串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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閑話 四月二十七日(It is sunny today)

 

 

 

 

 

1.決戦前日

 

 

――第三十四層 DK本部

 

 

「――ちょっと待ってくれ!」

 

ドラクル騎士団フルメンバーに二人足したこの会議室に、個人的に猛反するも説得されて泣く泣く置いた木製アンティーク調の卓がかなりのSTR値で叩かれて軋む音が響く。

下手人はキリト。 冷汗級の紆余曲折の果てに何とか進んだ第七十五層ボス攻略会議の内容を伝えた結果がこれである。

……尤も、

 

 

サチを七十五層ボス戦に参加させる(・・・・・・・・・・・・・・・・)!? なんでそうなるんだよ?!」

 

 

前略した挙句、端的に伝えた内容が此れでは無理もないだろう。

 

「……此度の戦いは総力戦が予想される。

唯でさえどの様な罠が有るか分からぬと頭を悩ませていた時に、七十四層、そしてお前たちが先日出くわしたという一層地下迷宮にて確認された『結晶無効化空間』。

クォーターポイントたる今回も同様、或いはそれ以上のものとなっているであろう事は予期して然るべきである。

故に明日、攻略組総力を挙げての偵察戦を行う事が決定した」

 

 

――会議で決定した大まかな作戦はこうだ。

 

先ず部隊編成は壁戦士(タンク)を中心とした耐久型。

一定数のタンクによって前線で防御を固め、敵の攻撃モーション、タイミング、一部特殊攻撃の発動条件を探り、この時点で脱出が可能であれば徐々に後退。 アタッカーが連続スイッチでタゲを取りつつ撤退する。

 

そして肝心の、何らかの事情で撤退不可能な場合。

この作戦の要は、如何に敵を安全(・・)且つ迅速に(・・・)殲滅するかにかかっている。

 

過去のクォーターボスに共通する厄介な特徴は、体力の多さでも攻撃力でもない。

『猛攻』である。

圧倒的な手数。 それは、攻めるにしろ防ぐにしろ、一切の隙を見せぬ在り方。 言うまでもなく非常に厄介だ。

だが、彼らとてその姿形は球体ではない。 全方面に延々と暴力を撒き散らす事は不可能。

 

そして、それ故要となるのが『吟唱』スキルだ。

あのスキルの効果で得られる数々のバフも有難いものではあるが、尤も重要なものは、その『デメリット』。

――モンスターにダメージを与えずとも、ターゲットを自身に集中させる事が出来る。

ピト、ユナ、サチ。 前線を抑えている間に吟唱スキルを持つプレイヤーを三箇所に分散させ、順番に歌う。

これならばある程度敵の動きをコントロールすることが可能。 他部隊の立て直し等の時間を稼ぐ事が出来るだろう。

 

うむ。 提案者は俺だが、素晴らしい程原作切嗣(スケープゴート)的作戦だな。 我ながら却下したい。

だが、この作戦が今思いつく限りで最も安全な策であるのも事実。

……敵が原作通りあの骸骨百足だと確信があれば、俺とヒースで鎌を完封、あとは唯殴るだけの簡単な話だったのだが、何時ぞやのクリスマスボス(サンタオルタ)然り、この元ダンジョンのボス然り、妙な所で差異がある。 流石にクォーターボス相手に編成ミスは洒落にならぬ。

 

 

「……囮に使う気か?」

 

以上の事を最後の蛇足を除いて伝えれば、予想通り睨まれた。 流石最近父親してるだけあり、以前似た事をやった(クリスマス)時と比べ迫力が違う。 というか何故ユイが元気にしてるの? あの死神擬き自力で撃破したのか?

 

「無論防御は固める上、脱出可能であれば即退避するがよい。 その言質は各ギルドリーダーから既に得てある」

 

「……………」

 

押し黙るキリト。 ある程度なら自力で生存出来るピトとユナならば兎も角、サチ自身は戦闘向きではない。 彼女の命を他者に預けるなど、キリトからしてみれば当然容認し難い話だろう。

けれど、肝心の攻略が進まなければ『現実の肉体の限界』というタイムリミットが存在する。

 

 

「――私は、大丈夫」

 

そこに、僅かに震えた、それでも凛とした声が発せられる。

声の主にキリトが心配する目線を向けるが、彼女がその意思を曲げる様子は無く。

 

「………何かあれば、オレはパーティー全体よりサチを選ぶからな」

 

「よかろう」

 

――(英雄)もまた、立ち上がる事を決意した。

 

 

「――攻略開始は明日の午前十時。 集合場所は七十五層コリニアのゲートだ。

では、それまで解散とする。 各人自由にせよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.再戦、決着、

 

 

 

――第三十四層 DK本部

 

 

「……ザザよ。 余は先程、『各人自由にせよ』と言ったのだが」

 

「言って、ましたね」

 

 

「………ザザよ。 余は昨夜、この後予定があると言ったはずだが」

 

「言って、ましたね。 午後から、でしたっけ」

 

 

「…………ザザよ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「――何故こうなった?」

 

「自分のSTR値、見てください」

 

場所はギルドハウス中庭。

いつも通り突っ込んでくるゴドフリーを真っ向から全力で殴り飛ばしさて出掛けるかと思えば、さっきの面子に子供が一人増え、何故か俺とDK男子組とキリトが初撃決着ルールで戦う事になった。 何故故?

 

 

「決まってるでしょ。 明日私たちをボスから守る肉盾人なんだから、せめてアンタくらいどーにかできるようになって貰わないと。 あとぶっちゃけアンタが一番ボスとステが近いから」

 

「本当にぶっちゃけたな貴様!?」

 

とまあ、気が付けばまた戦うことになっていた。 不幸(幸運E)である。

……一対多で袋叩きにされないだけマシだろうか。

 

仕方なく手持ちの槍やナイフを実体化させている間、彼方がじゃんけんで順番を決めた。

ノーチラス、エム、ザザ、キリトの順だそうだ。 ツッコミ忘れていたが俺連戦かよ。

 

思わず深い溜息が漏れる。

 

 

 

………尤も、負けてやる気はさらさら無いが。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

――五十層の端、月に一度の新月の晩にのみ出現する鼻周りだけピンク色の短い触手に覆われてるヒキガエルモドキ(ついてきたピトが珍しく悲鳴を上げてたのをよく覚えている。 流石に神話生物ベースのMob(ムーンビースト)はキツかったらしい)を斃すと確泥する槍を片手に、ノーチラスと向き合う。

 

「……そういえば、以前はお前とよくこうして戦ったものだ」

 

「その節はどうも。 お陰様でダンジョンで足が竦む事はなくなりました」

 

「そうか。 それはよかった」

 

決闘(デュエル)開始までのカウントダウンが進む間、和気藹々と話をしながら過ごす。

当然長くは続かず、すぐにカウントはゼロになりブザーが鳴る。

先攻はノーチラス。 先手必勝と言わんばかりに高いAGIを生かし突進する。 一瞬で間合いを詰められ刃が振るわれるが、そこに油断は一切無い。

 

――思い切りは良い。 力も技術もある。 が……

 

違和感を感じながらも槍の柄で受け止め、上方向に受け流す。 ガラ空きの腹か脚に一撃入れてやろうかと空いた左手でナイフを引き抜き――驚愕する。

 

「――お、らぁっ!!」

 

「ぬぅ!?」

 

上に流される勢いをそのまま、ノーチラス本人も柄に足を掛け跳躍。 真上から全体重を乗せた振り下ろしが迫る。 槍で防御、カウンターをすべく動かすも、跳躍の瞬間に蹴りを入れていたらしく、僅かながらイメージとの遅れが生じる。

その一撃はナイフを振り上げる事で防ぐ事には成功するが、打ち合ったのは一本限りの名剣と量産品の投剣。 あっさりと砕かれる。

 

「―――貰ったぁぁぁぁぁああ!!」

 

着地するなり地面スレスレで並行に構えられた剣から光が発生する。 構えと発光色から察するに、ソードスキル『レイディアント・アーク』。 ソードスキルとしては珍しい、発動前に行動制限のある技だが、その分火力が高い。

 

……この一年で、よくここまで強くなったものだ。 やはり彼の才能も本物だった。

 

 

――ただ、経験が足りなかっただけで。

 

身長故のリーチを活かし、跳ね上がる刀身を除けながら素手のまま持ち手を抑える。

圧倒的なSTR差で持ってソードスキルを力尽くで封殺。 スキル不発による硬直を強いられている隙に、掴んでいる手をそのまま持ち上げ放り上げる。

着地は完璧だったが、そこは無限槍のリーチで叩く。 対空砲の如く下投げで三本ほど投げつけてやれば防ぎきれず、判定は俺の勝ちだ。

 

……そのつもりで跳ばなければ姿勢制御もままならない空中で二本もガードした辺り、大分人間辞めてる気がするのだが。

ユナに慰められながら悔しがっているノーチラスがエムに次を譲っているのを尻目に、考えを改める。

 

 

 

………思ったよりも強い。 これは、俺も本気を出さざるを得ないかもしれぬな。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

――第二戦

 

 

ノーチラスに粉砕されたナイフの補給と無限槍の反動で減少した体力回復のみ済ませ、今後はエムとの決闘である。

相手の装備は肉厚の片手剣に盾。 まだ始まっていないというのに壁戦士らしく、堅実に盾を構えている。

 

対して俺の装備は変わらない。 槍とナイフ。 以上。

 

エムもあまり饒舌ではない性格な為、自然と静かな時が流れ――

 

 

――ブザーを皮切りに、『壁』が迫る。

タンクが、初手から打って出るか?!

 

ふとその光景にヒースクリフとの戦いを想起しながらも、盾を右足で蹴る。 同時に、自分が下手を打った事も理解する。

中央に靴の踵型の凹みを刻みながらあらぬ方向に吹き飛ぶ盾。 そこに持ち手は居らず。

 

「――盾を投げ飛ばす壁戦士があるか!」

 

「貴方にだけは言われたくない!!」

 

左手に持った剣でスキルを発動させているエムが。 このままバク転して体勢を立て直してもいいが、空中に浮いている間に追撃されれば詰みかねん。

 

舌打ちを一つ打ち、敢えて前方にバランスを崩す。 僅かながらも勢いがついたところで左の爪先に全神経を集中、身をカリスマガードの要領で縮こませながら強引に跳ねる事でエムの右肩を乗り越える様に躱す。 奴が信じられないものを見るような目で見てくるが、安心しろ。 もうやらん。 咄嗟にやってみたが、改めてやれと言われても出来る気があまり無い。 結局高さが足らずに肩に跳び箱の様に手を付いたし。

 

 

 

――ソードスキルのモーションにより、再び空いた間合い。 残念ながらこの後は一瞬で終わった。

エムは剣の才能は微妙だからな……性格的にも壁戦士一択………難儀なものよ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

――第三戦

 

今度の相手はザザか。

 

………ザザかぁ。

 

ザザはこの中で俺との付き合いが最も長く、付け加えれば奴の剣の基本は俺が仕込んだ。

言うなれば、奴の戦闘面での思考は俺に近い。 読みやすいが、それは互いに言えることだ。

おまけに剣の才能はノーチラス以上。 年の功と経験量と日々の努力で才能の無さを誤魔化している俺などとは違い、正真正銘『天才』の域に片足突っ込んでいる。 キリト? 奴はノーカン。

 

兎に角、これまでの様に瞬殺することは不可能だろう。 奥の手(・・・)は次に取っておきたいが……

――それ以外は全開で征くか。

 

 

カウントダウンが進む中、珍しくマスク未着用のザザが一言だけ話しかけてくる。

 

「……マスター。 オレは、負けない」

 

その目には、一層で出会った頃のような揺らぎは無く。 ジョニーの目にあったような歪みも無い。

 

……本当に変わったな、ザザ。

であれば―――

 

「――よかろう。 ならば我が身我が技、乗り越えてみせるがよい」

 

――計画変更。 次が怖いが、出し惜しみは無しだ。

 

全身から可能な限り力を抜き、自然体に構える。

視覚は相手の行動予測。 聴覚はカウントダウンの音に集中。 左手を軽く待ち上げ、即座に投剣を装備出来る様にセット。

 

 

そして、三度目の開始ブザーが鳴り響く。

ほぼ同時に、投擲されたナイフが空中で激突する。

やはり読んでいたのか、ザザも初手は投げナイフ。 おまけに俺と同じ三本同時。 二本ばかり失敗したのか回転していたが、俺の投擲を防げた(命中させられる)ならば何も言うまい。

 

初手の結果もそこそこに、カウンター狙いで一歩右に踏み出す。 が、これも読みがダブりただの移動に終わる。

 

ふむ。 ならば――

 

再度抜剣、投擲。 精度重視で一度に二本の投擲を二振りし、四本の刃が両足、時間差を付けて両腕を狙う。 更に追撃で顔面に向けて突きを放つ。

これに対するザザの反撃は―― 冗談だろ。

 

「――見切、ったあ!」

 

――四点を突くナイフの切先。 その間の空中を、俺がさっきエム相手にやった空中回転で躱しきる。 しかも遠心力を乗せたエストックの一撃で矛先を打ち上げた。

 

予想外のタイミングと力で腕を跳ね上げられ、数瞬槍は使えないだろう。 ガラ空きの胴体にザザが突っ込んでくる。 投剣での先制で勝ちに行くことも考えたが、ソードスキル未使用、エストックという武器の特性、ザザの技量も考慮に入れれば、あっさり弾かれ悪足掻きにもならん。

 

……このままだと負けるな、うむ。 故に、少々無茶をする。

 

腰を捻り、投球フォームのイメージで右腕を振り下ろす。 それなりに重さのある槍の柄が迫るのを認めたザザは、即迎撃。 エストックの刀身を滑り、矛を地面に叩きつけてしまう。

反動で槍が振動しながら跳ね上がり、掴んでいれば腕が痺れただろう。 だが、それは分かりきっている事であり、なれば避けるのは容易い。 寸前で手を離し、上がった瞬間に左手に持ち替え、引き戻しながら半回転。 石突きで突き気味に薙ぎ払う。

この程度ではザザを止める事は出来ず、エストックで上向きに流される。 その勢いを利用し、再度身体の向きを入れ替えながら槍を縦回転させてやって漸くザザの突進を完全に止める事に成功する。

 

……強いな。 やはり反応速度がそこいらの攻略組と比べると段違いだ。

強引な動きで若干痛めた右肩を休ませるべく槍を左手に構え、睨み合う。

 

うむ、やはりこのまま続ければジリ貧だな。 であれば此方から攻めるとしよう!

 

全身を捻り、槍を振り下ろす。

嘗て敵Mobはおろか、敵と自身の武器すら一撃で圧し折って見せたバスター攻撃に、堪らず回避するザザ。 まあ一部の両手剣ソードスキル同様、真面に防げばそれだけでケリがついてしまうからな。

俺の背後を取るようにステップした奴は、ここで始めてソードスキルを使う。 選択スキルは『オーバーラジェーション』。 十二連撃スキル。 流石にこれはスキルでもって迎撃する他あるまい。

『スパイラル・ゲート』を発動。 スキルの補助もあり、全力で回しても暴走せずに破裂音同然の激突音を立てながら奴の攻撃を全て落とす。

だが、此方のスキルはカウンタースキル。 敵のスキルにタイミングを合わせなければ発生すら覚束ないが、反撃と防御を兼ね備えたものだ。 それを知っていた奴は、負けが確定したというのに、何故か安心したような顔をしていた――

 

 

 

 

 

残念ながら、オチは十二連撃目を防いだ時点で俺の槍が木っ端微塵に消し飛ぶという、何とも締まりの無いものだったが。 おのれヒースクリフ、以前貴様が折った槍返せ。 あれ以来二日に一本は駄目になっているのだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

――オレの目の前で、ノーチラス、エム、ザザが連続で負けていく。

三人とも決して弱くは無い。 寧ろ、単騎戦なら最強クラスの狂人の集まるDKメンバーだ。 攻略組でも最上位に位置する。

そんな三人を、あっさりと下していくヴラド。 とうとう異名でもろに『某旦那』がついただけある。 というか武器を握り潰すって色々おかしいだろ。 ステの振り方次第じゃ頭を掴まれただけで死ぬプレイヤーが出るぞ。

具体的には耐久にロクに振って無い奴。

 

 

……あ、オレか。

 

 

「なあピト。 逃げていいか?」

 

「妻子に見られてもいいなら」

 

それじゃダメだな。

 

ま、まあ。 今までのアイツの動きを見る限り、多分即死攻撃(掴み技)は飛んでこな、い………

 

 

「……あの、ヴラドサン? 武器は?」

 

オレが二刀流のまま開始位置に立ったというのに、ヴラドは未だ無手のまま。

それどころか、左手を前に突き出したまま半身に構えていた。

思わず訊いたら、

 

「必要無い。 師やジルからは似合わぬから辞めろと言われているが、お前が相手ならば出し惜しみも油断も慢心も無い。 我が身をもって叩き潰す」

 

だそうだ。 SAOでオワタ式とか、オレは泣けばいいのだろうか。 そういえば、コイツは公式の対人戦じゃ無敗だったな。 誰だコイツに格闘仕込んだヤツ。 そしてジルって誰だ。

 

内心白目を剥きながらも決闘を受ける。 オレとヴラドの間に名前とHPバー、カウントダウンが表示され、無慈悲に減っていく。

……取り敢えず、相手に集中しようか。

 

ヴラドの武装は見るまでもない。 肉体そのものと、ナイフ、それに『無限槍(ユニークスキル)』。 槍を使わない分デフォルトのリーチは短くなっているが、バトルヒーリングを考えれば、連発しなければ高火力な槍六本程自在に発生させられる。 それを抜きにしても、本人があれだけ自信満々で言うんだ。 実力的には普段以上を想定すべきだろう。

……素手時のリーチ差を生かして、突き技主体で攻めるか、連撃スキルで行こう。 相手が素手なら武器による攻撃を防ぐことには相当集中しなくちゃならないだろうし、槍の生成も完全にはノータイムじゃない。 攻め続けている限りは安全なはずだ。

初手から二刀流スキルを全開でいくか。 幸いアイツに見せたのは、七十四層ボスとヒースクリフとの試合で使った『スターバースト・ストリーム』だけ。

それに、アイツは今までAGIの低さからかカウンターを重点に置いていたな。

――選択スキルは『ダブル・サーキュラー』。すぐに打てるようにギリギリで構える。 奴にとっては初見のスキルだから、動きを予測する事は不可能なはずだ。 GM云々の可能性は一旦置いておく。

 

けれど、一切構えの揺るがない相手を見ていると、勝てる気が――

 

 

「――パパ! 頑張れー!」

 

 

――アイツ特有の雰囲気に呑まれかけていると、ユイの声援が聞こえる。

 

……そうだな。 こんな弱気はオレらしくない。 行こう。 アイツだって、本物の吸血鬼じゃないんだ。 勝てる。

勝ってみせる!

 

 

「……良い顔をするな、キリトよ。 やはりお前は――」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「……なに。 ただ、ふと思い出すものがあっただけの事よ」

 

僅かに苦笑し、首を振るヴラド。 気配が一瞬緩むが、カウントダウンが三秒を切っているのを見て、寧ろより一層強烈なものになる。

 

そして、ブザーが鳴った。

 

 

 

――今だ!

間髪入れずにソードスキルを発動。 右手の剣で防御を崩すべく、駆け出す。 そして、その判断はある意味(・・・・)正しかった。

 

――オレが駆け出すと同時に搔き消えるヴラド。

次いで見えたのは、ソードスキルを読み切れなかったのか、ヒュゴッという音以外知覚できなかった拳が、オレの左耳を掠める。

 

……ガチ殴りじゃねぇか!! 殺す気か!?

 

ソードスキルはそのまま強行。 突進の勢いを利用して距離を開けて仕切り直す。

 

……仕切り直せたらよかったな。

 

靴底で中庭の床をポリゴン片に還しながら身体を横に捻るヴラド。 手加減ゼロの掬い上げるような回し蹴りが飛ぶ。

何とか腕を動かしてガードには成功するも、真上に数十メートル吹き飛ばされる。 流石にシステム側もこのレベルの事態は想定していなかったのか、ソードスキルの強制停止どころか硬直すら解かれた。

 

カチ上げ――高さこそケタ違いだが、このパターンはさっきノーチラスが負けたやつだ!

慌てて下からの投擲に備える。 だが、オレを見上げる奴の手にダメージエフェクト(槍発生の兆候)は無く――

 

瞬間、背筋と首筋が泡立つ。 『気配』というには強大過ぎる『覇気』を背後から感じ、ほぼ反射的に背中を守る様に剣をクロスさせる。 それと同時に、下から轟音。

手元と背中に、フロアボスの一撃をモロに受け止めた様な衝撃が走る。

 

「――勘の良い男よ」

 

やったのは、当然ヴラド。 ジャンプ一つで追い付いてみせた奴の踵落としは、剣の交差点にクリーンヒットしていた。

オレは打ち落とされ、奴は反作用で更に上がる。 着地の衝撃で僅かにHPが減るが、初撃決着モードでもケリがつく程ではない。 寧ろ無限槍の追撃を警戒して、勢いよく転がる。

 

それは正解で――同時に不正解でもあった。

確かに追撃はあったが、降ってきたのは数十本のナイフの雨。 ある種の古いシューティングゲームを彷彿とさせるレベルの弾幕が、明確な威力と迫力を持って降り注ぐ。

――いや、彷彿じゃない。 まさにその通りだ。 この弾幕には、逃げ道が用意されている(・・・・・・・・・・・)。 観戦組に配慮したのとは別に、不自然な、一箇所だけ空白がある。

……考えるまでもなく罠だろう。 HP減少のデメリットの関係上、一撃必殺を意識しなければならない無限槍ではなく、本数を予測出来ないナイフを使ってる辺りがその証拠だ。 隙間を潜り抜けて行ったところに強力な一撃が待ち構えている。

だが、留まったところでボーッとしていればナイフで串刺し。 雨を防いだ所で、行動に制限が掛かる以上槍で狙撃されて終わりだ。

………それに、――

 

チラッと、オレを不安げな表情で見つめるサチの方を見る。

 

 

――もう、負けられない。 一年半前の雪辱を晴らす。

 

相手が強過ぎる? 関係無い。

状況が詰んでいる? なら打開しろ。

どうせ模擬戦? だったら負けてもいいのか?

 

 

―――今度こそ、勝つ!!

 

 

「おぉ――おおおおおおおおおおっ!!」

 

敢えて隙間に飛び込む。 思った通り、奴はすぐに動いた。

その手には赤い血濡れた杭。 落下の勢いと本人の体重を全て乗せた一撃が、真っ直ぐに『落ちてくる』。

だが、言ってしまえばそれだけだ。 恐ろしいが、目に見えないスピードで振るわれる拳やコマ飛びするレベルの投げナイフに比べれば、対処の仕様がある。

 

片頬を釣り上げ、歯を剥き出しにして笑う。 吸血鬼どころか、ギルド名の通り『竜』が威嚇しているような笑みのヴラドの槍の降る空中に突っ込み、ソードスキルを発生させる。

それを見た奴は笑みを引っ込め、怪訝な表情になる。 当然だろう、角度こそ違うけれど、選んだスキルはあの時と同じ、『ホリゾンタル・スクエア』。

間も無く剣と槍が交差し、重い金属同士がぶつかる轟音が鳴り響く。

先ずは一撃。 擦れ違うような一撃を放つも、奴は小揺るぎもしない。

二撃目。 スキルの、『対象への命中補正』が発動し、落下分の補正も込みで再度槍に一撃叩き込む。 しかし不変。

三撃目。 一撃目とは逆方向への剣撃が飛ぶが、矛先の斜角に流される。

スキルのラスト、四撃目。真っ正面で、真横に一撃。 これまでで一番大きな音が鳴り――

 

 

 

 

 

 

――オレの剣は、届かなかった。

硬直するオレの身体。 一方スキルを使わなかった奴は、そのまま一撃を敢行する気だろう。 このまま、衝突までもう数センチもない地面に落ちれば、『オレの負け』という決着が付く。

 

―――今までのオレなら。

 

 

「――まだ、まだだっ!!」

 

オレの身体が、システムの定めたスキルの硬直を無視して動き出す。 正解には、システムに定められた硬直の強制を、システムに定められた行動の強制で塗り替える。

偶々、左手がそのスキルのタメモーションになっていた――それでいて、二刀流じゃなければ有り得なかった必然。 発動スキル、『ヴォーパル・ストライク』。

 

咄嗟にやった、失敗する可能性の方が圧倒的に高かった、『スキルコネクト』。 それによって発動した重単発スキルが、奴の顔面を狙う。

流石の奴も予想外だったのか、その手に握る槍の柄でスキルを防ぐも遂に槍が切り裂かれ、無限槍によって生成された槍特有のエフェクトと共に砕け散る。 防御を失ったヴラドは、腕をクロスさせてスキルを受け、吹っ飛んだ。

 

……吹っ飛んだ(・・・・・)??

 

 

 

鳴り響くブザー音。

今度こそシステム硬直に捕らわれながらも、視界の端にも映るデュエル表示は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――《You Win!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインクラッドの誰もがもぎ取りたいと挑み、その無敗伝説に数えるだけだった怪物が。

遂に、膝を付いた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3. 真実、その一端《紅の幻影》

 

 

 

――その日、長閑な第四十八層主住区『リンダース』の街にある『リズベット武具店(あたしの店)』は、非常に微妙な雰囲気に包まれていた。

 

その発生源は、ついさっき来た客。

依頼内容は、破損した武器の修理。

 

そして、こんな空気になってる原因は――

 

 

「……直らん、か」

 

「えっと、はい……

……なんか、すいません」

 

何故か元々落ち込み気味だった客の持ち込んだ武器が、修復不可能な代物だったからだ。

……こういう事自体は、初めてじゃない。 目の前で落胆されることも怒鳴られることもあった。

 

けど、その依頼を持ち込んだのがアインクラッドでは知らない人のいない超有名人(伊達眼鏡に普段の印象とは違う青系の和服っぽい格好で簡単に変装している)で、しかもその武器は本人が入手してからずっと自分自身の手でメンテから強化までしていた代物(鍛治スキルは八百を超えていた)だったっていうのは流石に予想外だ。

あのヒースクリフの盾が本人お手製だと言われたら同じ様な気持ちになるだろう。 その盾に折られたことを考えると皮肉な例えだけど。

 

思わず、棚に置かれた辛うじて原型を保っている槍――そのポップアップメニューを見る。

最大耐久値は破損の影響で一層の初期槍と同等程度。 強化履歴を見る限り、プロパティは耐久極振りのクセしてスピード型とかいう頭の可笑しい代物だった。 カテゴリは見たまんまのロングスピア。 固有名は――

……何と読むのだろう。ちかかみこころよやり?

あと製作者の銘。 この男の武器()は全てモンスタードロップ品というのは有名な話なので期待していなかったけど、当然のように空欄だった。

 

「……まあ良い。 手間を掛けたな」

 

口調でバレバレながらも本人的にはオフのつもりなのか、噂で聞くよりも随分と感情豊かに別れを告げる男。

ただ、その感情はかなり寂しげなものだったが。

 

――マスタースミスの本音としては、意地でもドロップ品には負けたくない。

素材はある。 経験も、予想出来るあの槍のスペック以上の物を打てると言っている。 そもそも幾ら魔槍を強化し続けた物とは言え、三十四層でドロップした武器がそんなに高いスペックを持つはずがない。

 

……だけど、以前キリトにダークリパルサーを打った時に感じた感覚と勘が告げている。

 

 

――多分この人は、それじゃあ納得しない。

 

 

あの時の、インゴットを鍛えている時に感じた、剣に流れた思い。 勿論全く違うものだけれど、それに似た『熱』が、この槍からは感じられる。

 

憧れ……ちょっと違う。 それとも虚無感?

届かないと分かっている、或いは届くとしても自らに手を伸ばす資格は無い。 ……いや、

 

 

 

―――届かせてはいけない――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――そろそろいいだろうか」

 

「はっ!?」

 

気が付けば、幾度も刃毀れした跡のある三角形の矛先に掌を当てたままボーっとしていた。

謝りながら慌てて返すと、若干不審な目で見られながらも槍をストレージにしまい踵を返す男。

 

その手が取手に触れる寸前、ギィと扉が開き――

 

「あ、今日はヴラドさん。 早速で悪いのですが、

「ピトの行先なら知らぬ」

そうですか」

 

……何というか、笑顔が怖いあたしの友人が来店した。

ビジネスライク(?)な短い会話を終えると、いつも通りの気配に笑顔のアスナが「リズ、久し振りー」と声を掛けてくる。

………またピトさんがなんかやったのかぁ。 何であの人自重しないかなぁ。

 

 

 

何故か異様に輝きを失っていた、というより心なしか黒ずんで見えるレイピアを研磨する。

すっかりいつも通りの輝きを取り戻したランベントライトを手に工房から出ると、アスナしかいなかった。

時間帯も丁度お昼時だったし、偶にはアスナを誘って外食でもしようかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.真実を追う者たち

 

 

 

『――え? ヴラドをどう思うか? あー、アイツとは一層の時からの知り合いだけどよ。 キャラの濃い奴だよな。 酒の付き合いはちょっと悪いけどよ』

 

 

『――げ、ピトフーイ。 言っとくが、もう何時ぞやのナマモノ(リヨ面)の取り扱いは勘弁――あ? 違う? お前の所のギルドマスター? まあ、色々と察しの良い奴ではあるな。 ウチを贔屓にしてくれてるし』

 

 

『――あ、エルザさん!? 私ファンなんです! 出来ればサイン――ありがとうございます!

それで、話って一体……… ヴラドさん、ですか? 何というか、怖い噂ばっかりですね。 オレンジギルドを一人でいくつも解体したとか、ボスモンスターを殴って後退りさせたとか。

……え“。 全部本当?』

 

 

『――ヴラドさん? 感謝しても仕切れないよ。 一層での事もそうだし、軍が崩壊した後のオレたちの治安維持ギルドだって、今尚あの人がオレンジに対する抑止になっているからこそ、形骸化せずに成り立っていると思うんだ』

 

 

 

 

 

――アインクラッド中を周り周る少女。

()の一人と讃えられた少女が、一人の騎士と謳われる旧王族男性の影を追い続ける。 その姿は美しく映るだろう。 その実を知らなければ、だが。

 

余所見を止め、KoB本部内の全プレイヤーの位置、及び私を追う勇者たちの動向を一通り確認すると、ログを確認していたパソコンをスリープモードに切り替え客人に向き直る。

 

 

「……さて。 初対面な上、待たせた果てに申し訳ないが、私は君に何処から尋ねるべきかな。

――ジル・フェイ君」

 

青み掛かった女物のスーツを着込んだ銀髪の女性。

凛子君はエンジン音の類は聞こえてないと言っていた以上、山の奥に位置する此処に辿り着くには歩いてくる必要があるのだが、彼女の身には汗一つ、着崩れ一つとして無い。

その姿は凛としていて――例えるならば、月光を反射するよく研ぎ澄まされたナイフだろう。

 

 

「――貴方が私に尋ねるべき事、ですか。

はて。 私は貴方ではない故に、それにはお答えしかねます」

 

彼女は、此方の出した紅茶を一口含んでからそう言った。

素人目にはリラックスしているように見える。 事実、彼女はリラックスしているのだろう。 この場に彼女を害することの出来る者など居ない。 それに、私の考えが正しいなら――

 

「そうか。 では単刀直入に訊こう。

私を殺しに来たのかね?」

 

「さぁ? 一介の従者を前に、彼の茅場晶彦が随分と変わったことを訊くのですね」

 

 

可笑しいと、僅かに微笑む女性。

 

――彼女は、その技術を此処で振るう気は無いのだろう。 仮にその気であれば、態々こうして対談せずとも一切の気配を悟らせずに事を終えていた筈だ。

 

だからこそ、分からない。 彼女は一体、何をしに来たのだろうか。

 

 

 

 

 

――只々無言の時間が流れる。

考えを探るべく、その金色の瞳(・・・・)を覗き込むが、得られるのは、ただ其処に彼女がいるという確証だけ。

 

 

時折減る紅茶が、遂に底を隠す事が出来なくなった頃。 漸く銀の少女が自ら口を開けた。

 

 

 

「……私の主は―― 彼は、どう過ごしているでしょうか?」

 

 

漏れ出たのは、彼女のイメージとは異なる言葉。 まるで恋煩う少女か――

 

そこまで考え掛け、何故か急に全身にナイフを突き立てられる様を思い浮かばさせられた。 主従揃って察しが良い上に器用なものだ。 私は率直な感想を思い浮かべただけだというのに。

 

「……成る程。 君が気にするものは分かった。 だが、ナーヴギアは内側に埋め込まれた信号素子によって発生した多重電界でユーザーの脳と直接接続している。 電気信号しか回収出来ない以上、君の問いに答えを出す事は出来ない」

 

「………そうですか」

 

僅かに表面に出ていた感情が元通りに消え、銀色の少女は銀製のナイフへと戻る。

 

 

「では、私はこれで」

 

「――いや、少し待ちたまえ。 一つ訪ねたい事がある」

 

話は終わったとばかりにすっと立ち上がる彼女を留める。 小さく聞こえた金属音から、彼女が私に刃を向けない事は彼女個人としては不服である事を察しながらも、自分の疑問をぶつけた。

 

――カーディナルシステムには、自動でクエストを生成する機能が存在する。 攻略に直結する重要なものなどは例外だが、その多くはシステムがネット上の神話や伝承、都市伝説、映画等から創られたものだ。

 

だからこその、問いだ。

 

 

「――『ベル・ラフム』。 この名に心当たりは?」

 

 

私自身が設定した筈のモンスターが、全く別の存在に成り代わっていた。

私が設置したモンスターは何処へ消えたのか。 彼らは一体何なのか。 彼らは何処から現れたのか。

 

分からない。 そして興味深い。 ほぼ崩壊していたというのに膨大な情報量を有していた正体不明の存在もある。

 

だが、彼女の答えは、――

 

 

「ベル・ラフム……

ラフムであれば、メソポタミア神話に於いて創世の神ティアマトが最初に生み出した怪物ですが、ベル・ラフムは」

 

やはり、否。

実際のところは分からないが、知っていたと仮定してもこちらも彼女の問いに明確な答えを渡す事が出来なかった以上、明確な回答は得られなかっただろう。

 

「そうか。 引き止めてすまなかった。

……あぁ、そうだ。 暫くは彼の側に居るといい」

 

私の夢――文字通り、現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界が叶っていたと知る事が出来た彼らへのささやかな礼として、彼女に言葉を掛ける。

が、返答は無かった。

……ドアの開閉音はしなかったのだが。 本当に不思議な女性だ。

 

自らに淹れた紅茶を飲み干しながら、彼ら――特に、彼女への最後の感謝を送る。

 

 

――疑う事は出来た。

どうやらこの現実世界にも、まだまだ不可思議な謎はあるようだ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



















4.永遠に遠き黒き月



――遂に負けた、か。


ギルドホーム内部。 俺個人に割り振られた個室にて、窓辺に置いた椅子に腰掛け夜空を見上げる。
けれど十五夜の空には何ら感慨浮かばず、意識は昼の一戦へと飛ぶ。

……まさかスキルコネクトとは、予想外だ。
少々投剣を振るい過ぎたか。 前腕部の鞘に中身があれば、あの程度の突きなぞ。
そも、初手の時点で遊びなぞ挟まず心臓を抉り取る気で打っていれば――


「……詮無き事よ。 よもや余がこの様な事に心乱される時が来ようとはな」

思考を強引に切り替える。
良いではないか。 あれだけの実力があれば、明日には無事ヒースクリフを下す事が出来よう。 根本的な話、魔王を斃す役(二刀流スキル)主人公(英雄)に与えられたのだ。
であれば、俺には最初から役などない。 強いて挙げるならば、英雄の手から零れ落ちたものを受け止める程度だろうか。

……我ながらくだらない。 『悔しい』などという感情が湧くなどと。
一層の折に実感した筈だ。 俺は一般人でしかなく、所詮道化であると。


…………あぁ。 だが、それでも、

「惜しいものよなぁ。 こんな戯言を口にしている時点で、王などとは程遠いというに」


今夜も月は遠い。 丸く輝く白い月に手を伸ばすが、この手はただ空を切るのみ。


――もし、次があるならば。


「今度、こそ―――







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