オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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モモンガによろしく

 モモンガとブレインが踏み込んでいった場所は、色んな意味でおぞましい集会所だった。

 全裸の男と女が狂乱の如く祭壇に向かって祈りを捧げている。引き締まった肉体ならばまだマシだっただろうが、ここに居るのは年老いた者ばかり。

 まともな者はきっとこの空気に耐えられないだろう……

 モモンガは正直に言って一秒でも早く逃げ出したい気分だった。

 

 幸い近くに寝かされている双子の女の子は無事のようだ。他に何かが殺された様子も無いことから、生け贄は儀式の最後に殺される予定だったのかもしれない。

 

 こんな集まりに参加している者達と喋るのは嫌だったため、モモンガは話しかけられる前に問答無用で手当たり次第に気絶させた。

 

 

 

 

「おやおや、こんな所に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)と人間の剣士がやって来るとは……」

 

 

 部屋にいた人達をあらかた気絶させ終わった頃、奥から足音が響いてきた。

 そして、紫のローブを纏った人物がアンデッドを引き連れ現れた。

 見た目で判断するとユグドラシルでは痛い目を見るが、この世界の者達は職業通りの格好をしていることが多いため、恐らく魔法詠唱者(マジックキャスター)それも死霊使い(ネクロマンサー)だろう。

 

 

「お前が黒幕だな。今の私は非常に機嫌が悪い。取り敢えずぶん殴らせてもらおう」

 

 

 モモンガはほぼ見た目で犯人を断定する。自分の姿は忘れているようだ。

 

 

「わざわざ俺に獲物を残してくれるのか?気を遣わなくたっていい、魔法を使っても構わんぞ」

 

 

 モモンガとブレインが軽口を叩くが相手は気にもしていないようだ。余程自分の強さに自信があるのか、余裕の態度を崩さない。

 

 

「ぶん殴るとは大きく出たなアンデッド。私はあのカジットをも超える十二高弟の一人…… 貴様らは私のアンデッドの素体として、触媒として生まれ変わらせてやろう!!」

 

 

 紫ローブの死霊使い(ネクロマンサー)は自らが召喚した骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)を筆頭に、数々のアンデッドを目の前の二人に突撃させる。

 いかに死者の大魔法使い(エルダーリッチ)といえど私の方が強い魔法も使えるし、魔法で援護すればこの数のアンデッドにはなおさら勝てまい。

 人間の剣士も同様だ。

 

 ――初めはそう思っていた……

 

 

(あれは…… 一体なんだ!?)

 

 

 剣士の方はまだ分かる。目にも留まらぬ速さでアンデッドを斬り裂き、私の魔法を必要最低限の動きで躱している。驚くべき強さだが理解は出来る。

 

 問題はこの死者の大魔法使い(エルダーリッチ)。いや、本当に死者の大魔法使い(エルダーリッチ)なのか? 魔法を使わずにアンデッドを言葉通り本当に殴り飛ばしている。さらにはもう一つ驚くべきことが起こっていた。

 

 

 (私の放った魔法がすべて無効化されているだと!?)

 

 自分が放った魔法が消えていく様は、まるで骨の竜(スケリトル・ドラゴン)を相手にしているかのようだと焦りを募らせる。

 どうすることもできないまま無情にも時間は過ぎていき、瞬く間に自らの取り巻きが倒されていく……

 

 

「さて、後はお前だけだな。安心するがいい、魔法詠唱者(マジックキャスター)の俺は筋力が弱いからな。運が悪くとも死にはしないさ」

 

 

 目の前のアンデッドが拳を大きく振りかぶる。

 ああ、まるで拳がゆっくりと迫ってくるようだ。

 これが絶対的な死を前にした感覚なのか……

 このアンデッドの謎が一切解けぬまま、私は意識を失った。

 

 

「筋力弱いとか嘘だろそれ。まぁ死んではいないようだが…… とりあえず早いとこあの子の妹を救出して帰ろう。それに帝国の警備兵にも話を伝えないとな。ここにいる連中を取っ捕まえるのは俺らじゃちょいと厳しい」

 

「そうするか。早く帰らんとネム達を待たせてしまうしな。ラナーにも色々して貰う必要が出てくるかもしれんし……」

 

 

 ――そういえばこいつは堂々と自分が優れているみたいな事言ってたが…… 引き合いに出されたあのカジットって誰のことだ?

 モモンガの記憶には、カジットと聞いても特に思い当たるものがなかった……

 

 

 

 その後近くにいた兵士達に事情を話し、モモンガとブレインはさっさと戻ってきた。

 そして無事にアルシェと妹たちは感動の再会を果たした。

 泣きながらお礼を言われ、ブレインは少し照れているのか頬を掻いている。

 

 彼女の親との問題は、なんとラナーが既に解決してくれていた。

 あの短時間で一体何をどうやったらそうなるのかは分からないが、これからは姉妹で支えあって生きていくのだそうだ。

 親に関しては知らん、何か聞くのが怖い。

 

 

「たまには自ら人助けをするというのも、悪くはないですね」

 

「っふ、本当に良い顔をするようになったものだ」

 

 

 ラナーは確かに笑っている。人によって見方は変わるだろうが、作り物じゃない笑顔に変わりはない。

 

 

「おかえりなさい!! モモンガ様!!」

 

 

 帰りを待っていてくれたネムが笑顔で出迎えてくれる。

 ああ、俺にはこれが一番だ。

 

 

「ただいま、ネム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という事があったの」

 

 

 あれからアルシェはフォーサイトの仲間たちにこれまでの出来事を話していた。

 

 

「そんな事になってたのか…… 全く水臭いぞ。言ってくれりゃあ俺たちだって力になったのによ」

 

「まぁ、良いではないですか。それだけ緊急事態だったのでしょうし、アルシェも妹さんも無事だったんですから」

 

「そーよ、細かいとこ気にしてたら禿げるわよ。まっ、でも本当に無事でよかったわアルシェ」

 

 

 心から心配してくれる仲間達。私には本当に勿体無いくらい良い仲間だと思う。

 

 

「いつかその人達…… いや、アンデッドも含めて会ったらよろしく言っとかないとな」

 

「神に仕えるものとしては複雑ですが、仲間を助けてくれた恩人にはお礼を言わないといけませんね」

 

 

 ロバーは苦笑しているが、アンデッドにも本当に感謝はしているのだろう。

 

 

「また会ったらお礼を言おうね、クーデ、ウレイ」

 

「じゃあウレイリカと一緒に言うよ」

 

「クーデリカも一緒、お姉さまもね」

 

「「モモンガ様によろしく!!」」

 

 

 ――まったくこの子達は…… 仲間の使う言葉を真似ているのだろうか?

 注意すべきなのだろうが、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

 

「そこは『よろしく』じゃなくて『ありがとう』でしょ。それにブレインさんや他の人にも言わなきゃね」

 

「「はーい!!」」

 

 

 妹達の元気な声を聞いているだけで力が湧いてくるようだ。これからは素晴らしい仲間達とともに、大事な家族を守りながら生きていこう。

 

 アルシェは今日も『フォーサイト』の一員として仲間達とともに頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皇帝ジルクニフが働いている執務室。

 そこに一人の秘書官が物凄い勢いで駆け込んでくる。

 完全に見た事がある光景だ。

 

 

「陛下、ご報告があります!!」

 

「どうした? 例の邪教集団の殲滅がもう終わったのか?」

 

 

 帝国の皇帝ジルクニフは邪教集団が集まって何かをしているという情報を既に得ており、部隊を用意して殲滅に向かわせていた。

 繋がりのあった貴族や商人は洗い出しは終わっているため、あとは主犯格を襲撃して制圧するだけだった。

 しかし、それが終わったにしては早すぎるため、何か問題でも起こったのだろうかと首をかしげる。

 

 

「部隊からの報告によりますと、突入予定時刻の少し前に双子の女の子を抱えた一人の男とアンデッドが出て来たようです。その者達はこちらを見つけると『もう中の殲滅は終わったから後はよろしく』と言って去っていったようです。実際に中を確認すると参加者は皆気絶しており、主犯格と思われる推定ズーラーノーン幹部が倒れておりました」

 

 

(アンデッドが殲滅しただと!? 間違いない、あの女の関係者だ!! 私が手間を掛けて準備を整えた後一歩のところで、嘲笑うかのようなやり口…… 私の手際が遅いとでも言いたいのかあの嫌味な女がぁぁぁ!!)

 

 

「そうか何者かは分からないが、我々の代わりに帝国に潜む悪を滅ぼしたとあっては感謝せねばなるまいな」

 

 

(あの女だけは除くがな!!)

 

 

 部下の手前、また何度も取り乱す訳にはいかない。ジルクニフは必死に怒りを抑えて、顔には全く出さずに余裕を持って返事を返す。

 ジルクニフの嫌いな女ランキングにはいつまでも不動の一位が輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばブレイン。過去にエンリにワンパンでやられたらしいが、今ならもう勝てるんじゃ無いのか?」

 

 

 いくらレベリングしたとはいえ、エンリはせいぜい50レベル前後の身体能力があるだけの村娘だ。別に戦闘の心得があるわけじゃない。

 初めてあった時、敵の騎士を思いっきりぶん殴っていた気がするがそれは置いておこう。

 

 50レベル程だと周辺国家最強と名高いガゼフを余裕で超えているレベルだから、この世界ではほとんど敵無しに近いのかもしれないが……

 

 

「そうだな…… 身体能力的にも技術的にも戦ったら確実に勝てるだろうな。でも、もう良いんだ。今思うとあのお嬢ちゃんは武芸者でもなんでも無いし、あの時は勝負した感覚でも無かっただろうしな」

 

 

 自身が負けた過去を認め、それを笑い話のように流して村娘に負けたままでいいと言うブレイン。

 雪辱を果たしたいといった感情は本当に無いようだ。

 

 正義の味方は力だけでなく心も成長させていく。

 村娘にいきなり勝負を挑んだ頃とは違い、人間的にも少しずつ成長していく。

 

 

「そうだ、せっかくだし俺の相手をしてくれよ。モモンガみたいな強敵との戦いはいい特訓になるからな」

 

「なんだ大人になったと思ったら、バトルジャンキーな所は変わってないんじゃないか?」

 

「それはそれ、これはこれだ。魔法は無しで頼むぞ。流石に勝負にならんからな」

 

「仕方ないな、俺も近接戦闘は練習が必要だし付き合ってやるか……」

 

 

 誰かに勝つためではなく大切な何かを守るため、ブレインは今日も刀を振るい力を求める。

 

 

 


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