オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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幕間 年寄りの心配+ブレイン強化計画

 騎士の襲撃という困難から立ち上がり、ほぼ復興が進んだ辺境の村。

 カルネ村の村長にはある悩みというか心配している事があった。

 

 村で一番働き者であるエンリ・エモットのことだ。

 気立てが良く、十分に可愛らしさもある素晴らしい女性だと思う。

 

 なのだが…… 働きすぎでは無いだろうか?

 働く事が悪いことではないが、家の畑を一人で管理して力仕事も村の男の何倍も出来る。

 

 男の立つ瀬が…… いやこれは失礼だろう。

 エンリに釣り合う男性がいない。

 村の村長としてエンリの事は生まれた時から知っている。村で育った子はみんな家族のようなものだ。そんな身としては結婚相手とかについても心配してしまうのだった。

 

 そういえば妹のネムちゃんについても少し気になる。指輪やアクセサリーを付けているのを見たことがあるが、あれは何なのだろう?

 あれくらいの子供でも、やはり女の子はそういった物に興味を持つのだろうか。

 

 

「将来はどんな大人になるのだろうか……」

 

 

 少し変わった姉妹を思いながら、村長は今日も村のために働いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの薬師、リイジー・バレアレは孫であるンフィーレアについて悩んでいた。

 

 新たなポーションについて研究したいなどと適当な言い訳をして、想い人に会いに行ったかと思ったら素晴らしい剣士に会ったんだと空振りに終わっている。

 何度もカルネ村に行っては、本当に珍しい薬草を見つけて研究に没頭しだしたりもする。挙句に僕は何をしているんだと時々我に返って凹んでいる。

 

 身内贔屓だが薬師としては大成すると思っている。才能も探究心もあるし、それに見合う努力もしている。

 だが男としては心配だ……

 

 

「まぁ、あのお嬢ちゃんも中々凄いから、そんなすぐにはどうこうならんじゃろ」

 

 

 こういったことは本人次第であり、なるようにしかならない。

 孫のしたいようにすれば良い。リイジー・バレアレは孫を温かく見守るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネムとモモンガがトブの大森林でお互いに好きな物を語ったり、モモンガがネムの質問に答えたりしていた時のこと。

 おそらく修行をしに来たであろうブレインがいつものように訪れた。

 

 モモンガはふと先ほど話していたことを思い出し、実行に移そうと考えた。

 

 モモンガはいつに無く真剣な表情でブレインに告げる。

 

 

「ブレイン、更なる高みを目指すために、先にその力を体験してみるというのはどうだ? 私が魔法で強化すれば、一時的にその感覚が味わえるだろう」

 

「なるほど、先に目指している所のイメージを明確にするわけか。良いかもしれないな。よしっ、頼むぜモモンガ、俺に魔法をかけてくれ」

 

 

 頼むといったな? ああ、強化魔法をかけてやるとも……

 

 その後で体の調子を確かめるためにも、一度外に出てから始める。

 

 

「よし、それではいくぞ。〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉〈兎の足(ラビッツ・フット)〉〈兎の尻尾(バニー・テール)〉」

 

 

 モモンガは素早く三つの魔法をブレインにかけた。

 

 

「おおぉ、聴力が上がったような――って、なんじゃこりゃあ!?」

 

「わー、ブレインさん可愛い!! ミミが生えて、モコモコの尻尾と足もモフモフですよ!!」

 

 

 これは凄い。引き締まった肉体をした鋭い顔つきの男がウサ耳を生やし、おまけに丸い尻尾が生えている。足元まで動物系のスリッパを履いたようにモフモフとしている。

 

 

「はっはっは、ネムよ。これが先程言っていた兎という動物を真似する、兎さん魔法だ!!」

 

「モモンガ様!! ネムも! ネムにもかけてください!!」

 

「ああ、良いとも。ネムの方が確実に似合うしな。〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉〈兎の足(ラビッツ・フット)〉〈兎の尻尾(バニー・テール)〉」

 

 

 兎さん魔法は女性限定でだが、三つ同時にかけると一部では無く全体の姿が変わる。

 ネムは兎の着ぐるみを着ているような姿になったようだ。

 

 

「凄い、凄い!! ネムがモフモフになった!!」

 

 

(危ねぇぇ!! 女性は姿が変化するの忘れてた!! これでもしユグドラシルと同様に、バニーガールなんかになってたら社会的に死んでたな俺。いやエンリに物理的にもやられるな。流石R指定に厳しいユグドラシルだ。子供には違う対応をしてくれてありがとう!!)

 

 

「この骨ぇぇ!! これ身体能力全然上がってないぞ!!」

 

「何を言うか、聴力は上がってるし、敵からのヘイトも下がるぞ。おまけに幸運になる」

 

「これのどこが幸運だ!! 叩き斬ってやるぞモモンガぁぁ!!」

 

「ふっ〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉。当たらん、当たらんぞぉぉお!! ぶふっ、あっはっははは!! ダメだ笑って集中できん。あっ当たる」

 

 

 鬼気迫るウサ耳男を前に笑わない奴などいない。

 笑って動けなくなったモモンガにブレインの振り下ろした刀が直撃した。

 

 

「あれ? 今の感覚は僅かだが攻撃が通ったのか?」

 

 

 もしかして上位物理無効化を僅かに突破したのか? ダメージと言えるような量では無いが、そんな事を考えるモモンガの前でブレインは震えている。

 

 

「やった…… やったぞ。俺は、骨を、斬った…… 僅かだが、モモンガを、斬ったんだ!!」

 

 

 一つ壁を超えた喜びでブレインが狂気乱舞していると、ちょうどそこにエンリがやって来た。

 

 

「何してるんですか? ってネム!? ブレインさん!?」

 

 

 ネムとブレインの格好に驚いているエンリに、ブレインが近づき誇らしげに語る。

 

 

「聞いてくれ!! 俺はついに骨を斬ったんだ!! ダメージとは言えないかもしれないが、モモンガを斬れたんだ!!」

 

「……良かった、ですね。おめでとうございます……」

 

 

 エンリは笑顔が引きつりその姿にドン引きしているが、喜びに震えるブレインは気がついていない。

 

 

「お姉ちゃんもネムとお揃いになろうよ!!」

 

「どうする? 私は一応どちらでもいいが……」

 

 

 この格好はモモンガの魔法で変身したようだ、というかこんな事するのは他にいない。

 歯切れの悪さに若干の怪しさが見えるが、妹のお願いを聞くのも良いだろう。

 兎の着ぐるみがちょっと可愛いと思ったのもある。

 

 

「分かった。エンリがそう言うのなら…… 〈兎の耳(ラビッツ・イヤー)〉〈兎の足(ラビッツ・フット)〉〈兎の尻尾(バニー・テール)〉――」

 

 

 

 

 

 ――モモンガとブレインは宙を舞った。

 

 

 モモンガは敢えて上位物理無効化を解除したし、ブレインもわざと避けなかったのだろう。

 エンリに殴られ、二人で仲良くきりもみ回転をしながら宙を舞ってる中、安らかな顔のブレインとモモンガは以心伝心で繋がる。

 

 

 『『殴られる価値はある良いモノを見た』』

 

 

 

エンリがどんな姿になったかは、ご想像にお任せする。

 

 

 


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