串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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3 串刺し公、覚悟す

 

 

 

 

――マズイ。 非常にマズイ。

 

始まりの広場の端、段差に腰掛けながら深い溜息を吐く。

余りにも情報が少ない。 いや、情報そのものはある程度経てば鼠のアルゴらβテスターによって攻略本という形で配られるのだろうが、それでは決定的に出遅れる。

SAO開始前に調べておけよとも思うが、それには情報規制がかかっていた。 公式HPを見る限り、β版の情報漏洩には相当気を付けていたようだった。 原作を思い返してみれば、第一層フロアボス攻略会議でイガグリ頭(名前忘れた)が、『βテスターがニュービーを見捨てて情報を独占、結果死者大勢でた』とほざいていたが、開始前にβ版の情報があったと仮定すれば、理論が前提から破綻する。 おそらく、原作でも情報規制はあったのだろう。

 

……とすると、本格的にマズイな。

βテスターたちも情報面でのアドバンテージがあるとはいえ、それがイコール生存に有利とは限らない。 寧ろそれが油断や慢心を生み、死へと直結しかねない。

ベストなのはβテスターとニュービーが手を組み、情報確認とリスク軽減を両立することだが、悲しいかな、これはMMORPG。 おててをつないでみんななかよくの精神で攻略していけば、死亡率こそ下がるだろうが、攻略ペースは牛歩どころか芋虫の歩みと化す。 まずタイムリミット(現実の肉体の限界)には間に合わないだろう。

その肉体の限界以前に、焦れたり自棄になった狂人や数千人の寝たきりの人間の管理の資金不足、災害、最悪現実の人間が攻略不可能と判断すれば、ナーヴギアの強制解除、或いはサーバーの物理的破壊で全滅エンドもあり得る。 原作で二年も保ったのは軽く奇跡なのだ。

逆に少数精鋭ならば、と思うが、それはそれで今度は人手不足で詰みかねない。 一回死んだらそれでアウトなのだ。 一度攻略組が壊滅すれば、立て直しできずに終わる。

 

……ダメだ。 幾ら頭を回しても良い案が出ない。

だが立ち止まるのは論外だ。 こうなったら下策だが、始まりの町を拠点にレベル上げに専念する他――

 

 

 

 

 

「――おいオッサン。 大丈夫か?」

 

「余はまだおっさん呼ばわりされる歳ではない!」

 

急に声をかけられ、思わず反応する。 誰じゃ人のことオッサン呼ばわりする不届きモンはぁ! 俺ぁまだ30代じゃあ!!

軽くキレながら顔を上げれば、

 

 

 

 

 

 

ポカンとした野武士面の男が見下ろしていた。

……あれ? 何かこの顔、見覚えが――

俺が首を傾げている間にも、馴れ馴れしく話しかけてくる。

けど不思議と不快とは感じないな。 この男はカリスマスキルでも持っているのか?

 

「そ、それだけ元気なら大丈夫そうだな。 オレぁクラインってんだ。 お前さんは?」

 

あやっぱカリスマスキルだわこれ。

 

 

 

――『クライン』。

SAOを語るにおいて、決して忘れられないキャラの一人。

キリトの友人で、数少ない男性キャラの一人。 彼が居なければ、キリトはヒロインらに会うまえに潰れていた可能性すらある、まさに頼れるアニキ。

何より特筆すべきは、攻略組の小規模ギルド『風林火山』のリーダーにして、ギルドメンバーから唯の一人も犠牲者を出さなかった(・・・・・・・・・・)優秀さだろう。

………今はまだ、ニュービーの一人でしかないが。

 

 

「あ、あぁ。 余はヴラド。 心配をかけさせたようですまぬな」

 

スゲェ凝ったロールプレイだな……

 

ボソッと漏れたのが耳に入る。

言わんといて! つかこの顔でメッチャラフな口調とかそれはそれで怖いだろ!?

 

「して、何用だ?」

 

「おぉっといけねぇ。 実は次の町に行くのに人手が欲しくてな。 落ち着いてそうなヤツに声かけてまわってんだ」

 

……次の、町?

 

「……道は分かるのか?」

 

「おうよ! キリ――先に行ったダチがメールでマップを送ってきてくれたヤツがあるぜ!」

 

そっか、そういえばそんな会話があった気も――

……………

 

 

 

……情報、あるやん。

この誘いに乗らない手は無い。 後の風林火山のリーダーなら無茶な采配はしないだろうし、まさに千載一遇の好機。

 

「了解した。 手を貸そう、クライン」

 

「おう! サンキューな!」

 

……そういえば、クラインは今一人だ。 他のメンバーはどうしたのだろう?

 

「……人手を欲している、と言ったが、他の者は如何した?」

 

「あぁ、他のヤツに片っ端から声かけてもらってるよ。 見捨てる事なんて出来ないしな」

 

うわ、流石性格イケメン。 そこに痺れる憧れるぅ!

これで女性を前にした時鼻の下伸ばさなきゃ完璧なんだがな。

 

「……とは言っても、さっきあんな事があったばっかりだからなぁ。 正直、オレたちだけで行くことになるかとおもっていたんだ」

 

……それもそう、だな。

考えてみれば、そこいらの連中みたいに絶望に打ちひしがれている方が普通なのだ。

逆に言えば、こうやって直ぐ動ける人の方が異常なのだろう。 俺みたいに予め知っていなければ、キリトみたいに先の事を危惧したり、クラインのように強い意志を持っていなければ、期間は兎も角、安全圏に引き篭るという選択をするだろう。 クラインの台詞から察するに、協力を約束したのは今の所俺だけっぽいし。

生きている以上、誰だって死は怖い。 そしてここは、少なくともモンスターに襲われる心配のない場所。 ()の拠り所。

だからこそ、75層まで開放されてもまだ留まり続ける人々がいた。

 

……それ自体は間違いだとは思わない。 立派な生存戦略の一つだ。

しかし、

 

 

 

――それは、生きていると言えるのか?

ここは現実であると同時にゲームの世界。

極端な例を挙げれば、一切飲まず食わずでも生きる事は出来る。 腹は満たされないが、現実の肉体には点滴で栄養を与えられているからな。

 

 

……まあ、だから如何したという話だが。

何時だって選択するのは自分自身。 彼らが意識を変えない限り、どうやったって状況は変わらない。 奇跡(救い)を座して待つのみ。

俺には、如何することも出来ない。

 

何故なら、俺は王ではないからだ。

誰かを率いたり、鼓舞した経験なんて当然ない。 つーかぶっちゃけしたくない。

大層な名前を背負っちゃいるが、俺は所詮十五世(一般人)。 かの三世(極刑王)のような、民や国の為にドラクル(悪魔)と、串刺し公と汚名を被り続けた王とは違う。

 

 

 

 

 

………………だが、

 

「? ヴラド?」

 

 

 

 

――その背中を目指すのは、別に構わんだろう?

 

 

俺は、征服王のような覇道を持っていない。

 

俺は、騎士王のような誇りを持っていない。

 

俺は、英雄王のようなカリスマ性を持っていない。

 

まさしくただの一般人。

だが、憧れることは出来る。 例えハリボテでも、マネすることは出来る。

何より、ここにあの英雄たちはいない。 あの王道を目にし、この先の絶望を知るのは、ただ一人。

ならば覚悟を決めよう。 俺だけの『王道』を示そう。

悲劇を減らす為に。 絶望を払う為に。 その為の布石(ノーリターンポイント)を打とう。

ちと早過ぎる気もするが……

 

 

――これが、俺の、運命(Fate)だ。

イメージしろ。 目的を明確にしろ。

俺はヴラド。 道中には我が領土を荒らす蛮族(ポップしたモンスター)

目標は、次の町。 ここにいては、いずれ詰む。

これより先は死地にして、生きる為には進む他無し。

ならば武器をとり、立ち上がろう。

 

………なぁ、俺。 道化になる覚悟は出来たか?

 

 

 

 

 

「――聞けぇぇぇぇぇ!!

 

 

 

――余は、出来たぞ。

 

 

腹の底から声を出したことで、僅かなりとも視線が集まる。

怯みそうになるが、それを根性で抑え込む。 ナーヴギアを使っている以上、感情が表情にダイレクトに反映される。 ビビってると思われるな。 完璧を目指せ。

かの王たちは、一度でも己の王道を疑ったか?

否。 否! 否ッ!!

 

「余の名はヴラド! これより我らは次の町『ホルンカ』へと進む! 我こそはと思う者は付いて来い! 死の恐怖に震える者は留まるがいい!

だが、これだけは言っておこう――

ここで脚を止めた者は敗者である!

あれらは蛮族。 我らの道を穢し、不遜に下劣に喰らう事しか頭にない愚者どもだ。

それらに屈服すること、それ即ちこの世界への降伏である!」

 

途中どうしても台詞が思い浮かばずに黒のランサーの台詞をパクって、そのクセ短い。 というか勢いで言ったから意味なんてろくすっぽ考えてねぇ。 揚げ足を取られたり『何言ってんだアイツ』扱いされたらジ・エンドじゃねぇか。 こんなのでマトモに付いてくる奴なんているのか?

だが、出来ることはやった。 反応が返ってくる前にとっとと退散するか。

 

………ところでホルンカ(次の町)あるのってどっちの方角だ?

取り敢えず適当に西に進むか。 丁度向いてた方角が西だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――とまあ、そんなこんなでざっと一時間後。

奇跡的に方角は合っていたらしく、諦めずに声かけを続けていたらしく後から来たクラインには特にツッコまれなかった。

さて、今は、将来的に風林火山のギルメンになる人たちを待っているところだが、丁度いい。 記憶を思い返す時間とするか。 覚えている範囲の知識を確認しよう。

先ずは死者の出るイベント。 第一層のフロアボス。 原因は確かβ版との情報の違い。 後は第七十五層のボス戦とラフコフ戦と………クリスマス系のイベントで何かあったっけか? 一瞬クリスマスソングが脳裏を過った気がしたが。

ALOとGGOの件は一旦保留。 特にALOはアインクラッド時点で手を出せる事はない。

次いでモンスター。 雑魚のデータは兎も角、劇中で明確に描かれたボスモンスターは、『イルファング・ザ・コボルトロード』、『ザ・グリームアイズ』、『ザ・スカルリーパー』、後一層地下の隠しダンジョンの死神、計四種。 やはり今一番警戒すべきは直近のコボルトロードか。 レイドを率いていたあの男(名前忘れた)、はて、どう救うか……

 

思考を巡らせている間にメンバーが集まったのか、複数人の足音が聞こえる。 チラリと横目で見るが、

――集まったのは、10人ちょい程度の人数だった。

 

………失敗、か。 正しく道化だな。

フッと片頬だけで皮肉気に笑う。 ま、所詮は一般人だという事か。 むしろ安心したな。

 

 

さて。 幾らか肩の荷が降りた、というか肩透かしを喰らった気分とは言えど、後の風林火山のメンバーを減らす訳にはゆかぬ。

この初陣にて俺が磨いた護国――国ではないな。 護りの槍、試してみるとしよう。

 

 

「――ではクライン。 道案内を頼むぞ」

 

「おうよ! 行くぞ、テメェら!」

 

 

――薄暗い草原に一歩、戦士が足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……後々、「この時の自分をブン殴りたい」とヴラドに思い出させる行軍が、始まった。

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