串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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6話 串刺し公(血塗れ王鬼)、ドン引く

 

 

――ホルンカに到達して、あれから約一ヶ月後。

俺たちは、迷宮区に潜っていた。

 

……え? ザザとはその後どうしたかだと?

下手にPoH邂逅イベとかあったら目も当てられない、というのもあるが、コイツはちゃんと努力すれば結構強くなるハズなのだ。 何せソードアート・オンラインシリーズ中の敵で数少ない、実力のみでキリトを追い詰めた人物の一人だ。 期待は大きい。

と云う訳で、何故か向こうからパーティー組む提案をしてきたから、その場で即決した。 この判断が吉と出るか凶と出るかは分からないがな。 キチ(原作ルート)と出る可能性だってある。

後ジョニーはどこかに行った。 メッセ送っても『オレは孤高に生きるぜ(キリッ』としか返ってこないから諦めたとも言う。

 

 

……まぁそんなこんなで、順調に攻略を進めている。 今はポップしたコボルトをザザがタイマンで相手しているのを眺めている。

俺たちの武器は、揃って刺突系だ。 隙間に突っ込んで抉れば終わりな鎧を纏うコボルトとの相性はいい。 そもそもここは、良くも悪くもまだ第一層。 ソードスキルがクリティカルすれば、雑魚は大体ワンパン出来る。

現に今だって、リニアーが鎖骨に当たってゲージが空になったコボルトがポリゴンに爆散した。 やはり脆いな。

 

「終わった」

 

「うむ。 大分良くなってきたのではないか?」

 

ザザ、最初は酷かったからな……

棒立ちでフェンシングっぽい動きをやろうとして、微妙に笑いを誘うナニカになってた。 それが今じゃ、ソードスキル無しでもパリィが出来るようになって俺が手を出す事もほぼ無い。 ちゃんと動く急所にピンポイントで攻撃を当てられるようにもなったから、一体当たりの戦闘時間も減ってる。

ズブの素人が一ヶ月でここまで来たんだぞ? 普通に才能の域だ。

……俺の時はな…………色んな意味でもっと酷かったからな………

 

あれこれ思い出して微妙に憂鬱になってると、「マスター?」と首をコテンと傾けて聞いてくる。

………これが後の髑髏マスクの中身になるとか、全く想像出来ん。 マジでPoHは何やったんだ??

それ以前にマスターってなんなんだ。 何時からここは冬木市になった? 前に理由を聞いたら『マスターは、マスター、だろ』と返ってきた。 ……頭痛い。

 

 

「……む、大事ない。

そろそろ正午か。 昼食としようか」

 

「はい」

 

それは一先ず置いといて、定番のクリーム付き黒パンを食べる為に安全圏へと向かう。 道中コボルトと狼が襲ってくるが、律儀に威嚇動作をしてる間に刺殺する。 戦闘描写して欲しくば、この三倍はもってくることだな。

 

「……二対一で、五秒、かからないって………」

 

「何か言ったか?」

 

「いや、何も」

 

? まぁいいか。

薄い半透明の膜をすり抜け、小さな広場に到着する。 ザザがついて来ているのを確認してからウィンドウを開くと、メール欄に新着を示す赤いマークが点滅していた。

メール? 誰からだ?

その部分をタップして開くと、Klein(クライン)からのだった。 内容には、第一層フロアボス攻略会議への誘いと、自分たちは見送る旨が書かれていた。

……彼奴らは不参加なのか。 そういえば原作にも描写がなかったな。

空気の読めない連中が混じっているから少々不安だが………

 

「ふむ。 ザザ、今レベルは幾つだ?」

 

「レベル? 16、だ」

 

「最低限のマージンはある、か」

 

クォーターボスを相手取るならもう五は欲しいな。

今朝町で配られていた案内本によれば、敵は『イルファング・ザ・コボルトロード』。 武器は片手斧に丸盾(バックラー)、ラスト一本のゲージがレッドゾーンになるとタルワールに持ち替える。 取り巻きは四体。 ゲージ本数が減る毎にリポップ、か。

俺が参加するのは決定だとして、コイツ(ザザ)はどうするか。

 

「……マスター?」

 

「……………ザザ、町に戻るぞ。

愉しい舞踏会への招待状を受け取るとしよう」

 

――ま、問題無かろう。 レベルに関しては、圏内でも模擬戦をしているから武器熟練度でカバー出来るだろうし。

 

置いて行かれると思ったのか、急いでパンを口に詰め込むザザが落ち着くのを待ってから休憩ポイントを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――マスター(ヴラド)に付いて行って、最前線の町『トールバーナ』まで戻る。

迷宮区奥に出現する蝙蝠型小型mobから低確率でドロップする黒いローブの裾を追いかけながら向かった先は、町の中央から少し外れた野外劇場。 そこには四十人程のプレイヤーが集まり、中央の舞台には染めた(カスタマイズした)のか、青髪の男が立っている。

 

 

「――はーい、それじゃあそろそろ始めさせてもらいます!」

 

 

「間に合ったようだな」と小さく呟いたマスターが、癖なのか建物に背を預けて腕を組む。 移動中に聞いた話だと、ここで攻略会議をするらしい。

 

「今日は、オレの呼び掛けに応じてくれてありがとう。 オレはディアベル。 職業は気持ち的にナイトやってます!」

 

爽やかな笑顔でSAOに実装されていない職業システムを口にし、それに対して周りがツッコむことで笑いが出る。 本能から伏せさせるマスターのとは別のカリスマ性か、全体的にあの男がリーダーの様な雰囲気が現れる。

 

「今日、オレたちのパーティーがあの塔の最上階で、ボスの部屋を発見した!

オレたちはボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームもいつかきっとクリア出来る事を、始まりの町で待っているみんなに伝えなきゃならない! それが今この場にいるオレたちの義務なんだ!

そうだろ、みんな!」

 

拳を振り上げながら力説する。

その熱は伝播して、会場から拍手と喝采が溢れた。

 

「オッケー! それじゃあ、早速だから攻略会議を始めたいと思う。 まずは六人のパーティーを組んでくれ!」

 

その号令に合わせて、観客席に座っていたプレイヤーたちが動き出す。 オレも動こうとして、

マスターが微動だにしていない事に気がついた。

 

「……マスター? パーティーを、作らない、と、」

 

「必要ない。 余とお前で十分だ。

こんな手法で作られたレイドなど、すぐに崩壊する」

 

「!? それって、どうして、」

 

腕を組んだまま一息空けると、マスターは呟く様に続けた。

 

「ある程度大規模の部隊の中で人員を分ける時は、それぞれの役割を全うさせる為に似た能力を持った者を纏めるものだ。 まだステータス差が大きくないとはいえ、各個の性格、武器の特性、胆力。 幾らでも分ける要素はある。

……会議が終わり次第スイッチの練習をするぞ、ザザ。 即席混成パーティー対策だ」

 

「は、はい」

 

そんな会話をしている間に大体のプレイヤーがパーティーを組み終わったのか、ディアベルが話を続けようとする。

 

「よーし、そろそろ組み終わったかな? じゃあ――」

「ちょぉ待ってんか!」

 

それを遮る様にオレンジ色のトゲを何本も生やした男が肩を張りながら舞台の前に現れる。

……あの髪型、一瞬鉄腕ア○ムを想像して吹き出しかけたのはオレだけだろうか?

 

「君は?」

 

「ワイはキバオウってモンや。 ボスと戦う前に、言わせてもらいたい事がある。

こん中に、今まで死んでいった二千人に、詫びいれなあかん奴らがおる筈や!」

 

その言葉に、周囲が騒つく。

 

「キバオウさん。 君の言う奴らとはつまり、元βテスターの人たちのこと、かな?」

 

「決まっとるやないか! βあがりどもは、こんクソゲームが始まったその日に、ビギナーを見捨てて消えよった。 奴らは美味い狩場やら、ボロいクエストを独り占めして、自分らだけポンポン強なって、その後もずーっと知らんぷりや。

こん中にもおる筈やで! βあがりの奴らが!

そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな! パーティーメンバーとして、命は預けられんし、預かれん!」

 

大袈裟な身振り手振りでそう叫ぶキバオウ。 雰囲気も何処か不穏なものへと変わり、殺気立っていく。

悪意が膨れ上がり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あ、あの!」

 

 

――一人の少女が、その膨張を止めた。

 

 

 

「あ? なんやお前?」

 

キバオウが少女を睨みつける。 この空気の中出て行けば当然の反応だろう。

会議に参加しているプレイヤーの注目が少女に集まるなか、逡巡するように目を伏せさせると、右手でウィンドウを開いて、足元にポーションや武器などが現れる。

 

「……………へ?」

 

「わ、私、元βテスターだから、その、アイテムとコルと、

あ、装備も」

 

「ちょ、待、ストップ! ストォォォップ!!」

 

涙目で装備すら外し始めた少女の手をキバオウが死に物狂いで止めようとする。

さっきまではキバオウを中心にβテスター狩りが始まりそうな雰囲気だったのが、気が付いたらキバオウ狩りが始まりかけていた。

 

「え……?」

 

「う、ぐ、

わ、ワイが悪かった。 ディアベルはん、邪魔してスマンかったな……」

 

社会的に死に掛けたキバオウがヨロヨロと観客席まで戻り、深々と溜息を吐く。

その間にいそいそとアイテムを戻した少女が、同じように観客席に座る。

 

 

「――あ、そ、それじゃあ、再開しようか!

今朝、攻略本の最新版が配布された! フロアボスについてのものだ!」

 

 

少ししてやっと再起動したディアベルが攻略会議を再開する。

 

い、今のはなんだったんだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――キバオウを黙らせた少女。

その顔を見た瞬間、冷や汗が出た。

別にトラウマがあるとか、そういう訳ではない。 問題なのは、件の少女がいる筈の無い人物(・・・・・・・・)ということだ。

いや、他人の空似という可能性もある。 うむ、きっとそうに違い無い。

 

 

アイテムをストレージに戻し終えた少女が、かなり美形の男の隣に座ると、

 

 

 

――ニヤァと、嗤っていた。 その目は、完全にキバオウを嗜虐対象としか見てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

……………ジーザス。 どんな改変が起きればこんな事態になる?!

まぁ、ハンガリーに住むじゃじゃ馬娘に勧められて見たブログに載ってた顔写真にそっくりだったから、気が付けてしまった訳だが。

 

 

 

「――よし、明日は、朝十時に出発とする。

では、解散!」

 

ディアベルが解散の号令をかけ、プレイヤーが一斉に移動を始める。

ザザに「用事が出来た」とだけ伝え、二人(・・)を追いかける。

むぅ、黒歴史(演説)を聞いたプレイヤーに指摘されない様に目立たない場所に立っていたのがアダになったか。 中々追いつけん。

 

競歩に切り替えてスピードを上げ、角を曲がり、

 

 

 

「――ほーら、やっぱり私の言った通りだったでしょ?」

 

ビシッと此方を指差した先程の少女が、ドヤ顔で隣の男に話しかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……その声。 やはり『神崎エルザ』か」

 

「あり? あっち(リアル)の方のファンだったかー。 因みにこっちじゃピトフーイって名前だからヨロ!」

 

「いや、余はそういう訳では、」

 

「あっはは、照れちゃってもー! 別に私はオッサンでもオッケーよー?」

 

「……………もう、勝手にしろ」

 

ダメだ此奴話が通じん! というか止めんかエム(阿僧祇 豪志)(多分)! 貴様が懸念している事は起きんから睨むな!

 

 

 

 

 

――神崎エルザ。

SAOシリーズの番外編『ガンゲイル・オンライン』に登場する、ピトフーイ(毒鳥)の名を冠するキャラクター。

プレイヤースキルはかなり高く、作中では弾丸斬りこそしていないが、銃を装備した集団相手に徒手空拳やフォトンソードで無双する実力を持つ。

元βテスターだが、リアルの都合で正式サービス(デスゲーム)には参加出来ない、その筈だったのだが……

 

 

 

 

 

「――さて! 冗談はそれくらいにしておいて!

私に何か用?」

 

……流石本性を隠しているアイドル。 演技力は凄まじいな。 もっと狂ったキャラだと思ったが。

で、用か。 此奴が原作では未登場のSAO失敗者(ルーザー)に見えて、と言うのが本音だが、そう言う訳にもいくまい。

 

「……先程の攻略会議。 何故あそこまでやった?」

 

「やっぱバレた? こうやって話してて驚かなかったから、そうじゃないかなーとは予想してたけど。

んで、あのモヤットボールをからかった理由? 愉しそうだったからに決まってるじゃない!」

 

「…………哀れな」

 

キバオウに対しては良い印象は無かったが、思わず哀れんでしまった。 が、まぁ、うむ。 ラフコフに絡まれるよりはマシか。 物理的に殺される事はないだろう。 社会的にと精神的にはアウトだろうが。

黙祷はそこそこに俺も逃げないとな。 どんな経緯で狂ったのか、或いはもう狂っているのかは知らぬが、関われば面倒なのは確実だ。

 

「……はぁ。

精々、死なぬ様にな」

 

「オッサンもねー!」

 

頭を抱えたくなるのを我慢しながら元来た道を戻る。

あぁ、これ原作どうなるんだ……? もう俺居なくても既にかなり変わっているような………

……考えても仕方ない。 さっさとザザと合流してスイッチの練習をするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――へぇ。 アレが噂の『ドラキュラ』ヴラドかー。 大分ブッ飛んだヤツって聞いてたから話してみたかったけど、まさか最初から見破られてたなんてね。

 

 

「……エルザ、明日のボス戦はグフゥッ!?」

 

「あーうっさい。 それにこっち(SAO)じゃピトフーイだって言ってるでしょ?」

 

私に対して反論しかけたエムの股間を蹴り上げて黙らせる。

 

 

さ・て・と。

 

「――かなり面白そうじゃない、この世界。 よーし! 明日も、明後日も、明々後日も! 戦って、戦って、戦いまくるわよー!」

 

 

性格とは真逆に綺麗に澄んだソプラノボイスが、青空に吸い込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました、叔父様が空気な第6話でした。 次回か次々回では(多分きっとメイビー)活躍するといいなー。
感想欄で指摘された点を踏まえて書いてみましたが、如何だったでしょうか?
それでは、また次回お会いしましょう。

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