串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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【Fate/capsule order】

 

 

 

 

 

 ――始まりは、いつだって唐突だった。

 

 寝ぼけ眼で歯を磨いていたら、玄関の方から甲高いインターホンが鳴り響く。

 

「ふぁーい。今行きますよー」

 

 歯ブラシを突っ込んだまま、何時ものバイトのあんちゃんから荷物を受け取る。

 幸運にも荷物は片手で持てる程度の大きさで、ついでに宛先もオレ宛てだった。

 ただし、送り主が誰かは全然読めなかったが。

 

「ジェー、アイ、かコレ?エルエル?」

 

 まあいいか。開けてみれば分かるべとガムテープをビリビリと引っぺがし、梱包材をそこらに投げ棄てる。

 中身は――たった一つの、丸いガチャガチャのカプセル。

 透かして中身を見ようにも、どういう原理か中が煙ったように見えない。開けてみようにも以外と硬く、ふぬぬと踏ん張っても開かない。

 いっそ筋力A(スグ)にでも頼もうかと油断したその瞬間、小気味の良い音を立ててカプセルが開いた。

 急に開いたことで思わず倒れてしまい、尻餅をつく。咥えていた歯ブラシが落ちるが、それどころでは無かった。

 

 ――カプセルを握っていた高さ。丁度それくらいの位置に、二頭身の小さな人形が、()()()()()()

 丸っこい頭は顔以外綺麗な銀髪に包まれていて、頭身の小ささもあって可愛らしい。

 けれど、その手。

 その両手に握られた二振りのナイフと、後ろ腰にぶら下げられた幾本もの鞘が、それがただ愛でるためにある者ではないと主張する。

 

「――アサシン。ジャック・ザ・リッパー」

 

 小さな口から出た鈴を転がしたような音色が、さらりと声色と矛盾する運命を告げる。

 

「一時的にだけど、よろしく。マスター」

 

 ――此より始まるは、異能の戦争。

 あらゆる願いを叶える願望機を賭け、

 あらゆる時代、あらゆる国の英雄が現代に蘇り、覇を競い合う殺し合い。

 聖杯戦争が、幕を上げる――

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことはなくてね」

 

「なるほど、つまりCMからパクってきた臭のするあの紹介文は丸っと無意味だったんだな」

 

 居間にあるテーブルの上にちょこんと座るジャック・ザ・リッパー。

 ペットボトルのキャップに注いだジュースを一気飲みして「ぷぅ」と一息ついた彼女は、漸く状況を説明し始めた。

 

「実は、ここ冬木市を中心に妙な事が起こってるの。例外はあれど、聖杯がなければ召喚も維持も出来ないはずの私たちみたいな英霊が、何故かカプセルから取り出せるようになってる」

 

「なるほど、でもそれだけなら問題ないんじゃないか?」

 

「英霊側の尊厳威厳キャラその他が溶け落ちてることと、主に大人たちが闇と課金の沼に引き摺り込まれたことに目を瞑れば、()()()()なら問題ないね」

 

「なるほど、なにかあったんだな!」

 

 「ん」と突き出されたキャップに再度ジュースを注いでやると、今度はチビチビ啜りながら続けた。

 

「カプセルから召喚出来るサーヴァント――カプセルさーばんとは、いくら英霊とはいえ、その力は玩具の範疇に収まっていたの。

 でもある時、突然絶大な力を持つカプセルさーばんとが現れたの。それと同時に、どこからか噂が広がり始めた。

 

 ――『カプさばマスター最強の座を手に入れた者。汝の願いを叶える願望機へと手を伸ばすがいい』ってね。

 つまり、本当に聖杯がある可能性が出てきたの」

 

「なるほど、つまりオレがマスターになって戦えってことだな!

 ……どうすればいいんだ?オレ、この間剣道辞めたばっかりなんだけど」

 

「それは大丈夫!

さっき言った強力なカプさばは普通のカプさばよりも圧倒的に強いから!

そして、その強いカプさばの特徴は、七騎しかいないことと、()()()()()なの!」

 

「なるほど、つまりはそういうことか!」

 

 フンスとドヤ顔で胸を張るジャック。

 強いカプさばの特徴はモロジャックと一致する。つまり、残りの六騎をどうにかできれば最強の証明には十分ということだ。

 

「……あれ?でもどうやって残り六騎を探すんだ?それに、なんで全部で七騎って分かるんだ」

 

「それはね、ええと……… はいコレ!」

 

 自分が入っていたカプセルの裏側から取り出した何かがペシっと顔に当たる。

 見れば、折り畳まれた紙だった。あんまりにも小さく折り畳まれたそれを苦労して広げてみたら、そこに書いてあったのは――

 

「トーナメント表?」

 

「うん!」

 

「なるほど、黒幕の気配しかしないな!

……オレは全部で三回勝てばいいのか」

 

 横一列に小さく書かれた『せいばー』やら『じがい』から線が伸び、勝ち上がり戦特有の形で段々一本に纏まっていっていた。ご丁寧に、下の方には件の噂と同じ文言とルールが書かれている。

 ルールは単純。この戦いに使えるカプさばは一騎だけ。復活戦は無し。他の戦いへの横槍、乱入は無し。これだけだった。

 

「なるほど、分かった。じゃあ早速行こうか!」

 

 

 

 

 

少年移動中(なぅろーでぃんぐ)

 

 

 

 

 

 ――近場にある公園。

 時折妹が悪戯男子をしばき倒しているのを見かけるそこは、同年代の子供たちがカプさばで競い合う場には丁度よかった。

 

「えっと、表にあったのはここだよな」

 

「そうだね。まだ来てないのかな?」

 

 頭の上に鎮座するアサシンと一緒に公園を散策するけれど、喋るカプさばを連れた人はいない。

 

 飽きてきたのか髪の毛で遊び始めたアサシンはそのままに、もう一周するかとベンチから立ち上がるのと、アサシンが「いた!」と声を張り上げるのはほぼ同じタイミングだった。

 アサシンの指示した方向にいたのは、この辺りでは見かけたことのない、歳は同じくらいの青い服を着た金髪の男子だった。肩には紫色のぴっちりした衣装(ライダー)のカプさば。

 

「女の人のライダー。なるほど、チュートリアルだな!」

 

「そうだね。

…………って、ええええええええええええ!?!」

 

 相手のマスターを見た瞬間、それまで無垢さと利発さのバランスが取れていたアサシンがキャラを捨てた絶叫をする。

 どうしたのと訊く間も無く、叫び声に気が付いた相手マスターが走り寄ってきた。

 

「やあ。君がアサシンのマスターだね」

 

「おう。オレは和人!よろしくな!」

 

「カズト、か。 ……うん!よろしく!」

 

「よろしく、じゃないよ!?え、ナンデ?ナンデ??ちょっとライダー貴女桜はどうしたのよ?!」

 

 小さな指でぴしっと相手のライダーを指しての絶叫。

 対するライダーはと言えば。

 

「サクラですが……頭に乗せる冠のような、えーと、あにむすふぃあ?を手に入れてからはそちらばかりでして。

しかも最近は何やら、鏡に向かって無理にテンションを上げて『びぃ〜びぃ〜ちゃんねる〜!』と痛々しく叫んでから被る始末でして」

 

「止めて!あのシャルル(姫ギル)とは別ベクトルの装備チート、相手するのめちゃくちゃ面倒臭いから止めて!」

 

 もう普通に悲鳴同然の叫びを最後に、頭の上で倒れるアサシン。

 あのー、戦う前から力尽きないでもらえますか?

 

「……もういいです。あとからなんと言われようと知りません。相手が誰であろうと解体します。いいよね、マスター!」

 

 半泣きのまま、両手にナイフを実体化させるアサシン。それに伴って、アサシンの周りから薄く霧が立ち込める。

 それを合図に、ライダーも鎖付きの短剣を構える。

 

「それじゃあ、いくよ!カプさば――ファイ!」

 

 相手マスターの掛け声。

 

 ――途端、小さな英霊が、子供にとって十分広い公園を所狭しと駆け回る。

 

「はぁぁっ!」

 

 蛇のような軌道を描く短剣が、しかしいつの間にか深く立ち込める霧だけを切り裂く。

 

「くっ、やはり手強い――」

 

『尺も厳しいし、手早く決めるよ?』

 

 霧の奥、全方向から、冷酷で、そのくせどこか舌足らずな声がする。

 音もなく赤い筋が、白く染まる視界を走り――

 

「ライダー、後ろ、スキル!」

 

「御覚悟を」

 

 それに即座に反応してみせたマスターとライダーが、数瞬顔を覆うバイザーを解除する。

 如何に不可視のまま駆けられるとはいえ、攻撃の瞬間は気配遮断のランクは下がり、姿が見える。その一瞬を突く形でライダー――メドゥーサの瞳キュベレイが発動する。

 

「っ!?」

 

 素早さに長けた小さな身体が止まり、今度はライダーの短剣が刺さる。

 そのまま怪力に任せて振り回し、霧の薄い空に打ち上げられる。

 

「よし、作戦成功!ライダー!」

 

「お任せを」

 

 ただ落ちるしかない空中。その落下地点を狙い、ライダーが突進の体勢に入る。

 例え技術が無かろうと、ジャックを余裕で上回る体格差と怪力スキルから繰り出される体当たりは、カプセルサモン(小規模召喚法)によって現界しているカプさばを砕くには十分な威力だ。回避も、鎖で繋がってもいるから受け流すのも難しいだろう。

 ジャックも回避は不可能と踏んだのか、カウンター狙いでナイフを順手持ちに切り替える。でもいくら回復スキル持ちでも部が悪い。

 何か、何か空中でも動ける方法は、――

 

「……そうだ。()()、槍は?!」

 

「! わかった、やってみます!」

 

 ナイフの実体化が解かれ、代わりに鎖が内蔵された多節槍が現れる。

 同時にレザーっぽい服もデフォルメされたスーツに切り替わるが、それが終わるよりも先にスナップを効かせた槍の矛先が近くの街灯に巻き付き、軌道が変わる。

 慌てて鎖を引き戻すライダーだが、その頃には短剣は引き抜かれていた。

 

「まずい、ライダー!」

 

「遅い。此よりは地獄――」

 

 再度小さな影が霧に呑まれ、

 

 ――昼間の街灯に、ガス灯の灯が燈る。

 

「――殺戮を此処に。『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』」

 

 “殺人”が最初に到着し、次に“死亡”が続き、最後に“理屈”が大きく遅れて訪れる、()()()()()()()()が幕を開け、そして一瞬で閉じた。

 英雄も怪物も、幻想をも否定し尽くした果てに産み出されたシステムが、改めて幻想を喰らい尽くした。

 

「……ここまで、ですね」

 

 正確に霊核(心臓)を狙った宝具は、本来の三分の二の威力ですらカプさばを撃破するには十分過ぎたようで、ライダーの身体はもう半分近く消えていた。

 

「ごめん、ライダー。作戦が甘かった」

 

「相手が悪かったです、仕方ないと割り切りましょう。慰めになるかは分かりませんが、少なくとも何処ぞのワカメよりは遥かによかったですよ。

……では、私は一足先に失礼します」

 

 そう言い残して、ライダーは消えていった。

 残された少年もしんみりしていたけれど、まだ俺たちがいたことに気がついて、少し困ったように微笑んだ。

 

「相手をしてくれてありがとう、キリト。早く次に行くといいよ」

 

「なるほど、分かった!行くぞ、アサシン!」

 

「絶対分かってないでしょう貴方?!

 ……全く、なんで彼がカプさばマスターやってるんですかね、もう」

 

 小さく呟いて、振り返るアサシン。

 釣られて後ろを見るけれど、もうそこにライダーのマスターはいなかった。

 

「……行ってくるよ」

 

 ――何故か痛む胸をそのままに、俺たちは次の戦場へと向かった。

 

 

 

「だからそういうのは本編で――ああもう!」

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中(なぅろーでぃんぐ)

 

 

 

 

 

 

 

「それで、次はどこだ?」

 

「えっと、次はですね……」

 

 子供っぽく振る舞うことは諦めたのか、結構冷めた声でトーナメント表を睨むアサシン。なお舌足らずなのと頭の上に座ってるのは変わらない。

 上から聞こえる「次の交差点は真っ直ぐで」の声を聞いて、青になった信号を渡、

 

「Fuuuuuuuuuuuッ!?!?」

 

「な、なに今の?」

 

「……訂正します、マスター。道は問いません、逃げて下さい」

 

「なんで?」

 

「いいから早く!」

 

 横断歩道に差し掛かったところで、何処からか奇声が聞こえた。

 急かすアサシンの声に急いで走り出すと、頭の上が少しだけ軽くなる。

 

「アサシン!?」

 

「私たちなら平気――いやダメ、ミスった!」

 

 聞いたことのないアサシンの焦った声に、数メートル離れたアサシンに思わず手を伸ばす。

 でも伸ばした手は浮かぶカプさばを掴むことなく――もっと大きな手に、逆に掴まれた。

 

「……え?」

 

 ぞわっと、背筋が凍る。全身の産毛が逆立ち、その大きな手が伸びる先を見ることを本能が拒否する。

 でも、もう一本伸びてきた手がガッチリと肩を掴んでそちらへと引き込まれた。

 そこにいたのは――

 

「……和人くん、よね?」

 

 栗色の髪の女性(明日奈)が、なんか目を血走らせていた。コワイ!

 性差など無視出来るほどの体格差で無言のまま見つめられ、目を逸らそうにもいつのまにか頭をがっちりホールドされ。そろそろ本気で泣きたくなって。

 

「――叶った」

 

 掠れた声が、綺麗な筈の唇から溢れる。

 

「和人くんよね?キリトくんよね?!なんか縮んでるけど間違いないわ!ああやっぱり私のキリトくん!

キャスター!キャスター!!」

 

「チッ、よりによって想定外の狂人コンビが!」

 

 アサシンの虫の羽音ほどの舌打ちは、アサシンと明日奈の間に溢れた()()()()()に阻まれる。

 その中からヌルリと現れたのは、後ろから見ても眼球が顔に収まり切っていないと分かるキャスター。

 

「邪魔ぁ!」

 

 Aという間違いなく最高ランクの敏捷ステータスを開幕からフルスロットで蒸し、アサシンが猛然と切り掛かる。しかしリーチの短い斬撃の嵐は、溢れる海魔を捌くだけに終わる。

 

「無駄無駄。如何に一騎当千の英雄と言えど、万の敵に囲まれれば窮し、その果てに討ち取られるもの。ましてや此度我が主の恋路を阻むのが暗殺者如きが一匹などと」

 

「貴方理性がある(セイバー)無いの(キャスター)かハッキリしなさい!」

 

 ナイフでは埒が明かないと思ったのだろう。キャスターが持久戦を望んでいるのを見越して槍にスイッチする。

 ……格段に殲滅範囲は広がったが、ジャックは今回、明確にアサシン(暗殺者)の『ジャック・ザ・リッパー』として現れている。その状態で槍を握るのはやはり難しいのか、ALOでの凄まじいまでの腕が発揮出来ていないし、消耗が激しい。もう息が上がり始めている。

 霧に隠れようにも、時間を開ければ間違いなくキャスターはその隙に圧倒的な物量を用意するだろう。かといって打開案は出ず、仮に出たとしても、人の頭を吸いながら縦に痙攣してるバーサーカーが状況を正しく理解した瞬間タイムアップ。

 どうする、どうする、どうする――

 

「ヨシ!キャスター、帰るわよ!聖杯はもう私たちのものよぉ!」

 

「え、ジャンヌは?――あぎゃぁ!」

 

 あ、オレ終わった(タイムアップ)

 素のトーンだったキャスターの眼球を目潰しすると、オレを横抱きにさっさと走り出す明日奈。リアルなのに足速くない?!子供一人抱えてるはずだよね?!

 上から垂れる涎に思わず顔を背けると、偶然後ろからふよふよ浮かんで付いてくるキャスターと目があった。

 目を逸らされた。おい。

 

「た、助けてアサシーン!」

 

 万事休す。貞操的な意味での身の危険に自然と悲鳴が出る。けれどアサシンはまだ遠いし、海魔も残っている。

 

 

「――仕方ないですね。この手は、今回だけですよ」

 

 

 ――だというのに、声がする。

 でも声色が全然違うし、一体何が起きてる?

 疑問への答えは、すぐに視界に映った。突然明日奈が急ブレーキをかけたことで、慣性の法則で首がぐぃんと前を向く。

 そこにいたのは、なんの変哲もない子供たち。手には端末、ゲーム機、ボールと一貫性がなく、ついさっきまでそこらで遊んでいただろうことが見て取れる。

 そこに問題があるとすれば、

 

 ――全員が全員、虚な顔で、腕の一部を黒く変色させていたことだろう。

 

「な、これは――」

 

『――宝具でもスキルでもないけれど。理性が残ってる(目が引っ込んでる)元騎士サマと、仮にもメインヒロインだった人(閃光のアスナ)が、まさかこの兵力(人質)を無視する訳ないよね?』

 

 丁度真ん中にいた少女が、抑揚の無い声でそう告げる。ただし表情筋は憑依元の悪人ヅラを見事に形作っていたが。

 

「なるほど、これは悪属性だな!」

 

「うるさい。救われてしまったたった一人(ジル・フェイ)として、この救われなかった私たち(群体としてのジャック・ザ・リッパー)の力だけは使いたくなかったんですから」

 

「ほげッ?!」

 

 今度の声は後ろから。振り向くまでもなく、一瞬の早技で怯んでいたキャスターの首を跳ね飛ばしたアサシンが目前に回り込む。

 

「さて、マスターを返して貰いましょうか。さーばんとが脱落した以上、貴女に拒否権はありませんよ?」

 

「……そのようね」

 

 不気味な程あっさりと解放された。

 何か企んでるんじゃなかろうかと警戒して急いで離れる。が、以外にも不意打ちやその類をされる気配もなく、簡単にアサシンの元まで戻れた。

 

「……以外ですね。てっきりもう一悶着あるかと思いましたが」

 

「ふふふ。流石にここで無謀な賭けに出る私じゃないわ。

 ……でも覚えておいてねキリトくん。初恋は、私の様にいつか儚く消えるものなの」

 

「なるほど、でもオレもサチもお互い初恋じゃなかったぞ?」

 

 明日奈が血を吐いて斃れた。

 

「閃光が死んだ?!

ていうかマスターそれ本当ですか!?あ今言わなくて良いです閃光が本気で再起不能になります」

 

「なるほど、手遅れだな!」

 

「分かってるなら黙っててください!」

 

 

 

 

 

 

 

少年移動中(なぅろーでぃんぐ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ほう。ついに此処まで辿り着いたか」

 

「? 誰だお前?つかどこだここ?」

 

 不審者を座に見送った後、怨霊の回収その他でナビゲートする気力すら使い切ったのか某料理するネズミ宜しく髪に絡まった状態でだれるアサシンをそのままに、最後の戦いの場所へと歩いていたら、気がついたら異様な空間に入り込んでいた。

 青みがかったドーム。天井には誰もいない座席。

 そして、目の前には見た事のない青年。

 ノーチラス(鋭二)よりも若く見えるから、二十歳に届くかどうかといった具合か。短く切った銀髪に、丸っこい童顔は不敵な表情を浮かべていた。

 

「フッ。俺が誰か、か。よろしい、ならば答えよう!

天を見上げよ!星辰を図れ!そう、我こそは!段々減ってくお気に入り登録という悲しみに泣き、全国の爆死者の哀に寄り添う男、スパイd」

 

「何やってるんですか若様?」

 

 

 ――アサシンがそう呟いた瞬間、空気が凍りついた。

 

 

「……何を仰るウサギ=サン。こんな若くてピッチピチのティーンを外見年齢六十代と見間違えるだなん」

 

レッツ、第一回若様黒歴史発表会〜(尺押してるからハヨ吐け)

 

「ァ“ァ”ア“聖杯拾って気が付いたらこうなってましたァ!」

 

「……なるほど、尻に敷かれてるってヤツだな!」

 

 即カリスマがブレイクしたゔらど十五世(自称ティーン)。

 今回の事の顛末を簡単に説明するなら、

 

「そういえばウチ(ヴラド家)って、()()エリちゃん家と縁あるんだよなー、とか考えながらスープ煮込んでたら、気がついたら鍋が聖杯になってた」

 

「馬鹿なんですか?問題の起こし方がもろ男体化エリザじゃないですか」

 

「グゥの音も出ねェ!」

 

 ダイナミックに膝から崩れ落ちたヴラド(若)。だがそこまでは予想通りだったのか、カリスマ以外はすぐに復活した。つまりほぼ何も戻っていない。

 

「ふふふふふ。だが甘い。甘いぞジル。聖杯で朝飯作ってたと知った時の俺の驚愕に比べれば、その程度の罵声、恐るるに足らず!」

 

「やかましい解体しますよ!早く元に戻しなさい!」

 

「出来ぬぅ!」

 

「解体聖母!」

 

 男、霧無し、夕暮れ時と、目が赤くなる以外普通の斬撃と変わらない一閃は――突然出現した()に、防がれた。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 アサシンから、なんだかんだ理性的な彼女の口から出たとは思えない様な気の抜けた声が溢れた。よっぽど目の前に立つカプセルさーばんとの存在が信じられなかったのだろう。

 

 ウェーブのかかった長い銀髪。

 青白い肌。

 アメジストのような薄紫の瞳。

 不思議な程細剣を握る姿が似合う――女性さーばんと。

 

 

「……若様。この際小規模召喚法では召喚出来ない筈のさーばんとの存在にはツッコミません。だからといって、何故この女なのですか?ヴラド三世はどうしたのです」

 

「爆死したがなにか?」

 

「ああ……だから若い頃の更に五割増しでテンション狂ってるんですね……」

 

 キマってる表情のまま瞳孔だけ開き切ってるブライアン(ヴラド(若))

 そんな彼に哀れみの視線を一通り向けるアサシンだったが、件のさーばんとがブライアンの方に行きそうなのを察知すると、容赦無く切り掛かった。

 

「で、なんで貴女がここにいるんですか?キャスター……はないから、バーサーカー?」

 

「あら、失礼ね。私のクラスはセイバーよ」

 

「そういう問題じゃないでしょうが!貴女まだ逝ってないでしょう?!」

 

「この世界線だとまだ生まれてきてすらいないわね。ならほら、私は死んでいるとも言えるでしょう」

 

「だとしても貴女座に登録されるような人じゃないでしょうに!」

 

「反英霊って知ってるかしら?」

 

「私たちは知名度抜群だからいいんですー!」

 

 鋭い剣戟の間を縫って、掌サイズのアサシンとセイバーの会話が聞こえる。逆にいえばそれは、女性相手に有利を取れる筈のアサシンが攻めあぐねているという証明でもある。

 そうこうしているうちに互いにキリがないと判断したのか、一際甲高い金属音を最後に間合いが大きく開いた。

 

「アサシン、大丈夫か?」

 

「……ええ、なんとか。私たちの宝具が一種の呪いの類なのが幸いしました。防御にリソースを割かせる事を強要出来る分、先のキャスターよりかは容易いでしょう。

 とはいえ、相手はまだ手札を隠している。戦闘に魔術を組み込まれたら途端に逆転される程度の優位性ですし、それに……」

 

 チラリと周囲の特異な空間に目をやり、相手主従を睨む。

 

「……一番最悪なベクトルにヒャッハーしてた時期の若様が、こんな本人のトラウマを刺激するだけの自虐結界を作ってハイお終い、とは考え難い。無いとは思いますが、最悪の場合偽・極刑王(カズィクル・ベイⅡ)クラスの横槍を警戒する必要はあるでしょう」

 

「なるほど、軽く詰んでるな!」

 

 思わずそう叫ぶ。

 確かにオレたち四人を囲う青い座席の間は闇が広がるだけで、その隙間から血塗れの杭が飛び出して来ても違和感はない。

 

「なので、状況が悪化する前に一気に攻めます。

宝具でクィ……セイバーを片付けるので、可能な限り若様の注意を引いてください」

 

「なるほど、吸血鬼って煽ればいいのか?」

 

「あの年頃の若様には効かないと思うので、別の方法でお願いします」

 

 「作戦会議は終わったかしら?」と挑発してきたセイバーへと霧を纏ったアサシンが突進していったのを傍に、ポッケに手を突っ込んで待ち構えるヴラド(若)へと向き合う。

 

「えーと、話をしよう。争いはよくない」

 

「おま言う。

まあいいだろう。どうせジルが勝つだろうしな」

 

 こっちの作戦は筒抜けなのに、あっさりと勝負を放棄した台詞が出る。

 

「当然だろう?奴の実力は俺もよく識っている。セイバーがどの程度やれるかも把握していれば、結果は自ずと見えて来る」

 

「なるほど、信頼してるんだな!ならなんでアサシンにしなかったんだ?」

 

我が王(ヴラド三世)狙いですり抜けたからだよ!まあ代わりにアレが現界したのは流石に予想外だったが」

 

 コハエース顔で悲鳴を上げたヴラド(若)。

 さーばんとの戦いの方もいよいよ佳境に入ったのか、霧がこっちの方まで立ち込めてきた。

 

「じゃあ次は、なんで若返ってるんだ?」

 

「ワンクッション、でなきゃ予習というやつだな。なにせ俺がこっちの姿で出る時はシリアスかギャグのどっちかに極振りした時だけだからな!」

 

「なるほど、メタいな!」

 

 ふはははははとうるさい高笑いと共に宣う。

 その余裕は、アサシンの真名開放が高らかに響いてなお崩れなかった。

 

「中々に手古摺らせてくれましたが――私たちの勝ちです。

さあ、若様。次は貴方の番です」

 

 ナイフの鋒を赤く煌めかせながらそう告げるアサシン。

 

「ちょっと待ってくれ。カプさばマスター最強は決まっただろ?なんでまだ戦うんだ?」

 

 容赦なくゔらどへ殺気を向けるアサシンに問うも、その返答はやはり本来の主従らしく息ピッタリだった。

 

「そんなの決まってるでしょう?」

「決まっておろう、」

 

 

『――聖杯戦争に、存在しない筈の追加サーヴァント戦は付き物』

 

 

 霧を晴らすどころか更に深くするアサシンに対し、ゔらども瞳を緋黒く輝かせる。

 

 

「カプさばの真名に合わない結界。大人しく聖杯を出さない元凶。

これでツーアウト。さぁ、最後の一投は?」

 

「ハッ!よく分かってるじゃないか。

 ――真名詐称。擬似宝具展開」

 

 ずるり、と、ゔらどの中で何かが()()()

 

 

「さあマスター。悪性を摘出し(抉り出し)ましょう」

 

「なるほど、分かった。オレたちの戦いはこれからだってヤツだな!」

 

 宝具詠唱を始めたアサシンの後ろから、最後の敵を睨む。

 どっから取り出したか青いサーベルを握る相手に飛び掛かるアサシンを広い視野で見つめ――――………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――キリト。もう朝だよー」

 

「………………ふぉあぉう!?」

 

 微妙にくぐもって聞こえるサチの声に、思わず飛び起きる。

 寝ぼけ眼で周囲を見渡せば、なぜか見覚えのない和風の部屋で横になっていた事実に一瞬パニックに落ち入り――そういえば、舞弥さんに連れられて冬木市を訪れていたことをようやっと思い出した。

 

「ってことは、さっきまでのは夢か」

 

 慣れない部屋に、いつもと違う布団と枕。自分はそんな違いを気にするような質ではないと思っていたが、そうでもなかったようだ。

 もう細かい内容など覚えていないが、なぜか悪夢と断言出来る夢に自然と苦笑いになった。

 

「キリトー。もうすぐご飯できるよー?」

 

「おう、サンキューな。今起きる――どぅわ!?」

 

 障子の向こうから聞こえる声に返事をしながら身体を起こすも、何か踏ん付けてしまったのか鈍い音と共に再び布団に転んでしまった。

 

「キリト!?大丈夫!?」

 

 慌てたサチが部屋に入ってきたのか、クリアに声が聞こえた。

 ――そして、何故か恐ろしいと感じるセリフが、聞こえてきてしまった。

 

 

 

「……なにこれ?ガチャガチャのカプセル……?」

 

 

 

 

 


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