「それで、君の名前は?」
さてさて。恐ろしいことをお伝えするのだが、何と彼女も迷子だそうだ。機嫌良さげで軽やかなステップからはとてもそんな無計画極まりない面影は見えないが、これは避けようのない現実だ。
更に恐ろしいのは彼女の魅力みたいなもの。状況は好転していないどころか迷子が増えて、さっきの告白はあっさり断ったというのに空気をまるで乱さない。どう言えば良いのだろう――――――ああ、「今この瞬間の彼女」に釘付けにさせるような力がある。
――ああ、乱さないというのは嘘だった。
「こっちではありませんか!?」
「そこトイレ」
この通り、
「ではこっち!?」
「そこさっきの休憩場」
全くもって真面目に
「むむむ、では此処ですね!?」
「いやそれ受付――――――受付!? 道訊けば行けるな、ナイス!」
「もっと褒めてくださっていいのよ!」
探していないが何とかなった。誇らしげに胸を張るがまあ運がいいという意味。
というかスルスルとスタート地点に戻ってきてしまったらしい、不思議な子だ。俺は弾む調子に何となく付き合っていただけなのだが。
俺の手を取って小走りになる彼女は、ちょっとキラキラしすぎていて眩しい。俺は何か枯れていると友人にはよく言われたが、とはいえこの子は光りすぎだろう。
少女には驚くほどニコニコとしていたさっきの受付さんだが、俺を見ると途端に表情を堅くしてわざとらしい溜息。
「何でしょうか、退職届なら今出していますが?」
「何でもう出してるんですかね」
待ってくれ、この人本当に出してる。油断も隙もありゃしねえ。
彼女がひょこりと俺の後ろから受付さんに話しかける。やめとけ事故るぞ。
「御機嫌よう、昨日のクッキーは如何でしたか?」
「超美味しかった、ありがとねKarちゃん」
何だよ俺以外には甘々じゃねえかこの受付さん。その愛想を俺に振りまいてくれれば俺は金を落とすATM代わりになるだろうに、ある意味勿体無い。
まあ良いや、別に俺に優しくして欲しいわけではない、退職の原因に数えられているかが不安だったのだ。
というかちゃっかり情報ゲット。この子はKarちゃんと言うらしい、やっぱり外国の子なのかな。
「まあ退職じゃないですよ、道を教えてほしくて」
「この調子だと殉職の方が近そうですね、餓死とか」
「ちょうどさっき想像したんだから辞めてくださいよ!?」
クスッと笑われた。何て女だ………………。
俺がメモ帳を取り出してペンと一緒に渡してみるが、鼻で笑われて受け取ってもらえない。この女下手に出てたらやりたい放題してくれやがって…………っ!
「頼む態度って言うものがあるんじゃないですか?」
「どうして今日はそんなに冷たいのかしら…………少し道を訊いているだけなのに…………」
「ああ~分かった、分かった! 教えるから落ち込まないで、ね?」
「この女………………ッ!?」
凄い腹立つけどKarに優しいから許してやるよ…………。
「酷い泣き落としをするんだな、君」
「ふふ、それ程でもありますわ」
いや、褒めたわけじゃないんだけどさ。
受付さんはこの手の客人もよく相手にしているのだろう、刺々しい発言に対して手書きの地図はすっきりしていて分かりやすい。顔は綺麗なんだしもうちょっと俺にも優しくして欲しいな。
書かれた通りに歩いていると、流石に今までのような無限迷宮じみた廊下の映像ループは発生しない。キチンと何処かへ俺達は進んでいるという確信は今なら心を躍らせるに足る快感だ。
「それにしても、戦術司令室に向かっているということは…………あなた、もしかして今日来る予定の指揮官さんかしら?」
「遅いよ。そういう事だ、じゃあついでに君も正式に俺に自己紹介してもらおう」
俺を先導していたKarはくるりと振り向くと背筋を伸ばす。
――彼女は子供っぽい振る舞いで誤魔化していると言うか、印象が一転二転するが雰囲気は至って上品。何だか深窓の令嬢でも連れ回しているような謂れのない罪悪感が頭をよぎる。
柔和な笑顔は社交の武器で、その佇まいは良家の嗜み。そんな注釈でも納得のいく姿なのが悪い。
最初は何やら整った仕草で礼儀作法でも鑑みていたのだろうが、俺がとてもそんな教養人には見えないと悟ったのか普通の一礼になる。
「御機嫌よう。私はMauser Karabiner 98 kurz、今日これより私は貴方だけの武器であり、貴方は私だけの担い手となります」
「モーゼルカラビーナアハトウントノインツィヒクルツ――――――成る程、だからKarちゃんか」
ドイツの終戦後まで活きた短騎兵銃。Mauserは社名、Karabinerは騎兵銃の意、1898年製の、
彼女は人形だったのか。どうりで綺麗なわけだ、こんな場所に令嬢が居るわけもないが。
一応俺も姿勢とかを正してみるが、所詮一般人だと気品までは匂わせない。かしこまる動作だけが虚しくなっていった。
「それじゃあ改めて。今日から此処に配属された指揮官だ、紹介できる事項は特にない。Kar98kは俺の好きな銃の一つでさ、お会いできて光栄だ」
手を差し出してみたが、ふと彼女の手を見るとあまりに細くて俺では握りつぶしそうなので辞めた。
――第二世代戦術人形。第二世代と言う呼び名なら聞こえが良いが、現実には民間用人形を無理矢理に戦闘に適応させたもの。
彼女もそういう人形の一人だ。銃の名称が銘打たれたのは、銃と固有の結び付きが有るからなのだというのは一般常識のレベル。
人形は本来不足した人手を補うアンドロイドの類だ。人の大きく減った現代では、彼女達に友愛、親愛、性愛、寵愛、狂愛。どんなものでも心が向けられる。そういう需要が有ったし、この通りそう出来るように人間に似せてしまったから。
ちぐはぐな彼女の姿は、人形の状況を体現しているようだ。
Karは俺を見て目をパチクリとすると、ちょっとだけ頬を赤くして顔を隠す。
「そ、それは何よりです。ですがそう、情熱的な視線を送るのはおやめになって…………?」
「え!? ああ、うんまあそう見えたかな!? ごめん」
その解釈は流れ的に無理があるのだが、突っ込みどころはそこじゃない。
――そうか。俺は彼女を戦場に送り出すのが仕事で、見捨てるのが義務なんだな。
受付さんの一言が今更になって突き刺さる。
【正直1週間も期待してないですけど】
アレはもしかすれば彼女なりの忠告だったのだろうか。「お前はそういう仕事に就いたんだ」という。別に嫌がらせでも馬鹿にしたわけでもなくて、「それは間違っていない」という意味なのかもしれない。回りくどい気の回し方をしそうな人だと思うから、そんな都合の良い結論が出た。
「どうかしましたか? 具合が悪いのかしら…………」
どうやら俺は相当酷い顔になっていたらしい、Karは俺の表情を頻りに覗き込む。
このままだと違う理由で発熱するので取り敢えず押しのけて愛想笑い。
「違う違う、ただの考え事だ」
「…………本当?」
「ああ、本当本当」
心配げに俺に恐る恐る触れる彼女は、もう俺にとってただの人間となってしまった。
頬に当たるその手の感触も、少し細められた紅玉の瞳も、触れ合った額の温かさも――――――――待て。額?
気づけば額を突き合わせているKarに息が止まる。あの大きな真紅がすぐ近く、きめ細やかな肌から熱を感じる。何だか唇まで扇情的に見えてきて、俺は美貌に酔っている確信を持つ。
「何してんだよ!?」
「確かこうやって熱を測るものだと…………」
「それ教えたやつ何時かボコボコにしてやる!?」
突き放すような形で額を離す。
思わず強い拒否をしてしまったからか、Karは目を潤ませて悲しそうな表情になる。
「ご、ごめんなさい…………」
「ああ違うんだぞ!? 嫌いだとかそういう事では決して無くだな、ええっと――――――まあ良いや! 近いと緊張するからであって!?」
あまりに好みのタイプなので、油断するとあっさり負けてしまいそうなんだ。許してくれ。
「此処ですね」
「そうだな」
怪しげな自動扉。決して想像されただろうコンビニのそれではなくて、白く厚そうなスライド式の近未来的なものだ。
俺とKarは見合わせて「これ怪しいね」とアイコンタクトだけで全会一致を得る。場所も案内通りなら此処で合っていた。
やはり何というか、彼女の眼は輝いていてとても子供っぽい感じもする。不思議だ。
「じゃあまずは服装を崩し直して――――――っと」
「どうしてわざわざ崩すのですか?」
キョトンとした眼でボタンを開けたりアウターを捲くる俺に尋ねてくる。
「決まってる。「俺はこういうタイプなのでよろしくおねがいします」って事だ、すぐに同僚になるのに取り繕っても仕方ないだろ?」
「それはそうですけど………………何だか、指揮官さんは懐かしい気がします」
懐かしいとは何だろう、俺は見覚えがないんだが。
妙な熱の籠もった視線に萎縮してしまう前に、一息で俺は扉をくぐった。
――扉に違わぬSFチックな室内では、唯一人の少女だけがいそいそと紙束と格闘をしている。
朱色の髪束をゆらゆらさせるその髪型はサイドテールか、ミニスカートに従業員のジャケットを羽織ったアンバランスな姿は時代錯誤どころか今の現状を存在だけで表現しきれている。
少女は扉の開閉音に遅れて気づいたのだろう。こちらに振り向くと快活そうな歯を見せた笑顔。群青色の瞳を見るには…………成る程、俺とは生まれ育ちは違うと見た。
「待ってました、あなたが今日から着任する指揮官ですね?」
顔に似合わないしっかりとした硬さの言葉に面食らいつつ、同時に頭がズキりとした。
――まただ。慣れてしまったが、この世界はどうやら何処か俺の知っている創作上のものらしい。そこまでは分かったのだが、肝心な所でこう尋常でない頭痛を伴って記憶が引っ張り出せなくなってしまう。
恐らく神様の悪いご寵愛だな、なんてさっさと諦めて本人の自己紹介を待つ。顔には出ていない、この痛みにはもう慣れた。
「初めまして、指揮官。私はカリーナ、今日からあなたの後方幕僚を担当させていただきます。宜しくおねがいしますね」
「ああ、宜しく。カリーナ…………ちゃんで良いか?」
うーん、と考え込む仕草を見せる。
「まあ「ちゃん」でも「さん」でも呼び捨てでも楽なもので。何だったら「たん」でも良いですよ?」
「そうか、カリーナたん………………無理だわ、カリーナで」
やるだけやってみたがボケるので精一杯。常用は不可能だろう。
Karを完璧に忘れていたのだが、気づけば横でカリーナにほわほわと手を振っている。やっぱり此処の基地の人間とは粗方知り合いのようだ。
カリーナもニコニコと手を振り返す。仲は良いみたいだな。
「迷っていたら偶然会いましたの。彼が新しい指揮官さんだというのは事実かしら?」
「ええ、そうですよ」
目に見えて嬉しそうな顔をするので何か俺まで恥ずかしい。
「というかアレ迷ってたのかよ、随分優雅に道に迷うんだな」
えばるな。褒めてない。
俺の咎めるような視線に気がついたのか、カリーナがまあまあと宥めるような素振りを見せる。怒ってるんじゃないんだが、俺が来なかったらどうするつもりなのかと思ってな。
「では早速誓約、してしまいますか?」
「例え君が俺にすべてを捧げる覚悟が有った所でコッチにはさっぱり準備がないんだ。今回は勘弁してくれ」
「けち」
「誓約の大盤振る舞いとかただのバカじゃないか」
拗ねたようにそっぽを向かれた。まだ諦める気はないらしい、時間を掛けてじっくりと解決しようか。
――というか、今思ってもアレは本気なんだろうか。正直なところ今でもただ下々で遊んでいるだけとしか思っていないのだが、様子を見るに全く遊びであるとは言いにくい。
どちらにせよ俺は答えない。もうちょっとお金持ちだとか、顔が良いとか、優しいとか良い所を持った男を探してきて欲しい限りだ。俺は宝石を不用心にベタベタ触る日々なんてゴメンである。
カリーナがちょっと不思議そうな顔をした。
「結構居ますよ、そういう人」
「ソイツにとやかくは言わないが、俺は不誠実だと思うね」
「素敵ですわ…………」
「今適当に褒めただろ」
「バレました?」
テヘッ、じゃない。よいしょしたら誓約するとでも思ったか。
――――さて。俺はカリーナにちらりと目配せをした。
察しが良いと思ったのは概ね正解だろう、カリーナも表情を少しだけ硬くして紙を取り出す。Karは――――――まあ、どんな様子だろうとあんまり関係あるまい。
「ではお話を。まずは今ここに立っていること、それ自体に感謝します」
「礼を言われるほどじゃない、俺が1週間以内で辞める可能性だってあるんだし」
あー、とカリーナが苦笑い。誰の言かは察しがついているのだろう。
「彼女は言葉こそ手厳しかったかもしれませんが、アレで優しい人柄なので…………まあ、上手くやってあげて欲しいです」
「嫌いなわけじゃない、根に持ってるだけだよ」
カリーナは言葉に困っているようだ、俺がそうしたんだけどな。
その内上手い距離感も見えてくる。別に本当に気にしているわけではない、ただどうなのかとは若干思うだけで。
しばらくカリーナは何かを考え込んでいたが、妙案が出たらしい。ぱっと表情を明るくすると、俺にタブレットらしき妙な端末を押し付ける。
「細かいことは演習訓練で確認しちゃいましょう! 今詰め込んでも指揮官がパンクしちゃいますし」
「そうだな、言われてみればそうかもしれん」
実際に重要になるだろう作戦指揮からというのもだし、俺も長々とした説明は一回じゃ覚えられん。
カリーナに渡された追加の説明書にマカチョップに使おうか、なんて阿呆な逡巡を巡らせていると
「というと、いつもの場所に向かえば良いのかしら?」
「はい。あそこ広いですからね」
すぐに腕が引っ張られた。おもわず視界が60度くらい斜めになると同時に書類を落とす。
俺よりも細く、芸術に偏ったKarの指先は俺の手首を驚くほどしっかり握りしめていた。進む力も見た目の軽やかさに似合わずかなり強い。
取り敢えず抗議はする、無駄かどうかじゃなくてするかしないかに意味があるだろう。
「おい待て! 何処に連れて行くつもりだ!?」
「――――――? 何処って、近くで見た方が得るものは有るのではなくて?」
「合理的なふりをすんな、本音は!?」
「だって離れたくないんですもの」
負けたよ、ついていってやる。いじらしいことを言ってくれる、嘘でも俺には逆らえないよ。
俺はこの小悪魔に後何度力押しされるのだろう。想像するだけですぐさま拒否するべきだと思ったが、あの瞬間の囁きが残響するなり力はスルスル抜けていくのだった。
「到着ですわ、やはり建物の中なんて退屈です。外に出ませんと!」
「はぁ、まあ仰る通りで」
彼女に手を引かれるままにやって来たのは、基地に来るまでにも見た広大な野原。随分と環境破壊も進んだこのご時世には見られない緑の楽園だ。
崩壊液、第三次世界大戦…………まあ色々有ったのだが、人類は地球を派手に破壊してしまった。それは所謂セカイ系アニメだとか、世紀末系のアニメとかに劣らない酷さだ。
だからこの光景を見るのは久しぶりだった。見渡す限りの草原は爽やかな風に踊るようにしなり、鳥は空で何やら楽しそうに井戸端会議をしている。
少ししゃがめば嫌いになる程数も見れなくなったバッタやカマキリも居る。蝶も偶に飛んでいて、此処が如何に丁寧に手入れをされた「不自然な自然」であるかがよく分かる。
懐かしいと言えば懐古が酷いのだろうか。だがこの世界に来て、俺は長らくこんなものを見ていなかったのだ。
「…………よく手入れをしてるんだな、グリフィンは暇なのか?」
つい感傷的な声音になってしまう。楽園なんて言葉は常に大袈裟だと思ってきた人生だが、こう失われた理想をまざまざと見せつけられるとその考えもあっさりと折れてしまった。
思考を読まれたように一緒にしゃがんだKarがふわりと笑う。肩二つ分の距離がこれほど近いとは思わなかった、恐ろしい。
「あくまで片手間のようです。ですがグリフィンは軍ではありません、再生事業に手を出していてもおかしくはないでしょう?」
「…………商売で扱うもんじゃないぞ、こういうのは」
もっと、そこら辺に転がっていて良かったものだ。今はそうじゃないだけ。
――とはいえ感傷に浸っていてはただの無職だ。頭を叩き起こして立ち上がり、同時にタブレットの電源を入れた。
暫く適当に触っていると突然画面にスピーカーのマークが乱入してくる。
『それじゃあやってみましょうか!』
「ああ。Karちゃんは銃持ったな?」
「ええ」
彼女がくるりと回したそれは確かにKar98k。確か全長は110cmだと聞き及んでいたが、人形の規格に合わせてアレは140cm以上有るそうだ。
妙な開発力だけは感心しつつ、銃を持った彼女の全容を見てみる。
どうだろう、さっきに比べると幾らかその姿に凛々しさが有る。彼女自身もスイッチを切り替えたのか、仕草こそ柔らかくとも何処か規律が染み込んでおり、表情は僅かに冷気を帯びている。何処と無くぞわりとした。
今さっきまでの天真爛漫さは嘘幻なのだろうか、と問いたいぐらいにその佇まいは軍人を匂わす威風堂々たるものに様変わりしていた。
銃を改めて確認するその紅蓮の瞳は、俺に向けていたものに比べてあまりに無感動。当然とは言え、彼女が虫一匹殺せないと知らず知らずに錯覚していたようだ。
『それじゃあまずは的を用意してあるので――――――』
「指揮官さん、見つけましたわ」
「そうか、ご苦労――――――――」
ちょっと待て。今、彼女は何と言った?
恐らくKarも何をするかなんて聞かされていないはずだ。今カリーナから聞かされた情報は「的が有る」、簡潔に言うとこれだけのはずだ。
彼女は間髪入れずに俺に今、確かに「発見報告」をしたのだ。人形らしく、人形のように、仕事を果たした。
ならそれは俺に見えるのか? いや見えない、
彼女が指差す方向に、彼女が見貫いたその先に、俺は何も見いだせなかった。
「待ってくれ。アピールのために適当に言ってないか?」
「そんな見栄は張りませんわ。ですから――――――早く命令なさって?」
幾ら何でもおかしい。それは戦術人形であると考えてもだ、人間じゃないから有り得るだろうではない。れっきとした『異常』だろう。
彼女たちの銃にだってオプションパーツは有る、もちろんサイトもだ。ならばその視力に特別な調整など入っているはずがない。
思わず呆然としてしまう俺に、Karは朗らかに笑う。銃を構えた彼女は何処か奇妙で、とても今から何かを撃ち落とそうという気概は見えてこない。
確かに雰囲気は違った、戦う前動作は見せたが殺意と害意が圧倒的に足りない。
「――――――――指揮官さん、私は『武器』なのですから。あなたが上手く使わないと」
諭すような優しい口調には、明らかに血の匂いがした。微かにだったが、確実に彼女はその言葉通りに血濡れた『武器』らしい。
彼女は銃床を見回しながらポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「私は自分の意志で撃つことが出来ますが、やはり最初は指揮官さんがしっかりと命令しないといけません。あなたは優しくて、恐らく臆病な人です」
「だからこそ、今のうちに慣れておきましょう? 自分が『武器』を持っているという感覚に」
彼女の言葉にはっとさせられる。
そうか、俺が恐れていたのはそれか。
馬鹿な話だ。俺は彼女を無害だと断定し、少女であると盲信し、そして『少女に武器を持たせた』。どうやらこんな感じの思い上がりをしていたらしい。
何処をとっても馬鹿だ。
一に俺が持たせたんじゃない、彼女が自分の意志で持った。
二に彼女は唯の少女じゃない、こうするために本来居るものだ。
最後に――――――
「………………そうだな。ああ、決めるところは俺も決めなくっちゃな」
――――彼女が少女であろうと、銃を持った兵士であろうと。俺があの時息を呑んだ「Kar98k」は、消えてなくなったりなんかしない。
どれも全て彼女なんだから。俺がどれか一つでも奪いされるなんてのは傲慢だ。
俺なんかじゃ、君は殺せないよな。
躊躇いは消えた。息は一定のリズム。冷や汗なんてかきもしない。
だから俺は命令した。彼女が彼女らしく佇むように、俺が俺らしく此処に立つために。
「悪かった。命令するよ――――――――標的を撃ち落せ、Kar98k」
「Einverstanden. それでこそ指揮官というものでしてよ」
あんな大型の騎兵銃をまるでバトンのようにくるくると回しながら構える。構えは乱雑、左手だけで真っ直ぐに彼方を指したKar98kは間違いなく破壊の道具であると俺の脳に訴えかける。
もう虚像は消えた。彼女は今でも綺麗なままで、それでいて強いことが分かった。新しい一面を俺は知っただけ、思うことなど有るものか。
その美しい銀髪も、輝く真紅の瞳も、白すぎた肌も本物。どれ一つ虚像じゃない。
――――――鋭い銃声。何処かで何かが壊れる音がした。
その細い指先がしっかと槓桿を捉えると、慣れた動作で後ろに引く。同時に小気味の良い装填音、ゲストに飛び出す排莢音がカタンコトンとタップダンス。
スローモーションでその動作は終えられた。恐らく錯覚、彼女の横顔ばかり見ていたからちょっとばかしボウッとしていたのだろう。僅かに長い銀髪の尾が靡く。
「完了。命中ですわ」
「よくやった、Kar98k。お前は良い相棒になりそうだ」
ノリで言ったのが間違いだった。
Karが両手で顔を隠したかと思うと首をブンブンと振って
「そ、そんな――――――――良い伴侶になるだなんて! そんな!」
「言ってないから」
やっぱり彼女はKar98kだった。というより、Karちゃんだ。
少しだけ安心したが、これはどうすれば良いのだろうな?
カリーナが目を剥きながらタブレットに映り込むまでの間、デレデレと俺の手を振り回したりしてはしゃいでいる彼女に地蔵を決め込んだ。
空気が壊れてもアレだし、喋り方変えようか?
今回は聞く音楽をある程度拘って、Karさんが出る場合はヴァイオレット・エヴァーガーデン関連です。だから童話チックで重い質感にしようとはしています。
この前少しだけ「いろんなKar98k像が有る」と話しましたが、これは「色々な顔を持つKar98k」です。
だからカッコよかったり、可愛かったり色々な表情を映します。よいしょがボクの役割だと思って下さい。ちなみに騒いでる時は4等身ロリで脳内再生して書いています、かわいい。
今回から質問を募集します。ボクの個人的なことでもいいし、作品の裏話でもいいし、Karさんの趣味とかでも。あとがきで毎回Karさんがお答えしてくれるそうです。
「完璧に初耳なのですが?」
今初めて言った(銃声)(響く排莢音)