串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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第十六小節 『Catch the Moment』前編

 

 

 

 

 

 血の雨が降り注ぎ、行く度もの暴力が飛び交い、果てには見知った小憎らしいガキンチョがよく分からないヤッベェ能力に覚醒して。遠くに屋敷の見える比較的整えられていた田舎道は疾うの昔に荒れ果て、鉄臭い死臭とは別に濡れそぼった土の匂いが薄霧に混ざり、辺りに立ち昇っている。

 そんな中を、ヨレヨレの状態を気にも留めず歩く。

 進む先にいるのは、此方も肩で息をしている怪物。キリトの打ち込んだ楔以外傷一つないというのに、未だ健在の圧倒的捕食者としての圧は「いつもよりちょいキツい」とギリギリ笑って流せない程度。

 

 とはいえ、だからといってコッソリ逃げ出すのは論外。何気にデスゲームクリア後初めて全員揃ったドラクル騎士団だし、再三ボコボコにされて仕返ししたいというのも乙女心ですし。

 なによりも私の心を埋め尽くすのは、「このまま引き下がるのは、面白くない(・・・・・)」 ただそれだけの感情。

 SAOでもGGOでも、それは変わらない。私が本気を出すのは、私の愉悦の為にのみ。邪魔する奴(須郷)タイムリミットを設けようとする奴(茅場)なぞ排除一択に決まっているし、そんな私を受け入れて、それどころか振り回してくれるヤツなぞ離してやるつもりは毛頭ない。

 

「おい、ピト、下がってろ。俺が、やる」

「は?冗談。私にやらせなさいよ、アンタはもうGGOでやったっしょ?」

「あんな、結末で、満足、できるか」

「たし蟹」

 

 一人で勝手になにやら背負い込んでる……のはまあいいとして。

 隠し事が山盛り……なのもまあいいとして。

 なによりも許せないのは――()()()に断りもなく、何処か遠くへ消え失せようとしている野郎に対して。

 

「エムは防御に徹して。ザザとノーチラスは遊撃、適宜パリィ。私は好き放題するから。ユナちゃんはバフよろ」

「自由、か」

「だって私、武器がもう拳銃とナイフだけだもの。ライフルどころか虎の子ラ◯トセーバーまで壊された私にどうやってパリィ取れと?」

「おい大剣ブンブン丸」

「シャラップ。文句は金属剣未実装のザスカーにドーゾ」

 

 エムがひしゃげた折り畳み防盾から比較的無事な盾を分離させるまでの間、ヤロウ二人と軽口を叩く。後ろからはユナが吟唱スキル使用前の調整に入っているのが聞こえる。

 揃いも揃って既にボロボロ。装備だって主武装は破壊されているかその一歩手前。ハッキリ言ってこれから戦うには心許ない。ましてやサーヴァントとかいう理不尽が相手なら尚更。アドレナリンドパドパ出てるお陰か、ペインアブソーバーが無い割には痛みがないのがせめてもの救いか。

 だけれど、私たちの目に恐れはない。愉悦顔、無表情、呆れ顔等々十人十色……三者三様?まあどっちだっていい。

 

「なに、やることは昔と変わんないわ。所詮は狂人共の戯れ。いつものじゃれあいの延長線」

 

 敵キャスター(クィネラ)とキリトの台詞から大体は察した。多分このオッサンの計画は、ユイちゃんの言ってたアリス云々とは全くの()()()だ。

 手段は如何あれ、目的は真っ当な、少なくとも一般的に悪とは言い難いものなのだろう。或いは女性関係ストイックなヴラドが唯一拘る相手に向けてな辺り、ワンチャン私たちのやることの方が『悪』に分類されるかも分からない。

 

「……それじゃ、精々派手に駄々を捏ねるとしましょうか?!」

 

 エムの準備完了の合図を受けたユナがイントロに入ったのを皮切りに号令を掛ける。

 ――「置いていかないで」と訴える子供のように。「訳を吐け」と募る、仲間として。

 

 

 

「はぁぁっ!!」

「シィッ!」

 

 AGI型のステと活歩(歩法)で一息に距離を詰めたノーチラスとザザ。片手直剣とエストックが心肺を左右から叩かんと迫るが、害意を向けられて漸く我に返ったのか、両腕のガードが剣戟を防ぐ。

 刃を弾いた腕には――はっきりと、ダメージの跡が。

 

 ――よし、攻撃は通るわね!

 

 キリトが何をしたのかは知らないにしろ、傷一つ付けることすら叶わなかったサーヴァントとかいう状態だったのが改善されたのは確認出来た。

 なら続けて私が、とナイフ片手に突貫しようとした目の前でヴラドの姿がブレる。

 直後、吹き飛ばされるノーチラスとザザ。型も何もない、ただ腕を曲げたガード姿勢から伸ばしただけ。ただそれだけの動きが目で追えない。体重の乗っていない裏拳ですら、重打に匹敵する。

 

「安定と信頼の理不尽ねぇっ!」

 

 慌てて銃撃に切り替える。左手に握りっぱなしだったXDM(スプリングフィールド)……が変化したボウガンの矢が真っ直ぐ顔面へと迫り、突き出された左手に食い込む。

 

「あ、やべ」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ッ!!」

 

 未貫通の弾丸が、鞭の様に振われた手から遠心力で飛び出してくる。慌ててエムの背後に滑り込むことで事なきを得たが、これじゃあ拳銃弾は使えない。欲を言えばライフル、せめてファイブセブンかコンテンダーが欲しくなる。テメェの真名って傘ンとこの生物兵器ですかぁ!?

 攻撃が止んだからか、吟唱バフを撒くユナをタゲる狂戦士。純粋な移動速度ではやはり鈍足なのか、普通に目で見えるスピードで迫る。

 吟唱中はその場から動けないユナを庇い、前に出たエム。構えられた盾を正面突破するつもりかめちゃくちゃなフォームで突き出された拳は、金属と肉体が激突したとは思えないような重い轟音を伴う。

 辛うじて受け流すことに成功したのか、大きく跳ね上がった盾に目立った損傷はない。しかし、武器を持たない一挙手一投足が高火力攻撃となっているヴラドの前で武具を逸らしているのは致命的であり、急いで盾を引き戻そうとする。

 

「く――うぉぉおお!?」

 

 しかし単純な行動速度では相手の方が速い。盾が戻るより先に縁を掴まれ、そのまま振り回される。身体諸共激しく上下左右されるエムの足に当たらない隙を伺おうにも奴さん、あの状態のままジリジリと前進している。そのまま投げ付けてこないのは、盾としても使えると思ったからか。

 こうなったらエムごとブチ抜く?でもこの銃の弾じゃあ貫通力に欠ける。

 

「ザザ!復帰マダー?!」

「うる、せえ!!」

 

 私の叫びにザザが投剣を手に答える。よし、これで強引に隙を作れば!

 アイコンタクトでザザに指示。ナイフに意識を取られた瞬間に私が懐に潜り込んで心臓に五、六発ブチ込んでやる、と殺気立ち――

 

 

「――お、おおおおおおおおおおッ!!」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ッ――――!?」

 

 ――瞬間、絶叫と共に走った剣線に、ヴラドの両腕が切り落とされる。

 

「ノーチラス!?」

「俺は――今度こそ!自分の手で、ユナを守るんだ!」

 

 その場で回し蹴り。綺麗に直撃したそれはヴラドの体幹を僅かにズラす。蹴り技を出すまでの隙を強引に稼いだノーチラスは、続けて回転斬りで首を狙う。

 

「ああそうだ。俺はもう、誰にも弱虫だなんて言わせない!

 例え戦う相手が、多くのプレイヤーが暴虐の象徴と恐れた、王の血を引く狂戦士だとしても!俺は二度と立ち止まらない!立ち止まって、たまるかぁぁぁああああ!!」

 

 遠心力の乗った一閃は贔屓目に見ても見事という他なく、無理な回避をして姿勢の浮いていたヴラドを大きく吹き飛ばした。

 

「いぃよくやったノーチラス!

 ……つぁ?」

 

 さあ追撃するわよ、と言いかけて。ノーチラスの攻撃がヒットした場所に、紺色の靄が浮かんでいるのが目についた。

 すわ何かの攻撃かと未知の存在に身構えて、

 

 

 

 ――気がつけば、銃抱えたオッサンを銀髪ロリが素手でしばき倒していた。

 

 

 

「は?」

 

 唐突に映った光景に呆気に取られて瞬きすると同時に、視界が元に戻る。さっき見えたのが気のせいだったのかと思ってしまいそうになるが、けれど私には、あの景色に見覚えがあった。

 

「……あれって確か、第三回BoBの時の。でもなんでそんなのが今見えたの?」

 

 武器も防具も私が用意した、私好みの『吸血鬼』。意図せずしてお似合いのアバターすら引き当てたあの時のヴラドの姿は、思い出すだけでニヤけるの(愉悦)が止まらなくなる。とはいえタイミングが異常過ぎて、困惑の方が勝った。

 様子を伺ってみればノーチラスたちにも同じものが見えていたのか、キョロキョロと辺りを窺っている。

 

「おっとと、前前前っ!?」

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎――――ッ!!」

 

 しかし今は戦闘中。呆けてる場合ではなく、突進してきたヴラドの一打に合わせて矢を数発撃ち込む。咄嗟だったからかあまり命中せず、唯一当たった一発もとっくに再生の済んでいた手に防がれる。まあタゲられてたノーチラスが回避する隙は作れたので結果的にヨシ!

 次いで奴さんが狙ったのは私。理性の無い猪宜しく突進一辺倒なのは読みやすくて大歓迎。大振りの横薙ぎハンマーパンチにタイミングを合わせて跳び、弾倉に有るだけの弾を吐き出すついでにナイフを肩関節に突き刺してやろうとして、()()()()()()()

 

「ファッ!?ヘルプヘルプゥゥウ!?」

「この、バカ!」

 

 大振りな攻撃直後で硬直していたのが幸いし、振り返りざまの回し蹴りにザザの裡門頂肘(肘打ち)が間に合った。

 衝撃音と共に二人を襲う激しいノックバックによって押し戻されるのを尻目に、思考を巡らせる。

 

 ――跳んだ高さ。銃撃の反動。ナイフのリーチ。全て想定の範囲内に収まっていて、あの一差しは必中の筈だった。だというのに外した。

 回避された?いや、普段なら兎も角、今のヴラドにそんな小細工を弄する思考はおそらくない。なら何かしらの想定外がある筈。

 

 再び突進を繰り出すヴラド。澱んだ静脈血の様な色の瞳をした化物は、不気味な靄を纏っている。黒と紅の暗色に包まれた中で、胴に刻まれた十字の傷だけが、蒼い粒子を伴い主張している。

 

「あ、体格戻ってら。成る程、そりゃリーチ足りないわ」

 

 ヴラドが投げ付けられる投剣を意に介さず突き進むのに対し、構わず追撃の弾幕を放つザザ。

 投げ返されたナイフを撃墜して発生させた空白地帯を再び活歩で詰めるザザ。両腕で挟み込む形に爪が迫るが、身を沈めての斧刃脚(ローキック)が先んじて足首を砕いた。

 ――体格だけじゃない。攻撃力も防御力もスピードも、さっきより明らかに落ちはじめている。攻撃へと昇華されていた余波一つ々はただ鬱陶しい衝撃へと落ち。攻撃の前振り、タメと技後硬直以外まともに見切れなかったのが、その軌道を見出せるようになっている。

 切っ掛けは多分、ノーチラスの一撃が、キリトの刻んだ跡に当たったからだろう。さっきの意味不明な幻覚も、ちょうど攻撃直後だったし。

 

 つまり――あの傷跡が、弱点だ。

 百年前の小説家が書き記した怪物、そしてその化物から派生し続ける存在へと集った伝説・信仰。その信仰(畏怖)を以って、人外の領域へとのし上がった彼に刻まれた、後付けのアキレス腱。神秘に包まれた肉体に残された(刻まれた)、人の子の証明。

 あれを叩き続ければ。万人から集められた吸血鬼像を全部削ぎ落とすか、中に埋没しているヴラド個人の意思を引っ張り出すかすれば、私たちの勝ち!

 

「はっ。随分とまあ、律儀な『バケモノ』だこと」

 

 ザザの連撃を再生能力によるゴリ押しで突破したヴラドの反撃。後頭部を掴もうと伸びた右手に向けてナイフを突き立て、その柄頭に向けて発砲、細い骨の間を切り抜いて貫通させる。

 鈍ったとはいえ、ただでさえバケモノバケモノしてるステータスがデフォのヴラドに更にバフかかってる性能の相手には違いない。

 消耗しているザザと入れ替わり(スイッチ)、血塗れのナイフを下から逆手に掴み取ると同時に切り返し、変則的な唐竹割りを放つ。避けられる。想定内。

 返しに蹴り上げが飛んでくる。軸足を踏みしめる、分かりやすい予備動作。膝が曲がり、腿が上がり。直後に音速で爪先が迫るだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハッハー!!うん、やっぱアンタ人間辞めすぎ!!」

「⬛︎⬛︎ッ!」

 

 軌道上に刃を置くと。後は相手の力に任せれば切断される。重量の急変によりバランスが崩れ、続く踵落としまでに数コンマ、動きが止まる。

 その隙にガタが来たナイフの鋒を軸足の膝に捻じ込む。普段ならまだしも、バーサクして癖を隠そうともしていない今なら、反射的に出る慣れた動きを阻害するだけで効果があるはず。

 その勢いのまま股下を潜り抜ける。直後、漸く足が振り下ろされ、軽く大地が揺れる。

 

「⬛︎⬛︎………!」

「そうそう怒れ怒れ!そうやってアンタ自身の意思をハッキリさせろ!」

 

 挑発に乗ったヴラドが手刀を突き出してくるが、それはノーチラスによって再び切断される。

 

 ――キリトはこいつのことを英雄(人間)と呼んだ。それを否定するつもりはないが、(こと)殴り合いに関しては、相手は文句無しにバケモノだ。そんな相手と既にボコられた状態でやり合おうとするなら、頻繁にスイッチをする遅延戦術、耐久戦が必須となる。首尾良くこのまま削り続けられればまた話は変わってくるが、現状のアイツと拮抗出来ているのはユナの歌バフのお陰。

 じゃあ延々数時間かけて嬲れるのかといえば、ぶっちゃけ論外。これがアイツと私たちの個人的喧嘩だけなら幾らでも付き合ってやれるんだけど、ユナが持たない。それ以外にも、あんまり時間をかけたくない理由はまだある。

 

 ノーチラスが躱しそこねたタックルをエムが足元に壊れた防盾を蹴り込んで妨害し、そのままスイッチしたのを横目に収めながらリロードする。

 垂直に落ちた弾倉を思いっきり蹴り上げ――流れ弾に当たって、木っ端微塵に砕けた。

 

「なにあれ、怖っ」

 

 キリトと愉快なお友達〜ダブルデート編〜の方も残念ながら余裕は無いようで、ランちゃんの『奉る王律の鍵(バヴ=イル)』も斯くやな魔法の雨霰を、四人で切り拓いている。漆黒の奔流やら渦巻く流氷やら金ピカ千◯桜やらが弾幕を呑み込み、相手に迫る光景に、味方ながら肝が冷える。しかし味方もヤベーが、それと互角に渡り合っている相手も大概。数百の光弾を無詠唱で事も無げに展開しているのは今更ながら、それを剣士三人相手に互角以上に切り結びながら維持してる。

 ていうか、あの辺りなんか空間おかしくなってない?お相手さん、なんかキリトと一合切り結んで顔歪ませた瞬間、一気に圧が増したし。サチちゃんと相手の視線(聖杯と聖杯)がぶつかるたび、極彩色に歪んだり、明らか間合いの外の地面が爆発してるんだけど?

 

 流石にあの中に飛び込む勇気は無いが、相手(クィネラ)の注意を引く方法はある。あっちが完全に拮抗しているが、ヴラドが加勢に入れば天秤は確実にあっちに傾く。逆に私たちがヴラドの撃破に成功すれば、高確率でその時点で相手は戦意喪失するだろう。

 

 

 『――バーサーカー。バーサーカー!』

 

 ……ほんの数分前、クィネラを撃破寸前まで追い込んだ時のあの様子は。とても、我欲でヴラドを手駒にした魔女とは思えなかった。どっちかといえば、逆。彼女が惹かれた側。枯れ果てた死ねずの君に中てられた、夢破れた夢にそうと知って尚も手を伸ばす少女のように見えた。

 

 

「ま、私の知ったこっちゃないわね」

 

 閑話休題。元々私たちがアンダーワールドにアバターをコンバートした理由は、アリスを奪おうとする敵組織の魔の手を撃破、乃至(ないし)は彼女を守り切ること。言っちゃなんだけれど、ジャック嬢の言動からしてヴラドが敵側(アメリカ側)についているとは考え難い以上、無理に今此処で撃破する必要はない。ていうか仮にそうなら、不得意を自称しながらアインクラッドで腹芸も熟し、ここまで拗らせるレベルで隠し事を抱え込めるアイツのことだ。味方のフリして横から掻っ攫うとか、もっとやりようがあるだろうに。

 とはいえ、リアルからの参戦したプレイヤーをサーヴァント化させた辺り、全くの無関係ではないだろう。私たちを呼び寄せたのは、襲撃者側が手軽な兵隊としてアメリカ人プレイヤーを騙して招き入れたことへのカウンターだったのだから。だとすれば、寧ろヴラド側の人間が襲撃者に紛れ込んでる?うっわやりそう。

 纏めれば、ヴラド・キャスター組の立ち位置は、ラース組、襲撃者(アメリカ)組でもない第三勢力ということになる。

 

 さて、それでもって肝心のアリスはバケモノが跋扈しているここにいて。しかも当の襲撃者側の動きが戦力投入以外ないことから鑑みるに、多分漁夫の利を狙ってるのだろう。

 さっきクィネラが腕の紋様をヴラドに使った時点で私たちが斃れていたら、そんな横あいから機を伺っている連中なぞ擦り潰せただろうが、怪物の座から引き上げられ、戦闘力の低下したヴラドでは断言できない。

 

 ならば必要な結果は――余力を残した上での勝利。

 武器を使い果たしてはならない。体力を尽かせてはいけない。

 

 うーん無茶振りぃ、という泣き言を噛み潰し、ハンドサインでザザを呼び寄せる。

 

「なん、だ?」

「武器後どんくらい残ってる?」

「……ツェリスカが十五。バレットはラス一セット。ナイフは八」

「ナイフ二本チョーダイ」

 

 素早く残弾を確認したザザに強請ると、何も言わずに軽く袖を振った。射出装置付きの鞘から飛び出たナイフを受け取る。

 

「ついでにヴラドのこと、三十秒くらい一人で抑え切れる?ちょっち作戦会議したい」

「それが、出来れば、とっくに、斃してる」

「デスヨネー」

 

 頭に思い浮かんだ奇策をノーチラスたちに伝える時間が欲しかったのだけれど、そう言われては仕方がない。

 ユナちゃん連れてゴリ押すかと、最小限の言葉で伝達する為に言葉を選んでいると、何故かリボルバーとしての形状を保てているプファイファー・Tで援護射撃をしているザザが呟く。

 

「……あの人の、攻撃は、薙ぎ払いを除けば、全て、右側から、発生している」

 

 拳、刺突、蹴り、タックル。じっくり観察するまでもなく、その全てが右半身からとんでいる。防御に集中しているエムが私たちから見てやや左、一番威力を殺しやすく、発生も潰せる場所に陣取っているし、ノーチラスもヴラドの左後ろに張り付いている。

 旧SAOでも、素手で戦う時は利き手での寸勁の威力と発生速度は割とマジで洒落にならなかった。

 

「ええ、そうね。それが?」

五分(一曲)で、決めろ。右は、俺が請け負う」

「――」

 

 一言も言ってない策の内容を言い当てられ、思わずザザの顔をマジマジと覗き込んでしまう。似合ってない赫目の髑髏にはヒビが入り、茶髪に童顔が見えている。

 

「……どやったの?」

「お前と、何年、付き合ったと、思ってるんだ」

 

 呆れた視線を寄越しながら、全弾キッチリ当てるザザ。ノーチラスたちも相当頑張っているのかちょくちょく例の幻覚は見えているが、その殆どがヴラドとは無関係――どっかの誰かがアイツと結び付けた『吸血鬼(ドラキュラ)』の記録なのに対し、ザザが急所に叩き込んだ一発は、再びGGOでの一戦、ヴラド本人の記憶を引き出した。

 

「オッケー、任せた」

「任された。タイミングは、任せる」

「じゃあ七秒後!」

 

 ザザがツェリスカのリロードを始めると同時に、丁度歌詞の一番が終わったユナ目掛けて走る。

 伴奏も間奏もなく二番に入ろうとしていた彼女の手を掴み、ついでに道中で機関部がひしゃげたロングクロスボウ(アサルトライフルだったもの)を拾う。

 

「さぁ――第二幕の始まり始まり!!」

 

 

 

 

 









 ――嵐の夜が来ても、揺らいだりはしない

 逃がさないよ僕は
 この瞬間を掴め


次回 『Catch the Moment』後編




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