カラビーナは撃ち抜けない。   作:杜甫kuresu

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1.プロローグ

――――貴方も救助された経験あり、ですか。まあありきたりですね。正直1週間も期待してないですけど、それ以上続いたらお菓子をあげるので頑張ってくださいね。

 俺がこのS09地区のグリフィン本部に来て早々言われた一言だ。あの受付嬢はキャラが濃すぎたと思う、1週間期待できないのはアンタのせいではなかろうか。

 

 ところでお菓子とはひょっとして手作りなのだろうか。俺は今の所続く限りは続ける予定だからいっぱいお菓子がもらえる事になるが――――――

 

「ああ~、逃避行やめやめ!」

 

 頬を叩いて頭を起こす。再び映るのは鮮烈な白の群れ、グリフィンの廊下は白い壁と無骨な通路ばかりが続くらしい。

 俺は迷っていた。決して極度の方向音痴じゃない、諸々含めたパンフレットが700ページ超えしてるクソさが悪い。此処はNERVか何かかよ。

 

 さて、俺は今日から指揮官らしい。らしいというのは、あんまり適当な心理テストみたいなものばかり受けて「採用」と来たからなのだが、ついでに言えば此処の不親切さにも「なのだろう」ぐらいに思わせる要素がある。

 

「此処どこだよ」

 

 地図のレイアウトはゴッチャゴチャで、案内人はなし。こんなのは大学までで十分だ、親切にとは言わずとも何とかできる程度の情報の質と量が欲しい。

 

 彷徨い続けて30分、陽の光も見れていない俺は心がどんよりしている。そりゃそうだろ。

 

「俺このまま餓死するんじゃないのか…………」

 

 嫌な予感は考えすぎだが、嫌な気分になるには十分。更に暗くなった俺は白くまばゆい廊下をポツポツと歩く。

 

 初日から酷いものである。今まであまり個性がないと人には言われ、運はあまりないと数々の胡散臭き占い師に言われてきた俺だが此処まで気分が暗くなるのも久方ぶりだ。

 ああ愚痴が止まらん。自分にすら苛立って足を速める。速めるどころか気づけば走っていた、どうせ誰も居るまいと高をくくったのだ。

 

「あー! こっから美少女に出会って物語とか始まらないかなー!」

 

 えらくピンポイントな要求をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、お客様かしら――――――」

 

 恐ろしい話、そのリクエストには神は応えてしまった。

 気づけば俺は陽の差す中庭沿いの通路に出ていたのだが、答えた少女の姿は――――――そうだな、包み隠すこともないだろう。俺は絵画を見たように思った。

 

 目につくのは時代錯誤の黒い軍帽と、その下から伸びた豊かな白髪。ミルキーウェイもかくやのその髪色に違わず、少女の素肌は朱を差した陶磁のように酷く白い。

 黒いコートを纏った姿には威圧感は感じなくもないが、中に着込んだ如何にも高そうなチャールストンとキャバリエブーツは重い色合いにも関わらず、少し大人びた顔つきらしい可愛らしさと色気を綯い交ぜにしている。

 

 まるで人形が息をしているような佇まいで座るその少女が、こちらにニコリと笑う。

 しかし、俺をまじまじと見るなり目を見開くとカップを置いてしまった。飲んでいるものなんて俺の眼には映らない。視線を奪うとはこういうものと初めて知った、なんて大袈裟に言ってみよう。

 

 無意識に足が彼女の方へ伸びた。俺はまるでゾンビのような動作だった気がするが、大きな鮮血色の瞳は俺の顔から視線を外してくれはしない。

 息を詰まらせたような細い声。彼女の見た目に相応しい聞き心地の良い声だ。

 

「――――――あ、あの」

 

 怯えていると言うより、驚きと困惑に崩れたような切ない表情に変わった。気のせいか瞳が少しだけ潤んでいて、何だろうか。戦地から帰った恋人でも見ているようなものを感じる。

 歳も読ませぬ美貌でそんな顔をされると、真相など関係なく落ちてしまうが俺を誰も責めないだろう。

 

 心臓が煩い。俺は頭の中を真っ赤にしたまま口を震わせる。

 

「…………え、ええっと。君、名前は?」

 

 ありきたりな性分を此処でも呪った。何だかもっと良い文句で気を引くべきだ、俺。

――ああ、何かこれは駄目だな。俺はパット見不審者だぞ、せめて良い案内役になってもらうことだけでも期待するか。

 

 早くも敗残兵の算数を始めてしまった頭は、まあ平凡な俺なので仕方ない。

 

 何だか変な様子で俺をまじまじと見ている少女の姿からは敗色濃厚を否定できない。転生してもチャンスを逃すという基礎ステータスは変わらないのか、なんて何時も通りに自分の平凡さを呪いつつどんな言葉でも耐えられるように目を瞑っておいた。表情が加わるとダメージは上がるからな――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Ich liebe dich.」

 

 ダメージの方向性が明らかに間違っている。

 囁くような。目を疑うならぬ耳を疑う少女の戯言に俺は目を見開いた。次に肩を揺らして正気を確認して、取り敢えず

 

「俺には勿体無いから答えかねる」

 

 と全力でお断りした。あの時に噛むこともなければ顔を赤くすることも表情を緩ませもしなかったというのは、正直この生涯で最も良い自慢話にできるのだろう。

 

 ついでに

 

「出来れば赤面して欲しかった」

 

 と言うと大変愉快そうに笑っていた。まあ分かったと思うが、その少女と俺はフッツーに仲良くなってしまったのだ。

 逆にこれが良い。女性関係に辟易とするラノベ主人公の気持ちを俺は理解した。

 

 彼女に好意を一心に向けられては、俺は一日に数度命を失う生活になるだろうからだ。




今回は愛の囁きから始まる嬉し恥ずかしの物語。

お久しぶり、三回目の第一話。
色々審議した結果「味が濃すぎる」ので指揮官とKarをだいぶスッキリさせました。単純な原作介入モノにしていきたい。
構成上もう消さない。書く気になればちゃんと書けるはず。

偶にはこういう描写もしたい。というか本当はこういうのが凄く上手い人になりたかった。多分次回にはこんな雰囲気はないのではなかろうか。
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