串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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48話 竜の騎士の珍道中 前編

 

 

 

 

 

 ――どうして、こうなった。

 

 ヴラドに『共に来るか』と持ちかけられ。ほぼ即決でそれを受け入れ。オレがルーマニアに渡る為に必要な準備に丸一日必要とかで、それまでヴラドたちと一緒に過ごすハズだったのに。

 

 

「ちょっと、遅いわよショウイチ!」

 

「ほれほれどうしたSTR極ー」

 

「……無茶、を、言うな」

 

 ……なぜオレは、このエルジェーンとかいう少女のお守りをやらされているのだろう。しかもピトとのアンハッピーセットで。

 なおヴラド本人は横浜へ。なんでも少し面倒な用事があるらしい。これはいい。なら荷物でも纏めておくか、と思いきや、それはあの人の従者のジルさんが大部分をやってくれる事になった。まあ引き篭りだし、梱包する荷物など自分のPCとゲーム、本棚の中身くらいのものだ。ありがたくお願いすることにした。

 ……一応、見られて困るものは先にUSBに抜いて自分で持ってるし。

 

 閑話休題(それは兎も角)。今の問題はこの令嬢と毒鳥のサディストコンビだ。

 事の始まりは単純、ジルさんにこの少女の買い物の付き添いを頼まれたのだ。少なくともピトの面倒臭さは知っているのだから止せばよかったものを、これからお世話になる人の頼みだったのと、行き先が秋葉原だったことから受諾してしまった。

 そして今。オレはその時の自分に全力の寸勁を叩き込みたくなっていた。今なら現実の貧相な身体でも数メートルは吹き飛ばせる自信がある。

 

「……不幸、だ」

 

 ジルさんによって引き合わされた少女。もの凄く覚えのある声と名前の彼女こそ、つい先日BoB予選でブッ飛ばした人だった。

 いやどんな偶然だよ!?本戦でヴラドがエリザに指示してたくらいだから薄々嫌な予感はあったけども!

 当然の様に此方のこともバレ、キンキンと捲し立てられた果てに付き添いどころか荷物持ちを押し付けられていた。

 そこそこの冊数のウ=ス異本(彼女が十八未満だから全年齢対象のみ)とフィギュアが何体か。それと見慣れた面(神崎エルザ)がプリントされたCDと写真集が詰まった鞄を背負い、フラフラになりながら小声で愚痴る。隣にはエムこと阿僧祇豪志もいるが、残念ながら既にピトの荷物に埋もれていて返事が出来るような状態ではない。いくら身体を鍛えている正統派イケメンでも、人間が一度に運べる量の荷物には限りがあるのだ。

 ……前が見えないのにどうして転ばずに歩けるのかと聞きたいが、DKの実質No.2だったしさもありなんということで自己完結することにした。

 

 

 

 

 

 ――結局その後電気街を行ったり来たりし、漸く荷物を置けたのは一時間以上後だった。だがオレが腕イテェ腰イテェと呻いているのに少女二人は元気にこれから先の予定を話し合っている。おのれおのれぇ。

 

「まあまあ。ザザの体力の無さも気になっていたし、いい機会だろう」

 

「と、言われて、も、なぁ」

 

 豪志からコップを一つ受け取り、ストローから啜る。慣れた手つきで配膳をする豪志の姿は、ここのスタッフ以上に様になっていた。

 そう、ここはカラオケボックス。オレたちの骨休めと、歌手とそのファンの歌手志望の少女が楽しく過ごせる場として選ばれたのが、此処だった。

 

「さあ、派手に唄うわよ!」

 

 デュエットでもするつもりなのか、マイクを握りしめた少女が端末を投げ捨てる。ギルド本部で何度か聞いたイントロが流れるに、ピトの曲か。普通なら人気歌手の生歌をロハで聴けると喜ぶべきなんだろうけど、んな有り難みはアインクラッドで当の昔に消えている。やっぱこういうのは画面越しに見るのが一番だな。

 ……だがまあ、癪だが、実はエリザの歌は気になっている。声だけなら大抵のアイドル以上に澄んでいるし、ピト一筋のエムですら何かに期待しているような素振りを見せる程だ。

 手慣れた手つきのピトが音響を弄っている間に、曲の歌詞が表示され始める。この光景を切り抜いただけで大金が入ってきそうな性格以外完璧な少女たちのやけに大きく、息を吸い込む音が聞こえて、

 

「ボ〜〜エ〜〜〜!!」

 

 ピトが泡吹いて倒れた。

 

「ぐああ!?」

 

 かくいうオレも咄嗟に耳を塞ぐので精一杯。アイドル志望とかいってたしもっと上手いものかと思っていた、とかいう生優しい次元ではない。

 完全完璧な音響兵器。音程は外れているどころか人間の可聴域に収まっていることにすら奇跡と感じるほどで、テーブルの上にあったコップ類は開始十秒と保たずクシャっと逝った。

 ノーガードかつ至近距離でエグいハイパーボイスを喰らったピトがなんかヤバイ痙攣の仕方を始めるも、エムですら助けにいけない状況が永遠と思えるほど続き、続き、――

 

 

 

 

 

「――ふう!ねね、どうだったかしら?」

 

 耳を塞ぐ手ごと押し潰されるんじゃなかろうかと思う音圧から解放された頃には、座る前よりも消耗しきっていた。野郎二人は立ち上がることすら出来ず、ピトはピクリとも動かない。心なしか、他の部屋からの曲も歌も聞こえなくなっていた。

 爆心地の少女はそんな死屍累々の地獄絵図を眺めて、一言。

 

「……なるほどっ!(あたし)の歌が上手すぎて失神しちゃったのね!流石私!」

 

「んなわけ、あるかぁっ!!」

 

 あまりにもあんまりな感想に思わず渾身のツッコミ。

 

「ハァ!?ちょっとあなた、それどういう意味よ!」

 

「どうも、こうも、あるか!この惨状を、見て、なんとも、思わない、のか?!」

 

「だから私の歌に感動して、そのあまりに平伏したんでしょ?」

 

「どっから、んな自信は、出てくるんだ?!」

 

「なによ!ほら、機械だって私の歌を絶賛してるのよ!?どこが気に食わないっていうのよ!」

 

「なん……だと……!?」

 

 真紅のマニキュアが塗られた指に釣られて見れば、所々罅入っている液晶には確かに百の数字が。

 

「……って、よく、見たら、評価欄その他、全部、百で構成、されてるじゃ、ないか!バグってる、だろ、この機械!」

 

「アァ?知ったことじゃないわよそんなこと!」

 

「いや、よく、ないだろ?!直んのか、コレ!?」

 

「は?私の歌への賛美は?!」

 

「ねぇよ、そんな、の!」

 

 慌ててリモコンを掴んでタップするも無反応。エリザを退かして直接弄ろうとするも、頑として少女は動かない。

 

「ねえもっと私を褒めなさい!崇めなさい!この子ブタァァァァァア!!」

 

「できる、かぁぁぁぁぁあ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……で。

 

「また派手にやらかしましたね、バートリ・エルジェーン。歌いたいならちゃんと場を整えますから、事前に一声かけて戴くようお願い申した筈ですが?」

 

「やーよ!あなたのセッティングって聴いてくれる人が全然いないもの!」

 

 瀕死のエムのダイイングメッセージ(死んでない)によって駆けつけたジルによって、事件現場からの逃走には成功した。とはいえ、あのカラオケ店からは四人揃って出禁をくらったが。

 ひとまず事態は解決した、と思っていいのだろうか。こういう時にどうすればいいか分からないオレとは真逆に、エリザは移動先のファミレスでふんぞり返ってるし。なおピトは脱落した。

 

()()って、前にも、やらかした、のか」

 

「えぇ、まあ。以前は防音壁に罅を入れまして」

 

「なによなによ!二人して!」

 

 バシバシと両手でテーブルを叩くエリザ。

 しかしその駄々捏ねはジルさんに見事なまでにスルーされ、「では、件の店のオーナーと話をつけてきます」と言い残して消えていった。

 

「〜〜〜〜っ!もういいわ!ショウイチ!今度こそ私が上だってことを証明してあげるからGGOで待ってなさい!!」

 

「は?」

 

 エリザもエリザで、頭にコミカルな怒マークを浮かべながら店から飛び出した。

 ……あの、お前が頼んだドリンクバー、オレが払うの?

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 ――その後、安全にログイン出来る場所を探し、近場にアイソレーション・タンクなる代物を備えたネカフェがあることを掴んだ。

 直前の予期せぬ出費もあって正直財布が不安だが、バク◯ングとオン◯ーンを足して二を掛けた少女を放置する不安の方が勝ち、なくなく紙幣と別れを告げてダイブすることにした。おぅ、オレのチーム北里柴三郎……

 

 溜息をお供に、鉄と硝煙の世界に降り立つ。万が一の為に用意してあった予備のバレットをショルダーホルスター内に実体化させてから、赤コートの裾を翻してグロッケンを歩く。

 さて、GGOで待ってろと言われたが、どこに行けばいいのだろうか。

 具体的な場所は決まってないし、アレとはフレ登録もない。遠距離戦メインのタイトルだけあってフィールドマップはどこも広大だし、当ても無く彷徨って出会す確率は低いだろう。

 ……あっちもBoB以降ログインしてないならまだ近くにいるかもしれない。その可能性に賭けるか。

 手近な場所を思い浮かべ、近くにプレイヤー経営の店があったことを思い出してから、そちらへと足を向ける。

 

 ――総督府タワーを後にしたオレが向かった先は、裏路地に入り口を構えた古めかしいガンショップ。店主の雑な性格故か、誰も見向きもしないようなちゃちなレーザー銃からオークションに出せばリアル金額で六桁クラスの掘り出し物まである、雑貨店と言い直した方が適切な店だ。ただし開店してるかは店主の気分次第である。

 西部劇に出てきそうなデザインの扉を開けると、すんなり開く。所々煤けた跡のある内装は、積み上げられた銃身その他で全貌が見えない。ついでに店主の姿も見えない。

 

「おい、ジェーン。生きてる、か?」

 

 ドアの鍵が開いている以上、店内にはいる筈なのだが、狭いスペースの何処からも返事がない。

 ……もしや埋もれてるんじゃなかろうな?

 GGOでワープするにはデスルーラか一部施設を利用するしか方法がない以上、実は街中で移動不可になると最悪詰みかねない。慌てて適当な物資の山にバレットを発砲。数値上のダメージは一切無く衝撃だけが通る、SAOの頃から共通の圏内仕様を利用して山を雪崩させて退かせば、やっぱり見覚えのある目のやり場に困る装備が顔を覗かせる。

 

「おまっ、やっぱりか、お前!」

 

 足の踏み場もない店内を強引に突き進み、殆ど仕事をしていないベストの襟を掴んで持ち上げる。サブマシンガンやらフリントロックライフルやらを振り落としながらひょっこり顔を覗かせたのは、やたらポジティブで気の長い元気な金髪カウガール。

 

「あ、ダンナじゃん。お久〜☆」

 

 ただし美人なのは外見だけである。もう諦めた。

 何故か床に鎮座してたFlak37(アハト・アハト)の上に放り投げる。耳の早い情報通でもあるジェーンならもしかしてと思ったが、この調子だと期待出来ないな。BoBで消費した分の弾だけ買い足すか。

 

「いやー助かったよ。こないだピトやんに無茶振りされてさー、あんなに重いもの運んだあとだったから突っ伏してたら上からザバザバーってきちゃって。あ、なんか買ってく?いらっしゃーい♪」

 

「色々、遅い、わ!

……取り敢えず、いつもの、を、頼む」

 

「オッケー!ちょっと待ってて!」

 

 そして再び物資の山へ沈んでいく。十回くらい片付けろと言って効果が無かったから諦めたが、やはりいつ見ても酷いな。稀に親指立てたまま沈んでいくから十中八九確信犯だし。極々稀に片付いていることもあるが、その時はその時で店の一角に宝石が山積みされてて不気味だし。

 面倒臭い女その一(ピトフーイ)その二(エリザ)その三(ジェーン)に絡まれたせいで既に満身創痍だが、残念ながらまだ終わりそうにない。B級サメ映画宜しく何処を泳いでいるのか分かりやすく弾や火器が吹き上がってるのを取り止めもなく眺めながら、一時の休憩を大切にしたかった。

 ……だからなんで急にFIM-92(スティンガー)とかいう実装されたばかりの激レア装備がポロッと出てくるんですかねぇえ!ああそしてまた埋まっていったし!

 

「お待たせーあったよー」

 

 市場に出せばリアルマネーでウン十万は確実の装備がまた地層の下に消えていった事実にも頓着せず、ケロっとした顔で12.7×99mmNATO弾の箱が差し出される。リアルラックどうなってるんだコイツ。

 

「……ドーモ」

 

 箱の上にくっついていた何故か剣が彫り込まれた保安官バッチっぽい代物をさり気無く払い落として、アイテムストレージから代金を支払う。

 

「まいどー!あ、そういえばフィールド出る時は気をつけた方がいいよ?こないだのBoBから、ずっと目撃されてなかった第一回BoBの第三位がウロついてるって話だから」

 

「そう、か」

 

 忠告を受け、色物レア物不良品で構成された沼から足を引き抜きながら店を出る。

 ……にしても、第一回BoBの第三位か。また変わった奴が復帰したもんだ。

 

 ――GGOがリリースされた二ヶ月後に開催された、第一回バレット・オブ・バレッツ。

 それは、ゼクシードや闇風、ピトフーイといった、今なお異名を轟かせる古参がネットにGGOの物々しさを見せつけ。

 同時に、明かに動きが隔絶しているたった三人によって蹂躙された大会でもあった。

 トップ三人はその大会以降姿を見せなかったのだが……

 

「……第三位、といえ、ば、サトライザー、だったか」

 

 ハンドガンとナイフのみという最低限の装備で参戦しておきながら、倒した敵の銃器を奪って使用するゲリラ戦法の使い手。異様なまでの軍隊格闘術(アーミー・コンバティブ)とUSタグ付きなのもあって、正体は米軍の人間という噂がたった程だ。まあオチはキャリコ持ちの第一位と徹頭徹尾ナイフオンリーの第二位の戦闘の流れ弾で退場という冴えないものだったらしいが。

 こんなことなら、第一回BoBの映像見ておけばよかったな。まあ出会す確率なんて、……

 

「……いやいや。いやいや、いやいや」

 

 会って数時間だが、なんとなく分かる。アレ(エリザ)はトラブルを呼びトラブルに飛び込み自分からトラブルを生み出すドラ娘だ。そしてそんな娘が憧れのアイドルからのキチガイ染みた贈り物をドロップしたら?チクショウ嫌な予感しかしない!

 大通りに飛び出し、素早く左右確認。目当てのレンタルバギー屋を見つけると、表に駐車してあるバギーに飛び乗る。作りは電気スクーターに追加で色々増えたものに見えるから、操作はマニュアルなのか?チッ、さっきキリトにコツを聞いておけばよかった。

 

「ええ、い、ままよ!」

 

 スロットを煽り、バギーを発進させる。車体が縦に回転しかけるのを、無理矢理片足で斜め後ろを蹴ることで力付くで押さえ込む。

 目指すは、総督府から一番近いフィールドへの出口。確かその先は森林地帯。

 頼むから、間に合えよ――!

 

 

 

 

 

 









次回予告

 皆様どうも、お久しぶりです。
 先日のCBCで百連して元祖ワラキア公をお迎えできなかったどころかガンダムと敗北拳と若い方の八極拳くらいしか成果を得られず狂化った挙句、推しのモーション改修の結果解釈違い感と満足感の板挟みになって処理落ちした若様に代わりまして次回予告を務めさせて頂きます、ジャックです。
 さて、穴だらけのスケジュール管理で前後編となってしまった『竜の騎士の珍道中』ですが、話の流れを切ってここでエイプリルフール回のお知らせです。
 では、一見シリアスしているようでその実よく見なくても巫山戯きった次回予告を、どうぞ。



――――――――――――――



 ――聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望機

 過去の英雄をさーばんととして召喚し、最後の一騎になるまで争う

 そしてその勝者は、すべての願望を叶える権利が与えられる

 あらゆる時代、あらゆる国の英雄が現代に蘇り、覇を競い合う殺し合い

 ――それが、聖杯戦争



『Fate/capsule order』





 ……それは、己の魂を曝け出す物語である。





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