ところで突然やってくる謎の新人って、それだけで響きが素晴らしいと思いませんか。
「はあ、はあ、はあ――――――っ!」
息が荒い。ぶつ切れに乱れきった息に構わず、俺は必死で火の中を走っていた。夢だというのは考えるまでもない。
――――――俺は、八ヶ月前に家を追われた。不仲じゃなくて、それは物理的な要因…………直接的に言うなら家が焼け落ち、両親が死んだからだ。
深い深い夜のこと、俺が起きたのは小さな悲鳴と大きな銃声。カーテン一枚隔てれば其処には焦熱地獄、もう不在だった家族の無事を信じて、俺は出来るだけ近隣住民の避難の助力に努めた。
鉄血兵の中々に大きな隊が俺達の住宅街を侵略したらしい。やつらのテリトリー領域が広がっているのは承知していたが、だからと引っ越せるようなご時世じゃない。金に困って倒れてしまう可能性も見えてくる大きな借金になるからだ。
今日は大丈夫だから、明日も大丈夫。平成生まれみたいなまやかしの理論で生きてきた俺達の、危機意識を叩き起こすような電光石火の出来事だった。
さて。大方の避難が終わってさあ逃げよう、となった時に俺は最悪のパターンに遭遇した。
柱に潰された子供に、焼けて呻き声すら出さなくなった男の残骸に、蜂の巣になった誰か。経験しないと分からないことだが、アレを見た時に「恐ろしい」なんて人は思わない、理解を拒否する。
次に現実から逃避する。俺は完全にパニックになって当てもなく走り出した。これはその時の夢なんだと思う。
「何でだ、何で。何でっ!」
叫ぶ俺だが理由など無い。明日は我が身と、何処かで分かっていたはずだろうに。
それまでは辛うじて鉄血兵から身を隠しながら救助していた俺だが、パニックとなれば話は変わる。自暴自棄にもつれた足を無理に動かす俺はすぐに鉄血兵に見つかった。
彼女達は正確な射撃をするもので、心臓ではなく敢えて膝裏を狙う。情報がある場合は吐かせるというのも有るだろう、こんな時まで走り回っている男なんて見るからに怪しい。
射撃音と共に足が糸の切れた人形のように動かなくなる。熱くなるのは分かったが痛みは感じない、それを上回る錯乱に押し潰されてしまったのだろう。右足は動いたのに、左足ばかり気になってしまったのはきっと死体が脳裏をよぎったから。
今まで冷静に動こうと躍起になっていたツケが回った、遅まきに恐怖が頭を塗りつぶす。
「――――――嫌だ」
掠れた声は誰にも届かない。俺は翻って奴らの姿を見る。
紫髪にバイザーを付けた少女兵。彼女達はVespidと呼ばれているそうだが、そんな些末な情報など関係なく俺には怪物に映る。人を喰らうような、そういう悍ましい怪物に。
涙を流して唇を噛んで、上半身だけで必死に逃げる。決して目は逸らさなかったのは俺の数少ない美徳だろうか。
睨みつけて涙を堪える。確かに普通だし、大層な理想は掲げないがみっともなく死んでやれるほど出来た人間ではない。
――――だが、彼女達が銃を構えれば。流石に目をつむって来世に期待するばかりとなる。
天命を呪った。錯乱した己を罵倒した。理不尽を嘆いた。短い人生を儚んだ。きっと来世はマシだと言い聞かせた、まだ俺は甘かった。転生したんだから、また今回もと何処か甘えていた。
だから死に際に選んだ台詞もみっともない。
「畜生、来世で覚えてやがれ!」
何と平凡。俺は唯の人間だ。強くもないし、逃げる。
破れかぶれに叫んだ台詞と共に、彼女達が引き金を引こうとして、それで――――――
「――――――来世。来世ですか、何とも都合の良い生死観ですね」
知らない女の声がしたのだ。
その声は、きっと起きてしまえば覚えていないのだろう。俺はあの時の記憶が混濁している、夢だから綺麗に再生できているに過ぎない。
彼女は俺の救世主で、見果てぬ理想で、恐らくこの人生で会うことはない幻の少女兵。
凄まじい勢いで走り寄る女に、鉄血兵達は瞬く間に壊されていく。
銃さえも使わない軽やかな脚捌き、的確にその関節を砕き、末端を傾がせ、最後に脳天だけを至近距離で撃ち抜く。
「遅いわ」
銃からその場で手を離すと後ろの一体を回し蹴りで吹き飛ばし、落ちていく銃の槓桿だけを身体に引き寄せて排莢。勢いで肩に押し当てながらノーサイトで止めを刺す。
見たこともない常識離れした動きだ。銃を一度捨てたのは万が一の時にもう蹴りを一撃を入れるためだろう。終わってみれば、落としても足でスリングを引っ張り上げる動作までもが容易に想像がつく。
まさに華麗。俺はその名詞を使うべき人物を初めて見た。はためくコートは夜の群れ、靡く白銀は死の銀世界。彼女は美しく、冷たく、そして熱く、正しく死に近い何かを帯びていた。
その女は動きながらも息を切らすことなく此方を見る。燃え盛る赤色の瞳が俺を捉えると僅かに見開き、言葉と共に問いかける。
「――――――――そうね、まずはこう尋ねてみましょう」
その表情は、もう覚えていないけれど。
「貴方は私に、何を望みますか?」
その声が、言葉遣いが、とても綺麗だったという気持ちだけを
確かに覚えている。
「――――――アアアアッ!?」
布団から跳ね起きる。ありきたりながら知らない天井、俺は恐らく瞳孔を開いたまま荒い息遣いでじっと見つめている。
額に手を当てると酷い汗だ。夢の内容ははっきりと思い出せないが、きっと碌なものではなかったのだろう。
――思わずキョロキョロと辺りを見回すが、自分の家にしては小綺麗すぎて気色悪い。混濁する記憶に――――――いや、そうだ。昨日は歓迎会でビール一気をノリでやって…………ああいや、勝手に自分でやったんだけど。
「………………そうだったな」
そうそう。此処は、S09基地だ。
「ふぁ~あ、ねっみぃぜったく…………」
キャラが違うと思うかもしれないが、録な夢じゃなかったらしくて寝起きが悪い。現在午前五時、速くても六時にしか起きてこなかったから寝不足でイライラしている。
とはいえそんな甘っちょろいことを言えるのも今日までだ。軍人モドキみたいな民草の味方になったんだ、多少私事を犠牲にしてでも仕事をするべきだったりする。
――なんて指揮官としての心構えについて勝手に改めつつ、昨日吐きそうだった時にカリーナが教えてくれた(筈の)洗面所その2に足を踏み入れた。
「ほえ?」
不意打ちの気の抜けた声に思わずえげつない声が出る。
「あ”あ”?」
今日も運がなかった。
雪の化身が如き真っ白な少女。銀髪、白い肌、何より白いネグリジェとフワッフワしたメルヘンさに認知機能が乱れるが、爛々と輝く紅い瞳で散らばった特徴が一つのアンサーにカタリコトリと連結した。
Kar、じゃないだろうか。たぶん、眠すぎてはっきり分からない。
恐らくえげつなく目付きが悪く、目を細めながら口をへの字にして自分を見つめている男――――――まあ普通の少女なら固まるが、今回はそういう理由ではなさそうだった。
「し、しきかんさん!?」
「ん~………………ああ、おはよう」
ぽやぽやと目を擦りながらあいさつだけしてみたが、Karはそっぽを向いて顔を合わせてすらくれない。洗面台に居たものだから鏡越しに見てやろうかと思ったが、それにも気付いたのか上手く隠されてしまう。
あれ~? 俺昨日の夜暴れたんかな、正直酒の一気は趣味半ばでやる割に酔ったら制御が利かないもので…………初日にやるんじゃなかった。
「何か分かんないけどごめん」
「謝ることではありませんが、その――――――ちょっと外で待っていてもらえますか?」
むう、何故だ。Karの顔色から何かを判断しようと思ったが、どれだけ顔を寄せても逸らされて全然わからない。
――眠いと俺は短気だからな、ど直球で行こう。
「なんで」
「何でって…………何でもです」
「だから、なんで。くわしく」
意固地な子だ、全く応答しようという気概を感じない。
仕方ないので肩を持って無理やり振り向かせる。
「上官命令だぞ~!」
「嫌ったら嫌です!」
顔を必死で隠すので思わず対抗心が生まれてしまった、少し強引に手を取っ払う。
――此処までやって漸く気付いたが、ひょっとして夜更かしして目に隈でも有るとか? まあそういうのって何か恥と思う人種も居るだろう、俺は全く気にしない。
Karが夜更かししていても俺は怒る気もないし、ましてやそれで評価をどうこうしようだなんて思っちゃいないんだから。
凄く不満そうな顔で此方を睨む彼女の目は何時も通りに輝くのみ。隈も無ければ赤くもない。ならば何故?
「何で嫌がるの」
「だって……………だって…………」
「だって?」
「まだお化粧終わってないんですもん!」
「もんとは何だもんとは!?」
ああ、驚く所間違えた。眠いからな、神も許し給うて。
わなわなと肩を震わせるKarの言い分を取り敢えず聞いてやろうと思う。直感だが、何かKarにとってあまりにやってはいけないことをしてるのかもしれない。
手を離してやると、バッと俺から距離を取る。
「化粧? うん、それで?」
「『それで?』じゃなくてよ! 指揮官さんには手心というものはありませんの!?」
「て、手心だぁ?」
何を言ってるんだ、俺は基本部下とか知り合いの女の子にはかなり甘々な判定を出す男だと思うんだけど。
もう見慣れてきた潤む瞳に、我ながら罪作りであることは自覚を得てきた。もう少し女性の扱い方をちゃんと知るべきだろう、本当にマトモな女性とは縁薄い身の上だからわからない。
隠しても仕方ないし、そのまま言ってみようか。
「こういうのはアレだけど俺は女性とは縁遠い種族でさ。言いたいことが分からない、忖度はしたいからちゃんと言葉にして欲しい」
この類のトラブルを友人なら上手く解決してしまうのだろうけども、俺は器用でもなければ聡明でもない。ならば聞いてしまった方が事は円滑に進むに決まっている。
――なんて思惑までは届かずとも、俺が本当に理解していないことは分かってくれた。引き結ばれていた口元がちょっとだけ綻ぶ、まだ不機嫌だが相互理解は出来なくもないくらい。
機嫌を損ねすぎない内に聞いてしまおう。
「それで何を気にしてるの」
「だって、そのままの顔で人前になんて出られませんもの…………ましてや指揮官さんの前なら尚更です!」
もう分かるだろう、とじぃと俺の瞳を見つめてくるが
「もっと単刀直入に」
ごめん。馬鹿だから分からないわ。
もう、とKarはまた顔を険しくはしたものの俺がどれくらい分かってないかは見えてきたようで、それを責めるようなものはない。
本当に失礼なことを聞いているなら後で謝れば良い、問題は分からないまま適当にスルーしてしまうことだろう。そういう事を繰り返す内にコミュニケーションエラーというやつは発生する。
化粧をする女性の気持ちが分かるような環境には一度も置かれてないのだ、仕方ない。
「誰だって人前では少しでも良いように思われたいものでしょう? まして意中の相手なら少しでも、たった一言でも多く綺麗だと言われたいし思われたいものです! 何かダメですか!?」
ダメです。俺の鼻の血管辺りに非常に良くない暴露有難う。
これ以上は無理だと言わんばかりに顔を真赤にしたKarであるが、そろそろ俺はこの手の表情のコレクションを受付さん辺りに売り飛ばすことを考えて良い。売れるだろう。
仕方ないので、何かフォローを入れておこう。
未だに覚め切らない目を擦りながら、化粧をしていないらしいKarの顔を見る。ついつい視界が霞むので至近距離になるがまあ仕方あるまい。
「ん~…………」
「ち、近い。破廉恥ですわ」
「何時の時代の大和撫子だ…………う~ん?」
顔をくまなく見てみる。
林檎色の透明な瞳、俺とは大違いの細くて長い睫毛、人形という呼称に相応しいくっきりとした目鼻立ち、まじまじと見るにはちょっと危険な魅力を匂わす唇、白さが心配とは言うがほのかな朱で温かみを帯びた肌。
うん。
「別にちゃんと可愛いぞ。何を気にしてるんだ? 化粧をしようがしまいが君の顔は綺麗だと思うんだが…………」
「~~~~~~~~~ッ!?」
突き飛ばされると、そのまま洗面台には数十分ほど入れなくなった。
「…………それで、朝からKarさんと喋れていないと」
「お恥ずかしながらそういう事です」
スプリングフィールドも朝っぱらから姦しい俺達に困り果てている。元々Karだけでも中々に騒がしかっただろうから、喧騒に慣れてないと鬱陶しいかもしれない。
朝の記憶は正直ちょっと曖昧。寝起きと眠いときは基本的に俺はフリーダムだ、とは言われたことが有るが記憶がどうにもはっきりしない。
カリーナがあちゃーと頭をかく。
「初日からコミュニケーションエラーとは。指揮官さま、上手く付き合ってあげてくださいね?」
「ああ、気は遣っているんだけどな」
早朝を過ぎて朝、戦術司令室。
今日は昨日の訓練を続きをすると聞いて俺は立っているが、それはスプリングフィールドも同じことらしい。Karは内容自体は理解しているから俺以外からの受け答えに問題はないだろう。
カリーナも早くに起きているのかもしれない。多く有った書類は綺麗に整理されていて、コンソールの上の書類も無くなっている。
「どうかしましたか、指揮官さま?」
「いや、書類整理ぐらい俺も手伝おうかなーって。それより今日の内容、昨日ちゃんと聞けずじまいだったから説明を――――――」
俺が喋っている途中、カリーナの表情が言葉を選びあぐねるようなこんがらがったものになる。
スプリングフィールドはそれにいち早く気づいたのか、俺が尋ねる前に先手を打ってくれた。流石スプリングフィールド、いや人となりよく分かってないけど。
「事情が変わってしまったのですか?」
「え、ええ。ちょっと状況がですね、本部で人手不足だとかで――――――」
『その先は私が説明しよ――――――――待て、モニターの電源を入れてくれないか?』
締まらない。そして
俺は思わず耳を疑った。彼女? いや、でもまさかな。だが職場は――――みたいな堂々巡りの逡巡繰り返すこと数度。
カリーナが慌て気味に入れたスイッチで、大きなモニターに女性が映し出された。
――待て。
端的に言って焦った、口元は自然と吊り上がる。
映ったのは灰に近いキューティクルの有る髪。少しばかりくせっ毛が強いからとよく括っていたが、今もお下げにしているのは変わらないらしい。
きっと引き結んだ口元に隙は無く、モノクル越しに映る金の鋭い瞳はイメージ通りのキャリアウーマンのそれ。顔のパーツも綺麗に並んでいるからか見ていて少し堅苦しい、遊びが足りてない。
そして馬鹿みたいにきっちり着こなした制服。ああ、間違いなさそうだ。
『初めまして、しきか――――――っ!?』
彼女は俺を見るなり目をギョッとさせる、確定だ確定。やっぱりか。
カリーナとスプリングフィールドは俺と彼女を交互にみやって目を丸くしているが、説明は後だ。「一応」上司ならちゃんと紹介しないとな。
「初めまして、ヘリアントス――――――いーや、ヘリちゃん」
『ヘリちゃん言うな!』
「という訳で人手不足でお呼ばれした指揮官だ。まさか勤め先此処だとは…………」
『コッチの台詞だ、まだ生きていたんだな!』
勝手に殺すな。
――――――ヘリアントス。一見お硬そうな彼女の知られては困る秘密を俺は多く知っている。
まあ俗にいう、幼馴染に該当するのかね。
「ははは! 俺ヘリちゃんの下っ端なの!? こりゃ傑作だわ!」
『私は人生最大の悪夢が始まった気がしている…………っ』
ゲタゲタ笑う俺が余程億劫なのだ、ヘリアンは何時も通りそのまま生気ごと吹き抜けてしまいそうな長く深い溜息。
顔だけで絶対分かるから必要ないが、一応確認はいくつか取った。彼女は俺の知るヘリアントスその人だ、思えば俺と遊んでた頃からさっぱり男の気配ないんだよな。
「まだ彼氏出来てないってひょっとしてギャグで言ってるのか!? ったく、婚期逃すぜ?」
『う、五月蝿いな! 一応合コンとかにもだな…………』
「ああー、成る程。自己紹介がガッチガチ過ぎて開幕で距離取られる最年長ポジを毎回引き受けてると?」
『そういうことだ――――――って違う! な、何故それを!?』
「見れば分かる」
相当ご立腹なヘリアンだが、こんな見慣れた光景でどうこうなる心臓だったらそもそもS09基地に着任していない。
カリーナが少し遠慮がちに俺の服を引っ張る。
「え、ええっと…………ヘリアンさんとは、その」
「奇縁というのは本当に有るものなんですね…………」
スプリングフィールドがうなずく通り、これは合縁奇縁の不思議な再会だ。幾ら苦手に思われていようとも再会できたなら俺は嬉しい。
俺達のあんまりフランクな空気感に他二名が明らかについていけないと悟ったのか、ヘリアンが咳払いをして暗に加減時をお知らせしてくる。仏の顔も何とやら、素直に引いておいてやろう。
「じゃあ仕事に入りましょう、ヘリアンさん。ふざけてばっかりじゃ駄目ですよ」
『君から始めたんだろうに…………! まあ良い、では仕事の話としよう』
ピタッとオフザケが辞められるのは俺達の良いところだ。物分りが良すぎると大人からはよく苦笑されたものだが。
俺達に漂う仕事ライクな湿度低めの空気感に二人が目を回すような錯覚を覚える。実際このオンオフの極端さには周りが当惑するのも致し方ないだろう。
ヘリアンが淡々と要件を喋りだす。
『さて、君のような万年平社員ヅラの』
「相当根に持ってるよね、謝るから真面目にしてくれよ」
『――――君のような新任の指揮官に悪いが、S09地区で鉄血の襲撃が増えている事を知っているか?
聞き及んでいる、静かに首肯だけで返事をした。
元々鉄血――――――一年前の「蝶事件」以来暴走した鉄血工造の人形たちであるが、彼女達には明確なテリトリー意識がある。
段々と拡大はしているようだが性急な侵略もしない。だからこうして基地が建てられるわけなのだが、S09地区は若干目につくくらい襲撃が有るようだとは噂を聞いていた。
ヘリアンは俺の情報網がたかが知れているのも分かっているのだろう、ある程度整理して話してくれる。
『そこで君の出番だ。上級代行官の私のバックアップの元、鉄血の侵攻の原因の調査、場合によっては撃破を命令する』
「――――――ま、待ってください!」
声を上げたのはカリーナだった。俺にはあまり敬いの様子は見られない彼女であるが、ヘリアン程の上司となると意見は気が引けるのだろう。少しばかり声は弱々しい。
しかし余程の要件だったのだろう、僅かな逡巡を切り捨ててもう一度視線をヘリアンにぶつける。
「事情は察しかねますが、指揮官さまはまだ訓練も殆どしていない素人同然です! 幾ら何でも無茶が過ぎませんか…………」
それはご尤もだ、何なら俺も理由くらいは聞こうと思っていた。
カリーナの心配事は勿論俺、というだけではない。そりゃ彼女も鬼畜外道ではあるまいからそれも気にかけてくれてはいるが、そもそも「こんなぺーぺーに任せる仕事」が上層部から振ってくるかという問題だ。
出来ない仕事の可能性が高い訳で、それを振ってどうするんだ――――というのをオブラートに包んだのが今の発言ということだろう。
ヘリアンも溜息をつく。それに思い当たらないほど抜けた女じゃないからな。
『無理は承知だが、時間も人手も足りない』
ちらりと俺の方にヘリアンが視線を向ける。
『それに其処には
その言葉の続きは聞くまでもない事だった。突然自動扉が音を立てて開いていく。
思わず三人で振り向いたが、ヘリアンは一瞥すると納得したように目を伏せる。
少女はもう確認するまでもなく戦術人形に見える、作り物めいた金の瞳からは議論の余地がない。肌はKarの比較にならない病的な白さだが、これは一体何の嫌がらせだというのだろうか。
今は見ることもない女子高生のような制服チックな格好。上から着込んだフード付きのジャケットには多くのポケットが有って、非常に機能に偏ったものを感じる。
スラリと伸びた足は黒い。タイツでしっかりと防寒に備えた服装はKarのそれとは真逆でいっそ安心感が有って、備え付いたガンホルダーやウエストポーチからは真っ当な「戦闘向け」という趣。感動すら出来る。
『…………遅いぞ。何をしていた』
「あはは、ちょっと迷っちゃった。此処の地図分かりにくいと思うな~」
『言い訳は良い。自己紹介してやれ、全員固まっているぞ』
陽気な返事をしてみせた少女だが、ヘリアンはちょっと刺々しいものが有る。意味もなくそういう態度は取らないから、恐らく問題児なのだと否応なく察せられて冷や汗が伝う。
小さく口角を釣り上げたまま、少女は姿勢を正してみせた。鼠色のサイドテールがぴょんと少しだけ跳ねる。
視線を右往左往させて目をつけてきたのは俺、一際営業スマイルじみた綺麗な笑顔で此方に真っ直ぐと挨拶を始める。
――一瞬目を見開いたようにも見えたが、俺でははっきり断言の出来ない極短いものであるには間違いない。
「UMP45。上級代行官ヘリアントスの指示により、今日付でここに着任しました」
「仲良くやっていきましょうね、指揮官」
また面倒な娘が来たんだな、率直に思った俺は
「お手柔らかに頼むよ…………」
脳と口が直通してしまったがごとく、そんな言葉を反射的に選んでしまっていたのである。
認めると自分の化粧を否定され、認めないと称賛を受け取れない。Karは圧力で死ぬ。
Karさんは育ちは良い「設計」でしょうから、非常に悩みどころ。
45を出したのは趣味と我儘なので、深くは考えない方が良いです。『彼女達』とは関係がないので其処の設定は追々。
シンプルにしてもなかなか難しい身の上になっているので、恐らくそこでも数話確保できるかもしれないですね。
戦闘するのでご用意を。ところで質問は本当にないですか? そうですか。
もう一度タイトル変更するかもしれません。何かしっくり来なくて。