串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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第4章 聖杯戯曲装置アリシゼーション・グレイルウォー
第一小節 綻び 戸惑い 誤魔化し


 

 

 

 

 

 ――『住めば都』ということわざを知っているだろうか。

 どのような場所でも住み慣れれば居心地がよくなる、という意味のことわざで、事実引っ越し等でそれを実感できた人も多いだろう。

 

 だが、どうやらオレは少数派らしい。

 日本からルーマニアに移り、ブガレスト郊外にあるヴラドの屋敷に居候するようになってからはや半年。アニメで時々見る貴族階級の生活をイメージして緊張していたオレは、全く別の意味でのイメージとの違いに未だに緊張していた。

 それというのも……

 

 

「む、どうした。口に合わなかったか?」

 

「いや、美味しい、です。ホント、困る、くらい、に」

 

 ――なんで当主(ヴラド)が率先して家事してるんですかねぇ!?

 アインクラッドでも頻繁にご馳走になったロールキャベツ(サルマーレ)を箸(何故か完備してあった)で摘み、何度目か分からない「オイ貴族、いいのかこれで」というツッコミごと飲み込む。銀◯伝の帝国貴族的なのはちょっとなぁとか思ってたらまさかのこれだよ!

 従者のジルの方をチラ見するも、彼女ものほほんとスープを啜っている。住み始めた頃にツッコんだら、曰く「いい運動になるから代われ(意訳)」と言われ、結果として朝食を始め一部の家事はヴラドの担当になったとのこと。ええぇ……

 

 味とは真逆に気不味い朝食を終えれば、ヴラドとジルは経営してる会社の仕事に移る。とはいえこれも基本上がってきた書類に目を通してサインするだけの単純作業とのこと。

 「CEOこそ名乗っているが、所詮余は経営については素人。ならばその域を志し学んだ者に権を与えた方がよかろう」だそうで。

 会社についても、元は所謂『チャウシェスクの落とし子』を引き取っていた個人経営の孤児院で、資金と成長後の就職先の問題の同時解決を目論んで建てた会社なのもあって、緊急時のブレーキ役と他社との取引時の顔役をやる以外は仕事が無くて暇なんだとか。やることなすこと大胆というかなんというか。つうかアインクラッド第一層で孤児院モドキを始めた時に言ってた心得ってこれかい。

 

 ……まあ明らかになった真実やイメージとの食い違いへのツッコミはさておき。実態は脇に置いておくにしても、ヴラドたちは忙しい身ということになっている。

 その間、居候のオレのやることといえば、ぶっちゃけ何もない。いや、「この先VRワールド内での事業が増えるであろう。それに備え、日々鍛錬を積んでおけ」とかヴラドに言われてヨーロッパで流行っている和訳対応のVRソフトを一式貰ったし、一応やることはあるにはあるのだ。日本にいた頃とあまり変わらないスケジュールへの漠然とした不安と、エリザに絡まれる可能性に辟易してるだけであって。

 まあ散々悩んだ果てに、最終的にはアミュスフィアを大人しく被り、ラテン語をベースとする多種多様な言語が飛び交う空間に剣一本、それに時々銃か魔法をサブに飛び込む。それが、オレの日々の過ごし方だった。

 

 ……少なくとも今日、この日までは。

 

 

 割り当てられた自室で日本から持ってきたハードを起動させると、それと同時にスマホとアミュスフィアがけたたましく鳴った。

 おかげで巻き込んだ髪の毛が数本頭皮に永遠の別れを告げた際の置き土産にしかめっ面を強いられながらも、通話モードに切り替える。

 

『――やった、繋がった!ザザさんですよね!?』

 

「ユイ、か?久し振り、だな。どうか、したのか?」

 

 鼓膜を震わせたのは、キリトとサチの愛娘の声。かなり逼迫した雰囲気に、挨拶もそこそこに話の続きを促した。

 

『――パパが拐われちゃったんです!助けてください!』

 

 変圧器付きコンセントからプラグが引っこぬける音がした。

 

 

 

 視界の大半をアミュスフィアのバイザーに占拠され、ピカピカに磨き上げられた廊下で二回ほど転倒しかけ、三度目のスリップでヴラドの書斎の扉に激突する。

 頭頂部に響く鈍痛に呻いていると、音に気が付いたジルさんが扉を開けた。

 

「何事ですか?」

 

 無言で被りっぱなしだったアミュスフィアを差し出すと、一先ずそれを部屋の奥に放ってオレを立ち上がらせた。

 ちょっとチカチカするが、どうにか自分の足で立って入室する。その先ではジルからパスされたアミュスフィアをパソコンに繋げて、スピーカーから音声を出力できるようにしていたヴラドがいた。

 

「さて、これで此方の役者は揃ったといえよう。ではユイよ、状況を報告せよ」

 

『はい。それでは順を追って説明します。

 まず事の発端として、パパ達が襲われたのが一昨日の夜です。襲撃者は相良豹馬』

 

 痛む頭を摩りながらユイの話に耳を傾けていると、聞き覚えのある名前がでる。

 さがらひょうま…… それって!

 

「死銃事件、未だ捕まってない最後の犯人ですね。とすると、まさか凶器は例の毒薬?」

 

『いえ、使われたのはナイフでした。

刺されたのは左鎖骨の丁度真下。動脈を損傷したパパは、一時は心停止する程の重体で……』

 

 鼻声が一旦消え入りそうなほどか細くなる。

 

『それでも、最初に運び込まれた世田谷総合病院では手術に成功。命は取り止めたんです。

しかし、医師によると、五分強の心停止が続いた影響で、脳に何らかの異常が発生する可能性があるとされたんです。そこで、世界で唯一の設備が整った施設があると持ちかけて来たのが、菊岡さんなんです。

その言葉を信じて、パパは防衛医大病院に搬送されたのですが……どうやらパパは、防衛医大病院ではなく、ヘリコプターで海外に運ばれたみたいなんです』

 

「海外!?」

 

 ただでさえ防衛医大という意外な単語に驚いていたところに、追撃の重い一撃が意識を殴り付けた。

 

『現在、パパを追い掛けるには手掛かりが足りず、舞弥さんが該当時間帯の空路情報を調べてくれているんですが……』

 

「手詰まり、か。

よかろう、キリトの巻き込まれ体質にも慣れたもの。此方も出向くとしよう」

 

 出しっぱなしだった書類をファイリングしながらそう告げたヴラド。ユイが満面の笑みで『ありがとうございます!』と声を張り――

 

 

 

 

 

 

 その空気に水を刺す様に、誰かのケータイのバイブ音が鳴り響いた。

 

「すまぬ、余だ。ジル、渡る準備を始めよ。

 ……チッ、奴か。Alo(もしもし)

 

 電話を掛けてきた相手の名前を見るなり不機嫌そうになったヴラドは、最低限の指示を出すと、すぐにでた。

 一礼して部屋を後にしたジルさんに続いて出る。

 

「ショウイチ、自分のパスポートの場所は把握していますか?」

 

「ああ、大丈夫、だ。

ところで、ヴラドの、電話、の、相手って、分かるか?」

 

「おそらくハイドリッヒ上院議員かと。

日本でいう公安組織から成り上がった政治家なのですが、少々あの人とは反りが合わない人物でして。まあ、あの人にとっても愉快な話し相手ではありませんから、直ぐに終わるでしょう。急ぎますよ」

 

 そう急かされ、自室に戻る。ルーマニアに来る時にも使った鞄に着替えやらパスポートやらを投げ込んで玄関まで運ぶ。と、やっぱりジルさんたちが先に支度を済ませていた。

 

「待た、せた」

 

「問題ありません。寧ろ早過ぎたかもしれないほどです」

 

 銀糸の女性の言葉に首を傾げていると、革靴の紐を結び終えたヴラドが呻く様に告げた。

 

「先方に呼び出されてな。

ジル、先に渡っておけと言った筈だが?」

 

「ですが、本当に大丈夫ですか?」

 

 ジルさんの心配する声に「余が白蟻如きに遅れを取ると?」という反論が返る。

 尤も、ジルさんの心配はそんな事ではなかったが。

 

「いえそうではなく。ちゃんと彼方側、ひいては日本に辿り着けるのかと」

 

「あ、確か、に」

 

「貴様ら余を何だと心得ておる?!」

 

 半音上がった叫びが上がったが、異口同音での「超が付く程の方向音痴」の一言に無情にも叩き潰された。南無。

 

 

 ――日本まであと、十五時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おおスターコウジュ氏!お忙しいなか、よくぞ於いでいくださいました」

 

 タクシーを飛ばさせ俺を呼び出したハイドリッヒ上院議員宅の応接間へと踏み入れれば、そこには既に本人が愛想笑いを浮かべながら待ち構えていた。

 

「御託は良い。此方も急用が入っておる故、手短に頼む」

 

 高そうなガラステーブルを挟んだ対面のソファーに腰をおろす。一応学生時代に関係こそあったが、その頃から既に頭部が悲しい事になっていた目の前の禿げた政治家を軽く苛々しながら睨んでいると、一呼吸置いて、奴の言葉が耳に飛び込んできた。

 

「では単刀直入に。貴公には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――思わず、言葉が出なかった。

 

「……なんと?」

 

「ああ、失礼。私としたことが、肝心の前提を説明し損ねていました。アンダーワールドとは、日本の伊豆諸島沖に停泊している自走式メガフロート内において実験中の、」

 

「斯様な事は承知している!余が問うているは、何故貴様がその情報を掴んでいるのかについてだ!」

 

 ペラペラ得意げに喋るのに被せて怒鳴る。

 アリス計画については、その存在を端から知っている俺ですら裏付けは仕切れていない。精々がオーシャンタートルは完成済みで、ラースがSTLでの実験を開始しているといった表面的なもの止まりだ。断じて一政治家がそう易々と得られるものではない。

 

「……スターコウジュ氏。一つ、私からもよろしいでしょうか。貴公は今のルーマニアという国についてどう思われているか」

 

「何が言いたい」

 

 警戒と疑惑に視線を尖らせると、上院議員はやれやれとでも言いたげな表情でソファーから立ち上がった。

 

「初代大統領のニコラエ・チャウシェスクの失策以降、多くのヨーロッパ圏の人々がこの国をどういう目で見ているかは当然把握しているでしょう。

 ヨーロッパ地域エイズ発祥の地。

 スリの跋扈する街。

 治安の悪い、詐欺師と警察が繋がっている街。

 ローマ法王にすら国民の一部を居ない者と扱われた国。

 そして貴公にも関わり深い、ヴラド三世を吸血鬼と同一視する無知。

 これらが、事実など無視し尽くし我らがルーマニアという小国に寄せられた悪評だ」

 

 設置されたソファーの周りをゆっくりと回りながら、言い聞かせる様に、所々短く区切りながら話す上院議員。

 

「――しかし、そんな中に一石を投じた者がいる。そう、貴公だ。ヴラド十五世。貴公が遥か遠い地にて命懸けのゲームに興じてくれたお陰で、我々ルーマニア政府は日本に対して強固なパイプを築く事に成功したのですよ。

 ……それこそ、彼方の機密情報が流れてくる程度には」

 

 ――その強固なパイプとやらは、日本とルーマニア間のものでなく、貴様と彼方の下衆の何者かとのものを差しているだろうに。

 吊し上げてそう怒鳴りつけてやろうと手を伸ばす。

 しかし、襟に手が届いたところで、「ああ、そうそう」と遮られた。

 

「そういえば貴公のメイド。確か今、飛行機に搭乗しているのでしたな。

いやはや、連絡が遅れて申し訳ない。実は最近、少々物騒でしてな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という報告は上がっていたのですが」

 

「――貴様」

 

 このまま手を握れば、そのまま奴を扼殺できるだろう。

 だが、できない。奴の穢らわしい顔に張り付いた愉悦の笑み、その余裕が、言葉の裏に編み込まれた悪意を透かす。ジャックならば殺意を向けられた時点で事態を察知するだろうが、彼奴とて遥か上空で事を起こされては対処は厳しいだろう。

 

 …………致し方あるまい。ならば、時間を稼ぐか。

 

「……よかろう。貴様の策に乗ってやろう」

 

「おお、そう言ってくださると期待していましたぞ!これで捜査局も余計な仕事が増えずに済むでしょう」

 

 いけしゃあしゃあと宣うハゲ。腹いせに側頭部に少し残ってるのも毟り取ってやろうかと殺気を込めて睨むのにも気付かず、浮き足だった足取りで応接間の扉を開けた。

 

「ではご案内しましょう。なーに、STLとかいう装置も準備してありますから。貴公は二年ものゲーム生活で培ったものを振るうだけでいいんですよ。細かな作戦は彼方の協力者が詰めてくれます」

 

 渋々、奴の背を追う傍、思考を回す。

 ――ルーマニアから日本への直行便は無く、途中で乗り換える必要がある。選択肢は複数あるが、大体中継地に着くには三時間前後。

 とはいえ時間加速のあるアンダーワールドでリアルワールドの時間を計るのは不可能に近い。現実的な案としては、彼方側でジャックを確認し次第、ハゲの宣う『協力者』とやらを処す方が確実か。

 

 一先ずの計画を出す頃には、複製・設置されたSTLが、案内された部屋に鎮座していた。

 仮にもトップクラスの機密情報が重篤なレベルで漏れている事実に、そしてそれを嬉々と握り締めている戯けを殴り飛ばせない自身に今更ながら嫌悪感を抱きながらも、それに横わる他なかった――

 

 

 

 

 






【人界軍全滅の危機まで】ラスボス系主人公、ホントにラスボスになっちゃった模様【あと一年(UW時間で)】
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