職場ではパワハラ兄家には自称小悪魔な姉、しまいには世界が滅びてるってもう終わってるだろ 作:睡眠欲求
咄嗟に顔を逸らす。すぐ傍をクローリーの剣が突き抜けていた。反撃の暇もなく、クローリーの足払いが決まる。体勢が崩れた俺の腹へと肘うちが迫った。
「チッ!!」
左手を床に着き、右足で肘を蹴り飛ばす。力に押され弾き飛ばされるがそれは予想の範囲内ではある。うまく着地し、バックステップで距離を取る。
しかし、クローリーの追撃からは逃れられなかった。跳躍したクローリーの蹴りが俺へと迫る。
一回の跳躍で計5回にも及ぶ蹴りを、後退しながらも刀で弾いていく。未来視がなければ、すでに食らっている。
男の着地に合わせるようにして足払いを掛けようとしたが、見事にタイミングをずらされた。というより、クローリーは両足で着地はせずに片足で、それもつま先のみの軽いタッチで再び宙へと舞い上がる。
今度は剣だ。右上、右、左下、左上。それを刀で受け流す。クローリーがさらに跳躍する。俺の頭上を過ぎたタイミングで俺も身体を反転させ、相手に背後を取られないようにする。
しかし、その余計な動作のせいで今度は攻撃を仕掛けるタイミングを失った。綺麗に着地を決めたクローリーが追撃を放ってくる。
強い・・・圧倒的に強い。
斬撃のラッシュは止まらない。受け流すことで精一杯だ。こちらから攻勢に出ることができない。
「ぐっ」
肩口に一発貰った。鈍い痛みが走り抜けるが、まだやれる。
バク中で、攻撃を回避して、その勢いを殺さずにバックすってぷで距離を取る・・・
突っ込んできたクローリーに向かって俺は呪符を発動する。
『爆裂しろ』
それは、さっき地面に仕込んだ呪符。俺の鬼の能力は、こういう罠を張る気音に対して絶大な効力を持つ。何処に仕掛ければ、誘い込めるか分かるからな。
クローリーの足場は崩れ、一瞬体制が崩れる。慢心と好奇心によるほころびと俺の鬼呪。それらが合わさり、俺の攻撃は届いた。
「ああああああああ」
鮮血が舞う。
追撃を加えようとした瞬間・・・
『剣よ、私の血を吸え』
・・・俺の視界はぶれた。
浮遊間の次に、衝突の衝撃と爆音が体を貫く。鮮血が辺りのコンクリートを汚す。
だんだんと、血が流れるのを感じながら視界が暗くなっていくのを感じる
寒い、寒い、痛い、寒い・・・・地に、倒れ伏す。・・・体に、力が入らない。
明らかな致命傷。視界は既に暗くなり、周りをよく見る事すらできない。
ああ、死ぬんだ。俺は、漠然とそう思う。
閉ざされかけた視界の中で、最後に見たのは・・・・・・・・
「俺は死んだのか?」
そこは何回か来たことのある白い空間だった。
俺は目の前にいる自分の鬼に声をかける。ウェーブのかかった銀髪をたなびかせた俺の鬼は静かに振り返る。
「君はまだ死んでないよ・・・でも死ぬかもね」
「俺が死んだ場合あいつらはどうするだろうな?」
「・・・君死ぬのが怖くないの?」
「俺からすれば生きていくほうがつらい・・・まあ、苦しい死と意味のない死は嫌だったんだけど、そうじゃあないらしいし」
「僕は不服だね・・・取りつく相手がいなくなるし、また面白い人間に憑依できるかどうかは分からないしね」
「俺はそんなに面白いかよ」
「ああ、面白いよ。シノアに依存するほど心が弱いくせに、僕ら鬼に付け入る隙を与えない・・・自分の生には執着しないくせに意味のある死を求める。人間が嫌いなくせに、人間を信用したいと思っている。こんなに、矛盾してるのに君は中々揺るがない。本当に見てて面白いよ」
心底愉快そうに、顔をゆがめる天見童子。
「気に入られたもんだな」
「話しているだけでも退屈が紛れる。それに、君が僕らに隙を見せて堕ちていく様は面白そうだ」
「・・・・・・それで?俺の状況はどうなんだ?」
「ひどいもんさ。腕は曲がっちゃいけない方向に曲がってるし、あばら骨もいくつか折れている。僕をもう少し頼るべきだったね!!!」
「天を頼ったら、俺は乗っ取られてただろ」
「今回ばかりは別さ、君に死なれるのは僕としては少しだけ嫌だな」
「なら今からでも、俺に力を貸せよ」
「いやその必要はないみたいだ」
「何を・・・」
そういう前に、意識が遠のいていく。
次に目を開けると、銀髪の吸血鬼が俺を覗き込んでいる。
「死ね」
「あは~、開口一番がそれ~。命の恩人に対する言い草じゃないな~」
「何だと?」
下を向き、自分の体を確認する。
傷が、塞がり始めていた。致命傷急だった傷は、精々重症程度まで治っている。しかし、ダメージは大きいらしい。体は動く気がしない。
「クローリー君が、結構本気出すからぐちゃぐちゃだったんだよ」
想像しただけで、吐きそうだ。しかし、そこまで壊されておきながらなぜ生きているのか・・・吸血鬼はどうやって俺をなおした。
「しかしこれで、君は僕らの
「何を言って・・・」
嫌な予感が、俺の頭をかすめる・・・
「僕は君に、血を飲ませたんだ」
そう言って、フェリドは空になっている試験管を俺に見せびらかした。嫌な予感が当たった・・・クソが。
「ッッッ」
「あはははは、安心しなよ。君はまだ人間の血を吸ってないから完全には吸血鬼になっていない。まあ、でも渇きに君が絶えられるとは思わないけどね」
「何故俺に血を飲ませた!?」
「君に飲ませるのが一番効果的な嫌がらせになるからね」
「いやがらせだと?」
「そうそう、君にとっても嫌がらせになったとは思うけど、本命はもっと別の男さ」
「・・・何を言って」
「まあ、いいさ。今の僕はすこぶる機嫌がいい。君に救済措置をあげよう」
「救済措置だと?」
「君は人間の血を飲めば、吸血鬼になり果てる。君が、吸血衝動を抑えるのは無理だろう。でも、僕らの血をのむ分には問題ない」
「何が目的だ?」
「話が速くていいね。僕が指定した貴族を殺してほしいんだ。あと、今後の協力」
「・・・・・」
吸血鬼になり果てた場合、柊家は俺を殺しに来るだろう。まあ、暮人兄さんは利用価値を提示すれば殺しはしないだろうが・・・。だが、よくよく考えればこの話は頷くしかない・・・。
「俺の仲間はどうなった?」
「分かるだろ」
フェリドは、こういいはいわけだ。
『頷かなければ、仲間の命はないと』
「・・・いいぜ、分かった」
頷かなかった場合のリスクも大きいが頷いた場合のリスクも大きい。
「じゃあ、僕たちは帰るね。しばらくすれば動けるようになると思うから。それと、10日後にまたここに来てね」
そう言い残して、フェリドは消えていった。