串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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28話 霧夜の瀟洒な従者、暗躍す

 

 

 

 

 

 

 

――最初、その女性が本当にオレに話しかけているのかどうかすら確信がなかった。

そりゃそうだ。 だって重村さんを含む極一部の例外を除けば、SAOサバイバーでなければ『ノーチラス』の名前は知らないはずだ。

けれど、目の前の女性は明確にオレ(鋭二)オレ(ノーチラス)だと認識して喋っている。

 

「……如何かしましたか?」

 

「い、いや。 何でもない。

ところで、あなたは?」

 

立ち上がるのを手助けして貰ってから聞くと、女性は一瞬記者群の方に目を向けてから「一先ず、場所を変えましょう」とオレの手を引いて歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――さて。 では、何処から話しましょうか」

 

場所は変わり、女性の運転する車中。

一応オレは入院中に病院から飛び出した身だからか、そこまで移動する車の中で話をすることになった。

 

「……そもそも、あなたは誰ですか?」

 

まずは最大の疑問をぶつける。

今更だけど、この人はかなりの美形だ。 日本人離れした銀髪に、スラッとした細い体系をしている。 服も露出の少ない青系のカジュアルチックな物で纏まっているけれど、それでも凛とした雰囲気を醸し出している。 しかも正体不明でミステリアス。

ハッキリ言って、密室空間に二人でいるのは少し心臓に悪いレベルで美人だ。 そして、こんな人がアインクラッドにいたら、それこそ『閃光』並かそれ以上に確実に話題になる。 つまり、この人は確実にSAOプレイヤーではない。 だとするとその時の情報はどこから――

最悪の状況を考えていると、女性は簡単に答えを返した。

 

「私はジル・フェイ。 貴方方がヴラドと呼ぶ方の専属従者の様なものを務めております」

 

……なんだ、良かった。 ヴラドの関係者か――

「……ちょっと待ってください。 専属従者?」

 

「はい。 俗に言うとメイドかと」

 

「いやそこじゃなくて。 そこも気になるけどそこじゃなくて!」

 

今サラッと言ったけど専属のメイドがいるって何者だよあの人!? ニュースだと会社の社長とか言ってけど秘書とかじゃなくて従者?! 貴族か何かかよ!?

つか何でそんな人がまだここ(日本)にいるんだよ!?

 

「頼まれたからですよ。

未だ目覚めていない三百人。 彼らを救う為、世界樹の攻略をする貴方方を手助けしてくれないかと」

 

「え、――」

 

鏡越しに目があう。 緑がかった金色の瞳。

その瞳からは正気も狂気も読み取る事は出来ないけれど、

確かに、害意は無い気がした。

 

「……信じて、いいんですね?」

 

「ええ。 少なくとも、須郷伸之を仕留めるまでは、私は貴方の味方でありましょう」

 

……あぁ、この意味不明で思わせぶりな言い回しはアイツ(ヴラド)の関係者だ。

戻りきっていない体力で何度か走り回って疲れた身体をシートに沈ませながら、最後にするつもりの質問をする事にした。

 

「……そう言えば、何でオレがノーチラスだって気付けたんですか?」

 

「貴方があの人の事を『ヴラド』と呼んだからですよ。 マスコミ各社には伏せている情報でしたので」

 

あぁ。 SAOでの事は公表されてないんだったな。

現状SAO事件での訴訟は全て茅場晶彦とアーガスに向かっているが、SAO内では何度もプレイヤー同士の殺し合いが発生している。 そこまで行かなくてもオレンジ(犯罪)行為はそれこそ掃いて捨てるほど発生していたし。 そういった件でのプレイヤー間の訴訟を避ける為、だったか。

そう考えると、何でヴラドは元SAOプレイヤーって情報付きで顔写真、まで………

 

「……伏せている情報(・・・・・・・)

って事は、わざと流したのか?」

 

「おや、気が付きましたか。

ええ。 この方法が彼方でDKに所属していたメンバーを簡単に釣れると判断したので、彼是嗅ぎ回っていた記者を何人か捕まえて。

……まぁ、彼や私自身が直接動こうとしたら悉く情報を塞いできた対策課の皆様への意趣返しも含まれていますが」

 

うわぁ…… この人ピトと同じ嗤い方してるぅ……

 

「――だとしても、正直に申し上げれば賭けでした。 彼方側(対策課、外務省)も『もう面倒事は御免だ』と言わんばかりの対応でして。 間に合ったのは重村教授から話を聞いた貴方だけです」

 

「待って。 待って! あんた重村さんとも知り合いなのか?!」

 

とうとう敬語すらかなぐり捨てて突っ込む。

ヴラドも時々裏方に徹して気が付いたら全部終わってるみたいな状況作ってたけど! この人最初っから暗躍し過ぎ!

 

「アーガス本社跡の地下で偶然。 あぁ、今彼処に行くのも重村教授に連絡を取るのも御遠慮下さい。 絶賛細工合戦の最中なので」

 

「細工合戦って何!? あやっぱりいいです聞きたくない」

 

ツッコミの途中で猛烈に嫌な予感を感じて訂正する。 だがそこはピトと同類の匂いを感じさせるジルさん。 遠慮容赦が無かった。

 

「事の発端は須郷伸之がSAOメインサーバーのルーターに爆発物を仕掛けた事です。 私は重村教授がそれを如何にかしようと格闘している最中に出逢ったのです。 目的が一致した我々は、私は教授から情報を得、私はその手の物に明るいある人物を――」

 

「もう分かったから! もう分かったから!!」

 

いつの間に重村さんはそんな危ない橋を渡っていたのだろうか。 大体二時間前に会った時は全然そんな風に感じさせなかったのに。

一体どれだけの苦労をしているのだろうかと、その本人から渡された箱に目をやる。

 

……サラッと流しかけたけど、色んな思惑混みで警備が厳重だろうメインサーバーに接近出来て、爆弾に詳しい人とも知り合いで、多分、というか絶対他にも色々やれるだろうこの人って本当に何者だよ?

 

「ただの瀟洒な従者ですよ。 今も、これからも」

 

……おまけに読心術まで出来るらしい。

今更だけど、何でアイツ(ヴラド)がピトとかと上手くやっていけたのか納得出来た。 こんなメイドが居たらそりゃメンタルも鍛えられるよ。

 

 

 

「……結局ヴラドって何者なんだ? アンタみたいなメイドがいるくらいだ、ガチの貴族とか言われても驚かないぞ」

 

飛び出してきた病院が見えてきたあたりで、気になった事を呟く。 藪蛇な気もしなくはないが、今の所この人は聞いた事全てに答えてくれている。 案外簡単に教えてくれたり、何て浅はかな考えで聞いてしまった。

 

 

「――貴方が今、自分で言ったじゃないですか」

 

「?」

 

答えは予想通り、直ぐに帰ってきた。

クスリと、まるで悪戯が成功した子供を彷彿させる微笑みで、トドメの爆弾を投下しながら。

 

「先程も申し上げた通り、マスコミへ流した物は未完全。

あの人のフルネームは、ブライアン・ヴラド・スターコウジュ(Brian・V・Stacojiu)

ヴラドの名を今尚受け継ぐ家系の現頭首(十五世)です」

 

……『ヴラドの名』?

…………そう言えばいつだったか、ドラキュラの元ネタはヴラドって実在の王様だったって聞いた事があるなー。

 

…………ふーん………

 

「……つまり、元王族?」

 

「マスコミには一切伏せていますが、そうなりますね。 此度の帰国もスケジュール的には親族への顔出しが主だったものになりますし」

 

「…………じじ、じゃあ、あの何とかって会社の社長って肩書きは?」

 

ビジュテリエ・ア・スフレトゥルイ(Bijuterie a sufletului)社ですか? 今尚増えるチャウシェスクの落とし子たちの受け皿として作られたものなので、利益度外視のほぼNPO法人のようなものですね」

 

 

…………ほーん………

 

 

 

 

 

「――はっあぁぁぁぁぁああ!?!?」

 

「予想通りの反応ありがとうございます」

 

ALOにログインし、この人に見覚えのあるナイフ投げと槍術でボッコボコにされるまで後数十分。

突然明らかになった衝撃の真実の連続に、オレの意識は一度現実世界からすらログアウト(現実逃避による気絶を)するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一時間前 正午過ぎ

 

都内 高度医療機関

 

 

「――ぶっははははははははは!

何これ?! ホント何コレ!? いやーコレやばいね! あのキャラを二年通すだけの事はあるよ! あっひゃっひゃ!」

 

スマホの画面に映るニュース映像を眺めながら大爆笑して転げまわる少女――に見える年齢不詳の女性。

また(・・)眦に水滴が溜まっているけれど、果たしてそれは笑い過ぎが原因なのか。

……深くは聞かないでおこう。 さっき見た号泣しているこの人を思い出すとどうも調子が狂う。 どうせ悪名高き愉悦部を、それもその筆頭たる毒鳥を名乗るなら、せめて殴り甲斐のある不敵な笑みを浮かべていて貰わないと。

 

どちらにせよ、この話はお互いにとって重要で急用だ。 一先ずにしろこの毒鳥と組むのなら、最低限の情報共有くらいはしないと。

 

「ねえ、話を聞いているのかしら。 神崎エルザさん?」

 

「はー。 あーうん、聞いてる聞いてる」

 

枕元に端末を放り投げ、やっと此方に向き直る外見年齢詐称少女。 こんなのが歌手として受けていたなんて、結局世の中外見なのだろうかと邪推してしまう。

 

「にしてもこんな偶然あるもんなんだねぇ。 まさか、明日奈ちゃんと私たちが同じ病院に運ばれてるなんて」

 

「……ええ、そうね。 おかげで変わったもの(・・・・・・)も観れたし。 ほんと、偶然って怖いわよねぇ?」

 

直ぐに視線が逸れた。 心なしか、冷や汗も垂れているように見える。

 

「………明日奈ちゃん、性格変わった?」

 

貴女の所為でしょう。

この一言を全力で飲み込み、「それより、」と本題を続ける。

 

「さっきも言った通り、キリト君たちは『アルヴヘイム・オンライン』ていうゲームの中心部、世界樹の頂上に閉じ込められてるわ。

それも、非道な実験の被験体として」

 

「……うーん、ちょっと待ってね」

 

眉間を揉みながら、ジェスチャーでも『待って』をするエルザ。

 

「これ以上何を待つのよ! 今直ぐにでも助けに行かないと!」

 

「うん。 それは私もそう思うよ?」

 

「だったら何で!? 貴女が、――」

 

さっき見せた涙は嘘なのか。 そう続けようとして、出来なかった。

……忘れていたから、とも言える。 あの浮遊城の世界で、あのバーサーカーを差し置いて一時期『魔王』とすら呼称された少女の異常性を。

 

「……私だって。 その場に居たら、絶対にその男をブチ殺してるよ。 いや、楽には死なせてやらない。 折れる骨は全部折って。 千切れる所は全部千切って。 感覚器官は全部潰して。 無様に喚かせて、一人ぼっちのまま、ゆっくり、ゆっっくり殺してやる」

 

狂気と、復讐心と、そして狂楽の入り混じった歪な光が瞳に灯る。

……オレンジ討伐戦で彼ら(DK)と組む事はよくあったけれど、よく死人が出なかったと今更ながら思う。 ヴラドかエムか、どちらかがいなければ、確実にこの女性は堕ちていただろう。

――そして、今。 そのどちらも、いなくなってしまった。

 

 

「……まあ、愉しい妄想(ifの話)はさて置いて。 明日奈ちゃんも落ち着いた?」

 

スッと狂気が隠れ、いつも通りの憎たらしい感じに戻る。 彼女が直接その歪さを前面に出すのは珍しいけど、やっぱり怖い。 しかも、この二面性が素らしいから尚更。

 

「……ええ。 お陰様で」

 

「じゃあ説明パートに入る、そ・の・ま・え・にぃ〜」

 

パッと見小動物系にも見える神崎エルザ。 素かキャラ作りか、多分後者だろうが「うんしょ、うんしょ」なんてあざとい掛け声をかけながらベッドから降りると、そのまま一直線に病室のドアに駆け寄って開ける。

 

「誰かいたの?」

 

「……いや。 私の勘違い、かな?」

 

「何で疑問形なのよ」

 

まるでピンポンダッシュかなにかを受けた様にキョロキョロと周囲を見渡すエルザ。 一応私も様子を見に行ったけれど、真昼間の病院というのもあって廊下には普通に人がいる。

強引に不審者を挙げるとすれば、妙に目に止まる変わった花の赤い花束を抱えているから誰かのお見舞いに来たのだろうに、その割には病院に合わないピシッとした暗い服の女性がいるくらいだろうか。

 

何がそんなに気になるのだろうかと内心首を捻っていると、いつの間にさっさと病室に引っ込んでいたエルザがまた携帯端末を弄っていた。

 

「……まあいいわ。 それで? 何がそんなに引っかかるのよ?」

 

「…………赤モクレン? あぁ、そういうことね」

 

「はぁ?」

 

画面を見ながらボソリと呟く少女擬きの姿に二面性どころか三面性まであるのかとツッコむのを堪えていると、エルザはニヘラと笑いさっきまでのテンションに戻る。

 

「いやね? もうあのオッサン何者だよって話。 まあそっちは考えてもしょうがないし、さっさとログイン済ませちゃおっか」

 

「え? は、え?!」

 

そしてテンションが戻ったと思ったらこれだ。 私が準備して持ってきたアミュスフィアを被ると、さっさと「リンクスタート!」と唱えた。

……あーもう! なんなのよ一体!

文句や言いたい事は山ほどある。 あるけれど、次の世界にダイブしない事には何も始まらないと自身に言い聞かせ、同じ様にアミュスフィアを被った。

 

目標は――世界樹の頂上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――同時刻

 

都内

 

 

 

『――以上が手に入った情報です。 私としては、貴女が介入することは寧ろ悪手かと』

 

昔から変わらない凛々しい声で、それでいて思い出の中にはない完全に無感情な声が電話越しに聞こえる。

 

「うん。 私もそう思う」

 

『ならば待ち続けると?』

 

「……ごめんなさい。 それは、出来ません」

 

姉の様な女性。 その人が、錆びかけていた昔の伝手を使ってまで集めてくれたらしい情報は、決して無駄に出来ない。

 

それに、何より。

私は誓ったから。

 

「――私は、諦めません。 必ず、キリトを助ける」

 

『……そうですか。 なら止めません』

 

呆れながらも、何処か憧憬が混じった声の返事が返ってきた。

『気を付けて』という言葉を最後に、電話が切れる。

 

「……ありがとう。 あなたもね。

――舞弥さん」

 

通話の切れた携帯はサイドテーブルに。

代わりに手に取ったのは、華奢なデザインのバイザー状のシルエットの機械。

 

……最初からこれ(・・)を用意しておいてくれているあたり、私ってそんなに分かりやすいのかな?

 

今思い返してみれば、現実に戻ってから私の変化――好きな人ができた事に真っ先に気が付いたのは舞弥さんだった。 やっぱりバレバレなのかもしれないなぁ。

 

そんな事を考えながら、私――朔月 千佳(さかつき ちか)ことサチは、もう一度仮想空間に潜るべく、魔法の呪文を唱えた。

 

 

「――リンク、スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

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