串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】 作:カリーシュ
――Fateを語るにおいて、『愉悦』とは欠かせぬ単語であろう。
辞書によれば、本来の『愉悦』の意味は、なんて事の無い『心から喜ぶこと』だそうだ。 この意味であれば、彼の英雄王が語った愉悦も、成る程人生に於いて大事なものであろう。
が、AUOを部長とする愉悦部の内容を鑑みるに、正直正しい意味での『愉悦』かどうかは謎である。 いやまぁ彼らの性格も考慮に入れれば他人の不幸は間違いなく愉悦に価するのだろうが。
兎も角『愉悦』には、シンプルに『楽しみ喜ぶ』意の愉悦と、完全に『人の不幸を見て歓喜する』意の愉悦があると思うのだ。
……さて、何故俺がこんな長々と其れについて語ったかと言えば、それは俺が今置かれている状況に原因があるからだ。
場所は第五十層主住区『アルゲード』。 何処と無く某電気街を彷彿とさせる混沌とした街は、その印象通り、混沌とした店が並ぶ場所がある。 俺がいるのはその内の一店舗、六人掛けのテーブルだ。 此処までは何も問題無い。
問題なのは、同席している面子だ。
まず真ん中開けて左隣。 KoB団長にして、『アインクラッド最硬の盾』の異名を持ち、ユニークスキル『神聖剣』を使いこなす『ヒースクリフ』。 この時点で既に色々おかしい。
その団長の対席には、何故か鬼気迫る様子の、『攻略の鬼』、『閃光』の異名を持つKoB副団長『アスナ』。
何やら汗だくになってる黒いのを間に置き、さらにその隣、つまりは俺の正面に座っているのは、此方も何やら殺気立ってる、主に中層で歌エンチャンターとして活動している『雪原の歌姫』、黒猫団団員『サチ』。
……この状況を表すには、一言で充分だろう。
そう、修羅場である。 女の戦いである。 ぶっちゃけ俺とヒースの立ち位置がまるで娘に彼氏が出来たと聞いて見極めに来た父親である。 しかも、よりによってそのタイミングで浮気がバレた、のオプションも付く。
早い話、俺が今感じている愉悦が何方かもう分からないのだ。 どうしてくれるこの真っ黒黒助。
うむ、どうしてこうなった。
口角が上がりそうになるのを全力で堪えながら、話を纏めるとしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
――始まりは何てことの無い。
出だしこそはぐらかされたが、昨日何やかんやあってアスナがキリトに一食奢る事になり、レストランに入ったタイミングで悲鳴が聞こえたとのこと。
慌てて飛び出してみれば、腹部に剣が突き刺さったまま塔にロープで吊るされた男が目に入った。 当然助けるべく手を打とうとしたが、時既に遅く。
アバターは無惨にも爆散し、ロープと剣
……ロープと剣だけで、デュエルのウィナー表示も残さず。
此処までは聞いた俺の感想は、
………あー、『圏内事件』か。 薄っすら覚えている……ような気がするな、である。
正直その、カインズ? が生きているのは覚えているしトリックも推測出来ているが、だからと言ってそのまま喋る訳にもゆかぬな。 一先ず此処は流れに身を委ねるか。
「……ふむ。 事件の概要は把握した。 が、それが何故我らを招び出す事に繋がる。 まずその剣の調査を進めるべきではないのか」
「あ、それはもう済ませてある。
そこらへんの話も聞きたくて呼んだからな」
あ、ついでに状況も見えてきたな。
大方今朝になって俺を呼ぶ為にフレ登録しているサチを呼び出したはいいが、安定の言葉足らずだったのだろう。 だからサチが不貞腐れているのか。
キリトとフレ登録していないのは少々不便だが、この光景をもう何度か観れると思えばそれもまた一興かもしれぬ。
まあいい。 さっさと話を進めるとしよう。
「ほぅ。 して、何を訊きたい」
「グリムロックって名前に覚えがあるか? それと、貫通武器が刺さったまま圏内に入ったらどうなるのか知ってるか?」
グリムロック……知識にはあるが、アインクラッド入りしてからは聞いていないな。 貫通継続は――
「……待て。 グリムロックについては兎も角、何故余がそのような異常事態下での継続ダメージについて知っていると思うのだ?」
「え、だってお前の
………それにあの意味不な状況もキチが犯人だとすれば説明が――
………うんごめん違いますよね知ってた知ってたさ知っていましただから許してぇェえ!?」
左掌から赤いダメージエフェクトを発生させると、キリトが手首のモーターを高速回転させた。
貴様……仮に疑っていたとしても本人の目の前で言うか、普通。
あとシステム面での質問なら、メタ視点から言わせて貰えば俺の隣で微妙な顔で
「………まあいい。 グリムロックについては知らぬ。
貫通継続については、ダメージ及びダメージエフェクトは発生せぬが、装備品の耐久は減るな。 以前圏内で装備のみ爆散する所を見た事が――
……なんだその顔は?」
気が付いたら三人組だけでなくヒースにまで引かれていた。 何故だ。
「いや、だってさ、」
「何で知ってるかって話よね……」
「……ヴラド君。 レッド狩りに精を出すのは構わないが、流石にそれは」
「
「何やってんだネズハァ!?」
全力で無実を主張すると何故かキリトが頭を抱えた。 お前彼奴らと知り合いなのか。 ならもうあんなピトからすら正気を疑われるような代物を持ってくるなと伝えてくれ。 というか来るで無い。 連中の名前を聞くと胃が痛くなるんだ。
「ハァー……まあ良い。
それで、これから如何するのだ?」
「この後はヨルコさんに話を聞きに行く予定だそうです。 よかったら来てくれませんか? 最強の一角であるヴラドさんが来てくれれば、もしPKが現れても安心ですし」
「ふむ……」
何やら呻いている黒いのをスルーして、サチが話を進めた。
この層の迷宮探索はKoBに一任する事は決定しているし、レベルは
……それに何より、この話が原作通り進むのであれば………
「――よかろう。 一食の礼もある故な。
折角だ、ヒースクリフ。 貴様も付き合うが良い。 どうせ暇であろう」
「……そうだな。 偶には良いだろう」
そこはKoB団長として攻略を進めるべきだと思うが、まあいいだろう。 此奴がボス戦とレベル上げ以外の目的で迷宮に潜る姿を一度も見た事がないし、やはり暇人か。
その判断に副団長も驚いたのか、原作メインヒロインとして如何なものかと問いたくなるような声が出ていたが、それは無視してやるのが吉であろう。 ついでにサラッと会計を黒いのに任せたからムンクが発生しているが、それもスルーで良いだろう。 俺『一食の礼もある』って言ったし。 ヒースは気がついてノッてくれたし。 付け加えれば、俺のユニークスキルは
さて、巫山戯るのもこれ位にして。
どう立ち回ったものか………
◇◆◇◆◇◆◇
――同層
広い食堂のような場所でヨルコさんと落ち合い、話を聞く事になった。
「ねぇ、ヨルコさん。 グリムロックって名前に聞き覚えある?」
「はい。 昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです。
………と、ところであの、その、……
う、後ろの二人って……」
可哀想なぐらいガタガタ震えているヨルコさんの視線を辿れば、後ろ隣のテーブルに座る、アインクラッド最強の
「……あー、まぁ、気にしないで。
話を戻しましょう。 実は、カインズさんに刺さっていた黒い槍。 鑑定したら――」
アスナが質問を続けているのを聞きながら、最早伝説と化した五十層ボス戦を思い返していた。
――第五十層フロアボス。
クォーターポイントのボスで、尚且つ折り返し地点だというのもあって、二十五層同様、相当の苦戦が予想された。 事実、事前に情報収集を徹底し、サブクエストで弱体化までさせた筈なのに非常に苦戦した。
敵は千手観音像のようなシルエットの巨人で、多数の手から繰り出される一撃は重く、腕を切断しても数分で再生するボス。 しかもそれでいて俊敏で、スイッチで引いたプレイヤーに追撃される事すらあった。
一時間以上かけて如何にかラスト一本までHPバーを削り切った頃には、オレたちはボロボロだった。
……ただ二人。
『―――私は盾を担うが、君はどうする?』
『―――よろしい。 では、余は矛となろう』
……そこからは、一方的だった。
ヒースクリフが大楯で防ぎ、その隙にヴラドが他方から槍で地面を突くと、そこから直線状に紅い杭が生え、ボスの脚を串刺しにする。
動けなくなった所に左手に発生させた紅いジャベリンを投げつけ、深々と刺さった所で槍から紅い杭がまた生え、大剣ですらあまり減らなかったHPが一瞬で削られる。
間違いなくトップを独走している攻撃力と防御力を持つ二人にボッコボコにされたボスは、漸くダウンから復活した頃には完全に満身創痍で、全身に紅杭が刺さり、貫通継続ダメージでトドメが刺されかけていた。
――あまりにも圧倒的な力。
その様には、全てのプレイヤーの希望と畏怖が集まっていた。
方や、盾の後ろにプレイヤーを庇う
方や、立ち塞がる敵を総て処刑する
………そんな二人が仲良く(?)お茶してるんだ。 そりゃ驚きもするだろう。
つっかえ、吃りながらも語られた内容から分かったのは、亡くなった(あくまで仮定)カインズとヨルコ、グリムロックは元々同じギルド『黄金林檎』のメンバー。 グリムロックが犯人だと仮定した場合、動機になりそうなのは、半年前に起きた事件。
レアモンスターからドロップした指輪を巡り、使用か売却で売却が決定したが、後に売却の為に出かけたギルドマスターにしてグリムロックの奥さんでもあった『グリセルダ』が、何者かによって殺された。
そして、怪しい売却反対派の三人は――
ヨルコさんとカインズ、それと、シュミットという男だった。
「シュミット?」
「聖竜連合のタンクね。 呼んで、話を聞いてみましょう。 誰かフレンド登録してる人いる?」
アスナの問いに一応自分のフレンド欄を確認するけど、やっぱり無いな……
攻略組との繋がりの薄いサチは勿論していないし、アスナも持ってないみたいだな。
頼みの綱は後ろの二人だけど、ヒースクリフは兎も角、聖竜連合と敵対気味のDKのトップであるヴラドが登録してあるわけ
「あ、あったぞ」
「何でだよ!?」
……聞いてみれば、シュミットはアインクラッドで上位に入る防御ステータスの持ち主で、DKと聖竜連合との小競り合いが起きてデュエルで決着をつける時は、ヴラドが出ると問答無用でシュミットが差し出されるらしい。
「その様が余りにも哀れでな。 ギルド内で扱いが酷いと時折愚痴を言いに来る故プライベートでも少しばかり付き合いがある。 呼び出すとしよう」
……あまりにもあんまりな理由に思わず押し黙ってしまい、ヒースクリフが水を飲む音だけが虚しく響く。
その後、ヴラドが外出を拒否ったらしいシュミットをわざわざ五十六層まで行ってきて持って来るまで、非常に静かな時が流れた。
――十分後。
何故かフル装備のまま気絶した状態で連れて来られたシュミットを起こして事情を説明。
圏内PK(仮)と旧黄金林檎の一件の解決に
後書き
いつもこの作品を楽しんでいただきありがとうございます。 作者です。 普段書かない真面目な後書きなので、おかしい所があると思いますが、ご了承下さい。
今回後書きにてお知らせしたいのは、投稿ペースについてです。 誠に残念ながらうp主のリアルの都合上、最短でも一ヶ月ほど忙しくなってしまう事が確定してしまいました。 そのため、どうしても週一投稿が維持出来なくなる、出来ても文章量が少なくなる可能性が高いのです。
エタるつもりは全くありませんが、何時まで忙しいリアルが続くのか予想が付かない状況なので、暫くの間、迷惑をかける事になってしまってすいません。
一応、その代わりにはなりませんが、次回予告を書かせていただきます。 次回の内容が未定の場合は現在公開可能な情報を。
それでは、良いお年を。
注意
・今作で登場するFateキャラによる次回予告なので、場合によってはネタバレ。
・Apocrypha風次回予告。
以上のものが大丈夫な方はどうぞ。
日本のルーマニア市民よ!
……やはり余には似合わぬな。 まぁよい、次回予告である。
シュミットから旧黄金林檎での事件の真実を聞き出す事に成功した我ら。 罪悪感からか嗚咽と震えの止まらない男、その横でこれまた震えっぱなしのヨルコ。 正直詰んでいるが、どうするのだ? 気付いていないようだが、この中では誰もカインズが死んだと信じている者はおらんぞ。
一方その頃、圏内事件により指輪の一件が発覚するのを恐れたグラム……グリル……ぐ、ぐり……
えぇい面倒な! 奴などGではよいわ! 妻殺しの犯人であると悟られることを恐れたG! 嘗て席を共にした仲間の口を永遠に閉じるべくラフコフに殺害を依頼! その最期を見届けようとついて行けば、正にシュミットがグリセルダの墓の前で懺悔していた。 絶好のチャンスと襲い掛かる三人のレッド。
だがその行く手を、紅き杭が遮る。
次回、『血塗れ王鬼、呪いを夢想す』
……タイトルがこの上なく不穏なのだが。 よもや、またしても余の幸運Eが発動するのではなかろうな?