串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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11話 Ⅵの座を司る者 後編

 

 

 

 

 

――急な事に混乱する中、言うことを全く聞かない首を何とか動かすと、自分のカーソルに黄色のデバフマークが。

 

――『麻痺』?! そんな、なんで、

 

さらに周囲をみれば、倒れているのはオレだけじゃなかった。

立っていたのはマスター、それとジョニーとモルテと、ヴァサゴ。

全員、コップに口をつけなかった人だった。

 

「……モルテ、これは何の真似だ?」

 

そこから出る結論は簡単。

飲料を準備して、尚且つ口をつけなかったモルテが一番怪しい。

怒気を溢れさせながら、マスターが槍を抜く。 だと言うのにモルテはニヤニヤ嗤うだけで、何も答えない。

代わりに返事をしたのは、ヴァサゴと名乗った男だった。

 

「――なんの真似? 簡単な話だ。

全員分のコップに麻痺毒を仕込ませた。 ただそれだけだ」

 

「――っ」

 

「と、動くな!」

 

ニヤついていたモルテが、剣をディアベルの首に沿える。

 

 

「……貴様、余を虚仮にしているのか?」

 

人質を取られ、振るいかけていた槍はそのままに呻くように声を出す。

 

「あぁ、悪いな。 とっとと本題に入っちまおう。

 

 

 

――ヴラド。 俺と来ないか?」

 

ナイフを収めたまま、右手を差し出すヴァサゴ。

当然、まともな返事が返る筈もなく、マスターは拒絶した。

 

「ほぅ、余程命が惜しくないと見える。

……一服盛った者に付き従う愚か者がいるのか?」

 

ギリ、と、マスターの握る槍から柄が軋む音が聞こえ、それに合わせてジョニーが抜剣する。

が、ヴァサゴは抜かない。 手はそのままに、続ける。

 

「ま、普通ならあり得ないだろうな。 ―――普通なら、な」

 

「……何が言いたい?」

 

ヴァサゴはマスターの問いに答えず、投げナイフを手に持つと、

 

 

 

 

 

――それを、エムに投げつける。

一直線に飛んだナイフは肩に突き刺さり、赤いダメージエフェクトが溢れる。

 

その光景に響くソプラノの悲鳴を無視して、ヴァサゴが続ける。

 

「――お前は、俺と同じだからだ、ヴラド。

悪魔の名を名付けられた破綻者。

人型を傷付けることに抵抗のない、生粋のバケモノ。

でなけりゃ、躊躇なくジャベリン(投槍)を人間に当てられるのか? チキンな方法でしか他人を殺せない平和ボケ共とは違う。 俺たちは、同じだ。

 

……もう一度言うぞ、ヴラド。

俺と来い。 この城は、俺たちのモノだ」

 

不思議な魅力(カリスマ)を持った悪魔が、誘いの文句を口にする。

 

何拍か間を空けてから、マスターは、槍を下ろした。

 

「……確かに、我らは似ているやもしれぬな」

 

そう呟いて、片頬を上げ(嗤い)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――だが、違う。 我らには決定的な違いがある」

 

バキリと、槍の柄が握り潰される。 くの字に折れ曲がった槍が、ポリゴンの粒となる。

 

「余が破綻者? 認めよう。

余がバケモノ? 認めよう。

我はドラキュラ(竜の子)を継ぐ者であり、同時に異端者である。

だが、余はそれでも己が望に誠実であるつもりだ。 貴様の望への道がそれ(殺戮)しかないのであれば、余は赦そう。 赦して笑って、貴様を終わらせよう。

 

――されど、貴様のその様は、その瞳はなんだ?

貴様が内に抱えるモノは、憤怒でも、復讐でも、闘争への妄執でもない。 ただの醜い癇癪だ。 童の八つ当たりにすら劣る喚きだ」

 

「………そうかよ」

 

差し出した手を引っ込め、残念そうに肩を竦める。

 

 

「――じゃあ死ね」

 

その言葉を合図にジョニーが飛び出す。 その手には、薄く黄色にテカったナイフ。

その切先が、武器を持っていないマスターに――

 

「緩い。 案山子すら刻めぬな」

 

鈍い音を立てて、ジョニーが背中から地面に叩きつけられる。 正直、何が起きたか分からなかった。 後で聞いたら、「投げた」らしい。

 

「ジョニー!? テメ、動くな! コイツがどうなっても――ぶへっ!!」

 

その光景を見たモルテが剣を振り上げた隙に距離が詰められ、膝を蹴られる。 曲がらない方向に曲げられた膝では体重を支えられず、そのまま倒れる。

 

「……人質から武器を離すとは、素人にも程があろう。

――して、貴様は来ないのか?」

 

モルテの握っていた剣を彼方に投げとばしつつ、ついでと言わんばかりにヴァサゴを挑発する。

一瞬で二人を無力化したマスターに対して、ヴァサゴは無言でナイフを抜いた。

それを見て、マスターも足元にあったジョニーのナイフを蹴り上げ、掴む。

 

「―――では、始めようか」

 

轟音、土煙。 一瞬で姿が掻き消えた二人は、中間点でナイフをぶつけあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そ、それで、最後はどうなったんだ?」

 

髑髏マスクが語ったのは、噂では聞いていた笑う棺桶(ラフィン・コフィン)最初の殺人未遂の詳細だった。

 

 

「最後は、引き分けだった。 あらかじめ、モンスターをトレイン、してあったみたいでな。 そっちを対応してる間に、逃げられた」

 

「oh……」

 

まあラフコフならやりそうな手だな。 MPKなんて他のゲームでもよくある、手段、だし………

 

「……なあ、ヴラドって槍を持ってなかったんだよな?」

 

ヴァサゴ(PoH)相手にメイン武器ではなくナイフで切りあえたのも驚きだけど、戦闘中にMobに襲われたのならストレージのアイテムを取り出す暇なんてなかったハズだ。

とすると、PoHだけでなくモンスターの群すらナイフ一本で凌いだ事になる。

流石にない、よな……?

 

「あぁ。 オレも気になって、聞いた事がある、んだよ」

 

「で、なんだって?」

 

自分でもよく分からない期待も込めて聞けば、

 

「マスター曰く、マスターの師匠のメイン武器が、ナイフで、まずそっちを叩き込まれた、らしい。 ぶっちゃけ徒手空拳が、一番腕に自信があるって前に、言ってた。

飲み物の毒に気付けたのも、師匠の影響、だって」

 

「…………はぃい?」

 

これまたとんでもない答えが返って来た。

ナイフも使えることも驚きだけど、

あのヴラドの師匠って一体………

 

 

 

 

 

………うん、よそう。 想像が恐ろしい方向に飛躍しかけた。 現実にガチの吸血鬼はいない。 ハズである。

 

つか地味にアインクラッドの危機だったんだな。 もしヴラドがラフコフにいたら、被害者は今の数倍じゃすまなかっただろうし。

 

 

 

 

 

――それから後の事は、まあ想像通りだった。

後でラフィンコフィンの発足を受けて作られたギルドが『ドラクル騎士団』。

ピトがメインで暴れているのは、ザザの予想曰く復讐。 エムと結婚してるらしいs

「結婚?!」

 

「システム上の、だけどな」

 

もう何度目か分からない目眩がする。 エムも狂人だったか……

 

白目を剥いて気絶したくなった気分を落ち着けながら時間を確認したら、もう十時を過ぎていた。

 

「もう、こんな時間か。 キリトはこの後、どうする?」

 

エストックを腰に差し直したザザが、椅子の位置を直しながら聞いてきた。

 

「……ホームに帰るよ。 今日はなんかもう、疲れた」

 

だろうな、という軽い応えが返ってくる。

それを聞きながら教会の両開きの扉を、押し開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

――ギルドハウスで武器の手入れをしていると、ザザが帰ってきた。

別に一々報告しなくていいとは伝えているんだがなぁ。 まあリヨ仮面が出回らないならそれに越したことはないだろう。 あれは駄目だ。

 

まぁそれはさて置き。

 

 

 

「……『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』、か」

 

磨いていた投擲ナイフをスローイングするように刃を指の間に挟んで支える。

そのまま軽く真上に放り、落ちてきた所をホルダーで受け止める。

 

「―――次に相見えたなら――」

 

今度は、勝つ。

シンプルなデザインの短い柄を睨みながら、第二層での、あの時の屈辱を思い出した。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

―――ナイフの刃が真っ向からぶつかり、大きく弾かれる。

ヴァサゴはその衝撃を利用して腕を後ろに引き絞り、刃が輝く。

 

――ソードスキル。 詳細不明。

 

舌打ちしつつ、勢いを利用して一回転。 遠心力も乗せた一閃とシステムの加護を受けた一閃がぶつかり、今度は鍔迫り合いも起こらず左右にズレて滑る。 前に倒れる直前に思いっきり背中を丸め、前転気味に転がって距離を取りつつ間合いを開ける。

上下逆転した視界でたたらを踏む様子が見えたから、振り向きざまにナイフを投げつける。

 

「チッ――」

 

避けきれなかったのか、叩き落される。 その隙に跳ねて一瞬で距離を詰め、顔面に肘を打ち込み、怯んだ所で爪先で顎を蹴り飛ばす。

が、直前に察知され蹴りは躱される。 バックステップで逃げるのを見送り、ナイフを回収。 逆手に持って突進する。

突き出される刃を鍔で弾き、そのまま振り抜いて一撃叩き込む。

一撃加えたら手早く引く。 大振りの一閃を紙一重で躱し、真上から圧殺する勢いで振り下ろす。

が、大振りな一撃(バスター)は読まれていたのか柄の先で受け止められる。

 

 

「――へェ。 思ったよりやるな」

 

ナイフごと叩ッ斬るべく柄に食い込んだ刃に体重を掛けていると、若干余裕のなさそうな声が聞こえる。

 

「……何が言いたい」

 

「なに、俺がわざわざ本名を名乗った訳を察して欲しいなと思って、なっ」

 

奴がナイフから手を離し、こちらの体勢が崩れる。 倒れかけたところに飛んでくる蹴り。 無傷での防御も回避も不可能。

腹筋に力を込めてダメージを軽減させ、蹴り足を抱える。

 

「! チィッ」

 

少々不格好だが奴が軸足を切り替えたのを察知、そのまま投げる。 転がった奴が立ち上がるまでの間に息を整え直し、再度突撃。 蹴り上げ、に見せかけて奴からは見えないように拳を振り絞る。

予想通り転がる勢いを利用して回避と立て直しを同時にやるヴァサゴ。 さっきまで奴が倒れていた大地を踏み締め、右ストレートを放つ。

慌てたのか、それとも策でもあったのか、手で真っ向から受け止めようとするヴァサゴ。 案の定関節を砕いた感触が伝わり、奴の手首からダメージエフェクトが溢れる。 が――

 

「――捕まえたぜ。 今度は俺のターンだ!」

 

もう片方の腕で伸ばしきった俺の腕を押さえられ、体当たり気味に真横に倒される。 咄嗟に立て直そうにも足払いをかけられ、受身も取れず背中から落ちる。

咄嗟に引き抜こうにも脇で固定され、追撃の肘打ちを鳩尾にモロに喰らってしまう。

 

「ゴホッ!

――貴様、舐めるなァァッ!!」

 

極振りした筋力に任せ、腕一本で奴を持ち上げながら立ち、力任せに叩きつける。

そこまでは想定外だったのかアッサリ決まり、体力をレッドゾーンまで減らした奴が大の字に潰れる。

 

「フー………… 終わりだ、ヴァサゴ」

 

「……ハッ。 終わりだ? まだ始まってすらいないのにかよ?」

 

減らず口を叩く奴に、「最期の言葉はそれだけか?」と問いかけ――

一層で取っていた索敵スキルが警鐘を鳴らす。 ここまで派手に鳴るとなれば、数は相当。

 

「ぬ、此れは――」

 

タイミングが良過ぎる。 まるで誰かが、引っ張ってきたような、

 

「……まさか、先日の群は!」

 

「鈍い、鈍いぜ串刺し公(カズィクル・ベイ)

じゃ、精々頑張りな。 テメェは、俺が、殺す。

 

必ず、殺す」

 

何時の間にか回収したのか、ボロボロのジョニーとモルテを引き摺りながら離れていく。 御丁寧に隠密スキルまで発動したのか、不完全ながらもシルエットが朧げなものへとなっていく。

 

「――また逢おう。 ヴァンパイア」

 

「貴様! 待て――クッ!?」

 

追いかけようと一本踏み出した所で爪先を踏まれ、ナイフの反射光が目前を過ぎる。 目の前を一瞬で横切ったのは、予想通り、数日前にトレインを仕掛けてきた男。

邪魔を、するな!!

 

咄嗟にアッパーを放つ。 が、当たりこそしたがクリーンヒットとは言えず大きなダメージを与えられなかった。

 

「ぬぅ! おのれおのれおのれおのれ、おのれェッ!!」

 

そうこうしている内に、猪と狼の大群が到達する。 どんな絡繰か、ザザ達に盛られた異様に長い効果の麻痺毒が何時解けるか分からない以上、奴らを追う事は出来ない。

急いで近くに落ちていた、おそらく忘れていったのだろうジョニーとヴァサゴのナイフを逆手に構える。

 

 

――精々頑張りな、だと?

 

 

ほざけ。 皆殺しである!

 

先頭の狼が走ってきた勢いをそのままに顎を開く。

その下顎に左手のナイフを突き刺し、柔い口元から胴体を真っ二つに裂く。

 

群の全容は、見えなかった。

 

 

「おのれ―――殺戮の時間である!」

 

 

 

 

 


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