オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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幕間 ぶん投げられた人達+αと幸せな骨

 王都にある冒険者組合の一角に、どんよりとした黒いオーラを出しながら喋る死体が転がっていた。

 

 

「ふふふ…… やったわ…… もう一生分の〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉を使い尽くした気分。ありとあらゆる仕事の斡旋…… 冒険者辞めても働ける自信もついたわ……」

 

 

 そんな事をうわ言のように呟いているのは、王都を中心に活動しているアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のリーダー。

 ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラは顔色は悪いが、やり切った表情をしてソファーに転がっていた。

 

 

「鬼ボス死亡」

 

「鬼リーダー死亡」

 

 

 そう言われるのも無理はない。彼女はモモンガに押し付けられた人達、八本指に囚われていた被害者に〈獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)〉を使いまくっていた。そうして出来るだけ心のケアをしてから、新たな職場まで探して斡旋するという事を毎日のようにしていたのだ。

 途中からラナーが仕事の斡旋を手伝ってくれていなかったら、未だに終わっていなかっただろう。

 

 

「あそこまで頑張る義理はなかったろうに。まぁでも、お陰で家族と再会出来た奴もいたみたいだし良かったじゃねえか。お疲れさん」

 

「ありがとうガガーラン、優しい言葉が沁みるわ…… 相手を気遣うって大事ね」

 

 

 仲間の言葉に少しだけ元気を取り戻すラキュース。

 

 

「そういやアイツら、結局アダマンタイト級にまでなっちまったな。なんでも国を救ったらしいけどよ」

 

「国を救った英雄に文句は言いたくないけど…… いや言うわ。あの鬼!! 無茶振り!! 骨!!」

 

 

ラキュースが復活し『蒼の薔薇』完全復活まではもう少し時間がかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの冒険者組合では、組合長のプルトン・アインザックとその友人で魔術師組合長のテオ・ラケシルが、ある冒険者をどうやって組合に留めておくか話し合っていた。

 

 

「どうすればいいと思う? ここエ・ランテルの組合に登録してはいるが、拠点としているのは辺境の村。そんなアダマンタイト級冒険者なんて聞いた事ないぞ」

 

「アダマンタイト級自体少ないというツッコミは置いといてだ。相手は子供でこれといった勧誘方法が分からん。ましてや使役魔獣という名の相棒はアンデッドだ、分かるわけもない。仕事も頻繁にしないし、やっても採取ばかりだ」

 

 

 これが大人だったり、男だったりすれば話は違っただろう。金や物で釣ったり、女という手もあるにはあった。

 しかし、あの冒険者は金や名誉には固執していない。他のモノで釣ろうにも良くも悪くも子どもであり、望みが小さすぎてこちらがお願いできない。

 終いにはアンデッドの方が報酬が高額過ぎるからこの依頼はちょっと、とか言い出す始末だ。

 

 

「これなら強欲な冒険者の方が余程扱いやすいな…… ネムちゃんがそうなったら泣きたくなるが」

 

「落ち着け、幸いにも最近は『漆黒の剣』を筆頭に若い奴らも育ってきてるんだ。そうそう焦ることはないさ」

 

 

 どうすれば拠点をずっとここにしてくれるのか…… 答えの出ないアインザックは、とりあえずはまた来てくれる事を願って採取系の仕事を用意しておくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はザナック・ヴァルレオン・イガナ・ライル・ヴァイセルフ。リ・エスティーゼ王国の第二王子だ。

 最近我が国はヤバイと思う…… レエブン侯と一緒に逃げだしたくなるくらいには。

 

 一つ例を挙げよう。

 八本指の自首により焦って暴走した馬鹿兄上が、軍を引き連れ村を襲おうとして返り討ちに遭いましたとさ。

 馬鹿なのか!! 八本指を自首させるような能力を持つ奴に勝てるわけがないだろう!! せめて自分が勝てる相手を犯人役に選ぶ知恵は無かったのか!! 腕っ節しか取り柄のない癖に、相手の力量がわからんとか使えなさすぎる!!

 

 

「はぁ、ここまで貧乏くじを引かされるとは……」

 

 

 結局は王の恩情により殺さず幽閉に留まったが、それにより私が王位を継ぐのがほぼ確定してしまった。

 こんな強大な敵が潜む国の王とか、正直言ってなりたくない。

 

 さらに怖いのは我が妹ラナーだ。

 

 最近、元気すぎる。

 

 国民には病に倒れて寝込んでるとか噂を流してるが、頻繁に何処かに出かけている姿を見る事がある。

 そのくせ部屋に行くと必ずベッドに入っている。

 謎だ…… 第二、第三のラナーとか怖いからやめてほしい。

 

 

「まったく、あの元気を少しは分けてほしいものだ……」

 

 

 帝国が例年と違って、まだ戦争を仕掛けてこないのが唯一の救いだな……

 悩みの多いザナックはストレスで食事の量が増え、自らの体型にそろそろヤバイかと別の危機感も持つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガゼフがブレインに敗れ、モモンガが馬鹿王子を蹴散らした後のことである。ガゼフ・ストロノーフは自らの意思で、王国戦士長の地位を降りる事を王に告げていた。

 

 真の忠義に立場は関係無い、そう気づいたからだ。もっと自由に動ける立場で王を助けたいと思っての事だったが、様々な思惑によって王国戦士長を辞めることは出来なかった。

 結局『王国戦士長』兼『国民戦士長』という新たな肩書きが追加されることとなった。

 

 

(――いったい、どうしてこうなった?)

 

 

 民の為に自由に剣を振るえるのは望むべくも無いのだが……

 私の処遇を決める会議の場で、いつのまにか誰かが場を掌握していた気がする。

 

 

 

 

 ――ガゼフ・ストロノーフは王の願い、そして民を守るという大義のもと、今日も王国の秘宝を纏い王と民の両方を助けている。

 

 貴族派閥? そんなものは知らん。

 今の俺なら無視できる。

 

 

「くっ!! カジットに勝るとも劣らない十二高弟の一人であるこの私が、まさかこんなにアッサリやられるなど――」

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長であり国民戦士長!! 王と民のための剣だ!! この誇りにかけて、貴様らの様な国を汚す者には絶対に負けん!!」

 

 

 もうガゼフの目に迷いはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガはトブの大森林で重大な事実に気がついた。

 種族特性により精神が安定していくが、それでもこの感情は止められない。リアルで出来なかった事もこの世界なら出来る。食事を楽しむ事など一部は無理だが、それでもこの身で楽しめるものがあった。

 一体なぜ今まで思いつかなかったのだろう。

 

 やるしかない。

 モモンガは勢いのままに突き進む。

 

 

「今の俺なら何だって出来る!! 超位魔法!!〈天地改変(ザ・クリエイション)〉!!」

 

 

 ドーム型の巨大な立体魔法陣が生み出され、モモンガは1日4回しか使えない切り札を切った。

 

 森の家の近くにある開けた場所で発動したが、何か変化が起こった様には見えない。いや、心なしか周囲が温かくなったようには思う。

 

 

「よし、特殊技術(スキル)・下位アンデッド創造」

 

 

 モモンガの特殊技術(スキル)により下位アンデッドを生み出し、地面を掘るように作業させる。

 アンデッドだけで難しい部分は魔法でゴリ押して作業を進めていく。

 

 

「――完成だ」

 

 

 

 モモンガは満願の思いがこもった声で呟く。

 

 独特の香りがする湯気が立ち上り、岩に囲まれ、なみなみと溢れそうに湧き上がるお湯。

 

 そう、モモンガは温泉を作ったのだ。

 超位魔法を使って土地を作り変え、アンデッドの作業員と魔法の力で作り上げた。

 現物など見たことはなく、仲間達とナザリックで作ったものをうろ覚えで再現したものだった。

 

 お風呂に入りたい。

 

 清浄な水が貴重なリアルでは、お湯を溜めて浸かるなど夢のまた夢であった。

 そして昔の日本では野外で風呂を楽しむという、温泉なる文化があったというではないか。生粋の日本人、鈴木悟ならば入りたいに決まっているではないか。

 それをする為だけに世界を歪めたなんて、どこかの竜が聞いたらキレそうだが、バレたらその時だ。

 

 

 

 

 

「あぁ、最高だ。まるで疲れが溶けていくようだ」

 

 

 湯に浸かり、完全におっさんと化した骨がいる。

 アンデッドに疲労など無いが、大自然の中で自分で作った温泉に浸かるモモンガは最高の気分だった。時々発動する種族特性が邪魔くさいが、それすらもどうでも良くなる気持ち良さだった。

 

 

「あーっ!! モモンガ様いた!!」

 

「モモンガ様…… 何してるんですか?」

 

「見ての通りだ」

 

 

 エンリはモモンガの家の近くに、温泉が出来上がっていることには大して驚いてはいない。いや、驚いてはいるがこの骨なら何をしてもおかしくは無いと、達観しているという方が正しいが……

 

 

「凄い!! お風呂を作ったんですか!! ネムも一緒に入りたいです!! お姉ちゃんも入ろうよ!!」

 

「……私は構わないがいいのか? 一応言っておくが骨とはいえ男だぞ?」

 

 

 エンリは悩む。妹のネムは気にしていないだろうが、私は流石に屋外でお風呂というのは気にしてしまう。しかし、村ではお湯を沸かす事すら大変なので普段は体を拭くだけで、お風呂自体滅多に入ることはできない。

 それにこの骨の気持ち良さそうな姿を見てしまうと、心が揺れる……

 

 

「まぁ、脱衣所は作ったし、タオルも置いてあるから体に巻いたりはできる。召喚したモンスターを周りに配置すれば覗かれたりする心配は無いと思うが――」

 

 

 エンリ・エモットは大きなお風呂という誘惑に負けた。

 

 

「あぁ、気持ちいいです〜。疲れが全部吹き飛んじゃいますね」

 

「気持ちいいね〜、お姉ちゃん」

 

 

 一度入ってしまえば、先ほど悩んでいたことなど吹き飛んだようだ。

 緩んだ表情の二人を見て、モモンガは家族がいたらこんな感じなのかもしれないと思う。

 もちろんリアルで生活していた頃、家族と一緒に風呂に入った思い出はない。ただの想像だ。

 

 ふと思うのはネムやエンリ達といると、アンデッドの種族特性があまり働いていない気がするという事。

 

 

(もしかしたらあの装備には隠し効果でもあったのかな? まぁ、なんでもいいか……)

 

 

 あまり深くは考えられず、思考もお湯に溶けていく。

 

 

「――家族って、いいよな……」

 

 

 モモンガからこぼれた呟きが聞こえたのか、ネムとエンリが一瞬ポカンとした顔をするが、二人ともこちらに笑顔を向けてくれる。

 

 周りには誰もいない静かで暖かな世界、三人は思う存分に温泉を楽しみ癒されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――モンスターがこんな所に大量にいるだと!? どうなってるかは分からんが、そんな程度で諦めはしないし俺は負けない!!」

 

 

 途中でモモンガが気づいて止めるまで、通りすがりの正義の味方の無慈悲なレベリングは続いた。

 

 


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