オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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植物鑑賞

 リ・エスティーゼ王国の王城、第三王女のラナーの私室で三人プラス骨が集まっていた。

 

 

「すまんな。今回はネムもエンリも不参加だ」

 

「蒼の薔薇も参加出来ないから私一人よ……」

 

「今回は四人で行くのですね。もう少し賑やかだと良かったのですけど…… まぁ少数の方がいざという時動きやすいですし、良いでしょう」

 

 

 結局、冒険に行くために集まったのはラナー、クライム、モモンガ、ラキュースの四人だ。

 

 クライムはラナーから賜った純白の鎧では無く、軽装の冒険者に近い格好をしている。

 変装用なのかは分からないがラナーは髪を一つに纏め帽子を被り、ドレスでは無く動きやすい服装をしていた。

 野山にピクニックに行くと言われても違和感の無い程度の格好の二人だった。

 

 

「とりあえず大雑把な場所を教えてくれ。〈転移門(ゲート)〉を開くから、そこからは徒歩で探すとしよう」

 

 

 ラナーが推測した位置を確認し、そこから歩いて捜索というプランだった。

 別に必死になって化け物を探すのでは無く、探す過程を一緒に楽しみたい雰囲気だったので探知系の魔法などは特に使わなかった。

 

 早速〈転移門(ゲート)〉を使ってエイヴァーシャー大森林の最北端辺りに移動してきたモモンガ達。

 一々鎧姿に戻るのが面倒なモモンガは〈転移門(ゲート)〉を使ってからはローブ姿のままである。

 

 

「エイヴァーシャー大森林に到着です! それでは痕跡を探しながら適当に歩きましょう!」

 

「何か凄い魔法を目にしたのに、それがどうでもよくなってきた自分がいるのが恐いわ……」

 

 

 探し始めて数十分後、早くも怪しげな場所を見つけた。

 随分と時間が経っているようだが、何者かが野営をしていたのだろう。焚き火をしていたかのような地面の焦げた跡が僅かに残っている。

 近くには100メートルを超えそうな馬鹿でかい樹木。

 あまりの迫力から風も吹いて無いのに、枝が少し揺れているんじゃ無いかと錯覚するほどだ。

 

 

「凄く大きいですね。周りと明らかに違う種類の樹木です」

 

「はい、自分もここまで大きな木は見た事がありません」

 

「凄い木だな。普通のトレントを10倍以上のサイズにしたみたいな迫力だ。見ろ、あの部分なんかまるで口みたいじゃないか?」

 

 

 思い思いの感想を口にしていく三人。

 ラキュースだけはワナワナと肩を震わせている。

 

 

「なんでそんな冷静なのよ!? どう見ても魔物じゃない!!」

 

「いやいや、別にただ生えてるだけなら樹木もトレントも同じじゃないか」

 

「そうですよラキュース。食虫植物を鑑賞するのが趣味の人だっているのですから。冒険者なのでサーチアンドデストロイ的な思考も、命を守る上では重要だと思いますけど」

 

 

 あまりにも淡々と返されるものだから、弄られていると気づいたラキュースは思わず浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)をモモンガに向かって飛ばしてしまう。

 

 

「おっと、剣を飛ばす時はもう少し角度をつけた方が良いぞ。狙う位置がバレバレだ」

 

 

 あっさりと躱すモモンガだが、飛ばされた剣は勢いそのままに後ろの樹木に飛んでいき――

 

 ――刺さった。

 

 

「「「あっ」」」

 

 

 僅かに揺れているだけだった枝があからさまに大きく震えだし、やがて樹木全体も揺れだした。

 

「クライム、私を背負って走ってください。あっ、それとモモンガ様。たぶんアレは法国が操るかなんかしてると思うので倒しちゃって良いですよ」

 

「私に散々言っておいて結局それなの!? いや、私のせいかもしれないけど…… って、そもそもあんなデカイの倒せるわけ無いでしょ!!」

 

「ご安心くださいラキュース様。モモンガ様は何というかぶっ飛んだ御方ですので、アレくらいならきっと一撃です。さぁラナー様、しっかりと掴まってください」

 

 

 ダメだ、いつのまにかクライムまでもが肝が据わり過ぎている。尊敬はしているのだろうが、モモンガに対しての気安い感じは何なのだろう…… これが信頼なのだろうか。

 

 

「そこまで言われると頑張らないといけないな。〈上位全能力強化(グレーターフルポテンシャル)〉〈光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)〉ラキュース、きっとヘイトはお前に向いてるから十二秒程死ぬ気で逃げろ。こっちでは一度も使ってないから通じるか分からんが、試しておかなければならん事がある」

 

 

 一応ラキュースに強化魔法をかけてくれる優しさはあったようだ。

 しかし、モモンガは軽く言うが相手がいつ動き出すかも分からない状態で、お前狙われてるぞと言われる身にもなって欲しい。

 

 

「モモンガ様『後はよろしく』ですわ」

 

「ふふっ、ああ任せろ。安全なところまで離れていてくれ。後でラキュースと迎えに行く」

 

 化け物が遂に完全に動きだし、ラキュースに狙いを定めて触手のようなモノを振り下ろす。

 

特殊技術(スキル)・〈あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)〉〈真なる死(トゥルー・デス)〉」

 

 

 モモンガの背に時計盤が浮かび上がり、一つずつ針が進んでいく。

 

 

「無理!! 十二秒とか長すぎ!!」

 

 

 そうは言いつつもラキュースは見事に回避していく。魔法の効果もあるのだろうが、火事場の馬鹿力でも発揮しているのかもしれない。いつもよりかなり機敏に動いているように思う。

 

 

「――3、2、1……」

 

「あ、駄目当たるわ」

 

 

 ラキュースが諦めかけた時、急に相手の触手が止まった。

 いや、触手だけでなく全体が止まっていた。まるで死んでただの木になってしまったようだ。

 

 

「ぶっつけ本番だったが成功だな。賭けだったんだが、コレのおかげか? そもそも普通に勝てるやつだったとか……」

 

 

 モモンガは手を顎に当ててブツブツ呟いているが、ラキュースは何も聞こえていない。

 

 

「無事で何よりでしたね」

 

「ラナー!? 何でそんなすぐ戻ってこれたの!?」

 

「ちゃんと離れていましたよ? あの触手が届かない位置で、万一何かを飛ばしてくるような事があってもクライムが確実に躱せるくらいの所に」

 

「安全な所ってそう言う意味じゃ…… ああ、胃が痛いしもう疲れたわ……」

 

「今回はこの辺で終了しましょうか。短い時間でしたがとても濃い冒険でしたね!! そうだわ、良かったらあの化け物の天辺に生えてる薬草を使ってみたらどうかしら」

 

 

 後日、あの薬草を使ってみたラキュースは胃痛から解放された。

 とてもよく効く薬草だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 某国というか法国。

 一人の老婆が驚愕した様子で、同僚達にある事を告げる。

 

 

「ケイ・セケ・コゥクで支配していた、暫定破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)が何者かにやられた……」

 

「何だと!? あんな化け物に勝てるものなどいるわけが無い!!」

 

「一瞬の出来事じゃから敵の詳細は分からん…… じゃが、一瞬という事は逆に目星もつくわい」

 

「そうか白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)か……」

 

「そうじゃ。こんな事ができるのは白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)しかおるまい」

 

「やられた!! やはり監視も付けておくべきだったか」

 

「いや、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)が相手では監視も意味が無い。こちらの被害が無く人類の敵が一つ滅んだ。それで良しとしよう」

 

「くそっ、白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)め!」

 

 

 何も知らない白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)、アーグランド評議国永久評議員ツァインドルクス=ヴァイシオンに罪は全て被せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガともそれなりの付き合いになるが、ブレインは誰もが持つ疑問をモモンガにぶつけていた。

 

 

「そういや何で正体隠してなかったんだ? 今は何とかなってるみたいだが、昔は大変だったんじゃないか?」

 

「実は顔を隠せない呪いがあってな。最初に街に行った時とかは大騒ぎだし、冒険者は問答無用で討伐に来るしで大変だったな。仲間になれそうなアンデッドを探そうとしたりもしたんだが、意思疎通が出来そうなのが居なかった……」

 

 

 お前のようなアンデッドはそうそう居ないぞ。

 ブレインはツッコミを飲み込み、そうかと頷いた。

 

 

「ふーん、そんな事情があったのか。種族についてはどうなんだ? 巷じゃ色々言われてるがどれが正解なんだ?」

 

「いや、たぶんどれも間違いだな。私の種族は死の支配者(オーバーロード)なんだが…… この世界に他にいるのかな? いたら大惨事の気がする……」

 

 

 確かに普通に生者を憎むアンデッドで、モモンガと同レベルがいたら世界が滅びそうだ。

 一瞬想像したのか、ブレインが苦笑いしている。

 

 

「難度にするととんでもない数字なんだろうな……」

 

死の支配者(オーバーロード)は今のブレインじゃまだ勝てないだろうな。難度の表現は苦手だが、たぶん240超えるぞ」

 

 

 そんなもん誰も勝てねーよ。

 ブレインの心の中でのツッコミは加速していく。

 

 

「私を難度にすると300は超えるだろうな。もしそんな敵が出て来たら、ブレインが強くなるまでは私が手伝おう」

 

 

 コイツ実はアンデッドの神なんじゃないだろうか?

 そんな事を思ったが、妙に人間臭いところがあるし違うような気もする。

 

 モモンガは当たり前のように言ったが、俺がそこまで強くなれると信じてくれているのだろうか。

 

『強くなるまでは』

 

 なら強くなってやろう。

 コイツもいつまでも同格の相手がいないんじゃ、戦いにしたって張り合いがないだろう。

 やる気に満ちた顔でモモンガに笑いかける。

 

 

「正義の味方ってのは、一体どこまで強くなれば良いんだろうな」

 

「私のある友人は正義の味方を目指していたが、剣で次元を斬るぐらいには強かったぞ?」

 

 

 本当にそこまでの強さがいるのか!?

 

 正義の味方ってなんだろう……

 ブレインは新たな悩みを抱えた。

 

 

 

 


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