串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】 作:カリーシュ
「――で、オレたちに会わせたい人って誰なんだよ?」
時は更に半日程流れ、場所は央都アルン。
グランドクエストの門を前に早速挑むのかと思いきや、何故かその場で一時解散。
オレとピト、アスナを除く全員――特にアリシャとユウキには、わざわざ買い物を頼む程徹底して遠ざけた後に切り出した話は、「会ってほしい人がいる」というものだった。
「御心配無く。 世界樹攻略に関して無駄手間ではありませんから。
寧ろ、この作戦の要と言える人物です」
「じゃあなんでわざわざアリシャたちを遠ざけたんだ?」
そう聞けば、視線を逸らすジャック。 聞かれたことには言葉を濁す事はあれど、基本的に即答する彼女らしくない反応だ。
「……それは、その…… 少々二面性が激しい人なので、せめて第一印象くらいは取り繕おうかと……」
別に、ピトとエムを見てれば第一印象くらい当てにならないってよく分かるんだけどな。 神崎エルザとか良い例だろ。
「まあそれはいいとして。 そいつは後どれくらいで着くんだ?」
「さて。 ヨツンヘイムは通り過ぎたと連絡があったので、さして時間はかからないかと」
「……頼む。 もうちょっと分かりやすく言ってくれ」
ヨツンヘイムって何だよ。 さくっと『通り過ぎた』って連絡している辺り、門か何かかと問おうとして、
――嘗て似たものを浴び、けれど全く毛色の違う『王の覇気』が背筋を駆け巡る。
ある意味殺気にも近いその気配がする方向に抜剣しながら振り向けば、そこには佇んでいるだけ――
そう、ただ
「……悪くない。 うん、悪くないわね」
ガチャリと、足回りを覆う具足が一歩踏み出したことで金属音を立てる。 何の変哲も無い、フルプレートの金属鎧特有の音。
だというのに、まるでヴラドのナイフの鞘走りを聞いた様に身が引き締まる。
「でも最良とは言えない。 本気でこれを連れて挑むというのかしら?
「実質貴女単騎でもミノタウロスまでなら突破出来る以上、今更に過ぎる議論です。
――違いますか?第一位『女帝』ラン」
この空気の中、リラックスした態度を崩さないジャックが聞き逃せない一言を言い放つ。
こいつが、第一位!?
ランと呼ばれた女性は此方の剣の間合いまで近付く。 三本もの切先を向けられているのも関わらず、両肩から突き出る柄に触れる気配すら見せず、品定めする様にオレたちを見回す。
やがて満足したのか、溜息交じりに言い放つ。
「いつまで剣を向け続けるつもりなのかしら? そう望むなら消し飛ばしてあげるのも吝かではないのだけれど?」
暗に「今すぐ敵対するつもりはない」と言われ、気迫に忘れかけていたが、この人は世界樹攻略の要と言われた人。 確かに剣を向けたのは不味かったか。
重圧に反応した剣をなんとか鞘に収めると、彼方の覇気もある程度薄まる。 ……第一印象を取り繕ってもこれって、取繕わなかったらどんな性格してるんだ?
聞いたら間違いなく藪蛇になりそうな疑問は飲み込む。 少なくともジャックの言ってた人との初対面は終わった訳だし、これで攻略を始められる。
……けど残念ながら、騒動はこれで終わらなかった。
短く鼻を鳴らしたランが此方に背を向ける。 オレたちから注意を逸らした事で完全に重圧から解放され、他所へ注意を向ける余裕の出来たオレたちの目に飛び込んできたのは、
「……ノーチラスさん?」
黒髪の、儚い、強風が吹けばそのまま消え入りそうな少女。
目元には、見覚えのある黒子が。
「……もしかして、サチか?」
「うわ、全然変わってないじゃない! あちなみに私がピトね! このアバター、どう思う?」
「え?! 凄く……伸びてます……」
「お前は何を言わせてるんだ」
何時ぞやのクリスマスの一件以来、ギルドとしても懇意であった『月夜の黒猫団』。その中でも特に頻繁にDK本部を訪れていた『雪原の歌姫』との出会いには、懐かしさすら感じた。
「それにしても、どうして此処に?」
「義姉さんが何処からかそういう情報を持ってきてくれて、ログインした後は、」
「私が案内しました!」
サチの装備にあるポケット状の隙間から、小さな妖精が飛び出す。
サイズこそ遥かに小さくなっているけど、その変わらない顔は見間違えようがないし、隣の
聞けば、ALOのサーバーからはナビゲーション・ピクシーとして扱われているらしい。
……さてと。それじゃあ、現実と向き合うとするか。
歌姫を冠するプレイヤー同士とその娘で和気藹々とする三人から、背後で静かに立ってる少女の顔色に視線を動かす。見なきゃよかった。
何せそこにいたのは、完全な無表情――ジャックの
「……あー、アスナ? 一応言っておくけど、リアルでの刃傷沙汰は止めろよ?」
「…………大丈夫よ。 えぇ、私は大丈夫。 大丈夫……」
ダウト。 第一層地下での一件の後、クラディールのハートをフルボッコにした愉悦部が言っても説得力が無い。
まぁなんだかんだ言ってもSAOでアスナがサチを襲撃した事はないから、そこまで心配はしていない。 断じてブツブツと自己暗示モードに突入した
もう完全に習慣付いてしまった溜息を吐きつつ、気配を感じて門前の広場へと続く階段の方を見る。 戻って来たユウキにランが抱き着いて頬擦りする場面を見てしまった。 ついでにランの真っ赤な瞳と目が合った。
……こういう不幸な目に合うのはヴラドの役割だった気がするんだけどと、ジャックがランの何を取り繕おうとしたのかを察しつつ、馬鹿げた量の武器が降ってくるのを眺めた。
◇◆◇◆◇◆◇
――複数の武器に刺されて死亡という、ゲームでもそうそうない珍しい死に方を体験してはや数分。
それなりに長かった道のりの果て、ついに、門が押し開けられた。
「では、状況開始!」
ジャックの合図で飛び込む。 視界に映るのは、予め聞いていた通りの純白のドーム。 それと――ガーディアンの群れ。 まだオレたちの足は地についているのに、ポコポコと人型の異形が出現する。
無限の数を持つ、天蓋の守り主の皮を被った、悪意の化身。 真っ向から突破しようとすれば消耗は必須だろう。 天井に近付けば近付くだけ難易度が上がる以上、悠長に撃破しながら天蓋を目指すのは悪手。
だからギリギリまで飛ばず、けれど道を作る。
方法は、――その両方を、オレはもう見た。
「――撃ち落とす、」
「――少々野蛮だけれど、これも立派な戦法の一つ」
背後から青白い閃光がドームを照らし、幾つもの武具が実体化する音が響く。
片や、ニーベルンゲンの歌に聞こえし竜殺しの魔剣が、
片や、文字通り一騎当千、万夫不倒の火力を実現する武器の雨が、
その力を、発揮する。
「――『
「――穿ちなさい。 『
極光が一直線にガーディアンの群れを貫き、持手の居ない武器が穴を塞ごうとする個体を次々と狙撃する。
その隙間――天蓋まで一直線に空いた空間をオレ、アスナ、ジャック、ユウキが駆け抜ける。
――これが、ジャックが立てた作戦その一。
ユージーンとランでガーディアンの防御に穴を開け、その穴をDEX型が全速力で天蓋まで突撃。 グランドクエストの裏ボスを引っ張り出そうというのだ。
勿論ゲートに近付けばガーディアンの出現ペースは上がるし、降下した個体に阻まれてランの攻撃は届きにくくなる。が、先行するのも下の二人に匹敵する剣士と暗殺者。行く手を阻むガーディアンには斬撃耐性があるにも関わらず、鎧袖一触でボロボロとガーディアンの首や手足が切り分けられ、四散する。
横から飛び出してきた個体の顔面を刺し貫いて撃破しながらも、見上げた光景に、ふと思い出が蘇り、何とも言えない苦笑いが込み上げる。
実質、たった四人。 たったそれだけの人数で、幾千幾万もの敵を突破しているのだ。
……SAO時代、DKは『単騎最強ギルド』とされたが、このような状況になった時、果たして彼らの様に振る舞えただろうか。
大切な人を迎えに行ける程の実力も無い、このオレに。
「……ああ。 嫌な、でも懐かしい感じだ」
ヴラドにも感じ、けれどいつしか慣れ、薄れてしまったこの感覚。
KoBを追い出され、ユナの危機にも駆けつけられなかったあの時。
……あぁ。あの時と、そっくりだ。
たった一騎のプレイヤーが、無限に思えた敵を全て踏み潰してみせた、あの時と。
「――一時撤退! ゲート手前まで引きますよ!」
気が付けば、上空でジャックとユウキが反転、急降下してくる。その背後には、白い全身に、巨大な角。 壊れた仮面や用を成さない拘束具の残骸が、そしてある程度距離があるにも関わらず狂気を感じさせる赤い眼が、意識を完全に引き戻す。
「ハテガナイゾ。 オワリモナイゾ。
『
怪物『
ガーディアンをも巻き込みながらドームが再編される。 自分でも楽観的だと思うが、見た感想としては某魔法学校シリーズ第四作の最終競技のフィールドを連想した。
もっとも彼方とは違い、この迷宮は入る者に大幅な攻撃力と防御力デバフを押し付けるが。
「アリシャ、サクヤ!」
「オッケー! 混成隊、進軍開始!」
勢い余って門の外に出ないように着地をする一方、すれ違う形でシルフの精鋭部隊とケットシーのドラグーン隊が迷宮へと突撃する。
異なる種族のプレイヤー。 装備の色も二色に隔てられている、が、唯一、鎧の背後、走る時に邪魔にならない位置に糸が結ばれている点は、全員に共通していた。
――『アリアドネの糸』。
ギリシャ神話に於いて、英雄テセウスがミノタウロスを討った際に迷宮を脱出する為使ったとされている方法。 迷宮の入口にアリアドネから受け取った糸を結び、帰り道が分かるようにしたという伝承。
これは、その伝承を利用した作戦だ。
一人で何度も挑んだユウキと、
そこでジャックが提案したのは、何本もの『糸』を使った攻略法。 編成したグループ毎に其々異なる色の糸を持たせて突撃、人海戦術でミノタウロスか、或いは出口を見つけるという作戦だ。
今のところ支度は上々。放った使い魔でどの部隊が会敵したか特定しているアリシャとサクヤを除けば、僅かな休息時間がオレたちには設けられた。
だが、けれど、
「……なあ、本当にいいのか」
独り言のように問いてしまう。
この上で非道な実験体として、SAOプレイヤーが捕らえられている。この事実は、今オレの手の届く範囲にいる全員が知っている。
……それはつまり、今迷宮に突入している彼らは知らないのだ。ただ領主の命ずるまま、飛行制限撤廃を悲願に空中都市を目指しているだろう彼らは。
勿論、オレがユナを助けたいと思う気持ちが彼らの悲願を下回るとは思わない。だけど、こうも思ってしまう。『まだ他に手段はあったんじゃないのか』と。
その可能性の象徴の一人は、今隣でウィンドウを弄っている。
今世のワラキア公と、その従者。
多くの技能を持ち、人脈にも長けている少女。
無茶を言っている自覚はある。ヴラドは、アイツの故郷ルーマニアでの生活もある人だ。ジャックというこれ以上ない援軍を寄越してくれただけでも感謝の仕様がない。
でも、想像は止められない。
――もしも。あの夜王が、今この場にいてくれたのなら。もっと、別の手があったんじゃないのかと。
こんな、誰かを死地に突っ込ませて、ただ結果を待つだけなんて手段じゃない。怪物も迷宮も、それがどうしたと言わんばかりに踏み潰す、あの『吸血鬼』なら――
「おっと、そこでストップです」
ウィンドウを睨んでいた筈のジャックから声がかかる。
「……なんですか?」
「いえ、見覚えのある表情をしていたものでしたので。
一つ言っておきますが、この仮想世界で感情を誤魔化すには貴方はまだ未熟過ぎます」
聞き覚えのある言葉。あの時は、確か……
「――『この城では、誰一人として己に嘘をつくことが出来ない』、か」
「城?……あぁ、あの人ですか。
そうですね。己はおろか、他人にも嘘偽りを告げることは出来ない。それは時として仇となり、時として、
――益になる」
「気がついていますか?」と呟き、ユウキと一緒にアリシャのウィンドウを覗き込んでいるランを指す。
「細かい事情は伏せますし昔は知りませんが、ランは基本的に初対面の人間を信用しません。私も彼女とリアルで会うまでは、出会い頭にバビられたものです。
……まあ、私のプレイスタイルにも問題があったのですが」
バビられ?と未知の造語に首を捻るも、これは無視された。
「重要なのは、彼女が、そして彼らが貴方を信用している事。
模擬戦とはいえ、貴方は竜騎士隊と剣を交え、アスナたちはユウキと打ち合った。ユージーンとも戦った。
私は戦い方の関係上、実感したことは一度しかありませんが……」
一瞬だけ、悲しげに顔を歪ませるジャック。
その変化はすぐに引っ込んでしまったけれど、――
「――あの姉妹曰く、『ぶつからなきゃ、伝わらない』だそうですから。
散々貴方たちと激突した彼らは、貴方が想像する程鈍くありませんよ」
彼女のアバターの表情が変わる程のものだったのだと、
その言葉に鼓舞や配慮もない、誇りと自信を持って事実を言っているのだと。
……あぁ。やっぱり、あんた達には敵わないな。
そんな言葉は、アリシャの叫びに打ち消された。
――『出口とミノタウロスが見つかった』という叫びに。
◆◇◆◇◆◇◆
――白い、無機質な床を蹴り付け進む。
時折湧き出るガーディアンには飛び蹴りを叩き込みながら糸を辿る傍ら、余裕のある思考で運命の皮肉を嗤う。
――ミノタウロスは、迷宮の最奥。空中都市へと続く出入り口を律儀に守っている。
そんな場所を探り当てたメンバーの中には、リーファがいるのだ。
蝶の谷での会談の時、彼女がいる事には驚かされた。
主人公と結ばれた少女がヨツンヘイムを彷徨っていたと聞いた時は、己の耳を疑った。
偶然の、けれど不自然な類似点。
まさか、この世界には修正力があるの?
気配を察知し、ナイフを振るう。曲り角を飛び出したガーディアンの腕が落ち、後続のアスナが刺し殺す。
あの人も、アインクラッドでは不自然な『調整』を感じ取ったと言っていた。
ならば私だけでなく、『竜殺し』と『英雄王』、果ては『絶剣』すら揃った今のメンバーのまま研究所に踏み込めば、手痛い修正がある可能性も否定しきれない。
事実として、本来ならば存在しない『雷光』とその迷宮が行手を阻む。この程度であれば私だけでも対処できる。けれど、この先にいるのは間違いなく、この世界の管理者ならば――
「――ウヒヒヒヒヒッ! シネェッ!」
いつの間に辿り着いたのか、開けた場所に出る。
複数のガーディアンとミノタウロスが耳障りな叫びを口にしながら、その手にある武器を振るう。
先行している部隊は善戦こそしているけれど……デバフがキツイのか、既に半壊状態。ワイバーンの大きな影は見当たらず、ドロップ品として散らばる大型獣用の鎧が、その末路を物語っていた。
「チッ」
思わず投擲ナイフに手が伸びるが、その奥に見えるゲートを確認して思い止まる。
――ゲート奥は本来プレイヤーに進む事は出来ず、システム管理者権限によって閉ざされている。
作戦の時間を重村教授に予め伝える事で誰でも研究所に踏み込めるようになっているが、それも時間制限付き。須郷一味がその異常に気が付き再設定してしまえば、それまで。わざとレクト本社地下で騒動を起こして時間稼ぎをしているようだけれど、それもいつまで保つか。
「ほらジャック。早く行きナ!」
軽く、背中を小突かれた。
「……アリシャ?何のつもりですか?」
「だから、早く上に昇っちゃいなって言ってるのサ」
数多の武器が降り注ぐ爆音の中でも、レイピアを引き抜く軽い音が耳に響く。
『アスカ・エンパイア』というタイトルでも極力似た系統の武器を使い続けた事で経験に裏打ちされた彼女の実力は、その血筋の才もあって非常に高い。紺野姉妹との共闘も慣れている
……それに、いざとなれば――
「分かりました。後は頼みます」
「ン、頼まれた!」
咆哮と共に両手の戦斧を振り下ろすミノタウロス。その刃の隙間を一息に擦り抜け、踏み出された右膝にナイフを突き立てる。
流れる様に身体を捻り、傷を抉りながらナイフを引き抜く。スピードは落ちるけれど、真後ろまで捻られた右腕の先が傷から放たれ、居合の要領で左膝も切り裂き、勢いそのままに両脚のアキレス腱も一周する。
「ウグウッ!?」
「速えぇ……」と呟いていたノーチラスたちを急かし、膝を突くミノタウロスの横を通る。
向かう先は、無機質で、先の見えない、
――盗まれた王座の元へと。
次回予告
ハロウィンイベントの合間を縫ってお久し振り。お馴染みのジャックです。
それでは手早く、次回予告といきましょう。
――遂にALOの闇へと辿り着いた私たち。
ユウキたちと別れた事に少々不安を覚えますが、とはいえやることそのものは原作の黒の剣士より容易いですね。例の研究室に突入、場合によっては――というより主目的としては、邪魔者を排除するだけなのですから。
万が一のバックアップも準備済ですし、さて。妖精王がどんな抵抗をするのか、見物と洒落込みましょう。
次回、『英雄の凱旋』
……所で、皆さまはお気付きでしょうか。私が予め手を回している割には、アルン周辺を行ったり来たり。妙に時間をかけている事に。
ここで大ヒントを一つ。日本からとある国までは、片道十五時間程かかるそうですよ。