串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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10話 Ⅵの座を司る者 前編

 

 

 

 

 

――第一層が攻略されてすぐ。

 

 

 

第二層に上がったは良かったが、マスターはディアベルをボスのソードスキルから逃すのに攻撃したからカーソルがオレンジになっていた。 だから住区の圏内に入れなくて、フィールドの安全圏を探す所から始まった。

 

それが大体、三日か四日続いたくらいの時だったか。

 

 

「――誰か来ているな。 三人だ」

 

いつも通り無双した後。 索敵スキルをとっていたマスターが東の方を睨んでいると、言った通り三人のプレイヤーが歩いてきていて、内一人には見覚えがあった。

 

「……ジョニー、か?」

 

「おっす! 久しぶりぃ、ザザ!」

 

第一層の初日に行動を共にしていた、白髪野郎。 フレ登録から生きていたのは知ってたけど、ホルンカ以来の再会だった。 マスターも覚えていたのか、警戒を解いて話しかけていたしな。

 

「久しいな、ジョニー」

 

「ダンナもお久!」

 

「だ……………まぁいい。 それで、其奴らは?」

 

マスターが視線をズラしたのに合わせて、オレもジョニーの後ろにいた二人に意識を向けた。

一人は、チャラい感じの奴で、モルテというらしい。

そして、もう一人は、――

 

 

 

 

 

「――へぇ。 アンタがあのヴラドか。 俺は『ヴァサゴ』だ、ヨロシク」

 

流暢だけど、何処か訛った喋り方をする、外人風の男。

 

「……ヴァサゴ、か。 訛りからしてヒスパニック(アメリカ人)か?」

 

「お、分かるか。 そういうアンタは、………イタリック系、ヨーロッパ人か」

 

「む、余も訛っておったか。

あぁ正解だ。 ルーマニアから参った」

 

「また遠いとこから、災難だな。

オレもジャパニーズばっかだからアウェーでアウェーで」

 

「ほう」

 

外人同士、通じるものがあるのか話が弾んでいる横で、オレも再会を喜んだ。

 

「暫く、連絡つかなかったから、心配したぞ」

 

「いやぁ、ワリワリ。 ヘッド――あ、今ダンナと話してる人な! あの人と合流してからもうずっと楽しくてさぁ!」

 

「そうか。

ところで、そっちは?」

 

そう言って、隣で欠伸していた男を指す。

 

「あぁ、コイツはモルテ。 コイツこう見えてβテスターでな! いやホント、情報大事超大事!」

 

「まあ、確かに情報は、大事だな」

 

一層で強力な武器を手に入れるのに配布された攻略本を何度も捲ったのを思い出しながら相槌を打つ。

 

……そういえば、町に入れないから第二層の攻略本は入手していないな。 モンスターは相変わらずマスターが一、二発で斃せるから身を守るだけなら問題ないけど、効率的なレベリングや、有効なアイテムの入手はちょっと厳しい。

 

「……そういえば、何だって、此処に?」

 

「あぁ。 モルテのヤツがディアベル、だっけ? のとこに居てな。 ダンナの補助に行かされたトコでオレたちが合流したんだよ! ほら!

……っていねぇ!」

 

ぎゃーすと騒ぐジョニーをスルーして左右に目を向ければ、一足先にヴァサゴに呼ばれたのか、マスターとあれこれトレードしていた。

後でマスターに聞いたら、カルマ回復アイテムはまだ集めきれてなくて、一先ず食料とかの消耗品と攻略本を届けに来たとのことらしい。 クリーム付き黒パンも美味しいとはいえ、飽き始めてきてたから本当にありがたかった。

 

二冊届けられていた攻略本をパラパラ斜め読みしていると、漸く口を開いたモルテが、攻略本にないクエストにオススメがあると言ってきた。

 

曰く、エクストラスキル『体術』を取得出来るクエストを受けることが出来るらしい。

 

 

「――ほぅ。 体術とな」

 

想像以上にスキルに食いついたマスターが受けることを即決し、すぐに移動を開始する。 「あんなアグレッシブな人――だったな、そーいや」とはジョニーの台詞だ。

 

 

道中は、……省略でいいか。 一度ジョーというプレイヤーにモンスターの群をトレインされかけたけど、マスターとオレで数分で片付いたし。

 

 

 

――運の悪い事に、オレたちがいたのはクエストを受けられる場所とは町を挟んで反対方向だったようで、移動にそこそこ時間が掛かって着いたのは翌日朝だった。

 

「ここが、そうなのか?」

 

辿り着いたのは、ポツンと建つ一軒家。

テンションの高いジョニーを先頭に扉をくぐっていく。 が、ギリギリでモルテが渋り、一旦別行動になった。

その反応に訝しみながら中に入ると、視界の端に安全圏に入ったことが表示され、警戒を緩める。

見れば見る程ただの民家で、室内にいるのは老人NPCが一人だけ。 クエストNPCである事を示す赤いフキダシが出ていること以外、何も変わった点が無い。

四人揃って首を傾げながらも、ジョニーが老人に話しかけて二、三話すと、急に老人が目で追いきれないスピードで腕を振り――

 

「ぷフォッ!」

 

「な……なんだこりゃぁ!?」

 

ジョニーの頬に落書きがされていた。 モルテが渋った理由が分かった瞬間、キレてナイフ片手に飛び出しかけたが、老人に一歩でも外に出たらクエスト失敗、落書きは消えないと伝えられて歯噛みしながらその場にとどまった。

まあその後結局全員顔に落書きされたんだけどな。 ヴァサゴとマスターは老人相手に数分格闘した挙句、筆で描かれていないのにシステム的に書かれた事になって凄く不服そうな顔だったけど。

 

「……速攻で片付けるぞ」

 

「……よかろう。 彼の非礼、贖わせてくれようぞ」

 

犬歯を剥き出しに危ない笑みを浮かべた二人が、クエストの内容――裏庭にある岩を砕けばいいという解説を聞いた瞬間飛び出し、一拍間を空けて轟音が二つ響いた。

 

慌てて追いかければ、四つ並べられた岩の内の二つをそれぞれ殴りまくっていた。 二人とも格闘技を習っていたのか、それともVR格ゲーをやっていたのか、手慣れた動きでヴァサゴが連撃を、マスターが一撃重視のストレートを叩き込んでいた。

 

……ていうか、二人共熱意がヤバイ。

ヴァサゴは「イエローモンキーがぁぁ!」と叫びながら蹴りまで入れ始めてるし、マスターは表面上落ち着いて見えるけど、間合いを取って息を整えて、一瞬で距離を詰めて右手で思いっきり突くを繰り返して、その一発一発が轟音を立ててる。

 

……あそこまでいくと、逆に壊れない岩の方が凄いな。

 

「……オレらもやりますか。 やる気起きないけど」

 

「……まあ、うん。 雨垂れ石を、なんとやらって、言うし」

 

「チクショー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

――結論を言えば、一番最初に壊したのはマスターだった。

最初こそ連打重視(ヴァサゴ)一撃重視(マスター)でいい勝負だったのが、システム外スキルで反作用による移動――今で言う『真横にジャンプ』だな。 それに気がついたマスターが殴るペースが上がってからはすぐだったな。

その後ヴァサゴもあっさり砕いて、後はオレたちがクリアするのを待つだけになった。

 

マスターたちが暇を持て余すあまり料理スキルに手を出している横でペシペシ殴り続け、丸一日費やしてやっと砕けた。

 

「……手がイテェ」

 

「……手と言うか、心に、来るな、このクエスト」

 

今ならモルテのあの態度も納得出来る。 後で聞けば、あの岩は破壊不能オブジェクト一歩手前の代物だったらしい。

第二層に置くクエストじゃないだろとオレたちが愚痴り、それにマスターが「違いない」と苦笑しながら相槌を打ちながら小屋に入ると、数日ぶりに会うモルテが寛いでいた。 ジョニーに噛みつかれながらも聞こえた細切れになった台詞から、ディアベルから連絡があったことが知らされた。 曰く、『やっとアイテムが揃った』らしい。

これでマスターも、前線復帰出来る。

それを喜しい事だと思ったのはジョニーたちもだったようで、ヴァサゴの提案でこちらからも出向くことになった。

 

 

モルテを通して落ち合う場所を決め、その場所に向かうと、ディアベルともう二人、見覚えのあるプレイヤーが。

 

「――お! 見ないと思ったらやっぱりオッサンの所にいたわね」

 

「……何で、あんたがいるんだ。 ピトフーイ」

 

やっほーと片手を挙げる少女と、それに付き従うAPPの高い男。

話を聞けば、彼らも体術クエをクリアしに来たらタイミングで、偶然(・・)ディアベルと行動を共にしていたらしい。 なんでも二層の何処かで出るグローブ装備を使えば一瞬という情報が出回って、それを買い取るのに苦労したとのこと。 先に知りたかった。

 

それは兎も角。

 

ディアベルの方に意識を向ければ、マスターに頭を下げていた。

モンスターから守って貰ったのに、謝礼が遅れたと。 その所為で余計な手間を掛けさせてしまったと。

それに対してマスターは、

 

「――構わぬ。 電子の世界での野宿というのも中々に良いものだった」

 

「いや、でも。 オレの所為でヴラドさんには迷惑を……オレがあの時、もっとちゃんとしていれば――」

 

「よいと言っている。 あの件は余にも思う所があるのでな」

 

少し遠い目をしながら返した。

 

「……『ビーター』」

 

「うむ。 その態度から察するに、お前もそうなのだろう。

お前が真に謝罪すべきは、あの少年だろう。

……尤も、それは余にも言える事だがな

 

最後にボソッと零した言葉は届いたのかは分からない。 けど、その言葉には、

マスターの感情が煮詰まっている気がした。

 

 

 

 

 

「――まあ、過ぎたことなんだし、気楽に行きましょうよ!」

 

空気が悪くなった所でモルテが割り込む様に声をあげて、二層の街で買ってきておいたというカップ飲料を八人全員(・・・・)に握らせた。

 

「じゃあ、我らが英雄ヴラドの復帰を祝って! 乾杯!」

 

「……余はそんな人間ではないのだがな」

 

モルテの楽観的な姿勢に後押しされたのか、ディアベルは躊躇いなくそれを呷った。 何気にいいものなのか、ピトフーイとエムなんてシンプルに喜んでいたし、オレも全く警戒することなく口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――後から考えてみれば、おかしな事だらけだったのに。

 

何故ディアベルと落ち合う場所は圏外だったのか。

 

何故偶然合流したピトフーイたちの分まで飲料が準備してあったのか。

 

何故ヴァサゴやジョニーはソレを飲まないのか。

 

 

違和感だって、その前からあったはずなのに。

 

 

「……? モルテよ、これはどの様な物なのだ?」

 

マスターは違和感に気付けたのに。

 

なのに、オレたちは、ソレを躊躇いなく飲んだ。 飲んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――It's Showtime」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――気がつけば、オレたちは倒れていた。

 

 

 

 

 

 

 


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