串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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39話 竜の少女、電撃参戦す

 

 

 

 

 

「―― Te Kanzaki Elsa vagy!Én vagyok a rajongója!」

 

「……あ、はい。私がエルザよ。よろしく………でいいの?」

 

 

 少し飛んで次の日。

 見た目はドラキュラ中身もドラキュラなオッサンをある事ない事言って呼び出した結果、何故か私は赤髪ゴスロリ衣装の少女に手を握られていた。自分でも何がどうなっているのか皆目検討がつかない。

 思わず、少女の背後に疲れ切った目で立っていたヴラドに目で助けを求めるも、当の本人は「弓エリ?マ?」などと意味不明な事を呟いていて気付いてくれない。

 

「Azóta rajongó voltam, mióta hallottam a dalt!Örülök, hogy találkozhatom!!」

 

「ハハ………

へいジャック嬢、状況説明ヨロ」

 

「阿僧祇氏宛のメールに、『貴女に『神崎エルザ』としてあって欲しい』と追伸しておいた人物です。

エリザ様、一端落ち着いて下さい」

 

 聞いた事のない言語でテンション高く騒ぐ少女の耳に入らないよう、コッソリと役立たず(ヴラド)の従者にヘルプを求めると、直ぐさま求めた答えが返ってくる。しかも少女を多少なりとも落ち着かせてくれるというオマケ付きで。これは有能。

 

 ……にしても、ジャック嬢が『様』付けで呼ぶエリザちゃん、か。うーん嫌な予感!

 

「Aー、ごめんなさい。アタシったらテンション上がっちゃって!

じゃあ改めて、貴女がカンザキエルザね!よろしく!アタシはエルジェーン。

バートリ(・・・・)・エルジェーン!気軽にエリザって呼んでくれると嬉しいわ!」

 

 はいビンゴ!そんで豪志クンこっそり吹かない!

 全力で表情を笑顔にしながら、さっきまでの外国語はなんだったのかと言いたくなる程流暢な日本語を喋り始めた少女の手を私から握った。

 

「アッハイ。えっと、随分日本語が上手ね」

 

 取り敢えずファンサービス用の笑顔で対応。尤もこの子がどこまで私の事を知ってるかにもよるけど――

 

「キャァァァァ!感激よ、カンゲキ!やっぱおじ様に頼んで大正解だったわ!

アタシ、貴女の歌を聴いてファンになってからずっっと日本語頑張ったのよ!」

 

 反応を見る限り、素はバレてない模様。まあバレても問題ないし、そもそもあのモヤットボールが『SAO事件記録全集』なんて本を出してくれやがったお陰でだいぶ広まってるし。

 つーかおじ様って。おいヴラド、アンタ自分が何で来日したか覚えてる?この子いたら攻略に支障が出る気がするんだけど。ほらこの子もこの子で「サインして!」って本を何冊か出してるし!

 

 

「……ところで、そこのオジサンが何で来日したのかは知ってる?」

 

 もう暫くアルバムは出さない、と実はそこまで慣れていないサイン書きをやっとこなしてからそれとなく(ストレートに)聞く。デスガン云々は兎も角、手紙の主の為にも数日後に開催されるバレット・オブ・バレッツ(BoB)にはヴラドを参加させなければいけないし。

 いざとなれば明日奈――は無理として、豪志か木綿季ちゃん辺りに丸投げする算段を立てながら返事を待てば、

 

「えぇ。GGOだったかしら?で調子乗ってるブタをやっつけにいくのよね。アタシも参加するわ!」

 

「ファ?」

 

 ……なんというか、想像以上に加虐的な台詞が飛び出してきた。

 

「ちょ、ちょっと待ってね。

――ちょいオッサン。どういう事ジャン?」

 

 エリザちゃんに一言入れてからヴラドの襟を掴んで目線を合わせて問い詰める。今更復活したらしく、やっと目に光が戻ってきたけど、んな事情は知らん。キリキリ吐け。

 

「……少し前に、あの鋼鉄の城での出来事を綴った本が出ただろう。あれを読んだらしい彼奴に事の詳細を訊かれてな」

 

「あーあれ?私も読んだけど、事件詳細はハッキリしてる癖に人物描写がめっちゃ悪意マシマシだった―――まさか」

 

「うむ。彼奴の知る(ブライアン)と本に書かれた(ヴラド)が乖離し過ぎていると、わざわざ国境を超えてまで訪ねてきてな。その折、ピトフーイがエルザである事を言ってしまい、以来出逢う度に会わせろと強請られていたのだ」

 

 そういう訳だから、彼奴はDK団員としての我々の関係は把握しておる。とヴラドが締め括る。

 

「……まあ、そういう事ならいいっしょ。

さて、エリザちゃん!ぶっちゃけ今回私たちがブッ飛ばすヤツは何をしてくるか分からないわ。護りきれる保証は無いけど、覚悟はあるかしら?」

 

Természetesen(勿論よ)!」

 

 絶品の笑顔で親指を立てる少女。そしてジャック嬢ナイス翻訳。プレイヤー主催のイベで外語を謎解きにブッ込んだ何処ぞのオッサンとは大違いだわ。

 

 

 

 

 

「……あの、あの人も貴族階級なんですよね?万が一死銃に出会したら危ないのでは?」

 

「ザ・シードパッケージのVRMMOをやっていたらしいが、あっさりとコンバートを決意した辺り、実力は大した事なかろう。予選落ちが妥当と見た故に連れて来たのだ」

 

 一歩引いた所でKY野郎二人がそんな事を言っていたけれど、都合良く聞こえなかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――所変わって、SBCグロッケン。

 念の為、もしもの時に強引にアミュスフィアを引っ剥がす要員としてエムを現実に残して一足先にログインした私は、今まさにコンバート作業を進めているだろう三人が現れる筈の初期キャラ出現位置に設定されている銀ギラドームの前で待っていた。

 アバターはランダム生成だから一目では誰が誰だか分からない以上、合言葉でも決めておくべきかと若干焦りもあったけれど、このゲームのプレイヤー層が(廃人)だからかドーム前には誰もいなかった。

 

「結果オーライとはいえ、リリースからまだ八ヶ月でコレたぁ寂しいモンがあるわねぇ。

……お、キタキタ」

 

 レンちゃんも絡まれたらしいアカウント転売人と軽く話したり(何故か、私の友人がログインするところだと言ったら即逃げた)、ジェーン(贔屓にしてるバイヤー)に装備一式を私のホームに転送するように頼んだりしていると、GGOでは数少ない転移エフェクトが発生する。

 

 ――現れたのは、純白の髪をバッサリとショートにしている幼女。ペラペラの初期装備とレンちゃん並みの低身長にも関わらず、冷たい黄緑色の瞳には圧倒的な強者――それも、ヴラドの様なカリスマ(威圧感)とは真逆の、刃と言い表せる気配を感じさせる。左目には痛々しい縫跡が目立つけれど、それが彼女の魅力を引き出している。

 

「……ジャック嬢?」

 

「……そう言う貴女はピトフーイですか?ALOのアバターと対して変わりませんね」

 

「ジャック嬢もネ。GGOらしくちょっと擦れてる感がするけど、うん。これはこれで」

 

 雰囲気から誰か当たりを付けて話し掛ければ、予想通りの大人びたロリ声の返事が返ってくる。背後のドームが鏡代わりになることを伝え、ジャック嬢が自己確認をしていると、再び転移エフェクト。

 ALOの炎っぽいものとは違う、近未来的なワープっぽいエフェクトにジャック嬢が見入っていると、内側からこれまた女性が現れる。

 今度のアバターは、ピンクブロンドの髪を腰より下まで伸ばした少女。体付きは辛うじて起伏が分かる程度でちょっと残念だけれど、勝気に輝く緑色の瞳は自信に満ち満ちている。

 ごく稀に起こる性別逆転設定(爆笑必須の事故)が起きていないとすれば――

 

「エリザちゃん?」

 

 思い当たる名前を呼べば、頭にハテナマークを浮かべながら反応する少女。私がエルザだと伝えると、

 

Elképesztő(すごいわ)!流石アタシの憧れの人ね!」

 

 と、ピョンピョン跳ねるエリザちゃん。

 VRMMOは既プレイ済らしいけど、一応念の為に此方ではピトフーイと呼ぶように言い聞かせていると、三度目の転移エフェクトが煌めく。

 

「おー、遅かったじゃんヴラ、ド……?」

 

「……………おい、なぜ黙る。凄まじく、本当に凄まじく嫌な予感がするが、どうなっている?」

 

 ――出てきたのは、リアルの私やジャック嬢のアバターとどっこいどっこいというレベルで身長の低い人物。髪は燻んだ白髪で背中の途中まで伸び、肌は病的なまでに白く、何も知らずに見たら幽霊かと思える程希薄。けれど、薄暗いグロッケンだからこそよくわかる朱い瞳からは、そこらの外見だけ屈強なアバターとは一線を画する内面の覇気が溢れている。

 一瞬チート級の無関係な女性プレイヤーがログインしたのかと思ったが、その予想は()から発せられた声に全否定された。

 

「……ロ◯カード色違い?」

 

 アッパーで殴られた。高いところから見るグロッケンの景色は綺麗でした、マル。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「いちち。いきなり思いっきり殴るだなんて、酷いなーもー」

 

 セルフフリーフォールを一往復分強制されてから、更に数分後。

 数値上のダメージは皆無とはいえ、ステ表を開いたら針が一本しかない時計みたいになってる奴(STR極)の筋力は、町中でのオブジェクト防護をブチ抜き人間大の質量を打ち上げるには余りある。そんな馬火力が炸裂した顎を摩りながら、コレクションした銃器がズラっと並んでいるガンラックの設定を変える。

 ちなみに当のヴラド本人はと言えば、課金でのアバター変更を強行するくらいの事は予想していたけれど、意外とそういった事はしなかった。なんでも、これまで散々ネタにされてきた所為か、もう諦めたとは本人談。

 ……まあ、エリザちゃんに「ジャックと兄妹みたい!」と言われてから文句が激減した辺り、アラフォーのアイツが未婚な理由が察せたけど。

 

閑話休題(このネタで弄るのは後にしてと)

 

 

「さて、エリザちゃん!まずは武器を選んじゃおうか!」

 

「え?この中から選んでいいの!?」

 

 入手と維持にリアルの住居一月分の家賃に匹敵する額を突っ込んでいるプレイヤーホームにて。フルフェイス装備にしようかとボヤくヴラドとジャック嬢を備え付けの更衣室に放り込んだ後、見えやすい様に壁一面に広げた銃器を背に両手を広げる(すしざんまい)。エリザちゃんはちょっと困惑気味だけれど、問題なし。寧ろ何丁か持ってっていーよ。あれこれとコレクションしたはいいけど量が量だからアップデートで銃が増えるペースにストレージ容量が追いつかないし、だからと言って売るのはなんか癪だし。

 

「やったぁ!

ねぇねぇ、ピトフーイはどんなのを使うのかしら?」

 

「そうねぇ。気分で変えるけど、特にどれを気に入ってるかと言えばAK系譜かしら」

 

 そこらの適当なプレイヤーショップ以上に数が揃っているだけあり、やっぱりエリザちゃんは目移りしている。そんな彼女の質問に答え、旧ソの銃を並べている一角を示す。

 

「へぇ〜。

……なんか、思ってたよりゴツいわね」

 

 ……尤も、リアルでゴスロリ衣装を着こなす令嬢の琴線には触れなかったようだけれど。

 ふとエリザちゃんのアバターを再確認する。身長こそあるけれど、フラットな体型に長髪ピンク。正直そんじょそこらの鉄の塊は似合わない。かと言って外見が銃器離れしている代物となると、クリス・ヴェクター、或いはFAMAS(トランペット)やP90なんかもいいかもしれない。

 ついでに銃用の塗装キットとかあったかしらと記憶を掘り返していると、正直ちょっと羨ましいレベルの美声での歓声が響く。

 

「これなんて良いわね!これってどんな銃?」

 

「うんうんこれはねー………

……………は??」

 

 意識を戻した私は、彼女の指さす先にある代物を見て思わず素で引きかける。

 何しろソレ(・・)は、レア銃として手に入れたはいいものの、あまりにもブッ飛び過ぎていて私でさえロクに使いこなせる気がしない得物だったのだから。ブッ飛び過ぎて出会す=戦闘なGGOなのに、ドロップでコレを引きたくないからと狙われなくなるレベルの代物でもある。

 その銃の名は――

 

「……TKB-059」

 

「てぃーけーびー?長いわね。ティーでいいわね!」

 

「……いやまあ、デザインで選ぶのは全然良いけど、だからってコレ……えぇ……」

 

 割とガチ目に今時の貴族の美的啓蒙の高まり具合にドン引きながらも、アサルトライフルと呼ぶには全方面に喧嘩を売りまくっているそれをガンラックから降ろす。久し振りに改めて手に持ってその異様さを再確認するが、これは間違いなく初心者向けの銃じゃない。反動リロード排莢その他全てが悪い意味で秀逸過ぎる。

 かと言って玄人向けかと言われればそうでもない。寧ろいきなりコレを渡されてさあ戦えと言われれば、私なら渡してきた相手の頭蓋をカチ割りにかかる。

 

「……もう一度確認するわね?本当に、コレでいいの?もっといいのあるわよ?」

 

 思わず声が震えるが、本人の意思は固い様で「これがいいわ。こう、ビビッと来たのよ!」とのこと。頭痛発症してないわよね?

 

「な、ならいいわ。うん。

じゃあ次は防具とかサブ武器を買いましょうか」

 

 レンちゃんの可愛さが恋しい。若くは最初の頃の初々しいアスナちゃんでも可。そんな現実逃避をしていると、

 

 

「――ピトフーイッ!これはどういう事だ!?」

 

 朱コート姿(アー◯ードコス)ヴラド(ロ◯カード)がエグい拳銃片手に飛び出してきた。しまった、コートの色を白にしておくべきだった。

 取り敢えず、愉悦(精神安定)をくれたギルマスに親指を立てておいたらカッ飛んできた.600 N.E.弾が眉間に炸裂した。痛い。

 

 ……象の頭蓋骨を砕く弾丸より痛かった拳ってなんなんだろう?やっぱ貴族ってナチュラルサイコだと思う。

 

 

 

 

 

 









次回予告

ハーイ!とうとう出演出来たわ、あなたのアイドル、バートリ・エルジェーン改めエリザよ!!
ふふん。このアタシが出たからには、GGOの子ブタどもは皆アタシのファンに――
……え?時間が押してるから巻きで?ちょっとそれどういう事よ、もう!?

……まあいいわ、次回予告ね。ジル、原稿を寄越しなさい。
えぇふん!



多少のドタバタと共に、銃と硝煙の世界に降り立った一行。
一歩遅れた黒の剣士が最強を決める戦いの舞台に漸く上がった時、運命は彼らを玩ぶ。
狂気と暴力を混沌と混ぜ込んだ嵐が、喜劇の幕を吹き上げる。

次回、『(吸血鬼)(殺人鬼)







――で、この二枚目も読むの?はいはい。
えふん。

えーと、SAOAB配信を記念して、また幕間を書くわ。内容はアンケート次第!期限は一週間だそうよ。
お便り待ってるわー。あ、アタシ向けのファンレターでもいいわよ!それじゃあね〜!

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