オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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終わり=ぶん投げ

 カルネ村にほど近い平野。

 

 ほぼ刀を装備しただけの男、ブレイン・アングラウス。

 王国の秘宝で完全武装をしている戦士長、ガゼフ・ストロノーフ。

 

 周りの兵士たちが固唾を呑んで見守る中、二人は静かに見つめ合っていた。

 

 

「あくまでもお前は立ち塞がるというのか…… 汝がそう言うのならば王の御命令を果たすため、私はその一騎討ちを受けよう」

 

「俺は修行の末に一つの答えを得た。俺の目指す頂き…… 今の迷ったお前に見せてやる」

 

 

 ブレインは鞘に刀を戻し抜刀術の構えを取り、それに応えるようにガゼフも剣を構える。

 

 

「武技〈能力向上〉、〈能力超向上〉――」

 

「武技〈領域〉、〈能力向上〉――」

 

 お互いに様子見する相手ではない事が分かっている。

 そのため使える武技を全て発動し、最初から全力を出しきるつもりで後のことは何も考えない。

 始まりの合図も何も無い決闘はどちらからともなく動き出した。

 

 

 

「おおおぉぉっ!!〈六光連斬〉!!」

 

「ぜやぁぁあっ!!」

 

 

 勝負は一瞬。

 ガゼフは6つの斬撃を同時に放ち、その全てをブレインに叩き込もうとする。

 ブレインは神速の一刀、ただ一撃に全てをこめて振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の、負けだな……」

 

 

 

 

 

 

 自分の技はブレインには届かなかった。

 ガゼフは倒れながら、ああ、自分は負けたのかと目を瞑りボンヤリと考える。

 

 しかし、身体は痺れているものの死ぬような気配は無い。

 不思議に思い目を開けると、ブレインがこちらを見て笑っていた。

 

 

「〈秘剣虎落笛(もがりぶえ)・峰打ち〉絶対に相手を殺さない武技だ。知っているかガゼフ? 子供の理想とする正義の味方は、敵でも簡単には殺しちゃいけないんだそうだ」

 

 

 

 ――完敗だ。

 

 

 周辺国家最強の名は持っていけ。そう言うガゼフに、ブレインはそんなものは必要ないと言う。

 最強じゃなくても良い。大切な何かを守る力さえあれば、それでいいのだと俺はそう教えられた。

 

 その時のことを思い出しているのか、嬉しそうに語るブレインにガゼフはいい出会いがあったのだと悟った。

 

 

 

 

 

 

「いつまで茶番劇を見せる気だ!! ガゼフも簡単に負けおって!! 所詮は平民の出よ、使えん男だ」

 

 

 痺れを切らしたのか、バルブロ王子が喚きだした。

 

 

「兵達よ、矢を構えよ。如何に強くとも永遠には戦えまい。奴の体力が無くなるまで射撃を続けるのだ!!」

 

「お前は俺がかつて見た傭兵達と同じ目をしているな…… 己の欲望のために他の全てを奪おうとする目だ。そんなやつをこの先に通すわけにはいかない!!」

 

「賊がほざきおって!! お前のような奴が守る村などロクなものではない!! どうせ犯罪者がいるような村だろう、もろとも焼き払ってくれる!!」

 

 

 バルブロは何がなんでもブレインを殺すことに決めた。

 元々、都合の悪い者は全て消すつもりだったのだ。一人増えたところで関係ない。

 

 次々と矢を放ち、ブレインの体力が無くなるのを待つ。

 一方で、ブレインもこの状況は良いとは言えない。そもそもブレインにはこの兵達を殺す気がない。

 バルブロの言う通り、先にこちらの体力が尽きてしまうだろう。

 だが、それでも諦める気は微塵も無い。

 

 

「俺の名はブレイン・アングラウス!! 自らの信じる正義の為、あの村を守る!! 王族だかなんだか知らんが、自国の民すら襲おうとするお前らなんぞに負けるかぁぁあ!!」

 

 

 終わりの見えない持久戦が始まり、ブレインはただひたすらに躱し、刀で矢を弾こうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――よく吼えた、ブレイン・アングラウス」

 

 

 

 突然、地面に鉄を叩きつけた様な重い音が響き、粉塵が舞い上がった。

 

 

「お前は、もしかして……」

 

 

 空から落ちてきた何かが、ブレインを護る盾となる様にゆっくりと立ち上がる……

 

 

「選手交代だ。正義の味方よ、ここからは子供の味方に任せると良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはラナーの部屋から〈転移門(ゲート)〉で直接カルネ村に来たが、まだ村にはバルブロ達は来ていないようだった。

 便利アイテムの遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を使っても良かったが、どうせすぐ来るだろうと〈飛行(フライ)〉の魔法で上空から辺りを見渡すことにした。

 

 

「えーと、馬鹿王子御一行様はどの辺りかな?」

 

 

 カルネ村上空から王国の方向に軽く飛び、お目当の集団とそれに対峙する一人の人物を見つける。

 

 

「いたいた、相手側の先頭にいるのがガゼフかな? 前に見た装備よりえらくゴツいが…… 反対にいるやつは誰だ?」

 

 

 おそらくガゼフと対峙している者が何か喋っているのだろう。

 何となく内容が気になったモモンガは〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉を発動させ、会話の内容を聞こうとした。

 

 

「戦士長と一騎討ちか…… この世界の強者同士の戦いは見た事がなかったから、折角だし見させてもらおう」

 

 

 兎の耳を生やした骸骨が空を飛びながら試合を観戦する。

 文章にするとこれほど怪しいものもなかなか無いだろう。

 

 勝負は一瞬で決まったため、正直物足りないと思ったがここに来た本来の目的を思い出す。

 

 

「おいおい、折角一騎討ちして良い雰囲気で終わりそうだったのに、あの馬鹿王子は……」

 

 

 どうやら、数に物を言わせてブレインを潰すようだ。

 ブレインもそこそこ強いようだが、あの程度の実力では体力的に負けてしまうだろう。

 ブレインの啖呵を聞きモモンガは薄く微笑む。

 

 

(正義か…… 俺はこの世界に来て早々に捨ててしまったが、それを貫こうというのか)

 

 

 格好いいじゃないかブレイン・アングラウス。ここは助太刀登場とばかりに派手にいくとしよう。

 

 モモンガは彼らの遥か上空で〈飛行(フライ)〉を解除し、そのまま空中で鎧を纏いながら落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた黒い鎧を纏う骸骨の戦士に、バルブロ達は一瞬呆然となったが、獲物を見つけたかの如く叫び出す。

 

 

「見つけた、見つけたぞ!! 兵達よ、アレだ、あの骸骨をヤれ!! あれが王都を騒がせた犯人だ!! この際殺してしまっても構わん、絶対に逃がすなぁ!!」

 

 

 血走った眼で命令を下し、最初から捕縛する気があったのか疑いたくなるような勢いで、兵達を突撃させようとする。

 

 

「やれやれ…… 折角カッコよく登場したのに拍手がないどころか犯人扱いか。これでも本当に子供の味方のつもりなんだがな」

 

「その言い分からして、もしかしたらとは思っていたが…… やっぱりお前が、子供の冒険者に使役されているというアンデッドか」

 

 

 空から降ってきた骸骨に対して、ブレインはどこか納得したように言う。

 

 

「なんだ知ってたのか。一応名乗っておこう、アダマンタイト級冒険者ネム・エモットの使役魔獣モモンガだ。お前はなんかいい人そうだし、隠す必要もないから手早く済ませよう」

 

 

 着替えたばかりだが鎧を解除し、最近よく使う〈麻痺(パラライズ)〉の魔法で兵士全てを無力化した。

 

 

 

「魔法ってのはなんでもアリか…… まぁいいや、とにかく助かったよ。ありがとう」

 

「お安い御用だ。こちらこそ村を守ろうとしてくれたようで礼を言う」

 

 

 互いに似たようなものを志す骨と剣士。

 周りは倒れた兵士達で埋め尽くされているが、二人は笑いあっていた。

 

 

「それで、この惨状はどうするんだ?」

 

「心配するな、私には素晴らしい友人がいるからな。彼女ならなんとかしてくれるだろう」

 

 

 正義の味方でも一人というのは辛い……

 頼りになる仲間達がいるのはいいものだぞ。

 

 

 誇らしげに言い切ったモモンガは、城に戻ってラナーに全部ぶん投げたのだった。

 

 

 


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