オーバーロード ありのままのモモンガ   作:まがお

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モモンガ無双

 カルネ村を襲撃していた騎士達は、突如として現れた戦士に蹂躙されていた。

 所々に金の意匠が施された漆黒のフルプレートに、漆黒の盾、同じく漆黒のグレートソード。並みの人間なら、鎧の重さと合わさり動く事も出来ないだろう。

 そんな大剣を片手で軽々と振り回し、次々と騎士達を両断していく。

 だが、一番異様なのはその戦士の顔だった。全身を覆う鎧とは真逆で、頭には何の装備も付けていない。

 そして、その顔は肉も皮も付いてない、真っ白な骸骨だった。

 

 スレイン法国の騎士、ロンデス・ディ・グランプはどうしてこんな化け物がここに居るんだと、騎士達に必死に指示を飛ばしながらも怒鳴りたい気分だった。

 この任務はリ・エスティーゼ王国の戦士長、ガゼフ・ストロノーフを暗殺するためのものである。帝国の騎士に扮して辺境の村々を襲い、ガゼフを誘い出す。ただそれだけのはずだった。

 これまでも既に数カ所の村を襲っており、ここカルネ村が最後の予定だったのだが、戦士長ではなくとんでもないものが釣れてしまった。

 あちらの攻撃は全てが一撃必殺、鎧ごと両断されてしまう。引き換えこちらの攻撃は盾に阻まれ、相手に当たらない。稀にこちらの攻撃が届いても、漆黒のフルプレートには傷一つ付けることが出来なかった。

 

 

「さて、残っているのはお前一人のようだな」

 

 

 周りに立っている仲間はもういない。今頃数名の騎士は逃走して本国か、後詰の集団に情報を伝えているだろう。振り下ろされる剣を見ながら、自分の仕事は終わったとロンデスは目を閉じた。

 

 

「村の皆さん、アンデッドの私が言っても信用出来ないでしょうが、騎士達は全て制圧したのでもう安全です。ポーションを渡すので怪我人に使ってください」

 

「モモンガ様は悪い人じゃないよ!! ネム達を助けてくれたもん!!」

 

 

 そもそも人ですらない。怖いことには変わらないが、変なことを言って気が変わっても困る。取り敢えず今は刺激しないでおこうと、村人達は不気味な赤いポーションを受け取る。

 これは使っても大丈夫なのだろうかと悩んだが、ネムが躊躇なくかけていき怪我人の治療を始めた。

 

 

 

 村人達が少し落ち着きを取り戻した頃、村長と思われる人物がモモンガに話しかけてきた。村人達から見てこのアンデッドは謎だらけだ。

 村が帝国の騎士達に襲われたと思ったら、今度は村に住む姉妹を抱えた鎧姿のアンデッドがこちらに向かって疾走してきたのだ。

 抱えていた姉妹を少し離れたところに降ろすと、瞬く間に騎士達を殲滅した。挙句に高価なポーションまで振る舞ってくれた。

 次は私たちの番だと、襲ってくる方がしっくり来ただろう。

 

 

「生者を憎むはずのアンデッドがなぜ、我々を助けてくれたのですか?」

 

「……酷く自分勝手な理由ですよ。別に義憤に駆られた訳じゃありません。私は見ての通りアンデッドなんですが、少々変わり者でして。誰かと話がしたかったんですが、仲間を探そうにも話しかけた存在は全て上手くいかなかったんですよ…… 人間、亜人、モンスター、アンデッド――」

 

 

 過去の失敗を思い出しているのか、目の前のアンデッドは遠い目をしていた気がする。

 

 

「――そんな中、私に笑いかけてくれたんですよ、あの子は。それがとても眩しくて、嬉しかった…… だからですかね。結局のところせっかくの話し相手がいなくなるのが嫌だった、それだけです」

 

 

(ふー、所々誤魔化してるけど、村長の雰囲気的にだいぶ警戒が薄れてきたな。魔法詠唱者(マジックキャスター)の格好は如何にも魔王だし、助けに来たって言っても今以上に信じてもらえなかっただろうな。そうなると思って戦士の格好をしたけど、正解だったみたいだ。よく考えたらこの世界の魔法がどの程度か分からないから、自分の使う魔法は注目を集めすぎてしまうかもしれないし……)

 

 

 ネムとエンリを連れて村を助けに行く際、顔を隠せないモモンガは悩んだ挙句、少しでも印象を良くしようと〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉を使って戦士の格好で助けに行くという選択をした。

 しかし、敵の騎士を鎧ごと真っ二つにするという大立ち回りをしてしまったため、効果があったかは微妙である。

 

 

 村の中央、亡くなった村人を並べているところに、ネムとエンリの姿が見えた。遺体に縋り付いて泣いていると言うことは両親だろうか。

 結局、全ての村人を救うことは出来なかった。いや、本当は今からでも救う手はある。 蘇生アイテムなど腐る程持っているが、この世界の事をよく知らない今使うのは危険だろう。ここに来て情報をちゃんと集めなかった事を後悔した。話すことにこだわらなければ…… 顔を隠せなくても、情報を集めるだけならいくらでもやりようがあったはずだった。

 

 

「村長っ!! 遠くから馬に乗った集団がやって来ます!!」

 

 

 焦ったように叫ぶ村人の声が聞こえる。

 厄介ごとはまだまだ続きそうだと、モモンガは溜息をつくのだった。

 

 

 


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