串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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42話 竜の少女、咆哮す

 

 

 

 

 

「――ザザ。やっぱザザじゃないか!久し振りだな!」

 

 長い間会えなかった友人の大幅な様変わりに驚きながらも駆け寄れば、珍しくマスクをしていないザザが、分かりやすく驚愕の表情を浮かべながら拳銃をコート裏に納める。

 

「まさか、本当に、お前とは、な。オレは、てっきり、別人かと、思ってたが」

 

「なんでだよ」

 

「鏡、見ろ。閃光辺りが、完全に、壊れたと思ったぞ」

 

「………ソウダネ」

 

 グゥの音も出ない返しと、何時ぞやのファミパン騒動で否定しきれない狂気的予想にカタコトでしか返事が出来ない。

 

「そ、それにしてもどうしたんだよ。長い間噂すら聞かなかったぞ?」

 

 なんとか話題を強引にずらすべく、実際気になっていた事を訊く。SAOサバイバー、特に攻略組クラスともなれば、よっぽどイロモノなタイトルでもない限り確実に強プレイヤーとして多少なりとも有名になる。更にザザに限っていえば、オレたちとも違う独自の人脈のあるピトフーイやノーチラスが探し回っていた。

 だから直ぐに見つかるだろうとは思っていたが、その予想に反して。一年もの間、ザザは見つからなかった。

 ……いや、ピトなら見つけたとしてもサプライズとかほざいてその事を隠すかもしれないけど、少なくとも見つかったという話は聞かなかった。

 

「……ちょっとリアルで、色々あってな。

 それより、も、」

 

 答えは芳しくなく、言外に言いたくないと告げられる。

 短い会話の後、緩んでいた空気を引き締める様にザザが殺気を振り撒き始め、オレの背後を睨む。それと同時にその方向の茂みから身を表したシノンが、拳銃の銃口をザザに向ける。

 

「シノン、ストップ!ストップだ!ほら、ザザも落ち着けって!」

 

「また撃つなって言うの?」

 

「……あぁ」

 

 暫くオレを不服そうに睨んでいたシノンだったが、ザザが殺気を引っ込めたのを察してくれたのか、深々と溜息を吐きながらも拳銃を腰の後ろに突っ込む。

 

「……シノンよ。よろしく」

 

冥府の女神(へカーティア)、か。噂は、よく聞く。

 ドラキュラ、だ。だが、ザザの方、が、紛らわしくない、だろう」

 

 シノンが警戒心の高い猫っぽくぶっきらぼうに自己紹介を済ませると、キッとこっちに振り向く。

 

「説明!」

 

 ……まあザザもいるし、ある程度は大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ザザに見張りを引き受けてもらっている間に、オレがどうしてこの大会に参加したのかを、所々端折りながら説明する。

 

 殺人鬼『死銃(デスガン)』の正体を暴くべく、この世界、この大会に潜り込んでいること。

 そして、もう既に死者が出ていること。

 

「……信じたくないわ。PKじゃなく、本当の人殺しをする人が、GGOに……VRMMOプレイヤーにいるなんて」

 

 半信半疑と言った具合に呟くシノン。それに対してオレは強く出れない。寧ろ当然だろうと思う。オレだって、SAOでオレンジやレッドプレイヤーたちと幾度も戦っていなければ、その存在を信じようとしなかっただろう。

 

「でも、いるんだ。あのボロマントは、死銃は。昔、オレのいたVRMMOの中で、何人も殺した。相手が本当に死ぬと解っていて剣を振り下ろしたんだ」

 

 だから、君は極力あのボロマントには近付かないでくれ。そう言おうと口を開きかけて、

 

 

「ふむ。そんな事情が、あったか。なら、寧ろ、へカーティア(シノン)は巻き込んだ方が、其奴の為、だろう」

 

「な、ザザ!?お前、なんて事を、」

 

 横から放り込まれた爆弾に、思わず絶叫する。いやホントになにしてくれたんだお前!?

 いつの間にやら復活していたサングラスを朱に輝かせながら、鋼鉄の城の夜の支配者に追随する覇気を漂わせる様になった髑髏狂い(赫目のザザ)は、悠々とマガジンに馬鹿デカイ弾丸を込めながら告げる。

 

「何も知らぬ、ならば、いざ知らず。何の、力もない、ならば、いざ知らず。

己が道を、阻む敵が、在り、そして、其を粉砕する、に足る、力がある。ならいっそ、巻き込むのも、手、だろう」

 

「……だけどなぁ」

 

 言動までそれ(・・)っぽくなっている友人の、けれど有無を言わさず頷かせるほどのカリスマ性はない言葉に、一先ず難色を示す。

 この気が強いシャム猫と出会ったのは昨日、しかも実際に会話をしたのは合計しても一時間超えない程度の関係とはいえ、逃げろと警告してもシノンが逃げないだろう事は分かる。実力も、少なくともピトフーイ(DKの実質No.2)を如何にか出来るレベルなら、それこそPoH本人クラスでもない限り負ける可能性は低いだろう。

 しかし、だからといって巻き込んでいい理由にはならない。もう十分巻き込んでるだろ、と言われればそれまでだが、それとこれとは話が違う。

 せめて本人の意思を尊重しよう。そう切り出そうとするも、歪な銃身に荒々しく弾倉を滑り込ませる音に掻き消される。

 

「そも。ヤツが、何処に、消えたか、見当がつかない、以上、この島は、何処、だろうと、死地に、成り得る。

 ……ただ二箇所。オレたちの側、と」

 

 そして、コートのポケットからサテライトスキャンの端末を取り出し、ある一点を指で撫でる。

 

「――近付く者。その一切合切を、有象無象の、区別、無く、薙ぎ倒す、災厄の化身の、側、ならば。いくら死銃、とて、事が済む前に、粉砕され、よう」

 

 ――都市廃墟エリア。

 そこが、ザザが触れた場所。

 そして、オレが死銃を探す時に、意図的に避けたエリア。

 

 近場だからと。漁夫の利を得ようと。多くのプレイヤーを示す点こそあれ、その悉くが死亡を示す別の色に変わっている場所。

 

 その中央には、スキャンの度にいつだって光点が一つ、輝いていた。

 

 

 

「……それは、そうだろうけど……」

 

 一瞬、これからまっ先に都市廃墟に乗り込んで本家本元(ヴラド)に協力を頼む事も考えたが、どうも妙な感じがする。あの男が、異常なまでの察しの良さとリアル地位故の情報網の広さを持つあの男が、しかもラフコフ絡みだと言うのに、妙に後手に回っている気がするのだ。

 ……これは、勘でしかないけど、あいつは――

 

「……死銃じゃない、誰かを待っている……?」

 

 隣のシノンが反応しない程度の呟きだったが。気のせいか、ザザの頬が吊り上がった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「さて。状況を、整理、しよう、か」

 

 腕時計がサテライトスキャンのタイミングを知らせたタイミングで、背を向けたまま顎を上げて此方を見る絶妙なポーズでザザがそう切り出す。因みに現在は、シノンも同行した状態でオレたち三人は鉄橋の西側、山岳エリアを進んでいた。

 なんでもザザ曰く、死銃が逃げたとしたらこの方角とのことらしい。鉄橋はマップのほぼ南端にある以上、行き先は北と東西のみ。だけど北に進めば都市廃墟エリアにぶち当たるから、必然的に西か東にしか進めない。

 だが、ザザは東の田園エリアから戦いながら南下してきたらしく、死銃と一戦交えたのも半ば偶然らしい。空から降ってきたのも、強引に離脱した結果だとか。その相手がまだISLラグナロクの東側にいるならという前提だが、死銃がそっちに行ったなら確実に戦闘音が鳴り響いてる筈だ。

 

「ところでザザ。死銃と何か話していたみたいだけど、正体って分かるか?」

 

 ペイルライダーは踏み殺され、PNドラキュラはザザ。オマケにザザの話だとエリザは女性、となれば、残りは銃士Xとノスフェラトゥかと考えながら話を振る。

 あの気配からしてラフコフは確定だろうけれど、あのレベルの殺気を出せるとなると相当数が限られる――どころか、逆に誰も当て嵌まらなくなる。戦闘スタイルから察しようにも、剣の世界(SAO)でガンカタが上手いやつ、など検索しても百パー見つからない。となれば、喋り方の癖や外見から一致する奴を探すほかないが、当然外見は当てにならない。全く当てにならない(誰だM九000番系とかプログラムした変態は)。喋り方も、ザザやヴラドみたいに個性の塊でもない限り特定は難しいだろう。『外道』ピトしか知らない攻略組が、うっかり『歌姫』エルザを見て、顔で分かりそうなものなのに心奪われた、なんて例もあるくらいだし。蛇足だが、その攻略組はしばらく後に無事愉悦部の餌食になった。

 とまあ、正直駄目元だった。まともな答えは期待してないし、それよりシノンの言う立て籠リッチーが近くにいそうでそっちに警戒心を割いていた。

 

 

「ジョニー、だ。ジョニー・ブラック。ヤツが、死銃のアバターの、中身、だ」

 

「………は?ジョニーって、毒ナイフ使いの!?」

 

 だからこそ、普通に名前が出た時には思わず大きな声が出た。ラフコフについて具体的な説明をしていないシノンには横目で睨まれたが、こっちは今それどころじゃない。

 

「でも、アイツって正面戦闘苦手じゃなかったっけ?」

 

「それについて、は、知らん。だが、あの物言いは、間違い、なく、ヤツだ」

 

 最悪だ。

 その言葉を聞いて、顔を顰める。

 

 ――ジョニー・ブラック。

 殺人ギルドの幹部にして、毒系のデバフ使いとしては間違いなくトップクラスの敵だ。スタイルとしては不意打ち、闇打ちが基本で、ナイフ戦闘術の使い手としては中堅クラスだが、初撃で麻痺毒を打ち込んでからの攻撃の『格上殺し』として警戒されていた。だが逆に言えば、アイテムなり装備なりで耐毒性を限界まで上げれば、少なくとも攻略組レベルなら一方的に勝てる程度の存在だったのだ。

 そんな奴が、DK団員と互角に渡り合えるだけの実力も着けてきたとなれば、下手すれば単独での脅威度としてはPoHを上回る。

 

 

「うそだろ……」

 

「ちょっと。もうスキャン始まってるわよ」

 

 実態の見えない相手が怖いからとライトを当ててみたら、逆にガチでヤベー奴だと藪蛇したことに顔を青くしていると、シノンに割と強めにど突かれる。

 慌てて端末を引っ張り出して、更新されていくプレイヤーの位置情報を示す光点を左からタップして名前を確認していく。

 エリアは草原エリアと山岳エリア。ギャレット、夏侯惇、リッチー、と続いて、自分たちを示す三つの点がある。そこから対して離れていない所に、二つの点が爛々と――

 

 

「ッ――東、距離五〇〇!」

 

 シノンが鋭く声を上げたと同時に伏射姿勢に入り、ザザも格好付けずに素早くバレットを抜く。それと同時に遠くから銃声が響き始める。

 腰に下げた柄を取りながらも、片手で握ったままの端末に意識の数割を傾ける。たまたまスキャンで近くにいる事に気が付いて始まった戦闘なのか、一方が片方を追い立てる形になっていた。逃げる方の名前は……トラデータ(Tradator)、だろうか?読み方がよく分からない。そして、追いかけている方は『エリザ』。

 

「なあザザ。確かエリザってやつとはもう戦ったんだよな。装備とか分かるか?」

 

 徐々に近づいて来る鉄の咆哮にフォトンソードの刃を起動しながら、必死の砲弾を幾発も撃ち出す鉄塊を右手一本で支えるザザに問いかける。

 

職業(クラス)、と、しては、よくある、アタッカー(アサルトライフル使い)、だ。だが、まあ、そうだな」

 

 情けない悲鳴――男の声、つまりトラデータだろう。それが銃声の合間を縫って聞こえてくる。二人の姿もぼんやりと見え始めてきたが、……そういえば、シノンはどうしたのだろうか?この距離なら十分射程圏内だろうに。

 どうしても気になってチラッと伏せているシノンを見れば、何やら悟ったような笑み(アルカイックスマイル)でスコープの蓋を閉めていた。

 そして一言。

 

「アレもあんたたちの友達?」

 

「は??」

 

 友達?どういう意味だ?

 本気で分からずに首を傾げると、見れば分かると、ザザが空いてる左手で単眼鏡を投げ渡してきた。

 なんだ、またえげつない技でも使うやつが出たのか?それともまさか例の小竜公が動いたのか?

 一応警戒しておきながら単眼鏡を覗いた。

 

 

「……なあ、ザザ?なんか角みたいなの見えるんだけど?あとなんか、銃口が(・・・)三つある(・・・・)ように見えるんだけど?」

 

 そして心の底から後悔した。

 

 

「安心、しろ。ああいう、デザイン、だ」

 

 シレッとそんな事を宣うザザ。

 

「……カスタム銃?」

 

「既製品、だ」

 

 世の中って広いね。条理を力業で乗り越える理不尽と二年以上付き合ってきたお陰で嫌でも高められたスルースキルで受け流す事にして、もう数十秒でオレたちを通り過ぎそうな二人をどうするか考える。

 死銃の『撃った相手を現実で心停止させる』トリックがわからない以上、つまりは撃った相手のアバターの状況を無視出来る可能性があるなら、無抵抗で撃てる死体にするにはリスクがある。一応、鉄橋の所で脱落した二人は死銃とザザの戦闘で吹き飛ばされて川ポチャしてたからこそ放置してきたし。かといってもう今からじゃ気付かれずにやり過ごすのは無理だろう。

 

「……撃退するぞ」

 

「撃破、じゃなくて、か。また、難しい、注文、を」

 

「またぁ?まあ、いいけど」

 

 手加減どころか相手次第ではオーバーキル待ったなしの対物銃を装備する二人には無茶振りだったが、片やコンパクトな拳銃を、片や刀身の短いエストックを手に構える。

 最後に消える直前の端末の光点をチラ見、付近にいるのはあの二人だけだと確認してから、改めて光剣の刃を伸ばす。

 

 そして――

 

「げぇ改めようシノン!ちょっとコイツどうにかしてくぐぇ」

 

「! あんた、予選の!さっきはよくも逃げてくれたわね!今度という今度は叩き潰してあげるわ!」

 

 オレたちの姿を見て慌てて銃を投げ捨てた男を容赦なく蹴り飛ばしたピンクブロンド色の髪をした少女が、三つ首の竜の咆哮を奏でた。

 

 

 

 

 

 

 









次回予告――代わりのミニコーナー
銃器紹介編 PartⅢ

TKB-059
全長:690mm
重量:4500g
口径:7.62
装弾数:90
バレル:3

 総評、頭お菓子成る銃。若くは重度の弾幕マニアが当時の技術で『一人で発動出来るスペルカード』を再現しようとして爆死した銃。それは果たして銃と言えるのだろうか?
 冗談はさておき真面目な解説としては、古今東西の銃設計者が制圧能力の高い銃、つまりは『連射性能の高い銃』を考えた時に出てくるアイデアの一つが、悪い形で実現してしまったイロモノである。
 そう――『銃口と機関部を倍にすれば火力も倍になるやん(なお弾薬消費量ももれなく倍になる事は無視する)』というアイデアである。どうしてそうなる。しかもこのゲテモノの場合三倍である。性能的にも生産国的にも銃身赤く塗っとけ。
 銃身が三つ並んでいるだけでも爆笑必須の迷銃であるが、このTKB-059は他の二丁銃身銃(この時点で頭おかしい)とはさらに一味違う。アイアンサイトがデカくてコーカサスオオカブトの角みたいになってるわ、(正確な和訳資料が無いため不確実だが)引金を引く度に銃の左右と前方に薬莢を排出する。つまり前方に向けて計四つの飛翔物が目標目掛けてカッ飛ぶのだ。設計者は一度ウォッカ抜いた方がいいと思う。
 一応カタログスペック上では、発射レートはあのミニガンの倍の分間6000発(ただし諸説あり。分間1500発程度とする資料もあるが、面白いのでこっちを採用します)とかいう結果を叩き出したバルカン砲かお前は(注.アサルトライフルです)とツッコミたくなる珍銃であり、また同時に当時の旧ソ軍正式採用の数歩手前まで漕ぎ着けた変態であるまあ敵が揃いも揃ってこんな色違いのキン◯ギドラみたいなモン担いでたらそれはそれでいろんな意味で士気が崩壊しそうだが。
 そんな馬鹿と冗談と阿保と理不尽とキチガイと樽とチャー研的サムシング(クリスマスとハロウィンとユニバース)が融合失敗したかのような代物だが、まあ、フルオート1.5秒で全弾撃ち尽くす高頻度リロードをどうにかして、尚且つ三倍に増えた反動をどうにかできるなら強いんじゃなかろうか。命中精度?制圧射撃に特化してるから最初から無いです。





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