職場ではパワハラ兄家には自称小悪魔な姉、しまいには世界が滅びてるってもう終わってるだろ 作:睡眠欲求
俺は今新宿に来ている。いつ見ても廃墟となった新宿はなんとも言えない不気味さを孕んでいる。
「どうして俺らが偵察しなくちゃいけないんだ?月鬼ノ組が調査をするんだろ?」
「察しが悪いな連司。リーダーは筋金入りのシスコンだぞ?貴族がいるかもしれないなんて聞いたら事前に調査するに決まっているだろう?」
連司の質問に緋色ではなく京時が不思議はないと答える。
「・・・・否定はしないがそれだけじゃない。恐らくだが、今回の吸血鬼を動かしているのは恐らくかなり位の高い始祖だ。少しでも吸血鬼から情報を搾り取り、戦いに備えないと多くの死者が出る」
(フェリド・バートリーは近々、かなりの数の吸血鬼が動員され新宿奪還に動くと予想していた。その推測が正しいのなら、出来るだけ情報を得ておきたい。それに天が今日はこのあたりに行くべきだとうるさかったしな)
緋色は思惑の一部を仲間に明かし詳しいことは伏せた。天見童子は時々予言めいたことを言う。恐らく未来視で先を見ているのだろう。しかし、当たることもあれば外れることもある。緋色は天見童子の予言を信用してはいたが、余り不用意なことを言うべきではないと仲間には言わんかった。
「ッ!!!全員警戒!!!」
吸血鬼が飛び出してくる。緋色はバックステップで躱し、一瞬で距離を詰め切り裂く。
「貴様らが日本帝鬼軍だな?」
消滅した吸血鬼の姿を確認してから、白髪の吸血鬼が出てくる。
(己の部下を捨て石にしたってところか。吸血鬼側の偵察か?あの顔は見たことあるな。フィリド・バートリーの提供した資料に乗ってた第十二位始祖)
「答えないのなら捕まえて拷問するだけだ」
「総員、雑魚の足止めは頼んだ。俺はこの吸血鬼を狩る」
「了解」
緋色は半年前に単独で貴族を殺害している。そのため、仲間たちも緋色を止めようとはしなかった。天見童子の能力で勝てる未来が見えない相手とはなるべく戦わないという緋色のセオリーを知っているのもあるがそれだけ、緋色を信用しているのだ。
「さて、やろうか?吸血鬼」
「人間がッ」
次の瞬間、緋色が現れたのは、吸血鬼の背後だった。互いに背中を向け、刀を振り切った状態。
鮮血が、吸血鬼の胸から迸る。
その胸板には斬線が、真一文字に引かれている。決して浅い傷ではない。しかし、それは大きな問題ではない。致命傷ではないし、戦闘は続けられる。しかし、吸血鬼は今の緋色の攻撃を躱せなかった。それが問題なのだ。
「な、なんだと!?」
吸血鬼はが驚きの声を上げる。前後の状況から、緋色は自分をすり抜け様に刀を一閃し斬り付けたのは判る。だが、速い。否、速い、などと言うレベルではない。あれは人間の動きではない。貴族である自分が、第十二位始祖である自分が躱せなかった。その事実は吸血鬼の冷静さを失わせた。
「この第十二位始祖であるアルバ・レックルク様が人間ごときに傷を負わされるだと?ふざけるなぁぁぁ」
吸血鬼は轟音を上げて突進。同時に、振り翳した剣を、真っ向から緋色へと振り下ろす。未来視で見えている緋色にとっては躱すのは造作もない攻撃。最小限の動きで躱し、呪符を張り付ける。
撒き散らされる破壊。
次の瞬間、緋色が仕掛ける。袈裟懸けに振り下ろした剣閃が、吸血鬼を斬り裂く。刻まれる斬線。宙を舞う鮮血。
しかし、吸血鬼には致命傷に至らない。すかさず、反撃に出るアルバ。しかし、剣を振り上げた時には、既に、緋色の姿は無い。
「遅い」
空中。そこには、刀の切っ先を真っすぐに向けた、緋色の姿がある。既に攻撃態勢に入っている緋色。
足裏に仕込んだ呪符で作り出した足場を蹴り、加速する緋色。切っ先は、立ち尽くすアルバの顔面に、正面から突き立てられた。
「ッ!?」
堪らず、顔面を押さえて後退する。ここにきて、大ダメージがアルバを襲う。そこで、緋色は手を止めない。
「『停止しろ』」
金縛りの呪術をさっき右腕に張り付けた呪符で、発動させる。吸血鬼の貴族を縛れるのはほんの一瞬。だが、その一瞬で十分だ。
「終わりだ」
緋色の剣は、吸血鬼の心臓を貫いた。
「鬼呪を発動させれば、お前は死ぬ。死にたくないなら、知っていることをすべてッ」
刀を抜き、横に飛ぶ。次の瞬間には、緋色のいた場所には大量の剣が降り注いでいた。
「増援か・・・クソ。数が多いいな!」
(30人位はいるな。連司たちでは対処できない・・・)
「撤退だ!殿は俺が・・・指揮は京時が。詩織はサポートに回れ!」
「「「了解」」」
「逃がすか!家畜が!?」
飛んで来る攻撃。無数に飛び散る剣閃が、容赦なく襲い来る。命を奪うに足る威力を秘めた一閃。視界を遮るように放たれる殺意の渦を緋色は駆けながら、首を傾けて回避する。
耳元で、微かに感じる皮膚が切れる感触。
かすめた剣先が、僅かに髪を切るのが判る。しかし、それも一瞬の事。駆け抜ける一閃を傍らに、足を止めない。
アルバの心臓めがけて、駆ける。
緋色のそんな姿は、吸血鬼には恐怖でしかない。圧倒的弱者が、強者である自分たちを脅かそうとしている現状に恐怖し、剣先が揺れる。
「せめてその首は頂く。アルバ・レックルク」
「家畜がァァァァァァァ」
(私は、今何と戦っている?このような動きは人間の動きでは・・・)
今度こそ、アルバの心臓は穿たれる。
「死ね」
「ほざけ」
アルバは、剣を抜こうとするが緋色は剣を抜かせる前に腕を切り落とす。そして、首に歯を突き立てる。
「な、な・・・なんだと。何?・・・貴様は」
困惑しているアルバを他所に、緋色は血を吸い続ける。
「貴様は、まさか、吸血鬼」
「ではないよ・・・まだな」
血を吸いつくし、アルバは倒れ、緋色は立ち上がる。
「少しは渇きが収まった。流石は貴族だな。さて・・・それじゃあ、残りもおいしくいただこうかな」
「ハァハァ、ハァ」
「生き残ったな?」
「一応な・・・」
吸血鬼が追いかけてこないことを確認してから、がれきの上に腰を下ろす。
結局、あの場にいた吸血鬼は全員が逃げたことを確認してから、殲滅した。ただ、かなりの時間を消費した。というか、全員の血液を吸うので忙しかった。
またしばらくは、凌げるだろうな・・・ただ、最近では吸血鬼の血では満足できなくなってきている。
「・・・・とりあえずは・・・戻って報告かな」