串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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33話 序列第五位、現る 前編

 

 

 

 

 

――何処までも青い空。

時折この景色が現か仮想の物か分からなくなる程澄み渡る天蓋。 その端を、背中に羽根の生えた人型の一団が飛んでいる事実が、この場が己の腕が全ての世界(アインクラッド)ではなく、妖精の世界(アルヴヘイム)だと実感する。

後付けで設置された長テーブル、その手前側の椅子にそわそわと落ち着かない様子で座っている領主と、自分の隣でバタフライナイフを弄っている脱領者(レネゲイド)にして猫妖精(ケットシー)切り札(ジョーカー)。 そして肝心の竜にこそ跨っていないとはいえ、上位数パーセントに食い込む猛者揃いの竜騎士(ドラグーン)が片手で数人、領主の背後で直立不動を貫く。

ALOに慣れろとの名目で、空中戦縛りとはいえ自分をボッコボコに打ちのめした――まあ約一名には地上戦でも勝てるビジョンが未だ浮かばないけど――面子が一、二人混ざってるから言えるが、この一団だけで旧アインクラッドの勢力図が大幅に書き換わると予測出来るだけの戦力。 それが行儀良く待機して出迎えた相手は、これまた雰囲気だけである程度以上の強者だと分かる、エメラルドカラーの翼を供える面々だった。

 

半径十数メートルの台地、その端に着地した集団の内、深緑の直毛を一本に纏めて背に垂らした女性は、他のメンバーが止める間もなくずんずんと真っ直ぐ長テーブルまで歩み寄る。

そして、――

 

 

「――久し振りー! 元気してたかナー!」

 

「ははは。 そちらは相変わらずのようで安心したぞ」

 

……アリシャとその女性が抱き合った。 それはもう、フィクションの外人がハグするよりも強烈に。

 

「……あの、ジャックさん? あれは、」

 

「慣れて下さい、とは言いませんが流して下さい。 アリシャ・ルー()少々大胆なので。

いえ、本質は結局のところ二重の意味で白百合なのですが」

 

若干死んだ目をしながら、最低限のフォローを試みるジャック。 ぶっちゃけその辺りはライブ活動時(猫被ってる時)以外のピトが普通に男女問わずちょっかい出しているのを知ってるだけに、というか特に思う所はないけれど。

 

それは兎も角、それなりに前からこの会談、ケットシーとシルフの同盟の話は持ち上がっていたらしく、領主どうしの仲の良さもあってアリシャ・ルーとサクヤ(シルフ領主)を中心にそれぞれの軍務担当を巻き込みながらトントン拍子に話が進んでいく。

 

スプリガンのオレの立ち位置としては、ケットシー側が雇った傭兵という事になっているらしい。 なんでもケットシーが多種族を取り込むのはよくある話だそうで。 けれど種族間競争の激しいALO、領主殺しのメリットが大きい以上、無名の傭兵と、嘗ての切り裂き魔はあまり歓迎されていないらしく。

 

「――あたしはリーファ。 よろしくね」

 

「……ジャックです。 こちらはノーチラス」

 

「え? この子が本当にあの……?」

 

直接そうだとは言われなかったけれど見張りが、それもあれだけの強さを持つジャックが、僅かとはいえ普段からは考え付かない程反応する相手が付いた。

ただ、警戒云々は向こうもしているらしく、注意は専らジャックに向けられている。 尤も直ぐさま戦闘に突入し兼ねないほど剣呑な空気ではなく、ジャックは分からないけれど、リーファからは困惑を感じた。

SAO時代の経験則からこの手のトップ同士の会談はけっこう長引くものだと知ってるし、この人とも共同戦線を張るだろうと考えれば、あまり緊張感漂う状況というのはよくないな。 感情を隠し難いVRゲーなのに無表情を貫けるジャックは何を考えてるか予想がつかないし、話し掛けるならリーファと名乗った少女か。

とは言え、どう切り出したものか。 反応を見るにジャックについて何かしら知ってるようだし、共通の話題なんてそれと世界樹くらいだろう。 ……ALOのヴラド(人外枠)が打ち立てた伝説に個人的興味があるのは否定出来ないけれど。

 

「リーファさん。 ジャックさんを見て何を言いかけていたんですか?」

 

「? あー、きみってもしかして初心者? えっと、ケットシーのジャックといえば――」

 

気さく、というか大らかな性格なのか、或いはあちらもこの空気をどうにかしようとしていたのか、すぐに話に乗ってきた。 話題の中心人物は無反応だったけど。

……尤も、内容は予め聞いていたものよりかなり凄まじいものだった。

 

「――ALO序列第二位。 ケットシー最後の切り札で、制御不能のアサシン(暗殺者)。 付いた異名はプレイヤーネームの『ジャック』もあって、」

 

チラリと、目を閉じて聞いているのか聞き流しているのか察する事の出来ない外見は可愛らしい幼女(中身は怪物の従者)に目を向るリーファ。 反応が無いのを確認してから、まるで怪談でも話す様な声色で、こう告げた。

 

 

 

「――『切り裂きジャック』」

 

 

――告げられたその名。

それは世界的に有名な殺人鬼にして、今尚正体不明であり続けているホワイトチャペルマーダー。 成る程、夜の王(ノーライフキング)の従者には相応しい異名だろう。

思わず沈黙を貫いている銀髪に目を向ければ、漸く溜息混じりに反応を示した。

 

「ALO序列の第一位から第五位までは全員に異名がつけられています。 勿論序列とは関係無しに渾名が流行っているプレイヤーもいますが、トップ五名はその戦闘スタイルから異名が名付けられているのです。

私の場合は武装と、辻斬りしていた頃に長期間顔を見られなかった(正体不明であり続けた)からでしょうね」

 

「はぁ……」

 

如何にもな返事に、言葉に詰まってしまう。 ここまで来ると逆に、一体どんな経緯でジャックがその正体が暴かれたのか気になってくる。 ジャックさんが第二位であるなら、おそらく暴いたのは第一位なのだろうけど――

 

……第一位って、どんなバケモノなんだ?!

 

考えてみよう。 基準はヴラドに匹敵する実力を持つジャック、とはいえこの人の本質は不意打ちやらを主体とするアサシン。 目の前にいるのに存在感を感じられなかった程の気配遮断のエゲツなさは、ジャックとの初戦、その直後に思い知っている。 つまり第一位の人は、ジャックの完全な不意打ちを防ぎ切り、尚且つ正面戦闘でも勝利を収められた人となる。

うん、紛う事無きバケモノだ。 ヒースクリフが霞んで見える。

 

騎士系魔王と悪魔系騎士と比較して尚想像すら出来ない強さを持つだろう第一位に顔色を無くしてしまう。

 

「ち、因みに、その人の異名は……?」

 

「あの人の異名は――」

 

ジャックがその小さな口を開きかけて――突如、そのまま固まる。

 

形の良い眉を僅かに歪め、首を傾げる幼き銀髪。 不審に思い話しかけようとして、

 

「――チッ、まだ合流前なのに。

各員戦闘準備! 敵数六十強! ルー、指揮は任せます!」

 

「あいヨー!」

 

ナイフを逆手に引き抜くとそのまま透き通る様に消える姿。 直前に発せられた警報に、しかし領主は明確に反応してみせた。

 

「戦闘準備って、敵って事ですか!?」

 

「まぁネ! 今こっちでも捕捉した!」

 

連れの竜騎士隊とシルフの護衛部隊が次々と白刃を晒す中、じっと一点を睨む領主の視線の先には、赤黒い、乾いた血溜まりの様な一団が見えた。

まだ距離があるように見えるが、此方が察知したことに気が付いたのだろう。 彼方の先頭も重圧感のあるランスを抜き放った。 赤い鎧に赤い翼。 シルフとは犬猿の仲のサラマンダーか!

三種の妖精が得物を手に睨み合い――

 

 

 

 

 

「――待て」

 

不自然な程よく通る声に、サラマンダー側からの殺気が弱まる。

急に霧散した威圧感に戸惑っていると、赤い一団が中央で上下左右に分かれる。 重鎧の集団の通路を悠々と通って現れたのは、たった一人の男だった。

それは、明らかに戦士だと分かる男。

全身を隙間無く覆う金属鎧で赤い眼以外の特徴は見て取れないけれど、その身から漂う自負と余裕は、それだけで並大抵の剣士ではないと分かる。

背には、比較的細身の黒い両手剣。

 

「……サラマンダーのユージーン将軍か。 一体何の用だ?」

 

サクヤが低い声で訪ねる。 一対一は打ち合ってみないことには分からないけれど、数では圧倒的に不利だ。 それに、此処には二種族の領主がいる。 今の所問答無用で攻めてくる様子は無さそうだから、出来る事なら話し合いで事を収めようとしたのだろう。

 

「我々サラマンダーの要求は、シルフ、ケットシー領が保有する資金、その四割だ」

 

「四割!? 貴様、巫山戯ているのか?!」

 

太めの男の言葉に、竜騎士の一人が吠える。 けれど男は怯みもせず、ただ淡々と続けた。

 

「巫山戯てなどいない。 俺たちサラマンダーが世界樹上の空中庭園に辿り着いた暁には、希望者にはアップデート五・〇のシステムを用いることを約束する」

 

……アップデート五・〇?

聞きなれない言葉に首を傾げると、隣にいたリーファが「転生システムが実装されるって噂があるんだよ」と補足してくれた。 何でも、膨大なユルドと転生先の種族領主の許があれば、他種族へ転生する事が可能になるとのこと。 つまり、どれか一種族がアルフに成り上がる事が出来さえすれば、理屈上は全てのプレイヤーの飛行制限を取り払う事が可能なのだ。

 

「……どうだろうか。 あまり武力的な手段は取りたくないのだが」

 

いっそ謙虚であるとすら感じる程の声色で言い放つ男。

聞く限り、悪くない話に思える。 そもそも世界樹上に空中都市があるのかすら疑わしい点を除けば、組織単位では最も戦力があるサラマンダーが攻略最有候補だろう。

 

――静寂が包む会談会場。 若干の浮つきがある空気を引き締めたのは、ハッキリと拒絶を示した、カリスマある二人の領主だった。

 

「――断るヨ」

 

「……何故かと訊いても?」

 

「簡単だ。 そもそも、サラマンダーが約束を守る保証がない。 それに、本気で交渉する気ならその部隊は大掛かり過ぎるし、メッセージを使えばいい。 それでは交渉ではなく脅迫だ」

 

「……確かに」

 

油断も容赦もなく、刀とレイピアの切先が男に向けられる。

 

「それに、この会談は秘密裏に計画されていたんだヨ。 その場にサラマンダーの大部隊が現れた時点で、もう怪しさしかないのサ」

 

黙々と、二人の指摘を受けるユージーン。 周囲のサラマンダーは殺気立ち始めているが、中央の男は微動だにしない。

 

暫くして、漸く動いたユージーンは、傍にいたサラマンダーのプレイヤーの方へ顔を向けて尋ねた。

 

「……お前ならどうする」

 

 

 

 

 

「――単純明快。 己の思うままに振る舞い、舞いましょう」

 

――それを合図にしたのだろう。

その瞬間、銀色の風が一つ。 赤い空に白い線を引いた。

続いて、悲鳴、絶叫。 線を引かれた――いや、鎧の隙間に沿って切り裂かれたサラマンダーたちが、腕を、足を、首を落としていく。

唯一度も視認を許さず。 刃の煌めきと血飛沫(ダメージエフェクト)のみが、その特異な技術を証明する。 こんな芸当が出来るのは、オレの知る限り一人だけ。

 

「……これが、第二位。 『切り裂きジャック』」

 

ものの数秒でサラマンダー部隊の二割を三枚に下ろしてのけた切り裂き魔。 早々に決着を付けるつもりなのか、敢えて敵陣のど真ん中で姿を晒したジャックは、ユージーンへ一騎打ちを仕掛けた。

 

――だが、オレは一つ失念していた。

序列とは、なにも絶対の実力順位ではない。

浮遊城の狂王ですら、土を付けられたことがあったという事を。

 

 

――肉を断つ音も、或いは叫びも響かず。 予想に反し鳴った音は、鋭い金属音でしかなく。

二振りの刃は、一瞬で抜き放たれた細身の剣によって防がれていた。

 

「なっ!?」

 

動きが、見えなかった。 剣を抜き、ナイフの軌道に添える、その一連の動きが。

いや、それは最悪どうでもいい。 問題なのは、他のサラマンダーが対応出来ていなかった一閃を真面に受け止める事が出来る実力者がいるという事だ。

 

裂帛の気合と共に小さな身体を弾き飛ばすユージーン。 ジャックもその程度ではダメージこそ受けないにしろ、仕切り直しも兼ねて大人しく距離を離していた。

 

「なあ、彼奴は一体何者なんだ!?」

 

「序列第五位のユージーン将軍だヨ。 異名は『魔剣使い』。 確認されている限りサーバーに十本ないレジェンダリーウェポン(伝説級武器)の内の一本、『バルムンク』の使い手!」

 

十メートル程の間合いを空けて睨み合う二人。 ヴラドがヒースクリフとの戦闘で主武器を折られた後に四苦八苦しているのを間近で見ていただけに武器のスペックの重要性は実感がある。 序列的にジャックが勝ちそうなものだけれど、DEX型のジャックが速攻を仕掛けない辺り、決着には時間が掛かるだろう。

それに、問題はそれだけじゃない。 十数人がリメインライトに還っているとはいえ、自陣の四倍弱の敵がまだ残っているのだ。

 

……こうなったら、一点突破で領主だけでも逃すか? 単騎での世界樹攻略が現実的ではないのは散々聞かされた以上、武器兵力を動かせる二人を優先して守るのが最短コース。 なら、オレのやる事は決まっている。

覚悟を決め、ルーに作戦を伝えようと警戒しながら近付き――

 

 

 

 

 

 

「―――ァァァあああああああ!?!」

 

「な、なんだ!? うわっ!?」

 

……次の瞬間、また覚悟を台無しにされた気がした。

北東方面から降ってきた黒い物体は、その情けない空気摩擦音(ただの叫び)を撒き散らしながらユージーンに直撃。 根はいい人らしいユージーンは咄嗟に剣を逆手に持って受け止め、受け止めきれずに諸共落下した。

台地の中腹に墜落、派手に上がる土煙。 爆音に痛む耳に届いたやり取りは、相変わらず精神も痛めた。

 

 

「ちょ、アスナ(・・・)、ステイ! ステイ! ピト(・・)が死んじゃうって!?」

 

「大丈夫よ、アレは殺した程度じゃ死なないわ!」

 

「だからっていきなりブン投げるヤツがあるかーッ!!」

 

「ぐふぅ」という野太い悲鳴を置き去りに一直線に上昇する黒い女性。 その先に浮かんでいた青い髪の女性とギャースカ言い争う。 間に挟まれた少女には悪いけど、あれでは一分と経たず斬り合いになるだろう。

取り敢えず着地台兼踏台と化した哀れなユージーン将軍に合掌し、唖然とする三種族に代わってツッこむことにした。

 

「――お前ら何やってんだよ!?!」

 

ウチのバカ(ピトフーイ)他所の人(アスナ)がご迷惑をおかけしました。 いやホントに。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

――その後、彼女と一緒にいたユウキという少女に手伝ってもらい、どうにかピトとアスナの決闘は回避した。

未だ騒ぐ気満々だった外見が様変わりしたピトを黙らせ(物理)、その光景に天使の様に微笑んでいたアスナ(愉悦部(本人は否定))に背筋を震わせる頃には、サラマンダーの数以外は襲撃開始直後の状況まで戻っていた。

とはいえサラマンダーは未だ諦めるつもりは無いのか、再び気配を消したジャックを警戒して防御を堅めてこそいるものの撤退する様子はない。 ユージーンが完全に復帰すれば、再び戦端は開かれるだろう。 膠着状態に陥ってる今のうちに二人と情報を共有して、サラマンダーを撃退するしかない。

 

さてどうするかと、SAO時代はエム時々ヴラドに丸投げしてた作戦立案に思考を巡らせる。 サラマンダー部隊の相手のみであれば、戦力としては間違い無く一級品の『閃光』と『毒鳥』なら何とかなるだろう。 とするとやはり最大の障害はユージーンとなるが……

 

「――少々宜しいでしょうか」

 

「ッ!? じ、ジャックさん?」

 

悩んでいると、ジャックの幼い躰がオレの背後、丁度サラマンダーからは死角になる場所に現れる。

相変わらず一切の気配を察知させないその手際に戦慄していると、ジャックがその先を口にする。

 

「私がサラマンダー部隊を殲滅します。 それまでの間、貴方達三人でユージーンを引き受けて下さい」

 

「ゆ、ユージーンを!? やってはみるけど、勝てる保証はないぞ」

 

「御心配無く。 絶対に倒す必要はありませんから」

 

どういうつもりか、何か考えがあるのかと訊こうにも、その頃には当然のように姿が消えていた。

 

「……まったく、主従揃って一言足りない連中だ!」

 

疑問はある。 不安もある。 けれど立ち止まる暇は無い。

ユージーンも復活したのか、サラマンダー部隊からは再び殺気が立ち昇り始めている。

 

「ピトフーイ! アスナ! 真ん中のデカいのをやるぞ!」

 

 

――正眼に両手剣を構えるユージーン。

一も二もなく飛び掛かる二人の背を見送りながら、抜剣した片手剣を『ソニックリープ』の型に構えて突っ込んだ――

 

 

 

 

 

 

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