串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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18話 串刺し公、問答す

 

 

 

 

 

――第五十五層 『グランザム』

 

 

 

 

 

『連合の小部隊を全滅させた青い悪魔。 それを単独撃破した二刀流使いの五十連撃』

 

 

……おそらく青筋立ってるであろう眉間を揉み解しながら、斜め左前に座っている男に対して、ハッキリと分かるよう、そう書かれたアインクラッド新聞を大理石の円卓上に放る。

 

「――さて、リンドよ。 追加の申し開きはあるか?」

 

「……説明した通り、それは暴走した元解放軍の団員が仕出かした事だ。 その部隊の責任者も含めて解任も済ませてある」

 

若干挙動不審になりながらもいけしゃあしゃあと吐くパツ金鶏。 ザザを連れて来なくて正解だったな、絶対何かしらの問題を起こしていただろう。

 

 

 

――さて、血盟騎士団本部の会議室を三大ギルドの団長だけで占拠して話し合ってるのは、先日起きた第七十四層ボス攻略についてだ。

 

どう考えても自殺行為でしか無いたった一パーティーでボス攻略に挑んだ事、及びドロップ品や経験値の均等分配の為に抜け駆け禁止となっているフロアボスとの戦闘行為をした責任を追求している。

当然矛先は聖竜連合に向くのだが、コイツの吐いた言い訳は以下の通り。

 

 

当時あの場にいた部隊は最近入団した元アインクラッド解放軍の団員だった。 その事もあってかレベルや練度は総じて低く、圏外での任務に出る前には彼らの上官に当たる人物に行き先等を報告させる義務を負わせていたらしい。 その報告によれば、あの日はレベル上げ及びマッピング済みエリアのトラップ確認のみの筈。 彼らがボス部屋に突撃したのはあくまで彼らの責任であって、ギルドリーダーである自身の責任では無いとの事。

 

 

この説明を聞いた時、ただの責任逃れかと思ったし、事実説明時には時折ただの言い訳が交じっていた。

……が、まあ。 中途半端に根性の無い此奴のことだ。 たとえ幾ら『数だけギルド』だの『三大ギルドで唯一ユニーク持ちの居ない所』だの言われていても、そんなハイリスクローリターンな手は打たないであろうし、おそらく事実なのだろう。

付け加えれば、その報告義務のあったプレイヤーの名が某モヤットボールであったのも話の信憑性に拍車をかけている。 ピトが最近獲物の一人に逃げられたとエムをボコボコにしていたが、そんな所(聖竜連合)に避難していたのか。

 

 

閑話休題(トゲ頭には後で報いを受けて貰うとして)

 

 

わざとらしく溜息を吐くだけで震えるリンドの責任を更に追求したくはあるが、今は時期が悪い。

ただでさえトップギルドの改革となれば影響は大きいし、人間一度染み付いた思想というのはそう変えられん。 ザザから聞いたあの部隊長が吐いた台詞から察するに、相当確執が凝り固まっているであろうし、下手に聖竜連合に手を出すのは得策では無いな。 特にもう此処は第七十五層。 難関であるクオーターフロアであるし、付け加えれば物語最後の舞台でもある。

……此方も止むを得ない事態だったとはいえ、実質ボス攻略を抜け駆けした負目もある。 これだけ新聞でも取り沙汰されればリンドも再発防止に何らかの手を打つだろうし、この後の本件でもこれを再度むし返すことを考えれば、そろそろ勘弁してやるとするか。

 

 

 

 

 

――さて、そろそろ完全に観察者の立場に立っていた血盟騎士団団長(ヒースクリフ)にも参加して貰うとするか。

 

 

「ハァ……もうよい。 これ以上一件をこの場で追求したとて、事態は何ら好転せぬ。

――本題に入るとしよう」

 

その一言を切り出すと、リンドはあからさまに安堵し、ヒースクリフは漸く当事者の瞳に戻る。 ……その大根役者っぷりでよく終盤まで隠し通せると思ったな。

 

まあ、それを指摘するのは主人公(キリト)の役目。 俺が今騒ぎ立てた所で信じる者は少ない。

原作基準で奴の正体を晒すには、奴のHPを半分以下にする必要がある。 俺がやると仮定しても、圏内で真っ当に決闘を挑んだ所でHPが半分になれば不破壊オブジェクト機能が対象問わず発動する為証拠にならず、圏内では決闘を仕掛ける因縁を付けられない。

更に俺の無限槍は決闘向きでは無い以上、そもそも奴のHPが半分を切る前に此方のHPが削り切れてしまうだろう。

故に、俺がやるべき事は御膳立て。 ある意味での原作再現。

 

さて。 それじゃあ精々舞台装置に徹するとするか。

 

 

 

 

 

「第七十四層のボス部屋は結晶無効化空間となっていた。 これまでの第二十五、第五十層のボス部屋の絡繰のパターンを考慮するに、おそらく第七十五層も同一、或いはより凶悪化された罠があると考えてよいであろう。

下層にて確認された『連戦』、『特殊フィールド』、及び『閉じ込め』位は想定すべきであろうな」

 

ヒースクリフの片眉が一瞬痙攣し、リンドは顎に手を当てて唸る。

『閉じ込め』以外は過去のボス部屋で実際にあったギミックで、それもその後のクオーターボスでは実装されなかったシステムだ。 原作では結局初見殺しの不意打ち、閉じ込めと結晶無効の併用だけであったが、その位の警戒心は持つべきであろう。

ピンポイントで『閉じ込め』だけを指摘するのもおかしな話だしな。

 

「……しかし、閉じ込めまで警戒する必要はないんじゃないか?」

 

「ふむ。 何故だ?」

 

「いやだって……もしそうだとしたら、偵察出来ないってことになるだろ? 幾らデスゲームだからって、そんな理不尽な初見殺しがあるのかよ」

 

「あるだろうな」

 

俺の台詞へのリンドの反論を、ヒースクリフが遮る。

 

「なんでだよ?!」

 

「今君が言った通り、これは遊びで無くとも『ゲーム』である」

 

「付け加えれば、ソードアート・オンラインのジャンルはMMORPG……

攻略の前提として『死に覚え』が存在する。 逆に今までが不用心過ぎた程だな。

それに、こうも言うであろう?

 

――『ボス(魔王)からは、逃げられない』、と」

 

 

……そう考えると、今までのボス戦は本当によく逃げる余裕があったな。 RPGゲーのテンプレート通りなら全層脱出不可になっていてもおかしくなかった。

まあ結果論でしか無いが、今まではその余裕があったことで犠牲を最小限に抑えられたんだ。 野暮なツッコミは無しだ。

 

絶望し突っ伏すリンドは無視して、ヒースクリフに向き直る。

 

「さて。 偵察が不可能という仮説がある以上、事前準備は徹底せねばならん。 第七十四層同様結晶無効化エリアの可能性も踏まえれば、各種ポーションの用意の徹底は必須。 人員(・・)も多極的に対応出来るように再構成する必要があろう」

 

さあ、ここからが本番だ。

敢えて特定の単語を強調する。 二人とも俺が誰の事を指しているのか察したようで、リンドに至ってはゾンビよろしくガバッと起き上がった。

 

 

「………やはり本人に聞くのが一番じゃないか?」

 

ここでもやはり口火を切ったのは聖竜連合。 口では綺麗事を言っているが、目が全く逆の事を言っているな。 だが個々の戦力では最弱である以上、決闘で奪い合え、或いはキリトに決闘で勝ったギルドが、などという事になれば聖竜連合は真っ先に脱落する。

先程も思い出した彼らの渾名からも察せられるが、聖竜連合は『強力な一』という存在に飢えている。 現在判明しているユニークスキルはたったの三つで、内二つは他ギルドのリーダー故手出しが出来ない。

しかしここで三人目が、それも無所属のソロプレイヤーが現れた。 その正体も、一見地味な防御スキルでもなく、一歩間違えれば棺桶一直線な化物染みた攻撃スキルでもない、『二刀流』という至極真っ当で、シンプルで、しかも強力なスキルというオマケ付きだ。

 

当然欲しいだろう。 未だ払拭されぬ『ビーター』の悪名を打ち消して尚余る程、彼らにとっては輝く星そのものだろう。 それ故の綺麗事。 何かの間違いで彼らの元に来てくれるかもしれないという可能性に賭けているのだろう。

 

 

―――もっとも、そんな事は認めぬがな。

 

 

「……あぁそうだな。 だが、敢えて言わせて貰おう。

『どんな事情があれ、抜け駆けの責任は取らせるべきだ』」

 

今度はリンドの表情が引き攣る。

その一文が出た時点で、第七十四層ボス戦に大なり小なり加わった聖竜連合とドラクル騎士団は自主辞退が望ましい。

攻略組トップギルドとして権利を主張したところで、あくまで我々はプレイヤー。 何の権力も無く、したがって赤の他人の行動を制限する権利は無い。 七十四層の一件を持ち出そうにも、そこを突かれたら痛いのは聖竜連合とドラクル騎士団も同じ。

リンドもそれが分かってるから、先の理由もあって『本人に聞く』などと言ったのだろう。 俺が責任追及をあっさり止めたのも、同じものを求めているが故だと勘違いしたんだろう。 忙しい奴だ、顔色が目紛しく変わっているぞ。

 

……そもそも。 所属云々は黒猫団の一件に関わった身としては、キリト本人がソロプレイヤーを貫いているとはいえ、自陣の者と言うのは憚られる。 ヒースクリフの正体探りもあるとはいえ、だからといってKoBに放り込むのはどうかと思わなくも無いが………うむ、胃がじんわりと痛んできた。

 

まあいい。 あと少しの辛抱だ。

 

 

「……つまり、君はこう言いたいのかね?

『二刀流は、血盟騎士団が引き取るべきだ』と」

 

無表情ながらも、探る様にヒースクリフが喋る。 まあ、奴にしてみればこちらが何を考えているのか分からないのだから当然だろう。 キリトをトップ三ギルドの何れかに入団させる因縁など、ユニークスキルを求めた中小ギルド間での混乱を防ぐ為で十分だから、尚更。

 

その問いに、勿論肯定する。

 

「あぁ、そう言っている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――第三十四層 DKギルド本部 客間

 

 

 

 

「………不幸だ」

 

現状置かれている状況に、ついそんなコメントが漏れる。

 

朝早くにアインクラッド新聞で二刀流について報じられた5分後にはホームにプレイヤーが山のように押し掛けて来て。 転移結晶まで使って逃げたら情報屋集団にストーキングされ。

這々の体で、殆どのプレイヤー達が近付きたがらないDK本部に逃げ込んだら、今度は一ミリも嬉しく無い外見だけ美少女に命的な意味で襲われ……

 

これが不幸でなくてなんなのだろうか。 思わずさっき零したのと全く同じ言葉が溜息交じりに出る。

 

 

「本当に、疲れきってる、な」

 

「……んぁ?」

 

項垂れていた頭をノロノロと起こすと、珍しくマスクを外しているザザが例の新聞片手に立っていた。

 

「………」

 

さっきまでの惨状を思い出して半目で睨むも、普通にスルーされ、対面にあった椅子に座って新聞を広げた。

……まあ、このギルドにこのギルドホームだからなぁ。 そりゃスルースキルその他も高くなりそうだ。

 

現実逃避に、このギルドホームの構造を思い浮かべる。

元々ダンジョン、それもホラー系ダンジョンだったらしく、迷宮区やアルゲードの裏路地程では無いにしろ入り組んだ作りになっていて、装飾もその時の名残か、所々不気味な物が残っている。

ちょくちょく手が加えられているのか、今いる客間や主要通路は西洋風の建物にしか見えないけど、結構前にギルドホーム設置祝いって言ってクラインと一緒に飯をたかりに来た時はもっと凄まじかった。 外周部は何故か駅の要素を混ぜ込んだ亜空間染みた所で、深部は何故か楽器が散乱しているというジャンルを変えての二段構え。 これは怖い。 噂じゃあ某副団長が訪ねた時にガチでビビってたって話があるくらいだし。

だからか、ギルドリーダーの異名が『ドラキュラ』なのに、このギルドホームはその手の吸血鬼繋がりの異名で呼ばれた事は一度も無い。

しかも、聖竜連合のギルドホーム設置祝いの席で聴いた話だと、旧ボス部屋はリーダーの趣味なのか当時のまま手付かず。 アイツの槍もそのボスのドロップ品らしいし。

 

……銘はなんだったっけか。 槍のくせに刀みたいな名前だった筈だけど……

 

 

なんとなく気になって、目の前で新聞を広げている奴に声をかける。

 

「なあザザ。 そう言えばヴラドの――」

 

「余がどうかしたか?」

 

噂をすれば何とやら。 気が付いたら本人が部屋にいた。

取り敢えず、悲鳴をあげたオレは悪く無いと思う。

一通り絶叫した直後に「そう言えばキリトよ。 後日ヒースクリフとデュエルして、負けたらKoB入りだぞ」と爆弾で追撃されてもう一度絶叫したのも悪く無いと思う。

 

「……ていうか、なんでいつの間にか決まってるんだ? オレ初耳なんだけど!?」

 

形式上(・・・)は、七十四層での独断行動についての処罰だ。 因みに当時あの場にいた聖竜連合の部隊及び直上の責任者は全員除名、余とザザ、クラインは数日間の圏外への外出禁止が言い渡された。

もっとも、外出禁止は今日からたった一日二日の話だがな」

 

じゃあ何でオレだけ違うんだよ。

そう言いかけて、遮られた。

 

「だから『形式上』と言ったであろう。

実際の所は、『二刀流』というユニークスキルを巡ってのギルド同士の混乱を避ける為にある」

 

「……あぁぁ」

 

脳裏に今朝からずっと続いている鬼ごっこが蘇る。

確かにあれが延々続くのに比べれば……

 

「いや待て待て。 だからって、何でKoBなんだよ。 ソロを止めればいいだけだろ?」

 

「拡大解釈すればそうであるが、そういう訳にもいかぬ。

ユニークスキルへの嫉妬や、最近ちらほら現れている攻略妨害者……所謂『笑う棺桶』壊滅後にその思想に感化された者がお前を狙わぬとも限らぬ。 トップギルドへの加入は、そういった者への牽制も含まれているのだ」

 

……言外に『月夜の黒猫団』に入る、という選択肢が塞がれた。

彼奴らを、特にサチを巻き込む事は出来ない。

 

「しかし、お前にとって理不尽な話なのも事実。 故に剣で決着を付ける事になったのだ。

まぁ、頑張るといい。 ヒースクリフを下せばこの話は白紙だからな」

 

「………一応聞くけど、拒否権は?」

 

完全に諦めて、それでも念の為に逃げたらどうなるか訊いたら、『吸血鬼と神父の(悪)夢の共演』というやたら長い異名の原因の投擲剣が奴の袖から手に飛び出た。

 

……何時もながらそれ、どうやってるんだろうな?(現実逃避)

 

 

 

 

 

 

 









次回予告


やはり交渉事や駆け引きの類は苦手だな。 真っ直ぐ往くのが俺の性に合って――
……む、これは失礼。 久しいな、余の番である。

舞台は着実に進み、重要な伏線であるヒースクリフとの決闘が始まる。
あの一件が無ければ、奴の正体を暴く手掛かりは激減する以上、余も見逃せぬ一戦だな。

次回、『串刺し公、思案す』


……ところで、何故余の番がこんなに早く回って来たのだ? まだ居るであろうに。
具体的には『白百――
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