串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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46話 No Life King

 

 

 

 

 

 ――何百メートル程歩いただろうか。

 陥没した道路に、倒壊した高層ビル。そういった乗り物では避けられない障害物を踏破して、し続けて。

 

 脚が半分程折れた鉄橋の下を潜り抜け、ついに、私たちはその中心部へと到着した。

 

 

 

「――やはりお前か、ザザ。待ち草臥れたぞ」

 

 ――そこにいたのは、小さな子供だった。

 赤い瞳に長い銀髪。病的なまでに白い肌。

 顔立ちは端正で、口を開かなければ少女だと言われても信じただろう。

 初見ではとてもその姿から恐ろしさや畏怖の念は懐けない。プレッシャーに関しても、GGO上位プレイヤーのそれと比べても劣る程。

 少なくとも、ザザやキリトなら瞬殺出来る程度の相手にしか見えない。

 

 あれが、『狂王』……?

 

 

 

「マスター。いや、ヴラド」

 

 半死半生の男が一歩踏み出す。

 欠損は時間経過で直ってはいるけれど、ドット単位でしか体力の残っていないザザが、白衣の少年へと歩み寄る。

 

「オレは、貴方に、挑む。

 オレが、目指した、オレに。ただの、ザザ、ではなく。貴方に、憧れた、『新川昌一』に、なる、ために」

 

「……え?」

 

 聞き覚えのある名字に、思わずまじまじとザザの背を見つめる。堂々とした細身の巨躯に、彼の様な弱々しさは感じられない。それに、恭二からは兄弟がいるとは聞いたことがない。

 偶然の一致かと自分の中で結論付けていると、目前に立つ少年に動きがあった。

 

 ザザの言葉を聞いたヴラドと呼ばれた少年。数秒ほど驚いた様な表情をしていたかと思えば、それは満面の笑みに変わる。

 

「……そうか。お前はその道を選んだか。

よかろう、ならば此方も全霊を持って相手を務めるが礼儀というもの」

 

 そう言い切ると、少年もザザへと足を踏み出し、

 

 ――何気ない一歩の踏み込みが、コンクリート製の道路に軽々とクレーターを刻んだ。

 同時に、一際強く輝く緋い瞳を中心に殺意にも似た覇気が溢れ始める。

 『ただそこに立っている』だけ。それだけなのに、気が付いたら平伏している気分にさせてくる圧は、戦士でも、兵士のものでもない。

 王――それも、戦場に於いて。戦場だからこそ発揮される、血塗れのカリスマ。

 

 純白のスーツを着ているというのに、その服が、手が、返り血で黒く染まりきってる幻覚すら覚えさせてくる相手が、挑発するように手招きする。

 

「来たまえ、ザザ。例え勝ち目が彼方の果てで在ろうとも、余を越えてみせるという気概をみせてみよ。或いはこの首に届くやもしれぬぞ?」

 

 ――それは、事実上の宣戦布告。

 並居る敵を鎧袖一触に処してきただろう極刑王が、目前に立つ相手を明確に『敵』として認識した言葉。

 

 

 それに対して、ザザは、

 

「確かに。越える、壁は、高い、方が、いい、なッ!」

 

 開始の号砲を、撃ち出した。

 完全な不意打ち。命中精度に不安があるが、当たりさえすれば問答無用で一撃死させる狂弾が飛ぶ。続けてトリプルタップ。

 二対の刃となって敵へと襲い掛かる音速で弾かれた大質量の矢は、けれど相手に届かない。軽く腕を振るうモーションで袖から飛び出た爪に、意図もたやすく切り刻まれた。

 

「銃剣、か」

 

「良い塩梅のナイフが無かったものでな。含む物が無いとは言わぬが」

 

 流石に耐え切れなかったのか、指の間に挟んでいた計六本のボロボロの銃剣を棄て、無手に戻る白スーツ。間違い無くGGO最強クラスの威力の攻撃を容易く凌いだというのに、そこには何の感動も無い。ただただ、『出来て当然』という空気がある。

 

「……ねえキリト。あいつのビルドってなに?」

 

 出した手札としてはたったの一つ。それも、反応を見る限り大した物ではないのだろう。けれど、それですらあまりにも無茶苦茶が過ぎる。

 脆い銃剣で、それも指に挟む形で保持し、それでいて四発もの12.7×99mm NATO弾を切断する?そういうエクストラスキルがあるか、或いはAGIとSTRをかなり、LUKを限界まで上げて強固な素材を注ぎ込んだ物を使うくらいしか思いつかないし、それにしたって成功確率が皆無から極小になる程度だろう。しかも前提条件からだいぶ無理がある。

 だというのに、返ってきた答えは。

 

「アイツは、ヴラドはSTR極振り。よく使ってた戦闘スキルは、『槍』、『投擲』、それと……『体術』」

 

 その無茶を、自分の身体に身に付けた技術のみで成し遂げたのだという証明。

 それは、仮想世界と現実世界の壁を越えた強さ。そして、私の目指す境地そのものにして、全くの真逆のに位置するもの。

 私が『シノン』として『朝田詩乃』の弱さを打ち砕こうとしているのに対し、アレは『現実の誰か』の強さがそのままアバターの『ヴラド』に反映されているのだ。

 ……アレと戦って、勝てば、そんな強さが身につくのだろうか。

 無意識の内にへカートのボルトを握りしめる。

 アバターには再現されていない筈の心音ですら煩く感じる程の緊張の中、ヴラドの背後で小さな瓦礫が落ちる音が嫌に響く。

 パラ、というサウンドエフェクトが届くギリギリのボリュームを合図に、再度鳴った爆音が容赦なく聴覚の世界を書き換える。

 どのVRMMOの誰よりも高いSTRを有する二人がステップを踏むだけで大地は揺れ、直線のみなら中途半端なAGI型すら置き去りに出来る勢いで互いの必殺の間合い(超至近距離)に踏み込む。

 

「ほう、拳をもって相対さんとするか。ならば真正面から粉砕するまで!」

 

 それに対して、カウンター気味に白い怪物が一直線に腕を振るう。リーチ差がある所為で届かなそうにも見えるが、強烈な踏み込みから放たれた拳はザザを確かに捉え――

 

 ――その一瞬の攻防が見えたのは奇跡としか言いようがない。

 

 放たれた拳。例え体力が全快していたとしても即死すると断言出来るソレは、紙一重でザザに当たらない。地面が抜けたのかと錯覚する程自然に身体を沈めたザザはその場から素早く白コートの足元をローキックで払うと、密着状態のまま肘打ちを捻じ込んだ。

 見た目相応に吹き飛ぶ白コート。キリトには見切れなかったのか、ヴラドと呼ばれた奴が後方の廃ビルに半分埋まった事態に戸惑っていた。

 

「ゑ?は、へ?何で……」

 

「……ザザがアイツを体術で吹っ飛ばしたのよ。こういうのはあんたの方が分かるでしょ?」

 

「分かるから問題なんだよ!だって、ヴラドがSAO最強だった理由の一つは、無手で無双し続けたことなんだぞ!?」

 

 

 

 

 

「 ――ハッ。そうか、成る程。そういう事か」

 

 キリトの驚愕を理解するなり、空気が、重く、なる。

 それが、一際強くなった威圧感からくる息苦しさだと理解するのに数秒かかった。

 幽鬼同然の足取りで這い出た怪物は、仕掛けるでもなく、誰かに向けて話し掛ける。

 

「……エリザ(・・・)。彼方と合流したまえ」

 

 エリザって、あのTKB使いの!?

 直勘的に顔を上げると、最初に小さな瓦礫が落ちた場所に件のピンクブロンドの髪が見えた。

 

「ちょっと、おじ様!?何言ってるのよ!なんでわざわざこのアタシが敵と一緒にいなきゃいけないのよ!」

 

 おじ様ぁ!?と素っ頓狂な声を上げるキリトを置いて、それ以降も反論するエリザに、白コートは短く告げた。

 

「頼む。()には、お前を巻き込まない自信が無い」

 

 その言葉を聞いたエリザは未だ何か反論したがっていた様子だったが、一度地団駄を踏むと諦めて歩いてきた。

 ……もの凄く、不服そうに睨まれているのだが、私はどうするべきなのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……俺、っていう、一人称は、素、なのか?」

 

「む?しまった、出ていたか」

 

 ヴラドを叔父と呼んでいた少女が合流したのだろう、後ろの方でギャースカと姦しい事になっているのを意識の外に追いやり、正面の相手に集中する。

 オレが知る限り、二度目のヴラドの素を、それもオレ自身が引き出せた事に歓喜しながらも、それ以上の警戒心が意識を覆う。

 

「まずは讃えよう、ザザ。如何にして辿り着いた?」

 

 派手に吹き飛ばしたというのに無傷――予選全てに於いてパーフェクトゲーム(ノーダメージ)を収めた要因たる装甲服が健在である事を確認しながら、ゆっくりと歩み寄るヴラドの問い掛けに応える。

 

「ヒントは、SAO時代、に、幾らでも、あったさ」

 

 あの世界(SAO)で無手で大ダメージを出そうとするなら、体術スキルと籠手系の武具は必須。実際体術スキルで習得出来るスキルはどれも隙が少なく発動後の硬直も短いから、攻略組御用達のスキルになった程だ。

 裏を返せば、体術を実践に組み込むにはスキル発動が必要なのだ。スキルを発動せずとも火力が出ない事は無いが、だとしても中層で一時期話題になった空手家の様に、しっかりと重心移動やインパクトの瞬間を意識した技ではないと効果は薄く、それでもMob相手には威力が足りなかったのだ。

 だというのに、ヴラドは平然と、スキル未発動で最前線の敵を屠り続けられた。何故か?

 

「簡単だ。貴方が、馬鹿力(STR極)が、一番活きる、武術を、使えた。言うなれば、それだけ、だ」

 

 さり気無く間合いを詰めるヴラドに、足踏み――震脚(・・)をもって宣言する。

 ――オレは、ここにいる。例え貴方が遥か遠くに居ようと、間違いなくその背を追える位置にいると。

 

「――『八極拳』。だいぶ、我流が、混ざっている、が、貴方の、使う拳は、これが、ベースに、ある。これなら、貴方が、自作した、装備の、肘や、肩に、プロテクターでも、仕込めば、武器になる、しな。

違うか?」

 

 返答は、予備動作無しでの体当たり(活歩からの鉄山靠)だった。

 何の足捌きも察させることなくそれなりにあった距離を一歩で詰め切り、防御諸共此方を斃さんと迫る肩に、それを予想して予め左手に持ち替えておいたバレットを前面に掃射。

 数発の弾丸は舌打ちと共に受け流されるが、ライフリング無しで撃ち出されたが故に予測不能の回転が掛かった対物弾の脅威は、如何に強力な防弾服と云えど莫迦にならない。装甲の傾斜を利用した防御に集中せざるを得ないヴラドに対し、鳩尾に掬い上げる軌道で頂肘を打ち込む。

 再度浮き上がる小さな身体。その心臓部に、ヴラドの真似をして袖に取り付けた鞘から抜いたエストックを突き立てる。当然素材はヴラドの防弾服と同じ最高級品(宇宙戦艦の装甲板)

 同一の素材から作られた矛と盾は、ギリギリのところで矛が勝った。エストック本体の強度と、オレの技術と力、それと盾側の重量も手伝ってか、あの鉄の城で最後まで振い続けた愛剣とは比べ物にならないほど短く軽い鋒が、根元まで深々と突き刺さる。

 

「ぬぅ、おのれお前、」

 

「まだ、だ!」

 

 何か言い掛けたヴラドに更に畳み掛ける。エストックを引き抜く間も惜しい今、残念ながらオレに言葉を交わす余裕は無い。

 さっさと剣を手放すと、ヴラドの間合いから離れるべく寸勁を叩き込み強引に距離を開ける。が、威力が不十分だったのか数メートル(一歩で詰められる)程にしか跳ばせなかった。

 やはり、あの装甲服が厄介過ぎる。あの防御力を抜くとなると――

 左手に握ったままのバレットの残弾を撒く。四発撃ったところでスライドが下がったまま固定されたが、そのいずれも擦りもしなかった。クイックドロウ(早撃ち)で放たれた、たった一発の銃弾が為に。

 

 ――ヴラドが引き抜いた拳銃。いや、あれは拳銃と言っていいのだろうか。

 使い手の身長の三分の一以上ある巨大な銃。シルエットから辛うじてそれがリボルバーに分類されるものだとは分かるが、明らかにサイズが、威圧感が違い過ぎる。アレと比べてしまえばM500(エレファントキラー)ですら玩具にしか見えないだろう。

 最早『砲』の域すら逸脱している鉄塊は、たった一度牙を剥き出しにした衝撃波だけで、対物ライフルの弾道を逸らせた。

 

「――弾頭直径15.7mm

   銃口初速462m/s

   初活力6230J」

 

 撃った一発分の弾丸を、対物ライフルを遥かに上回るスペックを淡々と口にしながらリローディングゲートから入れ替える。

 

「――全長55cm

   重量6kg

   .600ニトロ・エクスプレス」

 

 シリンダー後方にある小さなゲートをパチリと閉じ、その凶器が、鯨すら射殺可能な狂気が、未だ硝煙立ち昇る地獄の門(銃口)を此方に向けられた。

 

「……プファイファー・ツェリスカ(世界、最強の、拳銃)

 

「その通りだ、ザザ。お前との戦いに此れを抜くつもりは無かったが……成る程、これが慢心、か。紅といい言峰といい、俺と互角以上の連中はよく居る故、そんなものとは無縁だった筈なのだがな」

 

 悠々と、或いは地が出ている辺り、余裕が無くなって来たのか、ボソボソと反省を呟くヴラド。油断なく胸部に刺さったエストックを捨て、自然体に構える。

 マグチェンジを済ませて改めて気を引き締め直し――直後、視界の下を通る蹴りを咄嗟に回避する。

 

「っ!?」

 

「ほう、此れを避けるか!」

 

 首スレスレを轟然と掠める右踹脚に肝を冷やす間も無く、追い討ちで心臓を狙ってきた左踹脚を転がって躱す。

 立ち上がる間も惜しんで気配を感じた方向へ片手を地面に付けて蹴り上げる。浅く当たった感覚はあったが成果を確認するのは二の次に反動を利用して身体を戻すと、今度は掌が顔面に迫る。

 これも反射的に避けるが……今度は、読み間違えたようだった。

 白手袋に隠された爪はオレの頭があった位置を過ぎて尚止まらず、手元のバレットを掴んだ。間合いの競り合いに負ければ即敗北に繋がるこの戦いで、打って出るか一旦引くかに迷った一瞬。それは、唯一ダメージを通す手段が奪われるには十分な時間だった。

 機関部から鳴る異音。バレットが世界に発したその成果を最後に、握り締めていたグリップを残して粉々に砕け散った。

 慌てて打開を打ち込んで追撃をキャンセルするが、どれだけ意味があっただろう。エストックを失い、バレットも喪った。頼みの綱が両方とも無くなった以上、どれだけ相手の手札が読めたとしても無意味だ。

 

「成る程、成る程。よくやった、ザザ。

……三年か」

 

 やはり無傷だったオレたちの黒い月。僅かに手袋に残ってたポリゴンの破片を払い落としてから、ゆったりと拍手し始める。

 

「俺とお前が出会ってから三年。たったそれだけの期間で、お前はここまでに至った。改めて認めよう。お前は、強い」

 

 そう褒めながら殺気が収まって、いや、一点に集中していく。

 その気の発し方は、『黒の剣士』も、『毒鳥』も、『神聖剣』すらも引き出せなかった、第三十四層のあのボス戦が無ければ知る由も無かった、ヴラドの本気の殺意。広範囲に広がる覇気ではない、槍の鋒のみを形作るが如き鋭利な気。

 ……それを引き出せただけで、どうしようもなく歓喜が湧き上がる。今までもヴラドはオレを褒め、認めてくれたけれど。こんなオレでも、それがどんな形であれ、それが自分の独り善がりであれ、誰かの『特別』になれたことが、たまらなく嬉しい。

 でも、だからこそ――

 

「まだ、勝負は、ついてない、ぞ、ヴラド!」

 

 己を奮い立たせる様に震脚を刻む。

 ダメージを通せる武器は無い。技術は向こうが上。トドメにオレの体力はオワタ式(ドット単位)

 どうしようもなく勝機が遥か彼方にしかなかろうと――それが諦める理由にはならない。

 

「来い、よ。その、必殺の技を、放って、みせろ。早く。早く!!」

 

「――よかろう」

 

 ここまで来てヴラドが、始めて構えらしい構えを見せる。

 腰を軽く落とし、銃を持った左手を此方へと向け、右手は緩く拳を握って背後へと。

 清々しいほどに分かりやすい正拳突きの予備動作。直撃は言うまでもなく、掠ったとしても、それどころか完全に避け切ろうとも余波だけでタンクすら塵に還す威力なのは間違えない。

 ―― 真っ当な人間(ザザ)としての本能が『逃げろ』と叫ぶ。見切るのは容易く、余波さえ届かない場所に逃げてから反撃に移ればいいと。

 ―― 狂い果てた人間(新川昌一)としての意思が『立ち向かえ』と囁く。ここで逃げれば、認められただけ(・・)で満足したオレは、それだけを遺してオレとしての全てを喪うぞと。

 

 そしてオレは、その場で踏み止まる事を決意した。

 そしてヴラドは、その一撃以外の一切を些事と切り捨てた。

 

 

 ――一歩目。瞬きすらしていないというのに、気配の察知すら出来ずにヴラドが懐に潜り込んでくる。恐らく、無意識の隙を突く縮地だろう。相変わらずのリアル技術チートだ。

 そこまでに至っても、反撃手段が思いつかない。何か、何かないか――

 

 ――二歩目。轟音。爆音。フィールドボス程度ならこれ単体でも確殺可能な震脚が大地を削り揺らす。これで数瞬は満足に踏み込むことが出来ず、回避は不可能になった。

 ……ふと、ベルトが僅かに緩んだ気がした。コート裏の背中を、誰かが押している気配がする。

 

「では、塵芥と化すがよい」

 

 ――三歩目。武術では反撃不能、回避も不能、防御ごと砕く零距離砲撃が迫る。

 極限の最中、スーパースローに見える拳を睨みながら、半ば直勘的に左手を伸ばす。

 

 背中に当たっていたそれを掴むのと、拳がオレの腹部を消失させたのはほぼ同時だった。衝撃はそれに留まらず、二歩目の震脚も相まって脚は関節が数倍に増えたように見えるほどの肉塊になる。

 上半身を支える事は不可能になり、オーバーキルですら生易しい破壊力が数値化され、体力ゲージを蹂躙する。オレの今までの足掻きなど歯牙にも掛けず、呆気なく【You are dead】のメッセージが表示された。

 

 ……当然、だったのだろう。オレはSAOが始まったあの日まで腐り続けていたクソガキで。あの人はSAOが始まる前から、槍を、拳を振るっていたのだろうから。

 経験が違う。環境が違う。才能が違う。

 ここまで来ると、なぜ自分がヴラドに挑もうと思ったのかすらあやふやになって――

 

 

 

 

 

 ……その時、ふと、ある記憶がフラッシュバックした。

 そこらじゅうに人の背丈ほどある歯車が散乱する、薄暗い空間。

 ドーム状の天井には青い客席が上下反転した状態で張り付き。

 正面には、舞台上に座る異形のボスを相手にらしくない戦い方をするヴラドが。

 拳、投剣、槍。デスゲームに於いて、対ボス戦は相手の苦手な間合いから叩き潰す戦法をよくとっていたあの人が、わざわざ相手の土俵で戦い続けた一戦。

 引際を弁えていたあの人が、体力がレッドゾーンに突入してなお単騎での戦闘続行を固辞し続けた一戦。

 あぁ。思い出した。あの時のヴラドは――

 

 

 

 

「……お、おああああああああああ!」

 

 ――何かを握っている感覚がまだある左手を、がむしゃらに突き出す。

 

「なっ!?あり得ぬ、なぜ――」

 

 残心を終えたヴラドの表情が驚愕に染まる。死体に反撃されるのは流石に予想外だったのか、エストックによって唯一装甲に穴の空いていた心臓部。そこに、ジョニーが使っていたMark23の銃口がめり込んだ。

 零距離どころかほぼ体内から射出された45ACPは、アバターの心臓と左肺を突き抜け、背中側の装甲に弾かれ、跳弾したのだろう。体力が不自然な程に減少する。

 

「くっ!」

 

 しかし流石に削り切ることは出来ずに、それどころかフックが飛んで来る。

 それに絶叫しながら抵抗する。途切れ途切れにしか喋れない喉を内側から剥がす勢いで咆哮しながら、無くなった筈の脚を踏みしめ、拳を振り被る。

 この人の呼吸は知っている。この人のリズムを知っている。この人の技も知っている。

 

 ――なら、再現してみせる。貴方の切札の一つさえも!

 

 一歩目(縮地)。タイミングをズラす。フックが空振り、罠も何もない明確な隙が見えた。

 二歩目(震脚)。ただでさえ体勢が不安定なヴラドのバランスが、致命的なまでに崩れた。

 

「これ、で、終わりだぁああああああ!!」

 

 三歩目!ただただ全体重を乗せた正拳突きを叩き込む。装甲に阻まれ手が砕けるが、それを無視してなお捻り込む。

 

「あああああああああああああああ!!」

 

「お前、よもや――」

 

 身体の感覚が凍り、解けていくことすら無視して右拳を突き出し、進み――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――気が付けばオレは、真っ暗な空間に一人立っていた。

 

「………………は?」

 

 直前までとの急激な環境の変化に呆けてしまい、何度か馬鹿丸出しで右往左往した挙句に、漸くここがBoB脱落者が転送される一時待機空間だと分かった。

 慌てて中空に浮かぶリザルト画面を見上げて、自分の名前を探す。一位二位三位は未だ空白。六位には闇風の名があって。

 そこまで認めて、おそるおそる、四位と五位を直視する。

 その順位にあった名前は――

 

「は、はは。ははは……」

 

 

 四位:Vlad

 五位:Dracula

 

 

 ――負けた。完全な、敗北だった。

 一人でヴラドを倒し切れた?そんなものは慰めにならない。

 アバターの身長差が逆転していたし、今回のあの人は槍を持っていなかった。そもそもあの人が本気で勝ちに来ていれば、体力ミリの吸血鬼もどきなんてナイフの弾幕なり踏み砕いた瓦礫を踵で蹴り出すなり、広範囲攻撃であっさり片が付いたのだ。

 

「……チク、ショウ。チクショウ!」

 

 誰もいない空間で、一人絶叫する。

 どれだけの距離があるのか実感出来た嬉しさと悔しさがごちゃ混ぜになった感情のままに、心の底からの雄叫びを上げる。

 

「今度、は、勝つ!勝って、証明、して、やる!」

 

 瞼の裏に浮かぶのは、例のボス相手に槍を振るう極刑王。その様は、激怒しているようにも、憎んでいるようにも、

 ――泣いているようにも、見えた。

 

「オレは、貴方の、隣に、立てるの、だと!

貴方が、何処かに、置いて、きて、しまった、何か、を、拾える、人間に、なれるの、だと!!」

 

 全員仲良く吹き飛んだのか、二位三位無しで残った三人の名前が纏めて最上部に輝く。

 ログアウトまでのカウントダウンがゼロになるまでの間、オレはひたすらに叫び続けていた。叫び続ける事しか、出来なかった――

 

 

 

 

 

 









次回予告――代わりのミニコーナー
銃器紹介編 PartVI

プファイファー・ツェリスカ
全長:550mm
重量:6000g
使用弾:.600 N.E.
装弾数:5

 『ベレッタM93Rを頼む』というヴラドの要望をぱーふぇくとにガン無視したピトフーイが代わりに用意した拳銃。
 一言で言い表すなら『ロマン砲の終着点の一つ』。頭おかしい
 まずスペックから頭がおかしい。最強のマグナムオートであるデザートイーグルやエレファントキラーとして有名なS&WM500ですら50口径(12.7mm)なのに対し、コイツの口径は驚異の60口径(15.7mm)である。弾のサイズも威力もシノンのへカートⅡ以上と言った方が通じるだろうか。頭おかしい
 火力だけでなくサイズにも言えることだが、コレと比較しようと思ったら(トビー・レミントンみたいな極一部の例外を除けば)ガチで架空の拳銃を引っ張ってくるしかなくなる。場合によってはそれすら上回る。例えばアーカードのカスールと比較しても215mm、2000g、ジャッカルと比べてなお全長は60mm上回っている。ついでに口径も上記の二丁より2mm以上デカイ。頭おかしい
 当然反動もエゲツない……と思いきや、この銃の重量は6キロ。早い話が銃身の上にRPG-7が括り付けられているようなもんである。これに追加でマズルブレーキまであるものだから、実はこの手のロマン銃としては寧ろ反動は弱い方に分類される頭おかしい
 こんなゼル爺がコマンドーな世界線から遠坂しながら(うっかり)持って来ちまったような最終鬼畜銃プファイファー・Tだが、一応弱点は存在する。ベースとなった銃がコルトSAAである関係上、リロードに薬莢式リボルバー界ワーストレベルに時間がかかる。が、ぶっちゃけ拳銃の間合いでコイツに撃たれればどこに当たろうが一発でオーバーキルなので、あんまり関係ない。ついでにいくら時間がかかるとはいえ、努力次第ではMGSシリーズの山猫並のスピードでリロード出来ると考えれば大した弱点にはならない。やっぱ頭おかしい


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