串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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閑話 浮遊城の日常(短編二話)

 

 

 

 

 

1. 竜の騎士道

 

 

 

――目の前を輝く両刃斧が畝り、髪を数本切り裂く。 僅かに反らせただけの上体を戻す勢いすら使った掌底で胴を打ち後退りさせ、右手で槍の重心を握りスナップを利かせてコンパクトに突く。

が、いい加減読まれているのか籠手で弾かれ、斧が地面を擦りながら振り上げられる。

ほぅ、力比べを所望するか。

矛先で受け止め、そのままSTRで押し切るべく力を籠める。 相対する男の鼻息は荒くなり、野太い腕に血管が浮き出る。

 

……ふむ。 ステータスは悪く無い。 が、技が足りておらんな。

 

踵を僅かに浮かせ、体重を一気にかける。 斧が地面にめり込み、矛先が弧を描く刃を滑る。 そのまま身体を捻って一回転、バスターを叩き込む。

轟音と共に鎧の肩を打つ。 ギリギリで打点をズラしたか。 急所に当たらなかったことで大ダメージは与えられなかったが、体力が勢いよく減り―――

 

 

 

――ブザー音が鳴り、視界の中央に『You、WIN!』と表示される。

それを見て肩の力を抜き、吹っ飛ばした大男に向き直る。

 

「大分良くなってきたようだな。 だが仕掛ける時にソードスキルを多用する癖は直せ。 無用な隙を生む」

 

「ぐぉぉ…… は、はい。 分かりました……」

 

ゆっくり立ち上がった大男が斧を杖代わりにヨロヨロと、ギルドハウスの中庭を後にする。

それとすれ違うように、普段俺がメインで使っている槍を持ったザザが寄って来る。

 

「お疲れ様、です」

 

「何、問題無い。 挑戦を受けて立つのも余の役割よ。

流石に奴は少々執拗いがな」

 

受け取った槍を決闘用の火力を抑えた物と取り替え、肩慣らしに軽く回してから背に固定する。

それにしてもあの大男、確かゴドフリーと言ったか。 ほぼ毎日挑んでくるのだが、あれだけ動けるのならば血盟騎士団の部隊長くらいにはなれるだろうに。 一体何が奴を其処まで掻き立てるのやら……

まあいい。

 

さて、食後の運動も済ませた事だ。 迷宮にでも潜るとするか。

 

「余はこれから攻略を進めてくるが、お前は如何する?」

 

「あ、じゃあオレも、行きます。 また迷われたら、大変ですから」

 

「おい」

 

俺の方向感覚、そんなに信用ないか。

…………無いよなぁ。 この間もやらかしたばかりだしなぁ。 おのれオレンジ共め、姑息な手を。

 

溜息を吐きつつ、ポーションや結晶の残量を確認する。 ふむ、暫く補充してなかった故、多少心許ないな。 エギルの店にでも寄るか。

……あ、アルゲードに行くなら先に始まりの町に行かねばな。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

――第一層 『始まりの町』

 

アインクラッドは浮遊城という特性上か、基本的に上に行けば行くほど面積が減っていく。 それに伴ってダンジョン、町の規模も減っていっている。

逆に言えば、下層に降りれば降りる程広い土地がある。 それにモンスターのレベルも低く、比較的安全だ。

 

まあ、何が言いたいかと言えば、戦闘に向かないプレイヤーを集めて生活スペースを確保するのが簡単だという事だ。

そんなこんなでDKは第一層にも仮拠点を持っていて、非戦闘プレイヤー、特にゲームの対象年齢以下のプレイヤーの保護をしている。

 

 

………細かい所にツッコミを入れれば、最初に活動を始めたのはDKとは何も関係ない、リアルで教職課程を取っていた人だった。 オマケに仮拠点と言っても実際はコルを消費して買い取った場ではなく町にある教会をそのまま使っているし、保護と言ってもその資金源はそこにいるプレイヤーが生産した物を売却することで賄っている。 正直オレたちDKがやった事と言えば、余った素材を届けたり、流通ルートを繋げたくらいだ。

 

が、これが意外と上手くいった。 ポーションや鍛冶系は流石に上層向けの物はまだ難しそうだけど、一部の娯楽品や装備品は、マスターが連れてきたアシュレイさんらのツテを使ってかなりいい物が出来るようになった。 例えばオレのマスクやマスターのマフラーはここで作られた物だし。

以前やけにその辺の手際がいいと思って訊いたら、

 

「余の地元では過去の政策の影響で浮浪児が溢れていてな。 小規模ながら孤児院のような物を経営していた故、ある程度であれば心得がある」

 

との返事が返ってきた。

……本当にこの人のリアルはどんな人なのだろう? 『考察ガチ勢』と名乗っているエセ情報屋ギルドの予想曰く、イタリア系アクション俳優が主説らしい。 本人に訊いたら爆笑されたから多分違うけど。

 

 

そんな適当な事を考えながら背中を追いかけていると、いつの間にか教会に着いていた。 以前キリトにマスクを売るのに来た時とは違って騒がしくて、金属同士を叩きつける戦闘音が――

 

 

………は?

 

急に明るくなった視点を前に向ければ、統一されたやたらゴツい鎧を纏ったパーティーをノーチラスが相手取っていた。 何で戦闘が、後マスターは何処に――

軽く混乱していると、いつの間にかマスターまで参戦、片っ端から武器を叩き落としていた。 対人相手だからマスターが負けるはずも無く、五秒と経たず六人全員の武装解除を済ませていた。 STR極振りって何だったんだろう。

 

………その後、興奮して何を言っているのか分からない状態だったノーチラスを、避難していたユナとサーシャさんと一緒に落ち着かせていると、鎧の集団を問い詰めてきたらしいマスターが戻ってきて、もう心配ないと言った。

 

………どういう事なんだろう??

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

……時は少し遡り。

 

俺の目の前には、件のすっとこどっこい共が転がっていた。

 

問い詰めてみれば、奴らの目的はリソースの公平な分配だそうだ。 詰まる所、連中の言い分に若干の悪意を混ぜて簡単に言ってしまえば、「未だ引き篭もってガタガタ震えている事しか出来ない大人がいて、その横で対象年齢以下の癖して大成功して三食満足に食えている大勢の子供がいるのはおかしい。 攻略に貢献出来るかもしれない俺たち大人にもリソースを割くべき」だそうだ。 思わずぶっ飛ばして壁で跳ね返って来た所を叩き潰した俺は悪くない。

 

……して、此奴らはどうしてくれよう。

一番いいのは連中の上司に届けてやる事だろう。 大分アレンジが加わっていたが、連中のカーソルの横には明らかにアインクラッド解放軍を意識しただろうギルドマークが浮かんでいた所からして、大体の拠点の予想は付く。 気絶中の此奴らに案内させるのも手だ。 いざとなれば、治安維持に力を入れているディアベルのギルドに突き出してやればそれで解決だろう。

 

……取り敢えず、起こすか。 一々運んでやる程俺はお人好しではない。 せめて自分の脚で歩いて貰おう。 肉体へのダメージは無いから直ぐに起きるだろう。

槍の石突きでゴスゴス突くと、予想通り直ぐに意識が戻る。

 

「―――う、うーん? ここは……」

 

「いい加減起きよ。 何時までも貴様らにかまけている暇は――」

「ゲェ!? きゅ、吸血鬼!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――少し早めの除夜の鐘突きに興じた後、ディアベルに一報を入れ、さっさと教会に戻る。

そこで改めてノーチラスから話を聞けば、連中は納税と称して押し掛けていて、偶々ユナの定期ライブで来ていた二人とかち合ったとの事らしい。 取り敢えず連中の煩悩を叩き出しておいた事は伝えた。 うむ、嘘は言ってない。

 

 

閑話休題(終わった話は置いておいて)

 

 

 

教会の敷居を跨ぎ、中上層向けのアイテム類を時間を掛けて各個人から買い取る。 思春期真っ只中のプレイヤーもいるからと一本のパイプにせずに、木の根の様に細かくしたやり方は上手くいっているようだな。

 

良い兆候か、ザザもアニモ(animo)(確かイタリア語で心、だったか?)というプレイヤーネームの無表情系少女からマスク類を若干手古摺りながらも纏め買いしたのを眺めながら、買ったばかりのジュースで喉を潤した。

うむ、良きかな。

 

 

 

 

 

………辛ッ!? 何故?!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2. 霧夜の血塗れ王鬼

 

 

 

 

 

―――ピチャピチャと、足元から水音が響く。

自分の手元すら見えない程暗い、狭い道を走る。

 

感じられるのは一人分の水を蹴散らす足音と、身体にこびり付いた異臭、手に持った錆びたナイフの感触。

それと――遠くに見える、一点の光。

 

 

全く考えている通りに動かない身体を引き摺り、半ば転がる様に前に進む。

 

 

 

――……あそこまでたどり、つけば……

 

 

 

根拠の無い希望が心を包み、原動力となる。

 

 

 

――……たどり、つければ………!

 

 

 

何度も転び、その度に血と、汚泥と、死肉に汚れながら、走る。

 

 

――……あと、ちょっと、で、………――

 

 

 

そして、光に手を伸ばして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――返ってきたのは、銃弾と怒声だった。

 

『Acolo este!』

 

『Aresta-o!』

 

 

「っ――」

 

知らない言葉。 知らない言語。

必死に反対向き――暗闇の方向に逃げる。

前までは(・・・・)ロクに掠りもしなかった制服連中の鉛玉が、今度は皮膚を抉り、肉に喰い込み、血を噴き出させる。

 

栄養なんて他人の血液を雑に注射することでしか補給されていない身体はそれで壊れてしまい、豪快な水飛沫を散らしながら倒れ――――

 

 

 

 

 

 

 

『――よっと、うっわ軽。 この外見で見たまんまはナイワー』

 

――倒れる前に、受け止められる。

霞む視界で何とか見上げると、こっちもまた理解出来ない言語で「naiware(?)」と繰り返す、ボサボサ頭の、死んだ魚の様な目の、

 

 

 

――この間、わたしがナイフで刺した筈の少年が、斃れかけのわたしを受け止めていた。

 

『Tânar maestru?!』

 

『ぁ? あぁ。 Nu am raportat daune, nu? De ce o urmăresti?』

 

『Dar、』

 

『E destul! Obosit! dizolvare!』

 

銀髪を後ろで纏めた少年が何やら捲し立て制服連中(警官隊)を追い返すと、その高そうなコートが汚れるのも構わずわたしを抱え上げる。

 

「……あなた、は………?」

 

『? ……あ、英語か。 チッ、予想が当たってるっぽい事を喜ぶべきか嘆くべきか……』

 

話しかけると一瞬小首を傾げて、いきなり自虐的な苦笑いを浮かべながら何やら呟く。

 

 

……わたしは、帰りたい、だけなのに。 じゃま、するなら――

 

 

握ったままのナイフを手の中で回して、逆手に持ち直す。

ここでこの人を殺して、逃げて、――

 

 

「あー、嫌われたものだな。 まあ仕方無いか」

 

「? ……ことば、分かるの」

 

「少しは。 だから拙いのは勘弁してくれ」

 

目が覚めた時からずっと居なかった、言語の通じる人。 その存在に意外にも安心してしまったのか、ただでさえ疲労が限界に達していたのもあって強烈な眠気に襲われる。

 

 

……ねちゃ、だめ。 痛いのは、いや………

 

 

「………ねぇ。 なんで、助けてくれたの?」

 

途切れ途切れの意識を何とか繋いで、わたしを見つめる少年へ訊いた途端、今度こそ意識が沈んでいく。

かろうじて聞き取れたのは、前も含めて(・・・・・)聞いたことのない様な、

 

「んー、何て言えばいいか……

………俺の語彙力で一番近い意味を伝えるなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――一目惚れ(Fate)、ってヤツかな」

 

 

かなり気障な言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――意識が戻ると、そこは夕焼けで赤く染まった病室。

 

 

………寝落ちしていましたか。 それにしても、また随分と懐かしい夢を。

 

 

座ったままで凝り固まった関節を、最小限のストレッチで伸ばす。 ずり落ちていた本の頁に変な折目が付いていない事を確かめ、栞を挟んでから棚に置く。

冷めてしまった紅茶を一息に飲み干し、貴重品を簡単に確認、『SAOサーバー? 物理で解体し(高電圧でショートさせ)てやるー!』とずっと息巻いているシェリー博士のメールに宥める為の返信を書く為にスマートフォンを立ち上げる。

何と書くか悩み、ふと顔を上げると、目を背けてきた病室のベッドが網膜に映る。

 

 

―――無骨なメット型の機械を被ったまま横たわる、パッと見五十代に見える長身の男性。

 

 

 

 

 

 

「……………本当に、何で私を置いて行ったんですか」

 

 

私なら、相手が何であろうと解体するのに。

 

ただ一言、『俺と来てくれ』、或いは『殲滅せよ』と命じてくれたのなら、私は躊躇いなく刃を振るうのに。

 

 

 

 

 

 

 

――二年(・・)と云わず、もっと少ない時間で終わらせられたのに。

 

 

「………本当は、誰よりも臆病なのに………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ナーヴギアのライトが点滅しているのを眺めていると、部屋の外からヒールの足音が聞こえる。

SAO対策課の誰か、ではないですね。 当たり障りのない事しか口にしない彼らなら、こんな高飛車な足音は立てないでしょうし。

 

携帯を鞄にしまい、懐中時計で時間を確認する。 もうすぐ面会時間も終わり。 こんな時間に見舞いに来る非常識者なんて……いるわね。 一人。 それも一年も遅刻するような女が。

 

静かな時間の終わりに溜息をついていると、背後にある扉が乱暴に開けられ、何の挨拶も無しにズカズカと入ってくる。 これは嫌味の一つも言っていいでしょう。

 

「……相変わらず礼儀がなっていないわね。 だから『突撃女』なんて渾名をつけられるのよ」

 

今更私が居ることに気が付いたのか、一瞬眉が跳ねる。

黙ってれば美人な彼女はアホ毛を揺らし(ついでに無駄に大きい脂肪の固まりも揺らし)、表情を歪めて煽ってくる。

 

「ハッ! 誰かと思ったらツギハギ女じゃない。 わざわざ遠くから行ったり来たり、その分の労力を身体に回したら? パ・ッ・ド・ちょ・う??」

 

……手が備え付けの果物ナイフを掴もうとするのを意思だけで捻じ伏せる。 この国に銃刀法がある事に感謝しなさい。

若干痙攣している口角を締め、息を整える。

 

「……はて、何の事やら」

 

「声が震えてるわよ」

 

「黙りなさいこのショタコン。 ジークでしたっけ? 前に聞いたのですが彼、小さい方が好みらしいわよ?」

 

Non(ウソだッ)!?」

 

憎たらしい笑顔で嗤っていた突撃女が面白い様に狼狽する。 やっぱこの人は突撃女ですね。 学習しない。いい加減スルーする事を覚えればいいのに、こんな反応だから何時までも弄られることを分かっていないのでしょうか。

 

「………い、いやいや。 もう騙されないし」

 

「キャラが壊れていますよ、せ・い・じょ・サ・マ??」

 

さっきの仕返しに全く同じ様に返してやると、アホ毛がプルプルと震える。

 

 

 

「――よし〆る」

 

「上等」

 

 

 

この後、見回りのナースに注意されるまで関節技を掛けあっていました。 本当にこの人何しに来たのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――SAOクリア(七十五層突破)まで、あと、約一年。

 

 

 

 

 

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