないのにもかかわらず、昇進したほうだ。それにそんなことで、大将を責めるようなバカは俺らの中にはいねえよ」
「・・・お前らって、バカばっかりだよな」
俺は一度ため息をつく。
「変人だとは自覚してるぜ」
「あっそ」
「だけど、俺らは好きで大将に従ってるんだぜ」
「年下のガキにか?」
「ああ、その年下は自分の姉ちゃんのために戦ってると来た。そのために、上の連中とバチバチやってるってな。こんな荒廃した世界で、13歳のガキがそんな理由で戦ってるんだぞ。ほっておくほうが難しいぜ」
まぶしい笑顔だ、裏表のない笑顔。本来であれば、向けられてうれしいはずの笑顔を素直に受け取れなくなってしまったのは一体何故だろう。何時からだろう。
「・・・・・・・」
「京時も似たようなもんだと思う・・・詩織の奴は・・・」
「言わなくてもわかってる」
あいつが、俺に特別な感情を抱いているのもわかってはいる。それに気づけないほど、俺は鈍感じゃあない。こいつらは、俺の小尾が好きだという奇特な連中だ。俺も嫌いじゃあない。でも、人は何処まで行っても他人だ。俺は、やはり全幅の信頼を置けるのはシノアだけだ。
「大将が考えていることは分かるぜ。俺らのことはやっぱり、信用しきれないんだろ。まあ、あんな家にいればわかるぜ。柊も大変だな」
「それ、ここ以外では絶対に言うなよ。殺されるぞ」
「分かってるって」
「呼び出します、柊 緋色少佐。新宿中央軍官舎一号執務室へ出頭してください。繰り返します、柊 緋色―――――――」
どうやら、俺が呼ばれたみたいだ。それに、一号執務室とはまた厄介・・・
「暮人兄さんからの呼び出しだ。全くこき使ってくれるよ」
「また任務か?」
「たぶんね、少し行ってくる」
「で、何の用ですか?」
「そう焦るなよ、この間の件だ」
「先週の?」
「そうだ、お前らが制圧した場所周辺の調査をしていた部隊の連絡が途絶えた」
「またですか」
「全く使えないやつだ、だが今回の件ではっきりするだろう吸血鬼どもは何かを企んでいる。あそこには何かあるはずだ・・・緋色」
「分かりましたよ・・・もう一回行けばいいんだろ」
「お前の鬼呪は、生き残るのに最適な能力だ」
確かにその通り・・・未来視は、不意打ちに対する絶対的なアドバンテージであり、自分より格上の吸血鬼の動きに対処できる有効な手段。
「お前の部下には、お前が伝えておけ」
「了解」
「度々悪いな」
「いつものこと」
「大将は、面倒に愛されてるからな」
「まあ、この間の任務で昇進もしたし文句はない」
それぞれがそれぞれの反応をするが、文句は一つもない。
全く本当に奇特なやつらだ。
そう思いながら、目的地に向かっていると急に未来視が発動する。
「全員右に飛べ!!!」
次の瞬間、俺らのいた場所には轟音を立て突き刺さっている剣が出現した。
「あれ?避けられちゃったよ、フェリド君」
「予想通りさ、心配するなよ」
異常に白い肌、整った目鼻立ち。赤い瞳に、長い銀髪を黒いリボンで束ねている吸血鬼と他の吸血鬼よりも筋肉質な吸血鬼がそこにはいた。
「あれはヤバいぜ。大将」
つぶやくように、そうこぼした連司の評価は間違っていない。今まで相手にしてきた吸血鬼とはまるで違う。
「今のを避けるということは、君が17位始祖を殺した人間かな?」
17位始祖・・・恐らく、この間の貴族のことだろう。
「まあ、別にどうでもいいんだけど」
「え~、気になるから見に行こうって言ったのフェリド君じゃないか~」
「そんなこと言ったかな?」
「詩織、展開しろ。連司、俺が切り込んで時間を稼ぐから、お前らは撤退しろ」
「なッ、置いて行けっていうのか!!!」
「連司!!!」
「ッ・・・」
「俺が残るのが一番生存率が高い」
「確かにその通りだと俺も思う」
賛同するように、京時も言う。
それでも納得がいかないのか、唇をかみ苦虫をかみつぶした表情で連司はうなずいた。
「・・・分かった」
「ま、待って。私も残る」
「詩織・・・頼む」
俺は、懇願するように詩織に囁く。
「・・・・・」
「おしゃべりはもういいのかな?」
「詩織!!!」
「『斬音鬼』!!!」
衝撃波が展開され、周りの瓦礫と砂塵が巻き上がった。
視界は遮られ、音は消える。
『憑依しろ、天見童子』
俺は、一瞬で吸血鬼との距離を詰める。
手にした刀が、大気を斬り裂く。不意を突いたはずの振り下ろされた一閃を、余裕でクローリーは逆袈裟に斬り上げて迎え撃った。
激突する互いの刃。次の瞬間、迸る衝撃。弾かれ吹き飛ばされたのは俺の方だった。
「君中々早いね~」
やばいなこれは。
俺は流れる冷や汗を止められなかった。