トブの大森林。様々なモンスターが住んでおり、奥に進めば昼間でも暗いと感じるほど木々が生い茂っている。
モンスターのいる危険な場所だと知られているが、森に入ってすぐのところはある程度人の手が入っているせいか、そこまで危険な雰囲気ではない。
危険な場所とただの森、その中間ぐらいの位置に一軒の家が建っていた。
こんな所に住むもの好きな人間なんているはずもなく、住んでいるのは
あれから拠点を作ろうと考えたモモンガは、ほとんど人の来ないであろう森の中に家を建てた。
課金ガチャのハズレアイテムで出したこの家は、童話に出てきそうな赤い三角の屋根が付いた家である。元がユグドラシルのアイテムのため、人が暮らすには少々設備の足りないただのワンルームだ。
家を建てたモモンガの元に一人の少女が遊びに来ていた。
少女の名前はネム・エモット、モモンガがトブの大森林に来た初日に助けた子供である。
「ネム、何度も言うようだが、こんなところに来て大丈夫なのか? それに私はアンデッドだぞ?」
「大丈夫です!! 道はちゃんと覚えました!! モンスターもこの辺にはいません。それにモモンガ様は優しいアンデッドだもん!!」
モモンガに助けられた次の日、モモンガにお礼を言いにきたネムと再び森で出会った。
外で話すのもアレだろうと、ちょうど作ろうと思っていた拠点をネムの目の前で建てた。それ以来、ネムは毎日遊びに来ている。
最初に会えなかったらどうするつもりだったのか分からないが、あんなことがあってからも森に来る以上、中々度胸のある子なのだろうと軽く考えていた。
実際あの日家に帰ってから両親と姉に散々怒られているため、そのとおりである。
ネムはモンスターはこの辺にはいないといっているが、正確には近寄ってこなくなったである。
話しかけてきては相手を爆殺していく骸骨に近寄ろうとするモンスターは、今やこの森で皆無である。ましてやそんなやつの家に来るモンスターもいるわけがない。
「モモンガ様!! 今日は何を見せてくれるんですか?」
「そうだなぁ――」
色々言いつつも人との関わりに飢えていたモモンガは、話し相手が出来てとても喜んでいた。自分が見せるものに凄い凄いと、ネムが子供らしい反応を示す事が嬉しいのか、ネムが来るたびに自らのコレクションを色々と見せていた。
ぶっちゃけ最近はあまり森の散策はしていない。手持ちのアイテム整理と言いつつ、ネムに見せるアイテムを見繕う時間が多かった。
「これなんかどうだ? 『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』、私が仲間達と共に作り上げた、最高の武器だよ」
それは黄金の杖だった。七匹の蛇が一つに絡まるようなデザインで、それぞれが見たこともない様な七色の宝玉を咥えている。
「凄い! 凄い! 凄ーい!! モモンガ様のお友達も凄い!!」
「ふふっそうだろう? これを作るのには本当に苦労したからな。私たちのギルドの結晶だよ」
モモンガはそう言いながら嬉しそうに、杖の能力やギルドについて語った。ネムにはよくわからない部分もあったが、それが凄いものだということは分かった。
「ところで、モモンガ様のお友達は何処にいるんですか? さっき言ってたギルドにいるんですか?」
「――仲間は、今は遠い所にいるんだ。みんなそれぞれの夢を叶えて、頑張っているはずだ。それにギルドはもう無いんだ…… もう無くなってしまった」
仲間たちは遠い地で頑張っている。そう語るモモンガは友人たちのことを誇らしげに言うが、とても寂しげだった。
「私がこうやって旅をしていたのも、もう何も残っていないからなんだ。それにギルドにいた仲間も時が経つにつれて減って、最後には私一人だった」
「……モモンガ様はギルドで何をしていたんですか?」
「ふふっ、ただ維持をしていただけだよ。モンスターを倒してお金を稼いで、侵入者を倒して、みんなが帰ってきた時にがっかりしないようにと。最後の時までずっと…… こうして今のんびりしているのも、その反動かな。もう、戦うのには疲れてしまったのかもな。守らなきゃいけないという責任も、効率ばかり考えた狩りも、誰も戻ってこない場所を守るのも…… 本当はあの場所を残したかったんじゃない。ただ誰かと話せれば、その切っ掛けが欲しくて残していただけなのかもな」
いつもの優しくも威厳のある姿は鳴りを潜め、まるで家族のいない子供のような人恋しいだけの男性が見えた気がした。
「じゃあ、この辺は平和なので戦う必要もないです!! それにネムが毎日来るからモモンガ様も話せるし、寂しくないです!! 明日もまた色々見せてください!!」
モモンガの沈む様子を吹き飛ばす様に、明るく応えるネムの頭を撫でる。
モモンガはありがとうと呟きながら、自身の本当に望んでいたことと向き合っていた。