氷雪洞窟の中は、一言で言えばミラーハウスのようになっていた。
通路の壁がかなり透明度の高い氷でできているのだが、それがある程度光を反射するらしく、うっすらとだが人影を映し出していた。
なまじ目がいい俺はもろにその影響を受けて、氷壁に映る人影の全てが俺の目に入って余計に目が疲れてしまい、定期的に目元をほぐしていた。
「大丈夫?」
「まさか、目の良さがこんなところで仇になるとは思わなかったな。もう少ししたら慣れるとは思うが・・・っつーか、香織は大丈夫なのか?こんなホラーチックなところ」
「えっ?ど、どういうことかな?」
いきなり話題を振られた香織は、内容が少し不穏だったこともあるのか思ったより敏感に反応した。
「いや、こういうところだとさ、いつの間にか人数が増えてたり減ってたりなんて、怪談でもよくある話だろ?」
「や、やめてよ!私がそういう話が苦手なの、知ってるでしょ!?」
そりゃあ、八重樫の話の流れでちょいちょい聞いたから。たしか、お化け屋敷で八重樫が香織のナイトになったんだっけか。
「そういえば、遠藤君が後ろに立っていたことに気づいた途端、杖でぶん殴ったこともあったわね」
「雫ちゃんも、なんでそれを言ったの!?あ、違うからね、ハジメ君!私、そんな乱暴な人間じゃないよ!」
だから、そんな後ずさりしないで!みたいな感じで必死に弁明するが、ユエとシア、さらに坂上と谷口も香織をいじり始める。いじられている香織は、完全にあたふたしていた。
そんな中、八重樫はちらっと俺の方を見て、視線で俺に感謝の念を送ってきた。
俺が唐突に香織をいじったのは、天之河あたりが先ほどから肩に力が入り過ぎていたからだ。最初からこの調子だと、確実に最後までもたない。だから、ここである程度緊張をほぐしておこうと考えたのだが、八重樫はその意図に気づいたようだ。
とはいえ、そこまで感謝されることでもないから、俺は軽く手を振るにとどめた。それを見た八重樫は頬を緩め、ついでに天之河が微妙な表情をしていたのをスルーした。この天之河スルーも、もう手慣れたものだ。考えるより先に体が天之河を視界から外すように動く。まぁ、気配でだいたいはわかってしまうが。
とりあえず、狙い通りいい具合に緊張感がほぐれ、そのまま先に進むと、通路の奥からひらりと雪の欠片が飛んできた。
俺はそれを受け止めようと手をかざした。
だが、手に触れた瞬間、鋭い痛みが走った。
「っ。谷口、さっきと同じ障壁を展開してくれ。すぐにだ」
「わ、わかった!」
語気を強めにして指示を出した俺に、谷口はビクッとなりつつも迅速に“聖絶・散”を展開した。
次の瞬間、風の勢いが増し、徐々に吹雪いてきた。
「気を付けろ。この雪は普通じゃない。触れた瞬間に凍傷を起こすぞ」
「いて!?」
俺が雪を受け止めた部分は、見事に赤く腫れあがって凍傷になっていた。考えなしに手をかざしたが、勘が鈍っていたのか。
ただ、忠告はしたが、坂上は図体のでかさが災いして、顔が結界の外にでてしまい、顔面に紅いまだら模様をこさえた。
幸い、俺も坂上もがっつり被ったわけではないから、すぐに回復魔法で治療できた。
「ドライアイス、みたいなものか?」
「ただ冷たいだけじゃなくて、これ自体が熱を奪っているようにも見えるが・・・にしても、凍傷になるスピードが尋常じゃないな」
おそらく、これもまた解放者が用意した試練の1つということか。
つくづく、ハジメの作ったエアゾーンのありがたみを痛感する。この様子だと、飲み水の確保さえままならないだろう。
そこまで考えると、ふと俺の中に疑問が沸き上がった。
「これ、リヒトとかフリードはどうやって攻略したんだ?」
このレベルの吹雪だと、並みの障壁では意味がない。高いレベルで温度とエネルギー分散を維持しないと、前に進むことさえままならない。
そう思ったのだが、ティアから衝撃の事実が発せられた。
「フリードおじさんはわからないけど、父さんは外の吹雪くらいなら薄着で動き回れる人だから」
「化け物かよ」
ティアの話によると、このような気象であるからガーランドでの服装は厚着がほとんどなのだが、リヒトだけは年中薄着で、日によってはタンクトップとハーフパンツのときもあったとのこと。外の吹雪も。その上に1枚羽織れば1,2時間くらいは余裕で動き回れるとか。それを、変成魔法を習得する以前からしていた、と。本人曰く、鍛錬の一端らしいが。
もはや正気の沙汰じゃないだろ、それ。俺でもやる気にならないぞ。ハジメたちも、感心を通り越してもはやドン引きしていた。自分を鍛えるにしても、もっと他にやり方があるだろう、と。
俺も心頭滅却の境地はある程度心得ているが、だからと言ってあの吹雪の中を薄着で突貫する気にはならない。
だが、そんな人なら、たしかに完全装備すればこの吹雪を突破できるかもしれない。
なにせ、
「普通なら、あぁなるからな」
話ながらも前に進んでいた俺の視線の先には、眠るように目を閉じたまま氷壁の中に埋まっている男がいた。その表情は、そうなったことに気づいていないかのように安らかだった。
見たところ外傷もないが、どう見ても不自然なところがある。
「・・・ツルギさん、壁にもたれかかっているならともかく、壁の中に埋まっているっておかしくないですか?」
「そうなんだよなぁ」
見たところ、周囲に掘った形跡はない。ヒビ1つ見当たらないのに、そのまま壁の中に埋まっているのは変だ。まるで壁がせり出てきたか、あるいは取り込まれたか。
香織も、さっそく出てきたホラー展開に怯え、八重樫にしがみついていた。
「魔力反応は、壁にも死体にもないし、生体反応も・・・もちろんなし。まぁ、念のため壊しておくか・・・ハジメ、頼んだ」
「おう」
今のところ、危険な要素は見当たらないが、それでも不自然なことには変わりない。念のため、ハジメに破壊を頼んでおく。
昇華魔法によって、ハジメのアーティファクトも進化した。
強化されたハジメのドンナーは、分厚い氷をものともせずに貫き、死体の頭部と心臓を破壊した。
俺としても死者に鞭打つような行為は気が引けるが、それでも俺たちの命には代えられないから、沸き上がる感情を抑える。
「・・・特に反応もなし、か。念のため注意しとくが、今のところはそこまで警戒しなくてもいいか」
俺の言葉にホッとした空気が流れ、特に香織が死体をちらちら見て気にしていたが、今のところはまだ大丈夫、だとは思う。
さすがに何もない、なんてことはないと思うが、今は頭の片隅に置いておく程度にして俺たちは先に進んだ。
* * *
あれからさらに先に進んだが、未だに大迷宮からは何もアクションがない。いっそ順調すぎて不気味なレベルだ。
それに、不可解なことがある。
「・・・また死体か。これで50人くらい、ほとんど魔人族だな」
奥に進むごとに、死体の数が増えていく。果たして、この環境だけでここまで死体が増えるものなのか。
それも気になるが、ある意味それよりも気にすべきことがある。
「大丈夫か、ティア?」
「・・・もう少し、このままでいさせて」
道中の魔人族の死体を見るたびに、ティアが悲痛な表情になり、俺の腕を掴む力が強くなっていく。
魔人族と敵対すると決めたティアだが、やはりこうして同族の死体を見るのはいろいろと来るものがあるようだ。だから、俺がそんなティアのメンタルをできるだけ回復できるように気遣う。
そのおかげか、ギリギリのラインだがティアは平常心を保てていた。
「にしても、見た感じ、最近の装備が多いな。おそらく、フリードとリヒトが攻略したことで、国を挙げて挑むことになってるのか?」
「えぇ。魔王からも、攻略することができれば相応の報酬と地位を用意するって言われてるから、それで氷雪洞窟に挑む人が一気に増えたわ」
「まぁ、あれだけの戦力を2人だけに依存するわけにもいかないし、当然と言えば当然か」
たった2人で戦況を覆すということは、逆を言えばその2人がいなくなればかなりの戦力ダウンになるということでもある。それを防ぐためにも、できるだけ神代魔法を使える人物を増やすというのは間違いではないだろう。攻略できるかどうかは別だが。
「でも、国を挙げて挑んだのなら、そのリヒトとフリードっていう人以外にも攻略できた人がいる可能性は高いんじゃないかな?もしそうなら、魔物の軍団が再編されるのも時間の問題かも・・・」
香織が心配そうな表情を見せる。おそらく、王都に残したクラスメイトや姫さんたちのことを想っているんだろう。
まぁ、とはいえだ。
「十中八九、それはないはずだ」
「どうして?」
「大迷宮ってのは、情報があるからと言って攻略できるわけでもない。結局は自分との戦いになるからな。それに、おそらくは解放者が生きていた時代の実力者を基準にしているだろうから、今の時代だとそんな奴はほとんどいない。それこそ、リヒトやフリードくらいしかいないだろう。仮に攻略した奴がいても、王都で俺とハジメがまとめて殲滅したが、奴らはハジメのヒュペリオンが損壊していることを知らないし、王都の結界もハジメが修復した。少なくとも、あの時みたいな惨事は10年くらいは起こらないはずだ」
「それに、内通者についてもリリィや優花たちが目を光らせているから、大丈夫だと思うわ」
「うん・・・そうだね、そうだよね」
俺の推測に八重樫が付け加えて香織は幾分安心したようにほほ笑んだが、それでもまだわずかに陰りが見える。
まぁ、考えていることはわからなくない。
俺たちが日本に帰ると言うことは、姫さんたちを見捨てるということでもある。もちろん、ハジメとしても日本に帰ってそれっきりということはないと思うが、それでも日本とトータスを往復できる頻度は多くないだろう。
俺は魔人族と人間族の戦争にはある程度割り切っているが、他のメンバーだと感情的に切り捨てられない部分があるのも否定できないだろう。
「・・・安心してくれ、香織。力を手に入れたら、俺が神を倒す。そして、リリィたちも・・・いや、人間も魔人も皆、俺が守る。ここに残ることになるけど、全ての神代魔法を手に入れれば自力で帰れるからな。俺は、誰も見捨てない」
「光輝くん・・・」
そこに、天之河から実に勇者らしい言葉がでてきた。
だが、主に俺を見ながら当てつけのように言っている時点で、内心ではどう思っているのか丸わかりだ。
その目には、嫉妬や疑念、焦燥、いら立ち、他諸々の負の感情が入り混じっており、それを必死に抑えるような、不安定な目になっている。
そのせいで、香織は安心するどころか、むしろ新たな不安が湧き上げっているようにも見え、それは八重樫も同じ感じだ。
・・・幼馴染を安心させようとしときながら逆に不安にさせるとか、もうどうしようもねぇな、このバカ勇者。
俺がちらっとハジメを見ると、ハジメも「しょうがねぇなぁ」みたいな感じの表情を見せた。天之河に興味は欠片もないだろうが、香織の表情はいただけないのだろう。
それを確認した俺は、天之河の方を見た。
「天之河、何か俺に言いたいことでもあるのか?」
「っ・・・いや、別に何でもない」
俺が真っ向から返したのが意外だったのか、一瞬ギクッと体をこわばらせ、しかしすぐに眉をキリリと上げ、かと思ったら何かを押し殺すような表情になった。文字通りの百面相だ。
「そうか。それならいいんだが」
そこですぐに天之河からすぐに視線を切り、ついでハジメの方を見た。
ハジメも小さく肩を竦め、主に香織に向けて話し始めた。
「姫さんたちのことだが、まぁ、知らない仲でもないし、頼まれたのなら帰る前に姫さんへ贈り物くらいはしてやるさ。ヒュベリオンとか、大陸間弾道ミサイルとか、高速軌道型戦車とか、慣性と重力を無視した戦闘機とか」
「・・・ハジメ、俺から話を振っておいてなんだが、あまりやりすぎるなよ。余計に話がややこしくなる」
あまり王都を魔改造しすぎると、同じ人間族でも何を言われるかわからない。その場合、姫さんの胃がさらにシクシクすることになるだろう。
「そこまでは知ったことじゃねぇな。攻撃は最高の防御だろ。殺られる前に殺れの精神だよ。あの姫さんは見た目以上にガッツがあるから、ちょうどいいだろ。神の使徒すら狙撃砲で撃ち落とす姫・・・うん、でかいライフル担いだ姫とか、今思いついたけどクールでいいな。創作意欲が湧いて来たぞ」
「・・・頼むから、ほどほどにな」
姫さんが聞けば、また「私、王女なんですけど!」となるのは目に見えている。
まぁ、だとしても、ハジメが他の人を気遣う余裕ができたことはやはりうれしいようで、ユエたちが綻んだ表情でハジメを見ている。もちろん、明確に線引きしているが、その中なら心を砕くのは、やはり好ましいのだろう。
「まぁ、それはともかくだ。八重樫たちも、魔人領から帰ったらどうするか、早いうちに決めておけよ。この世界に残るか、日本に帰るか」
「・・・ええ。わかってるわ」
「うん。決めるのは恵里と話してからだけど・・・」
「俺は光輝に付き合うぜ」
俺の言葉に、三者三様で頷いた。香織も、完全に調子を取り戻したようだし、結果オーライだろう。
そのまま進むと、やたらと大きい十字路に出た。
そこで、シアのウサ耳が反応した。
「ハジメさん、ツルギさん。来ます」
「やっと出てきたか」
「んで、どこからだ?」
「・・・四方向、全部からです」
「あ?」
「なに?後ろからもか?」
前方や左右から来るのはわかるが、俺たちが通ったところから来るのは変な話だ。それらしきものは何も・・・。
・・・いや、1つだけある。まさか・・・
「お前ら、通路から出るなよ。まずは敵を見てから判断する。谷口と香織は後ろについて、機を見て分解砲撃を頼む。直線状ならそれが最強だ」
「うん!任せて!」
「ティオは谷口の補助を、イズモとユエもいつでも魔法を発動できるようにしてくれ」
「任せよ」
「・・・ん」
「わかった」
俺の指示にユエたちは素早く動いた。
そして、来るだろう敵に備える。
「ヴゥゥァァ・・・」
そこに、なにやら声が聞こえてきた。これは、呻き声か?
声が聞こえて緊張が最高潮になったところで、暗闇の奥からぬるりと現れた。
現れたのは、人だった。黒を基調とした軍服を纏い、特徴的な耳が見える、魔人族の軍人だ。
だが、どう見ても様子がおかしいし、あれには見覚えがる。
「・・・なぁ、あれって、氷壁の中にいた死体じゃないか?」
「あぁ。しかも、ぞろぞろでてきたぞ」
俺の言葉を肯定するかのように、奥からわらわらと魔人族があふれ出てくる。
「・・・ん。間違いない。魔人族以外もいる」
ユエの言葉通り、冒険者のいでたちをした人間族や亜人族もいる。魔人軍の迷宮攻略部隊でないのは明らかだ。
「生きていた・・・わけではないな。あいつらからは温度が見えない」
「そうですねぇ。鼓動も聞こえませんし」
一瞬、実は生きているのかとも思ったが、俺の“熱源感知”では温度を感じないし、シアも心臓が動いていないと言っている。
だとすれば、あいつらは死んだまま動いていることになる。
しいて言うなら、
「な、なんというか・・・まるで、ゾンビ、みたいね?」
八重樫の言う通り、映画やゲームにでてくるゾンビそのものだった。体が完全に凍り付いていることから、言うなれば“フロストゾンビ”と言ったところか。
そのおどろおどろしい姿に、ホラーが苦手なことで知られている香織の表情から、サァ~と血の気が引けていく。
そんな香織と、ついでに傍でガクブルしている谷口の様子を見たからか、ゾンビたちはいっせいに2人の方を向き、
「ア゛ァア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
絶叫をまき散らしながら突進してきた。先ほどまでの緩慢な動きが嘘だったかのような、一流スプリンターのような猛ダッシュだ。
ゾンビが襲い掛かってくるという描写は、映画や作り物であれ、大なり小なり人の恐怖をあおらせる。
なので、
「い、いやぁあああああっ!!」
あっさり香織が絶叫した。共に凶暴性が増し、突き出した両手の先から分解砲撃が放たれた。
銀色の閃光は通路全体を埋め尽くし、閃光が消えるころには、進路上にいたゾンビはすべてチリとなった。退路だけ確保されてもな。
まぁ、それよりだ
「遠藤がいなかったのは、ある意味幸いだったな」
「だな。王都に戻ったら、あいつに何があっても香織の後ろには立つなよって忠告するわ」
「・・・そうね。あと、地球に戻ってもお化け屋敷の類には絶対に入らないようにするわ」
八重樫の言う通りだろう。脅かす側だって、命の危険にさらされたくないはずだ。
「ふぇえええっ、雫ちゃぁん!怖かったよぉ!!」
いや、お前の方がよっぽど怖ぇよ。俺に限らず。
まぁ、とはいえだ。後ろの大群をごっそり持って行けたのは大きい。
「まぁ、なんだ。なんにせよ、よくやった香織。これで、後ろを心配する必要が・・・」
ハジメのねぎらいの言葉が途中で止まり、その視線が香織の足下に向いた。
香織もそれに合わせて、視線を下に向けると、ゾンビが氷の中を進んでいた。
思わず笑顔で固まった香織だが、次の瞬間に、足をガッ!と掴まれた。
「・・・あふ」
これに香織は、キャパオーバーしたのか気絶した。ついさっき銀色の恐怖をまき散らしたくせして、自分が恐怖に負けてやがる。
「香織ぃ!眠っちゃダメ!寝たら死ぬわよ!」
八重樫が雪山遭難で定番の台詞をちょっと違う意味で使い、黒鉄でゾンビの腕を切断してから、流れるような動きで香織の頬にビンタをかました。
「ハッ!?私は何を・・・」
香織は一発で目が覚めたが、ゾンビの手が足を掴んだままなのを見て再び意識を落とし、
「・・・ふんっ」
ユエから思い切りのいいビンタがさく裂した。八重樫の時よりも音が響いた。
これに香織も頬を赤くしながら正気を取り戻した。
「とりあえず、八重樫は香織の側にいてやってくれ。2人で後ろを頼む。谷口は周囲の壁と地面にも結界だ。あとは正面!」
俺は手っ取り早く指示を出し、即座にマスケット銃と魔法陣を展開して正面のゾンビに攻撃を仕掛けた。他の面々も、それぞれの攻撃手段でゾンビを消し飛ばす。
だが、少し違和感を覚える。
「なんつーか、やけに脆いな」
適当な攻撃でも当たるくらいに押しかけてくるが、1発の攻撃で破壊されるのは、さすがに脆すぎる気がする。これは、思い出したくないがハルツィナ樹海の時に似ている。
「もしかすると、数の暴力ということなのかもしれないな」
「だろうな。見ろ、再生しているぞ」
イズモの言う通り、片っ端からゾンビを破壊しても、すぐに元通りになっていく。それは、香織の分解砲撃であっても同じで、赤い塵のようなものがもぞもぞ集まって肉塊らしきものが出来上がっていく。
その光景にいよいよ香織のsan値が削れていき、ハイライトが消えた目と片言の呟きのセットとともに分解砲撃を放つようになっていた。
さすがにキリがないと感じたのか、ティアが俺に尋ねかけてくる。
「ねぇ、ツルギ。魔石は見当たらないの?」
「ないなぁ。赤い魔力を纏っているだけだ」
「えぇ~、それって、まさかメルジーネのときと同じってことですか!?」
俺の言葉に、シアが嫌そうな声を挙げる。
シアが言っているのは、メルジーネの最初と最後に会った“悪食”のことを言っているんだろう。
だが、シアの考えは的外れだ。
「それは違うぞ、シア」
「どういうことですか?」
「俺の見た感じ、あれは死体が動いてるっていうよりは、氷が動いているっていう方が近い。つまり、あれを動かしている大本がいるはずだ」
さすがに、あのような規格外の化け物がうじゃうじゃいるとは思っていない。だとすれば、他に思い当たるのはミレディの時のゴーレムくらいだ。あれも、斬ったり砕いた程度ではすぐに元通りになったから、あながち間違いでもないだろう。
「ハジメ、羅針盤で探してくれ」
「すでにやっている・・・遠いな。おそらく、ツルギの言う通りだろうな」
「だったら、そこに向かおう。このままじゃキリがない」
「そうです、ねっ!」
俺の言葉に頷きながら、シアが気合一拍、押し寄せてきたゾンビをまとめて吹き飛ばした。
「先頭は俺とハジメが行く。全員、遅れるなよ!」
俺とハジメはシアが吹き飛ばした包囲の穴に飛び込み、ハジメはミサイル&ロケットランチャー“オルカン”で、俺は空間破壊を付与した銃弾を装填したマスケット銃の乱れ撃ちでさらにゾンビを吹き飛ばすことで、奥の通路へとつながる道ができた。
「行くぞ!」
俺の号令に伴って、一気に前に出た。
たしかにゾンビの物量は侮れず、火魔法と水魔法を満足に使えない状況だが、その程度で攻撃手段を失うわけではない。それぞれの攻撃手段でゾンビを吹き飛ばしていく。
とはいえ、それでもゾンビの群れだ。ホラー映画のような恐怖感はもちろんでてくる。特に、香織と谷口が顕著だった。
「ひぃっ、天井からにゅるんてでてきたぁ!?カオリン、早く分解してぇ!」
「ブンカイブンカイっ!!って、いやぁ!腕だけ投げてきた!?しかも腕だけ動いてるぅ!カサカサ這い寄ってくるぅ!」
「・・・ばかおり、うるさい」
「ユエにはわからないんだよっ!ユエって吸血鬼だもんね!どっちかって言うとホラーサイドだもんね!ゾンビの仲間だもんね!」
「・・・香織、表に出ろ。そんなに言うなら、吸血鬼の恐怖ってやつを教えてあげる」
「あぁ、もう!ユエも香織も今はケンカしてる場合じゃないでしょ!ほら、手を動かして!撃退して!あぁ、鈴!結界が崩れかけているわよ!しっかりして、泣き言言わない!」
「ユエさん!香織さんと遊んでないでカバーしてくださいよ!いつまで私にモグラたたきさせるんですか・・・あぁ、もう!うっとうしい!ぶっ潰れろや、です!!」
・・・女3人寄れば姦しいなんて言うが、ゾンビパニック中に5人も集まればなおさらだな。
一応、それなりの危機のはずなんだが、物量と再生力と見た目以外は特に問題ないから、お化け屋敷にやってきた女子高生集団みたいに見えなくもない。
「若い女の子は元気だなぁ・・・」
「ちょっと、ツルギ。なにおじいちゃんみたいなこと言ってるのよ」
「それを言ったら、ツルギも同い年だろう」
「いやぁ、そうなんだけどさぁ、俺はもうあそこまではしゃげないんだよなぁ」
べつに、遊園地を楽しめないとまでは言わないが、あそこまできゃっきゃできないのは確かだ。俺ももう、精神的に年なのかなぁ・・・。
ちらっと周囲を見れば、ハジメは「ユエは永遠の17歳」って尻に敷かれてるし、存在が薄くなっている天之河と坂上が自分の存在意義に疑問を抱いているし。
・・・最後の大迷宮攻略の始めがこんなに緩くて、大丈夫なのかなぁ。
「思い出したが、ツルギも日本だと冬でも薄着が多かったな」
「体動かしてるときはな。それに薄着って言っても長袖だし、さすがにこっちと日本の冬を同じにしたらだめだろ」
「それもそうだな」
「・・・まぁ、俺の知ってる漢女はビキニでもへっちゃらだったが」
「やめろぉ!俺にその化け物の話をするんじゃない!」
「あぁ!ハジメさんが頭を抱えてのたうち回ってます!」
「・・・ツルギの世界って、大丈夫なの?」
「大丈夫、なはずなんだがなぁ。少なくとも、俺たちのまわりは普通じゃないなぁ」
化け物は案外どこにでもいる。
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ゾンビと言えば、バイオハザードのゾンビってどうしてゲームは鈍間なのが多いのに、映画になると元気いっぱいになるんでしょうね。
まぁ、ゲームの方もそこそこ元気なゾンビはいますけど。
ちなみに、自分は遊園地のお化け屋敷って行ったことがないんですよね。
ショッピングモールのイベントのちっさいやつを1回やったくらいで。
しいて言うなら、子供の時にディズニーシーの塔のやつを途中でリタイアしたこともありますが。