串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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30 絶剣無双

 

 

 

 

 

「――ねえアスナ。 私最近言ってみたい言葉があるのよ」

 

「へー。 どんなどんな? 聞くから言ってみなさいよ」

 

「それじゃあ、早速――」

 

ジメジメとした水気の多い大地に沼が点在する、まさに『ザ・湿地帯』なフィールド。

今にも超巨大なカエルでも出現しそうなそんな場所で、水色の髪と青味がかった黒髪の少女二人組は和気藹々としていた(・・・・)会話とは裏腹に、それぞれの脚で土を蹴りながら走って(・・・)いた。

 

 

 

 

 

「――不幸だっっ!!」

 

「私の台詞よバカフーイ!」

 

絶叫する二人が通り過ぎた地面を、上空から降る幾つもの火球が焼いていく。

表面に生える苔の様な植物が、仮根で張り付いていた地面に染み込んだ水ごと蒸発する音に更にスピードのギアを上げながら、並走する長身の外見のみ美女に向けて叫ぶ。

 

「ほら最初に相手切ったの貴女でしょ!? 誠心誠意焼かれてきなさいよ! ていうかSTR型の貴女がなんで私に着いてこれるのよ!?」

 

「気合と根性! 死なば諸共よぉ!」

 

「ホント貴女って人は! ホント貴女って人は!!」

 

事が始まった時点で不幸の嵐だった。

キャラ作成後にバグり、二人揃っていきなりフィールドに投げ出されたり――これは合流の手間が省けたからまだマシ――するわ、「現在地も分かんないし、取り敢えずパッケージに描かれてたのと同じあのそれっぽいの目指そう」と世界樹に向けて移動を始めれば全身真っ赤なパーティーに襲われるわ、如何にか撃退したと思ったら魔法で上から爆撃されるわ。 しかも私のアバターが殆ど変わってないのに比べて、ピトフーイのアバターは長身系になってるし。 ああもう今日は厄日よ!

 

「よし、こうなったら!」

 

「お、アスナ。 なんか思い付いた!?」

 

「空を飛んでいる相手を斃すには、私たちも飛ぶ必要があるわ。 でも私たちは飛び方を知らない。

つまり何方かがもう片方を打ち上げればいいのよ!」

 

「ナルホド! じゃ、アスナ。 ゴー!」

 

「は? 身長低くて飛ばしやすそうな貴女が逝きなさいよ」

 

「残念今は私の方が背が高いでーす!」

 

「なんでよ!」

 

アバターはランダム生成なので仕方がないと諦めるしかないので、八つ当たりで脳内の須郷をスタースプラッシュで蜂の巣にして溜飲を下げつつ、かなり絶望的なこの状況の打開策を考える。

 

さっきも言った通り、空を飛ぶ(三次元機動をする)相手にただ地面を走るだけ(二次元機動)では勝負にならない。 投擲武器を主軸に置いていたらしいレジェンドブレイブスのギルドリーダーとかならまだ話が違ったかもしれないけれど、無い物ねだりをしても仕方がない。

とすると、如何にかして相手を引き摺り降ろす必要が出て来る。 最初の襲撃時は相手も歩きだったことから、おそらく空を飛び続けるには何らかのデメリットが存在するのだろう。

問題は、どれくらいの間この爆撃を避け続けなければいけないかだ。 数分ならまだいいけれど、流石に数十分、数時間となれば無理がある。 或いは魔法を撃つのに必要だろうと思われるMPゲージが空になるのを待つのもいいけれど、どちらにせよ何時になるやら。

 

いざとなれば冗談抜きでピトフーイに打ち上げてもらい、強引且つ初見な空中戦に挑む覚悟を決めながらも走り続ける。 幸いな事に所謂『スタミナ』の類は設定されていないようなので、まだ脚は動く。

 

「一先ず目の前の山に登るわよ! 洞窟かなにかあれば、」

 

「まだ()りようがあるね!」

 

理由に関して思う所はあれど結果としては散々走ったからか、遠くに見える世界樹らしき巨木までの道を遮る山脈は目の前まで迫っていた。 傾斜は断崖絶壁でこそあるが、アインクラッドではシステム外スキルとして普通に壁走り(ウォールラン)があったから苦もなく駆け上がれるだろう。

 

相手は此方がスピードを落とすと思っていたらしく、集中砲火が緩んだ一瞬の隙を突いて湿地と岩肌の境界線をジャンプで超え、そのまま真っ直ぐ上に走り抜ける。 一ミリたりとも心配などしていないが念の為横目で隣の毒鳥の様子を伺えば、脳筋ギルドのメンバーらしく爪先を岩肌に叩き込んで足場の確保と跳躍を同時に行っていた。 そんなことばっかりやってるから人外認定されている事実に彼らは何時気が付くのだろうか。 それと私はここまで人間辞めていない。

 

すぐさま先程同様火の玉が降り注ぐ。 流石に真上に向けて走りながら蛇行で狙いを振り切る様な事は出来ず何度か掠るが、幸運にも中腹に巨大な洞窟が開いていたことであっさり逃げ切れた。 入り口周囲には人工的な装飾も飾られていたし、多分登り方以外は正規ルートなんでしょうね。

 

「はー。 走った走った!」

 

「貴女ねぇ。 ……もういいわ。 何言っても無駄な気がしてきた」

 

最後に入口を直撃した火球の爆風を受け流して、擬似的に感じる疲れのままに仰向けにひっくり返る。 天井までの高さを一瞥して確認し、万が一追って来たとしてもリーチ内であることを確認して――妙な静けさに気が付いた。

 

「……ねえピト。 なんか静かじゃないかしら?」

 

「? あー、言われてみれば確かにそうね」

 

追って来ないのは素直にありがたいけれど、だからといってあのプレイヤーたちの羽が発する金属質な音までいきなり聞こえなくなるものだろうか。

違和感に言及し始めたら、見るからにペラペラな初期装備二人をあそこまで徹底して追うのか? 数人屠った後の爆撃は兎も角、そもそも最初の地上戦では相手は明らかに舐めきっていたのに。 ゲームには初心者狩りなるプレイヤーもいるらしいからそこまで不自然ではないけれど。

気になって、右手でピト(肉壁)を引き摺って洞窟の外の様子を覗いて見れば、そこには誰もおらず。 さっきまで自分たちを追い回していた赤いプレイヤーたちは影も形も見当たらなかった。

……転移系アイテムか何かで帰ったのかしら?

 

何か釈然としないものを感じながらも、危機は脱したのなら先に進もう。 そう決めて洞窟の奥に進もうと一歩踏み出すと、突然左肩(・・)を叩かれた。 反射的に振り返るも、誰もいない。

 

「……ちょっとピト。 用があるなら普通に――」

 

「何よいきなり?」

 

こんな悪戯をするのは一人だけ。 真っ先に犯人に当たりを付けて注意すれば、返事は右側(・・)から返ってきた。 当然だ。 盾にしようとガッチリ腕を掴んでいるのだから。

 

……じゃあ、今のは、誰?

 

「ひっ――」

 

背筋が凍る。 弄られるのが嫌で悲鳴は気合で押し殺したが、一瞬で思い付いてしまった苦手なもの(オバケ)の想像までは殺せず血の気が引く。 尤もそういうモノに異常に鼻が効くピトには無駄な足掻きだった様で、「私、メリーさん。 今あなたの隣に」などとほざきかけていた。

殴ってでも止める。 止めても殴る。 寧ろ半殺しにするまで殴る。 恐怖心を誤魔化す為の贄になれと気合を込めて左拳を振り上げ――

 

再度肩を叩く手(・・・・・)によって止められた。

 

「ぴぃっ!?」

 

驚きのあまり思わず後ろに向けてピトをブン投げ、剣を引き抜く。 頼りなさ過ぎる剣の柄に縋りながら周囲を警戒するも、壁に背中を打ち付けて文句を垂らす毒鳥以外やっぱり誰もいない。

今度こそ気が遠くなり、あわやアミュスフィアの安全装置が働きそうになる、その直前。

 

「――ゴメンゴメン! ボク(・・)もそこまで驚かす気はなかったんだよ。 だからログアウトするのはまだ待って!?」

 

真っ赤なヘアバンドを闇色の髪に巻いた少女が突然現れて、意識を引き留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

如何にかアスナを復活させてから数分。 漸く私たちは、ほぼ勢いで飛び込んだこの世界で漸く話の通じそうな相手に会うことが出来た。

正直に言えば、ビビりまくっていたアスナちゃんとは違って私は誰かが隠れていたのには気が付いていたけど。 まあアスナちゃんの反応があんなに面白かったのが悪いね! ……あの子の気配の隠し方が隠蔽スキル全開にしたときのアイツ(ヴラド)に似てたのも、敢えて言わなかった理由の一つだけど。

 

 

閑話休題(まあその辺りの事はおいおい聞くとして)

 

 

未だに可愛らしく震えて私の影に隠れているアスナちゃんに愉悦を感じながら、目の前の謎の少女に話かける。

 

「それじゃ、質問タイムの始まり始まりー!」

 

「イェーイ!」

 

少しテンションを上げていけば、以外と乗ってくれる少女に内心驚く。 DKのメンツはユナを除けば以外とこういうノリが悪かったのよね。 ボケてもツッコんでくれたの最初の頃だけだったし。

 

「私はピトフーイで、このビビリっ娘がアスナ!」

 

「誰がビビりっ娘よ! ゴホン!

初めまして。 アスナと言います」

 

「ピトフーイにアスナだね! 初めまして! ボクの名前はユウキ! よろしくね!」

 

元気という概念を具現化したような笑顔の少女――ユウキは、私が差し出した手をあっさりと掴んで握手に応える。

 

「それにしても凄かったね、さっきの!」

 

「ん? あぁ、アスナちゃんの反応? この娘ホラー系全般ダメでねぇ」

 

DKギルド本部ですらビビって一度しか来なかったくらいだし。 まあ私らも結構怖くて改築しまくったんだけどね。 何故にあの吸血鬼はケロッとしていたのやら。

「なな何言ってるのよ!? 全然平気よ! 後その言い方辞めなさい!」と説得力ゼロの訂正を試みるアスナちゃんをスルーしつつ、もしやこの子もまた愉悦の何たるかの理解者かとテンションを更に上げていると、ユウキ本人から「あ、そっちじゃなくて」とツッコまれる。

 

「さっきの壁走り(・・・)だよ! ねえあれってどこまで行けるの?!」

 

「……ふぇ? え、まさか見てた?」

 

「うん、バッチリ!」

 

予想斜め上を通り過ぎた台詞に、一瞬思考が止まった。

壁走り(ウォールラン)は見た目こそ派手だけれど、あくまで小技の域を出ない。 アインクラッドではそもそも壁走りが必要な程高さのあるフィールドはなかったし、何かしらの事情で高所に登る必要があったとしても、フィールドギミックで登る事が出来た。 一言で言ってしまえば『無くても困らないテク』。

しかもその割には難易度は高く、要求ステータス値も高い。 それに体力の消耗も激しい。 壁走りが出来る程のステータスなら素直に跳んだ方が余程安定する。 総評、ロマン技。

つまり何が言いたいかと言えば、この技が出来るということは、壁走りにロマンを感じてそればかり練習した変人か、そんないつ使うか分からない技を簡単にものに出来る程の実力者か。 しかもここはそんな技を使わずとも飛べるALO。 もっと便利でお手軽な方法があるのなら、そもそもそんな技の発想すらないのが予想出来る。

必然的に、後者の『実力者』に当て嵌まるけれど……

 

「真上なら体力の続く限り、横向きはざっと100メートルってとこかしら」

 

私は誤魔化さず、普通に答えた。 実力と装備が釣り合ってないのは、この間まで別のVRMMOをやっていてALOは始めたばかりで説明が付く。 流石にその『別のVRMMO』がSAOだと知られたら騒ぎになりそうだけど、隠すべきなのはその程度だろう。

 

「おー! ちょっとやってみよっと!」

 

という訳で私の記録を伝えれば、目をキラキラさせながら洞窟の壁で練習し始めた。

そんなユウキの姿に自分自身の練習を思い返していると、彼女が少し離れた事で話が一区切りついたと判断したらしいアスナちゃんが小声で呟く。

 

「ちょっとピト。 まさかあの人、巻き込む気?」

 

「はっはっは、まっさかー。 世界樹まで案内して貰うだけよ。 そこまでは行けなくても大まかな道は分かるでしょうし。

それに旅は道連れって言うじゃない。 きっといい事あるわよ」

 

「……もう、勝手にして」

 

諦めた様に項垂れるアスナ。

まあいいじゃん。 道中アスナの悲鳴で賑やかなのはいい事だよ。

 

 

 

……でも私のメンタルにまで攻撃仕掛けてくるのは予想外だったなぁ! なんで五分と掛からずに壁走り出来るようになってるの?! アスナちゃんでも数日掛かったのに!

 

 

 

 

 

 

 









次回予告

皆の者、久しいな。 此処くらいにしか出番の無くなったヴラドである。 尤も余が居たとて死体撃ちにしかならぬ事は容易に想像可能であり、余が離れる事でジャックが動き易くなるなら是非もないのだが。
まあよい、互いにこの後多忙になる事が確約されている身故、手早く済ませるとしよう。
次回予告である!

ユウキと一時合流する事に成功したアスナとピトフーイ。 危なげなくアルンには辿り着くが、果たして世界樹攻略を阻む敵を二人で打ち倒す事は可能なのか?

――何せ、最低でも『白百合の騎士』、『霧夜の殺人鬼』、『絶剣』の三人の行手を阻む程の難易度なのだから。


次回、『雷光の名を棄てたモノ』。

……はて、雷光の名とな? あの魔がミノス王の牛として現界した姿など存在したか(・・・・・)





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