串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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34話 序列第五位、現る 後編

 

 

 

 

 

「――初撃は貰ったぁっ!」

 

遠心力を味方に付ける様に、円を描く横殴りの起動で大剣の刃がユージーンに振られる。 敢えて一歩遅らせた細剣の切先は、何の合図が無くとも敵の退路を串刺す位置に着く。

 

性格的には最悪の相性である『閃光』と『毒鳥』。

だがその実、いざ戦闘となれば『神聖剣』と『吸血鬼』同様相性が良いのがあの二人だ。 まあアスナは断固として認めないが。

不安といえば、この二人が空中戦に順応出来るのだろうかという不安があったが、これを見る限り杞憂だろう。 強いて挙げれば、アスナのリニアーの踏み込みが足りないくらいだろうか?

身体に染み付き、アシスト無しでも再現可能なソードスキルの軌道をズラし、万が一に備える。 ピトの一撃を避ければアスナの攻撃が、それさえ防ぐならば死角からの一撃で。

これを攻略するなら、それこそヒースクリフ並みの防御力かヴラド並みの火力が必要だろう。 それ程までに完全に噛み合った、必殺の布陣。

 

 

 

――だが。

 

鈍い金属音が響き、されどその体躯は動かない。 剣の腹で真っ向からピトフーイの一閃を受けたユージーンは、今度は吹き飛ばされる事なく踏み留まった。

ここまでは予想出来た。 当然、軌道を修正。

レイピアが喉元に差し込まれ、しかし、

 

「ハァッ!」

 

跳ね上げた剣で以ってその切先を打ち上げられる。 鍔でピトフーイの剣を弾くオマケ付きだ。 尤もただでは転ばない二人は同時に蹴りを入れ、オレの間合いにユージーンを押し込む。

 

まずは一撃!

気合いと共に剣を振り下ろす。 体勢の崩れたユージーンの背に吸い込まれ――

 

「っ!?」

 

――この一撃すら、剣で防がれた。

動揺している間に弾き飛ばされ、後退を余儀なくされる。 間髪入れずにアスナが突きを放つ。

しかし『閃光』の由来たる突きですら、細身の両手剣が一瞬叩いただけで逸らされる。 アスナは相当驚愕しているが、無理もない。 近付く小さな点(突き技)を弾いて防ぐのは、それだけ難しいのだ。 一度なら兎も角、今のは確実に狙ってやっただろう。

この事実に、さっき一瞬刃を交えた感覚から予想出来るスペックは、……パワーはピト並、アキュラシー(正確性)はアスナに比肩、剣を振るスピードは二人以上とかいうトンデモ剣士である。 ウソだろ?

 

思わず運命を呪いかけるも、バグった強さを持つ連中の戦いに踏み込んでいる以上そんな暇は無い。 片手で大剣の柄を握ったピトが剣の腹で殴り掛かる。 当然これも防がれるが、直後に反対の腹を蹴り付けて威力を上げた一撃に僅かに後退った。

ピトへの防御に集中している今なら、防ぎようがない。 そう判断して加速、鎧兜の隙間がある首元に刃を滑り込ませ、

次の瞬間、手首に不自然な負荷が掛かると同時に世界がひっくり返った。

 

三半規管が揺さ振られる感覚に気分を悪くしながらも必死に目を開いて追ってみれば、どうやらオレの攻撃を直前に察知したユージーンが鍔迫り合い中の剣を軸に、やたらアクロバティックな動きで避けようとしたらしい。 中途半端に刃が引っ掛かった所為で振り回された挙句に振り回されたようだ。

空中戦である事が幸いし、強引に体勢を立て直す事に成功する。

その僅かな間に、剣が通じ難い事を察して寧ろ嬉々として両手剣の間合いの内側に入り込んだ(武器を放ってインファイトに興じる)ピトと、ピトなら幾らでもFF(同士討ち)しても構わないとスター・スプラッシュを発動させるアスナ。

相手に欠けらたりとも攻撃するチャンスを与えず、雨霰と降り注ぐ拳と剣撃。 流石に防ぎきれるものではないと判断したのか、強引に剣を振り絞るユージーン。 一瞬で体力の半分が削れた赤い剣士は、手元で青白い光(・・・・)が瞬き――

 

 

 

 

 

それを認めた瞬間、意図せずとも動きが硬直し、

 

 

オレの目の前を、青白いレーザーの様な物が、焼き尽くした。

 

 

「なっ……!?」

 

久方ぶりに恐怖に固まる身体を強引に動かして見れば、空に浮かんでいるのはユージーンただ一人。 慌ててピト達を探すも空中にリメインライトは無く、地上は爆煙で見えない。

 

――まさか、あの二人がこうも簡単に墜とされたのか!?

認め難い状況に血の気が引く。 振り抜かれた剣に否応無く視線が集中する。

 

 

嘆息したユージーンは、ゆっくりと剣を下ろすと――おもむろに、背負った鞘に収めた。

 

 

「な、何を、」

 

「すまない。 想像以上の実力に、ついエクストラ効果を使ってしまった。 手加減はしてあるから死んではいないと思うが……」

 

その言葉を証明するように、二つの人影が煙を突き抜けて来る。

 

「……何のつもりだ?」

 

二人が無事だったことに安堵しつつも、相手の言葉を信じれば手加減されていた事が不可解で。 隙を探る意図も含めて問えば、ユージーンは数秒程考え込んだ後に口を開いた。

 

「お前達がオレに挑んだ訳が気になってな。 新顔に対世界樹戦の経験をさせるならオレの連れて来た彼らに突っ込ませた筈だ。 第二位と第三位が居るのなら尚更に」

 

そこでユージーンは一旦区切った。

周囲は不自然に静かで――淡々と何かを確認した奴は、完全に戦意を霧散させてから続けた。

 

「用心深いあのジャックの事だ。 何かしらの考えがあっての事だろう。

まだ戦うというのであれば、この剣を抜こう。 所詮我らは領主の命ずるままに武を振るうだけ。

……討たれた仲間たちの仇を取ろうとも思うが、毒霧を相手に拳を振るっても仕方ない」

 

「誰が毒霧ですか、誰が。 というか貴方、また腕を上げましたね?」

 

ユージーンの隣に姿を現したジャックが、発言にツッコミを入れる。

ピトとアスナは「誰アレ?」とハモった後にまた言い争いを始めてしまったので放置して、ジャックに説明を促す。

 

「サラマンダー部隊はこの男を除き、先程殲滅が完了しました。 会談に紛れ込んでいた虫も駆除が済んだので、これでもうモーティマー(サラマンダー領主)の耳目は封じた事になります」

 

「……つまり?」

 

妙に既視感のある、意味の掴み難い言い回しをばっさりカットして結論を急がせる。

何処ぞの狂王そっくりのポーズでわざとらしく溜息を吐いたジャックは、

 

「――ユージーンを世界樹攻略、延いてはSAOサバイバー奪還(・・・・・・・・・・)に協力させます」

 

喧嘩していたピトとアスナすら思わずフリーズするレベルの爆弾発言を、不意打ちで投げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり? あの幼女はホントはAPP18の美少女で? しかもヴラドんトコのメイドで? クズ(須郷)に脅されてるユナのパパンとも協力してここまで来たと」

 

「いくつか言ってない要素が増えてるけど、概ねそうだな」

 

「よしギルティ」

 

「なんでだよ!?」

 

ジャックとアリシャ、サクヤ、ユージーンの四人が何やら話し合っている傍で、合流出来たピトと今更ながらの情報共有を行う。

オレからは、リアルで得た協力者について。

ピトからは、実際に世界樹に挑んだ経験を。

 

「それにしても、残機無限の雑魚とフィールドを作り変える大型ネームドボスの二段構えか。 難しいな」

 

「SAOにも似たようなのはあったけど、だとしても前哨戦の取り巻きは有限で、総数は兎も角一度にポップする数はレイド以下だったし、ボス部屋も変わったギミックは幾つもあったけど部屋を迷宮にするのはいなかったからねぇ」

 

「……つかお前、二人で世界樹登ってどうするつもりだったんだよ?」

 

「…………為せば成る!」

 

「つまり、ノープランだったと」

 

……SAOの頃の様に、ちょくちょく若干の毒を交えながらのやり取りに落ち着く自分がいる。

聞けばエムは昏睡組、ザザとは連絡が取れず、偶然同じ病院に運ばれていたアスナに今回の主犯たる須郷が脅迫した事であれこれ発覚。 殴り込みにいくつもりとのこと。

 

「まったく。 何時もながら無計画というか脳筋というか…… アインクラッドの時の警戒心はどうしたんだよ?」

 

「え? あぁ、それ? うん、もしかしてとは思ってたけど、ノーチラスの話聞いて確信したわ。 あんな回りくどいことするのはヴラドくらいだし」

 

「? どういう意味だよ?」

 

腕を組んで何故かドヤ顔するピト。 ランダムアバターが原因とはいえ抜かされた身長の所為で、地味に見下ろされている事にイラつきながらも答えを促す。

 

「アスナとその話をしてる時、なーんか視線を感じたのよね。 で、もしかして須郷の手先かと思って廊下みたら、お見舞いには似合わないような花木を持ってる女の人がいたのよ。

気になってググってみたら、花の種類は本来この時期には咲かない赤モクレン。 花言葉は、『持続性(そのままでいてほしい)』。

――季節外れの、それも本来病人がいる場所にそんな花言葉を持つのを持って来させるなんて手間のかかる事をするのはアイツくらいよ」

 

ケラケラと笑いながら推測を語る毒鳥。 種類を検索するついでに花言葉も調べるなんて乙女チックな事出来たんだなコイツ、なんて事を考えたが、流石に口には出さない。

漸く話に区切りがついたジャックさんたちが、「お待たせしました」と歩み寄ってきた。

ぼやかしていた部分の事情をユウキに説明していたアスナも戻ってきた事だし。

 

 

 

――さて。 そろそろ反撃といこうか。

オレたちの大切な人を返してもらうぞ、須郷信之!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」

 

走る。

ただひたすらに走る。

雪を蹴飛ばし、白い息を切らし、転びそうになる身体に鞭を打って脚を運ぶ。

 

月を星も無い、天蓋から垂れる氷柱が発する燐光しか光源の無い世界。

羽は使えず、魔法も使えず、武器はあれど自身の実力では満足に扱えず。

 

「五十メートル先のT字路を右です! 頑張って、ママ!」

 

「あ、ありが、せぇ、はぁ、はぁ、」

 

追いかけて来るのは、落っこちて来てしまったこの地下空間で辺りを把握する間もなく出会してしまった、トーテムポールの様な造形の大型モンスター。

彼方も咄嗟の事だったのか先に走り出すことが出来たのと、小さな妖精の姿をしている娘の案内のお陰で生き長らえてはいるけれど……

 

振り向くまでもなく、直ぐ後ろからエンジン音にも聞こえるモンスターの雄叫びが轟く。

もういつ追い付かれ、重機からそのままもぎ取った様な武器を振り下ろされてもおかしくない。 いや、もしかしたら、もうモンスターの間合いに入っていて、いつでも殺せる状況下での追走劇を愉しんでいるのかも――

 

泣き出しそうになるのを堪え、歪む視界の中で雪の塊に躓きそうになるのを必死に避ける。

 

諦めない。 そう誓った。

必ず助ける。 そう決意した。

 

だったら、例えあと数秒の命だったとしても走り続ける。

それくらいしか、私に出来ることはないから。

 

 

けれど。 運命は、どこまでも残酷で。

 

 

曲がり角が見えてきた辺りになって、先を飛ぶユイが叫ぶ。 プレイヤー反応があると。

 

「っ――」

 

「ママ?!」

 

左に曲がる。

世界樹への道ではない。 ただ、咄嗟に見ず知らずの人に擦り付けなんて出来ないと思ってしまったがための行動。

 

 

……私ってば、何してるんだろう。

 

 

遂に集中力が切れたのか、それとも運命か。 雪の中に埋まっていた氷を踏みつけて、転んでしまう。

結果として、私を追い掛けていたモンスターを見上げる形になって――まったく息を切らせず、それどころか笑う様に声を震わせている相手が映る。

私が座り込んでしまったのを見たモンスターは、わざわざ見せつける様に、ゆっくりと武器を振り上げる。

 

「ママッ!」

 

「ユイちゃん、――」

 

私とユイに、無慈悲な鈍い刃が振り下ろされる。

直ぐに降ってくる衝撃に身を縮こませながら、それでもユイだけでも攻撃から逃がそうと手を伸ばして――

 

 

 

 

 

 

 

「――なるほど。 妙に騒がしいと思ったら、こういう訳だったの」

 

爆音。 咆哮。 金属音。

幾つもの音が混じった轟音に、けれど訪れない死に、おそるおそる、目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

――そこに佇んでいたのは、『黄金』だった。

 

金属質な光沢を放つ長めの金髪は二つに纏められ。 鎧は機動性を重視したデザインなのか、所々肌が見える程。

何よりも目を引くのは、真上に柄が突き出る様に両肩に収められた、二振りの双剣(・・)

 

 

『黄金』は余裕ある、自信に満ちた足取りでモンスターがいた筈の場所を通り、通り過ぎる。 どんな方法を使ったのか道の端まで吹き飛ばされたモンスターには一瞥すらしない。

 

そうして目の前まで歩み寄って来た『黄金』は、腰を曲げて私の顔を覗き込む。

 

「あ、あの、」

 

「見ない貌ね。 それに、私に反応しない。

……まあいいわ」

 

一通り睨んで何やら呟くと、顔を上げる。

そして、

 

 

「――危なかったわね。 でももう大丈夫」

 

 

ポンと、私の頭に手を乗せた。

 

「え? えっと…… ありがとう、ございます?」

 

「あら、礼を言うにはまだ早いわよ?」

 

混乱のあまり真っ白になった頭から必死に言葉を絞り出すも、斃されたはずのモンスターが怒号と共に起き上がり、恐怖がぶり返す。

 

なのに、『黄金』はリラックスした空気を崩さない。 モンスターの方を向いてこそいるけれど、両肩にある武器に手を伸ばさない。

 

「に、逃げないと、」

 

「問題ないわ」

 

パチリと指が鳴って――虚空から(・・・・)、剣が、現れた(・・・)

いや、剣だけじゃない。

 

刀が、槌が、鎌が、杖が、薙刀が、

矢が、棍が、斧が、槍が、短刀が。

 

しかも、一口に剣といっても片手直剣だけじゃない。 分かる範囲だけでも、レイピア、サーベル、バスターソード、フランベルジュと、いくつもの武器が、その切先をモンスターへ向けられている。

 

はぐれ(・・・)程度に無駄弾は使いたくないけど、この際それはいいわ。 だから、――」

 

私に背を向けて、腕を組む。 それを合図にして、宙に浮く武器が、

 

 

 

 

「――せめて、その散り様で我を愉しませよ」

 

 

 

 

総数約五十数本。 一本一本がそれぞれ一級プレイヤーの主武装すら超えかねない古代武器級(エンシェントウェポン)が、モンスターの全身を隙間無く貫き、今度こそトドメを刺した。

 

 

 

「……あ、あなたは、一体……?」

 

膨大な体積を持つモンスターがポリゴンへと変換され、広範囲に青い欠片をばら撒く。

その一片一片が光を放って、『黄金』を逆光で包む。

黒い人影としか映らなくなった『黄金』に、赤い瞳が浮かび上がる。

 

 

――はたして、返事は返ってきた。

 

 

 

「私はラン。 レプラコーンのラン。

 

さぁ、そう言う貴女は誰なのかしら? 特異な運命を背負い込んだ妖精さん?」

 

 

 

 

 


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