串刺し公は勘違いされる様です(是非もないよネ!) 【完結】   作:カリーシュ

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9話 竜の騎士、回想す (余計なオマケ付き)

 

 

 

 

 

――年が明け、早二ヶ月。

今日は珍しく裁縫絡みの依頼も無く、久し振りにスケジュールも必要素材も気にせずにレベリングに励めた。

毎日これくらい気楽に過ごせればいいのだがな……

 

 

 

…………………うむ。 無理だな。

最近なぞアホ(ピト)が女顔女顔と弄りまくった所為でザザがマスク被るようになったし。 そんなくだらん理由で原作再現(赫目マスク)してくれるでない。

 

丁度目の前に立っていたゴブリン型の敵の攻撃を躱し、ストレス発散も兼ねて手首を掴んで全力で振り回す。 鈍い音を立てて床や壁に激突させてHPを削り、援軍が来た所で投げつけてやれば、敵の団体を薙ぎ倒しながら爆散する。

……幾ら雑魚敵とはいえ、せめて武器を抜かせろ、最前線。

まぁ流石に複数体相手に無手は危険だ。 さっさと片付けるか。

 

槍を片手に握り、地面を蹴る(真横に跳ねる)事で一瞬で距離を詰め、身体を捻りながら矛を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そんな具合に、それなりの数のMobにバスターチェインを叩き込んでレベルを幾つか上げてから、迷宮区を後にする。

しかし、マップデータは本当にありがたいな。 俺のような方向音痴でも複雑な洞窟で迷わずに済む。

 

「……故に案内は不要だと伝えた筈だが? ノーチラスよ」

 

だというのに、何故迷宮区を出た所にギルメンがいるのだろう? しかもPvEに一部まだ不安の残るお前が。

 

「そう言って、前に三日三晩ダンジョンを彷徨ったのを忘れたんですか?」

 

「む……」

 

ぐぅ、それを持ち出されると強く出れん……結局高価な転移結晶を使う羽目になったのも事実。

何処となくSFチックな紫色のラインが走るスーツを着こなす男が、額に手を当てて天を仰ぐ。

 

「――それは兎も角、ギルド宛に依頼が来ました。 オレンジ絡みです」

 

「……ほう。 続けよ」

 

索敵スキルを使用し、聞いている者がいないことを確認してから町の方に歩き、先を話すように促す。

 

「依頼者は中層ギルド『シルバーフラグス』のリーダー。 内容は、ギルドを壊滅させたオレンジギルド『タイタンズハンド』の黒鉄宮送りです」

 

オレンジ……というより、半レッドといった所か。 しかし、これまた何処かで聞いた事のある名が出てきたな。

 

「鼠から裏は取れています。

『タイタンズハンド』、リーダー名はロザリア。 グリーンが獲物を誘き出してからオレンジで襲撃する手口を定石にしています」

 

敵の特徴も薄れた記憶にあるものと一致する。

………以前オレンジギルドを片っ端から潰してまわってから時折この手の依頼が舞い込んで来るようになったが、まさかこの一件まで来るとはな。 まぁ来てしまったものは仕方ない。

さて、それ故オレンジ連中には異常に警戒されているからな。 顔が知られている俺やピト、ピトとセットのエムが表立って動けば隠れられてしまう。 かといってノーチラスに任せるのは少々不安が残る。

残るはザザのみか。 少数精鋭はこういった時に不便だな。

仕方なくメッセージを送ろうとウィンドウを開くと、まさにそのタイミングで索敵スキルが反応した。 振り向けば、

 

――迷宮区から出た所で「ゲェッ!?」と愉快な表情で固まっている黒の剣士と目が合う。

 

「………」

 

「…………」

 

 

「……………」

 

「………………」

 

 

「…………………」

 

「……………………」

 

しばらくフリーズしてから、剣士がギギギと油の足りてないブリキ人形のような動きで背を向けると、

 

「――三十六計逃げるに如かず!」

 

敏捷値全開で逃げてった。

 

「追え、ノーチラス!」

 

「はっ!」

 

が、短距離ならまだしも長距離ならSTR寄りではAGI寄りのノーチラスからは逃れられぬ。 特にユナに対しても何時も通りに接した(歯の浮くような台詞を吐いた)お前が相手ならノーチラスも遠慮無くやれるだろう。 この間丑の刻参りしようとしてたし。流石に止めたが。

こちらも人手が足りていないのだ、原作的にも貴様に丸投げして構わんだろう?

何故かガッコンガッコン鳴り響く金属音と、中性的な男の断末魔を聞き流しながら、原作を思い出す作業に集中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という訳だ。 頼めるか?」

 

「その前に何か言うことないのか?」

 

場所は変わり、第三十四層。

アインクラッドには多い中世ヨーロッパ風の街並みだが、この層は特に宗教色のある装飾が多い。

その一角。 最深部に潜むボスを斃す事で購入出来るようになるギルドハウスの一室で、ちょっとやつれたキリトに事の顛末を話す。

 

「ハァ………ザザに丸投げしちゃダメなのか?」

 

「それでもよいが、お前が丁度良い所に来たのでな」

 

「不幸だっ!」

 

何処ぞのウニ頭の様な事を叫びながら突っ伏す黒の剣士。

 

「無論こちらも手を尽くそう。 待ち伏せ(アンブッシュ)を主軸にする相手なら、釣り出した所を叩くのが定石なのは言うまでもないだろう」

 

俺が何を言いたいか察したらしく、唸りながらも首だけ動かして見上げてくる。

 

「うぐぐ………ロハじゃ無いだろうな?」

 

「貴様が余をどういった眼で見ているか是非聞きたいな」

 

ストレージを開き、昨日完成したばかりの黒コートを取り出す。

ボス戦に向けて自分用に縫った物だから、外見より性能重視で装飾は少なめ。 効果としては、基本の防御力上昇以外に隠密効果補助、低温デバフ無効、耐貫、耐毒、更に特定の場所にしか現れない毒蜘蛛系Mobからレアドロで手に入る体毛をふんだんに使う事で、六割程の確率で毒と麻痺を無効化するバフもある。 作りたて(初期ステ)でこれだ。 武器同様限界まで強化すればどうなることやら。

……自分で作っておいて何だが、強過ぎないか、これ。 タップして効果を確認したキリトの顔面が軽く形状崩壊している事だし、俺の感想は間違っていないと思うのだが。

 

「……………ヴラド、本気か?」

 

「断るなら別に構わんが」

「喜んで凸らせて頂きます」

 

「そ、そうか」

 

コートと黒鉄宮に通じる回廊結晶をそれぞれ一コルでトレードすると、凄まじい勢いでギルドハウスを飛び出していくブラッキー。

 

……さて、俺も支度をしておくか。 やる事は簡単だ。 プネウマの花を入手した帰り道に湧くオレンジを奇襲するだけだ。 まず手始めに、一番隠密効果の高い装備を探すとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……テイムモンスターが復活するという珍しい瞬間を目撃した日の夜。

非公式ギルド『鬼畜幼女被害者の会』繋がりでフレ登録していたザザから連絡があり、第一層にある教会に足を運ぶ。

 

「こんばんは。 誰かいませんか?」

 

ノックして声をかけてしばらくすると、女の人が内側から扉を開ける。

 

「何方様――あぁ、キリトさんでしたか?」

 

「夜分遅くすいません、サーシャさん」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「どうぞ」と招き入れられて、低年齢プレイヤーの保護も兼ねている教会に入る。 時間も遅いからか、前に一度昼に来た時に比べれば静かな屋内に、場違いな髑髏のマスクを被った少年が長椅子に座ってストレージをいじっていた。

 

「……相変わらず趣味の悪いマスクだな。 変えたらどうだ?」

 

「ウルセェ。 しっくりくる、から、いいんだよ」

 

近くにあった椅子に腰を下ろし、ザザが座面いっぱいに広げたソレ(・・)をみる。

 

「……何時もながら、どっから仕入れてるんだ? そのマスク?」

 

座面いっぱいにある『マスク』を指差して言う。 やたら髑髏っぽいデザインばっかりなのはコイツの趣味に違いないだろうが。

 

「秘密だ。 全部、一個100コル。 持っていく、か?」

 

「チェンジお願いします」

 

 

 

――始まりは、何てことはない。

迷宮区でザザと会った時に見慣れない(ついでに軽くホラーな)マスクを被っていたもんだから、思わず突っ込んだのがキッカケだ。

曰く、ピトに女顔と揶揄われたから、それに抵抗してだそうだ。

それを聞いた瞬間、自分も似たような悩みを抱えていた(線が細いのを気にしていた)オレが、思わず「何処で買った?!」と叫んだのは悪くないと思う。

 

以来、時々この教会に集まって見せてもらっているのだが、……趣味全開の代物ばかりでいい具合の物がない。

 

「なぁ、ザザ。 もうちょっと他に無いのか? お前だって骸骨シリーズ一択は飽きるだろ」

 

「注文の多い、奴め」

 

流石に似たような物ばかりなのはギャグだったようで、次々と色取り取りのマスクが出てくる。

 

「これは?」

 

「カオ○シじゃねぇか」

 

「じゃあこれ」

 

「デ○プーマスクとか何の皮肉だよ」

 

「次は、コレだ」

 

「ミ○キーはダメェェエ!!」

 

「じゃコレは?」

 

「ムジュラァァァアアア!?!?」

 

「次」

 

「ニンジャァァア!? ナンデニンジャ?!」

 

ネタ率高っ!? 縁日の屋台か!? いや縁日の屋台でももうちょっとマシなチョイスするぞ?!

その後も出るわ出るわ、ロクでも無いマスクがポロポロ実体化する。

 

「……本当に、誰が作ってるんだよ……」

 

狂気を湛えた瞳のオレンジ色の髪をサイドテールに結えた少女(?)のマスクを手に取りながらボヤく。 DKの誰かだったりしてな。 ヴラド(ドラキュラ)ザザ(髑髏狂い)ピト(鬼畜幼女)ノーチラス(戦うマネージャー)と、ネジの足りてない連中の集まりだ。 作製系スキルカンスト持ちが居てもおかしくない。 事実オレが貰ったこのコートを作ったのはヴラドだし。

 

「因みに、お前が買わなかった奴の大半は、全部エギルの店に、いく」

 

「……エギルェ」

 

哀れ、エギル。 今度大人しくボラれてやろう。

 

「そこそこ売れてる、らしい」

 

前言撤回。 やっぱヤダ。

 

 

「……ん? 大半(・・)は?」

 

「あぁ。 時々、変な呪いが、あるのが交ざってる」

 

「マジかよ。 例えば?」

 

「お前が、今持ってる、ヤツ」

 

「…………………ゑ?」

 

視線を手元に落とすと、光の無い瞳と目が会う。

 

「………ち、ちなみに、どんなもので?」

 

「筋力、最大HPの大幅上昇」

 

何だよ、何処が呪いだよ。 ありがたいバフじゃないか。

そう言おうとしたら、

 

「ただし、泥率が最低に、なって、『ガチャァ』と『リヨ』としか、言えなくなる」

 

「うわぁぁぁぁぁぁああ?!?!」

 

どんな呪いだよ?! どんな呪いだよ?!?! ていうか何でそんな詳しいんだよ? 誰か確かめたのか? ピトか? そうかピトだな!(自己完結)

 

反射的に投げてしまった狂気そのものをザザがキャッチする。

 

「オイオイ、製作者に、失礼だろ」

 

「あ、確かにってソレはないだろ!」

 

「まあ、作った本人も、『それ持っていくの? 正気?』って、言ってたが」

 

「うぉい!!」

 

此奴らに足りてないのはネジじゃなくてネジで止めてる物の方だコレ?! ギルマスなんてタイタンズハンド(中層オレンジ)を追い込むためだけに近くの木をへし折って橋を塞ぐし!

 

「ゼェゼェ……お前らマジでどうなってるんだ? 最近新しくつけられたギルドの異名が『ラフコフにすら入団拒否られた狂人の集まり』だぞ?」

 

オレンジ絶許集団にこの異名を付けた奴のセンスもどうかと思うけどな。

ただ、冗談混じりに言ったら地味にショックを受けたのか、山積みのマスクをしまう作業をしていたザザの手が止まる。

 

 

………そう言えば、何でヴラドたちはあそこまでオレンジを目の敵にしているのだろうか。 ヴラドとザザだけなら正義感とか言われても納得出来るが、現状一番オレンジを潰してまわっているのは、何故か一番正義感とはほど遠いだろうピトフーイだ。

考えていたら、口から漏れていたのか「………長くなるが、聞きたいか?」と言われた。

勿論頷く。

 

 

「………そうか。

……あれは、第二層に上がって、すぐだったな―――」

 

 

 

 

 

 

 









(※以下オマケ)





――注意! 注意!

これより下はFGOAC新鯖実装に向けて『書いたら出る』を信じて書いたものです。

注意点は、
・ヴラドがまだリリィ時(約二十年前)の話のため、まだヲタの頃の思考が色濃く残っている。 つまりコメディ風。
・鍛える前だから弱い。
・一部無茶のある設定。
・ネタバレ。
・文字数的にこっちが本編で草。
・確定した今作三人目の英霊関係者。

となっております。
構わん、行け。 という方はどうぞ。




















――時は2000年。
転生(と言っても異世界じゃないっぽいけどなチクセウ)し、自身の家系に驚くあまり物理的にひっくり返って早十年。

只今俺氏はフランス、オルレアンにおります。 なんでや。


閑話休題。

何気にカカァ天下なウチの家は、両親、特に母親の方が旅行好きらしく、結構な頻度で家を留守にする。
普段は連れて行ってもらってないし、俺も俺で此処が何処の世界線か推測していて出歩きたくなかったからありがたかったのだが、この度半強制的に連れ出されました。 それとなく聞けば、俺の世話係(という体の目付役)が、俺が引き篭もりがちな事をチクったらしい。 おのれおのれおのれぇ!
が、静かにしておく。 確かに情報不足で手詰まり感はあったし、地位チートと書いて死亡フラグと読める状態の俺が、主人公候補(・・・・・)の意見に反論はそのままザキられてもおかしくない。

そんなこんな、紆余曲折ありながらも着いちまったオルレアン。 予定だと今日は一日この街を観光したのちにドムレミー村という所に行くらしい。 なんでも知り合いが迎えに来るとか。
取り敢えずガイドブックに定番ってあったマルトロワ広場、サント・クロワ大聖堂、グロロ邸は見てまわったが、分かっちゃいたがひたすらジャンヌジャンヌジャンヌだな。 ここはジル・ド・レェの町か? クトゥルフ案件は嫌なんだがなぁ。

一緒にいた両親は、その知り合いが予定より早く来てたとかで一足先に合流するそうで今は別行動。 同じくガイドブックにあった旧市街をのんべんだらりと散歩する。 因みに目付役はさっき撒いた。と思う。 彼奴いっつも気がついたら後ろに立ってるもんなぁ。 何時か刺されるんじゃなかろうか。
十五世紀当時そのままの景色が残っている(ガイドブック談)路地を片手にコツコツ歩いていると、小さな教会で目線が止まる。 まあこの町で教会なんて珍しくない。 ない、が、何処か気になる。
足を止めて、じっくり見てると、その違和感の正体はすぐに分かった。

ジャンヌ関連の装飾が少ない。

「……この町にしては、珍しいな」

信仰的にも観光スポットとしても、この町全ての教会にあるもんだと思ったけどな。
普段人が出入りしないのか、少し埃っぽい扉を押すと、ギギギと錆びた蝶番が歪な音を立てて開く。 覗き込むと、ステンドグラスから入った日光しか光源のない薄暗い世界が広がる。 奥にあるのは……ピアノか? これまた珍しいな。 普通教会に置いてあるのは、賛美歌を弾く為のオルガン。 教会の規模によってはパイプオルガンの所もある。
色々定石破りをしている教会に僅かながら興味が湧き、何か名か歴史でも示す物があるかと入る。 均等に並べられた椅子の間をコツコツと歩き、ピアノの鍵盤カバーに手をかけて持ち上げると、磨かれた跡のある白い鍵盤が顔を出す。
その内の一本に指を乗せ、丁寧に押すと、厳かな音がなる。 絶対音感はないが、大体合ってるようだな。
カバーを戻すと、手掛かりを探すべく振り返り―――





……椅子の背もたれの向う側から、銀色のアホ毛が生えていた。
む、誰か居たのか。 話を聞いた方が早いな。

「……そこに居る者よ、少しばかり尋ねたい事があるのだが」

が、返事はアホ毛が左右に揺れるだけだった。 頭隠してアホ毛隠さず。
もしかしたら装飾の一種かと思い、近付くと、

「――はぁぁぁあ!」

「うお!?」

次の瞬間、細い棒の先端が突き出され、咄嗟に身を捻って避ける。
転びそうになるのを椅子を掴んでなんとか防ぎ、次いで振り下ろされるそれを腕をクロスさせてガード。 二発目が来たタイミングでなんとか腕に絡めるようにして得物を掴む。

「ちょ、離しなさいよ!」

「誰が離すか! 危ないではないか!」

怒鳴り返してからよくよく見れば、同じくらいか少し下の歳の銀髪の少女がモップの反対端を握っていた。 え、つか力強くね? 俺の方が身体デカイよね?? あーれー。
あっさり奪取されたモップを頭上でクルクル回したのち、ジャンプしながら振り下ろす少女。 水滴が跳ねてるとか狭い室内で跳ねるなとかツッコミ所は満載だが、あれを真っ向からガードしたら骨逝くって!
急いで椅子の列の間に滑り込むと、モップの柄が肘掛を捉え、柄が途中で折れる。

「チッ、大人しく当たりなさいよ!」

んな理不尽な。
飛んでくる運動靴の底を何とかやり過ごし、その隙を突いて立ち上がって振り向くと今度は拳がカッ飛んで来た。 最近の女の子は喧嘩慣れしてらっしゃるぅ!?
肋骨に直撃し、一瞬息が詰まる。 おまけにそれで押されて、鉄棒か何かの様に背もたれを軸に頭から落ちる。
流石にそれは洒落にならんので強引に腕を下敷きにする。 ちょっとミシッつったけどセーフ!

「どーよ、参ったわね! さっさとここから出て行きなさい!」

若干呻きながらヨロヨロと立ち上がると、その娘っ子がビシッとこちらを指差しながらドヤ顔で宣言していた。
……さて、どうしよう。 流石にわざわざ勝ち目の薄い喧嘩をしてまで見る所がこの教会にあるとは思えないし、ここまで一方的にボコられる程実力差があるなら関係ないだろうが、異性相手に殴る等は気がのらない。
………大人しく引くか。

「分かった分かった。 出るとしよう」

「フン、最初からそうすればよかったのよ。 こんな寂れた場所になんて、来る価値ないんだから」

袖に着いた埃を確認してから、扉に向き直り――





「――ジャンヌ、ここにいるのでしょう。 出て来なさい」

「!」

ぐぇっ

扉の外から音がした瞬間、首根っこを掴まれて教会の一角、何故か窪んだ所に引き摺り込まれる。

「な、何を、」

「音立てたら、殺す。 オッケー?」

ウィ

一転して焦った様子の金色の瞳に睨まれ、取り敢えず同意しとく。 断じて彼女いない歴=前世も込みの年齢でチキったからではない。

透かす様に扉がある方を睨む彼女に合わせて俺も見やると、丁度扉が開いて目の細い、細身の男が入ってきた所だった。

「ジャンヌ、いるのは分かっています。 大人しく出て来なさい」

……ジャンヌ、だと?
そういえば、この娘っ子、背の高さとか、ある場所の膨らみが小さいとか差はあるけど、顔は見覚えがあるような――

「――あっ」

小さく声を上げたジャンヌ(仮)で意識が引き戻され、男の方に目を向け直すと、丁度折れたモップとその先端を拾い上げた所だった。
………うっかりェ。

「……………」

男の目がいっそう細くなり、周囲をジロリと睨むと、隣の少女が分かりやすくビクッと震えた。
…………………ったくよーもー。 俺に愉悦回路はないんだから。

溜息を吐き、タイミングを計る。
男の視線が完全に反対側を向いた時に窪みから音を立てて立ち上がる。


「ジャン―――
……君は?」

「通りすがりの観光客です。 この町にしては珍しい造りだったもので、この教会に」

「それは良いのだよ。 神の家は全ての迷える子羊を受け入れるのだから。
……ところで、この教会で銀髪の少女を見かけなかったかい?」

真後ろで小さく息を呑む音が聞こえる。

「………いえ、ありません。
私はこの教会に足を踏み入れた折、少々散らかっていた(・・・・・・・・・)故、掃除道具の一つでもないかと探していたのです」

「おぉ、そうかい。 それはとても良い心掛けだよ。 きっと神のおぼしめしがあるだろう」

それだけ言うと、男は朗らかな笑みで教会を後にする。


「ハァ……これで良いか?」

「………何が狙いよ」

同じように窪みから出て来た少女が、ブスッとした表情で睨んでくる。

「……どうせ分かってるんでしょう。 私が誰で、アンタが追い払ったのが誰か」

「いや、知らぬ」

「……………は?」

コロコロ表情の変わる奴だな。 今度は目口がOの字だ。
――ガチレスしても、この少女がジャンヌ・ダルクの子孫はないだろう。 火刑に処された筈だし、仮に処刑されたのが影武者か何かでも、それが真実なら世界規模のニュースだ。 ここまで町総出でジャンヌを讃えてるような土地だ。 酔狂な家が娘にジャンヌと名付ける可能性はなきにしもあらず。 イギリスもジャックやらエリザベスやらの名はやたら多いしな。

「さて、俺ももう行くとするか」

「ちょっと待ちなさい」

今度は何だよ。 こっちもこっちで人を撒いてフラフラしてるんだから、集合時間まであまり一箇所には留まりたくないんだけど?

再度こっちをビシッと指差しながら、その口から出た言葉は、――


「――アンタは、カミサマについてどう思う?」

……またえらく抽象的な質問だな、オイ。

その沈黙をどう受け取ったのか、人が答える前にさっさと続ける。

「……そうよね、大切よね。 なんせ我らがち
「どうでもよいに決まっておろう」
tぃ――
………は??」

生まれた家が家だから洗礼こそ受けているが、信じているかと言われれば微妙だ。 この世界線がハイ○クール○&Dか幼○戦記でもない限り、会ったことも、言葉を交わしたこともない、ついでに益にも害にもならないだろう赤の他人の事をマジマジと考えることなんてない。 前世も込みにすれば、試験の時に冗談半分でハスターに祈った事があるくらいだ(周りには引かれたが)。
そんな具合だから、俺の神への考えなんぞ一言で言えば『いたらいいね』程度だ。

「……う、嘘よ!」

「こんな嘘をついて如何する」

「じ、じゃあ、そうね。
なんか教えに背くことしてみなさい!」

何故そうなる??
つか如何すればいいんだよ。 無視は何となく可哀想だし、聖書なんぞ貴重なニチアサを消耗するミサでチラッと見た程度だぞオイ。
あぁもうメンドい! 適当でいいだろ! 丁度ピアノもある。 昔取った杵柄ってやつを見せてやらぁ!!
再度ピアノの前に座り、カバーを外す。 前世は小学生くらいまで楽器やってたし、こっち来てからもアニメの類は殆どオチ知ってて代わりの暇潰しに嗜む程度には触れてたし、大丈夫だろ!

息を小さく吸い込んでから、鍵盤に指を叩きつける。
弾く曲は、『U.N.オーエンは彼女なのか?』。 教会で悪魔(吸血鬼)を題材にした曲だ。 これでいいだろ! どうせ通じんだろうけどな!
若干の怒りも込めたせいか最終鬼畜風になった、割と不気味な曲を一息に弾ききる。 ふぅ、さて、反応は――

「………はっ!
えっと、い、色々と、変わった曲ね?」

……引いてらっしゃる。 知ってた。 つか反応的に聞いてなかったもありえるなこりゃ。

一つ溜息をつくと適当に挨拶を済ませて、その場を後にした。





◆◇◆◇◆◇◆







――そして、二十年の歳月が流れ。


小規模とはいえ元ダンジョンだっただけあり広く、家というより城といえるギルドハウスに初期配置されている家具類の一つ『グランドピアノ』に手を乗せて、ふと思い出した懐かしい思い出に浸る。

「……確かあの後は、直ぐさま世話係に捕捉されたのだったか」

その後は特に特筆すべきこともなく、フランス旅行は終わった。 精々が、あの細目の男が、彼の救国の聖女――の兄の子孫だという、中々反応に困る人物だったことくらいだろうか。
様々な観光地を巡ったというのに、最も印象深い出来事があれなのは何故だろう。

……あまり気に掛けても仕方ないか。


この後エムが、ピトのライブ曲の収録で使うと言っていたのを思い出し、軽く調弦だけ確認して、その場を後にした。







――部屋を出る直前、銀色のアホ毛がチラついた光景を、心にしまいながら。

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