オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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平和な日常

 トブの大森林にある家の前には骨がいた。

 隣には普通の村娘もいる。

 

 モモンガは魔法で作った椅子に揺られながら、大自然のBGMを聴きのんびりと過ごしていた。

 

 

「ああ〜、大自然の中で風を感じながら過ごす。なんて贅沢なんだろう…… 平和って素晴らしい」

 

「モモンガ様、クライムさんが結構な悲鳴を上げている気がするんですけど……」

 

 

 エンリが心配の声を上げるが、モモンガはどこ吹く風だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 馬鹿王子バルブロを撃退した後にラナーの部屋に戻り、『後はよろしく』と伝えただけだったが、それだけでラナーは全てを察したようだった。

 

 

「お任せください!!」

 

 

 元気な返事が返ってきたが、本当に全てのゴタゴタを何とかしてしまったようだ。

 ラナー凄い。

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、ラナーがクライムと共にこちらに遊びに来ることになった。

 当日モモンガが迎えに行き、ラナーに渡してあるアイテムを使い二重の影(ドッペルゲンガー)でアリバイ工作。

 まったくもって完璧な計画だった。

 

 

 二人がこちらに来てから色々と談笑していたが、途中でクライムの強くなりたいという話を聞いて今に至る。

 

 

「えいっ!! やあっ!! それっ!!」

 

「ほーらっ!! クライム〜頑張ってっ!!」

 

「アアァああぁぁ!?」

 

 

 クライムはネムとラナーの三人で、模擬戦という名の遊びの真っ最中だ。

 

 ネムに持たせているのは、吹き飛ばし能力があるだけのピコピコハンマー。

 ユグドラシルでは叩く事で相手をノックバックさせるだけのジョークアイテムに近い物で、攻撃力は皆無と言っていい。

 

 ラナーに持たせているのは〈魔法の矢(マジック・アロー)〉が出せるだけの杖。

 使用回数に制限は無いが、第1位階の魔法で連射も出来ず、威力も弱く強化も出来ない。

 しかも自分で出した方が明らかに早いし、自動追尾(ホーミング)性能が死んでいる。回避可能な〈魔法の矢(マジック・アロー)〉なんてメリットが無さすぎる。

 ユグドラシルでは、レベル一桁の時ですら使い道に悩むようなゴミアイテムだった。

 

 

 クライムが一人で二人を相手にして戦っているが、男だし頑張ってもらおう。リア充に手加減は無用だ。

 

 クライムの装備は普段の訓練時そのままだが、ネムにはあらゆる防御装備がつけてあるため怪我の心配はいらないだろう。

 

 ネムが前衛を受け持ち、ラナーが後衛。

 最初は身体能力的にも経験的にもネムの攻撃が当たるわけもなく、クライムが有利だった。

 しかし、途中からラナーが慣れてきたのか〈魔法の矢(マジック・アロー)〉に邪魔され、その隙を突いたネムに吹き飛ばされるようになってきた。

 縦に振っても横に振ってもちゃんと吹き飛ばせる。流石マジックアイテム、物理法則を完全に無視する軌道は見ていて面白い。

 

 杖を振るラナーはとても楽しそうだった。

 クライムに頑張れと言いながらも絶妙なタイミングで〈魔法の矢(マジック・アロー)〉を当てて、恍惚の表情を浮かべている。

 

 

 後半、クライムはピンボールと化した。

 

 

 振るわれる武器や魔法に威力が皆無だとしても、飛ばされて木にぶつかれば痛いだろう。クライムはよく頑張った。

 

 エンリは参加せずモモンガと一緒に見守っている。

 クライムが迫真の演技をしていると思えば、子供がチャンバラして遊んでいるようにしか見えない。

 幼女と王女と犬が遊んでいるとは、なんと癒される光景だろう。

 

 そのうち遊び疲れたのかネム達が戻ってきた。

 

 

「モモンガ様!! クライム君に勝ちました!!」

 

「杖を振って魔法を出すのって楽しいのですね。こんな風に遊ぶのは初めてなので、思わずはしゃいでしまいました」

 

 

 何をもって勝利とするかは分からないが、ネムを褒めながらラナーにも楽しめたのなら良かったと言う。

 クライムの真剣な鍛錬を遊びと言い切るあたり、この王女もなかなか素が出せるようになってきたのだろう。

 

 

「鍛錬にご協力頂き…… 有難う、ございました。お二人とはいえ、チームと戦うのが…… これ程難しい事だったとは……」

 

 

 息も絶え絶えなクライムが一番消耗しているようだが、得るモノがあったのなら良しとしよう。

 

 

「そういえば、最近街に行くと第三王女が病に倒れ寝込んでいるという噂を聞いたが、何をしてるんだ?」

 

「あら? 友人が寝込んでいるというのに心配してくださらないのですか?」

 

 

 今遊びにきてる人間が言う台詞ではない。現にクライムが可哀想なくらいに元気一杯だった。

 

 

「どうせ二重の影(ドッペルゲンガー)を使ったのだろう? 使うなとは言わんが悪用はしないでくれよ」

 

 

 王女が城を抜け出し、国民には病に倒れていると嘘を流す。十分に悪用していると思うが、モモンガはこの程度なら気にしない。

 

 

「本当に便利で助かってますわ。後は連絡手段があるといいのですけど…… いちいち組合を通して依頼したりするのも面倒ですし」

 

「確かにそれは必要かもな。というか一国の王女が冒険者に指名依頼を出しすぎだろう」

 

 

 ラナーは割とどうでもいい事にも指名依頼を使い、モモンガ達を呼び出していた。

 

 最近クライムとの距離が縮まったんです!! 前よりも主従関係っぽさが減って、遠慮なく諌めてくれる様になったと思うんです!! まぁ、聞いてはあげないんですけどね。

 

 これを聞くために王城に行った時は、張り倒してやろうかと思った。

 

 アイテムボックスを探り、特定の相手に録音した音声を流すという本来は妨害に使うアイテムを渡した。

 ユーザーの設定で簡単に防げるため、ユグドラシルではゴミアイテムだったが、ペロロンチーノがユグドラシルの限界に挑む!! と言って使っていた記憶がある。

 今思うとアイツはよくBANされなかったものだ……

 

 

「一方通行のアイテムだが、これを合図に俺が〈伝言(メッセージ)〉を繋げばいいだろう」

 

「ありがとうございます。ふふっ、これはイイものですね」

 

 

 確実に別用途で使いそうな気もするが、そこはラナーの良心に賭けておこう。

 

 

「ああ、そうだクライムよ。強くなりたいというのならこういうのは――」

 

 

 友と遊び、そして語り合う。

 モモンガ達の休日はこうして平和に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不死王デイバーノック!! 魔導のために罪も無い人々を犠牲にする事は間違っている!!」

 

「くっ、八本指の六腕が自首して無くなろうとも私は止まりはしない!! 人間如きに我が野望は止めさせんぞぉ!!」

 

 

 

 そんな中、今日もどこかで正義の為に刀を振るう者もいたとか……

 

 

 


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