二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

101 / 186
前座を片づける

若干精神的な疲れと老いを自覚しながら、走り続けること数分、ようやく開けた空間にでた。

広さは東京ドームほどあり、吹雪は入り口のところで逆流して入ってこない。

それに、

 

「見つけた。あれか」

 

部屋の奥の氷壁の中に、魔石を見つけた。おそらく、あれこそがあのゾンビを動かしていた大本だ。

その魔石はかなり奥深くに埋まっており、簡単には破壊できないだろう。

だが、俺たちには関係ない。

 

「ハジメ、奥の魔石を狙って撃ちぬけるか?」

「ちょいと遠いが・・・やってやるさ」

 

そう言って、ハジメは宝物庫から対物ライフル“シュラーゲン”を取り出した。昇華魔法によってさらに強化されたシュラーゲンは、いつぞやのミレディのアザンチウム装甲すら貫ける確信があるという逸品だ。であれば、分厚いだけの氷なら問題ない。

 

「ぶち抜いてやる」

 

シュラーゲンを構えたハジメは、獰猛な笑みを浮かべながら引き金を引こうとした。

だが、

 

「ちっ、ハジメ!新手だ!」

「あ?」

 

視線を上にあげれば、そこには翼を広げた大鷲が強襲を仕掛けていた。

それも、ただの大鷲ではなく、全身が純度の高い氷でできていた。それが、天井の氷壁から次々と生み出され、豪雨のように降ってくる。

いち早く気づいた俺と、誰よりも早く対応したハジメで、降り注ぐ大鷲を迎撃した。俺は空間破砕を付与したマスケット銃で、ハジメは昇華された衝撃変換を付与したシュラークで迎え撃つ。今のハジメが撃っている弾丸には昇華された衝撃変換が付与されており、最大3回まで着弾するたびに衝撃をまき散らす。

片手間で大鷲を片づけ、ハジメは再度シュラーゲンを構えて、今度こそ引き金を引いた。

放たれた弾丸は、狙いたがわずに標的の魔石に迫り・・・

 

「ちっ、かわしやがった」

 

突然、魔石が動いてハジメの一撃を躱した。ただ魔石が埋め込まれているだけなら、あぁはならない。

 

「やっぱ、ツルギが言ってた通りだったってことか」

「あぁ、思った通り、氷を自在に操ることができるバチュラムといったところだな。だとしたら、気を付けろよ。周囲の氷すべてがあいつの攻撃手段だ!」

 

俺が警告すると同時に、それを証明するかのように周囲から魔物が生み出された。

現れたのは、体長2mほどの2足歩行の狼の群れだ。大鷲もどんどん生み出され、入り口からはゾンビまでやってきた。当然のように、先ほど俺とハジメで破壊した大鷲も再生されている。

つまりここは、尽きることのない敵との戦闘を強いられる闘技場といったところか。

さらに、魔石のあったところから氷がせり出してきて、1秒ごとに周囲の氷を取り込んでそのサイズを大きくしていく。

 

「クワァアアアアアアアアアアアアアアアン!!」

 

そして、形成途中のまま口を開け、物理的な衝撃を伴った咆哮を放ってきた。

 

「・・・“絶界”」

 

放たれた衝撃は、ユエが咄嗟に展開した空間遮断による結界で難なく防ぐが、それでも着弾とともに激しく揺さぶられ、その威力の高さを物語っている。

そうしている間にも体は形成されていき、最終的には20mほどの体躯に背中から氷柱の剣山を生やした巨大な亀が出てきた。だが、普通のカメと違って足は3対6本あり、フリードが使役していた魔物と酷似していた。おそらく、フリードのあの魔物はこいつをモチーフに作られたんだろう。

 

「なるほど、あの装甲を貫いて魔石を破壊するか、魔物の大群に押しつぶされるか、ってところか」

「あぁ、そういう試練らしいな」

 

俺が冷静に分析している中、ハジメは野獣のような眼光を叩き返し、さらに極大のプレッシャーまで放ち始めた。すでに殺る気スイッチがオンになっているようだ。

まぁ、ここでハジメに1人無双させればさっさと終わるだろうが、今回は趣向を変えてみることにしよう。

 

「お前ら、雑魚は俺たちでやっとくから行って来い」

「え?」

 

俺の出した指示に、天之河は間の抜けた表情と声で返した。

 

「だから、お前らであの亀野郎を仕留めてこいってことだ。せっかくのボス級だ。お前は、自分の実力を証明するためにここに来たんだろ?」

「っ。あ、あぁ、その通りだ!」

「だったら、さっさと片付けてこい。あんまりにも腑抜けているようだったら、俺とハジメでさくっと片付けるからな」

「大丈夫だ、俺だってやれる!絶対に倒して見せる!龍太郎、雫、鈴!行くぞ!」

「おうっ、ぶっ飛ばしてやろうぜ!」

「援護するわ。背中の氷柱に気を付けて。きっと、何かあると思うから」

「防御は任せて!全部、防いでみせるよ!」

 

俺はあえて挑発的に天之河に発破をかけ、上手く口車に乗せた。

案の定、天之河はやる気を燃やし、八重樫たちも気を取り直した。

そこに香織から分解砲撃が放たれ、亀までの直線ルートが形成された。

 

「行って!皆、無茶はしないでね!」

「香織、助かる!」

 

香織によって作られた最短ルートを、天之河たちは駆け抜けていった。

 

「さて、と。んじゃ、俺たちは俺たちでやること済ませるか」

 

仮にあいつらで倒せなくても、死なせはしないし俺とハジメでどうにでもなる。

亀の方は主に俺たちの方に殺意を向けているが、天之河たちにやらせると言った以上、俺が手を出すべきではないだろう。

まずは、目の前の軍勢をどう片付けるかを考える。

 

「そうだな・・・これでやってみるか。“魔剣・炎羅”」

 

俺は詠唱を唱え、両手と空中に大量の直剣を生成した。

“魔剣”。以前までの俺は剣を生成して空中で操作する場合、最大10本が限界で、“複合魔法”も使えなかった。だが、昇華魔法を習得した今なら最大30本まで自在に操ることができ、そのすべてに魔法を付与させることができる。

今回は、すべてに火の最上級魔法である“蒼天”を複合させた。そのため、刀身がヒートブレードのように青白く発行している。もちろん、ユエのようにすべての属性を同時に扱うこともできるが、今回はそこまでする必要がない。土魔法に関しては、相手が氷なんだから意味がない。

 

「ふっ!」

 

呼吸を整え、俺は上空の大鷲に向かって飛び上がった。飛翔する大鷲を足場にし、着地した瞬間に足、首、翼を斬り落とす。落ちる前にすぐさま飛び上がり、また別の大鷲を足場にする。時折、大鷲が急旋回して俺の足をはみ外そうとするが、その時は周囲の魔剣を引き戻し、柄を足場にして飛び上がる。

空中に飛ばしている剣も、爪のように3本並べて敵を切り裂き、あるいは突き刺し、貫通させて敵を溶かす。

 

「雫っ」

 

そこに、坂上の焦ったような声が聞こえた。視線を八重樫らしき気配のする方へと向けると、そこには空中で攻撃後の体勢の八重樫に、大鷲が3体強襲しているところだった。八重樫も無理やり迎撃態勢にはいっているから1体は倒せるだろうが、残り2体は倒しきれないだろう。その場合、重症は免れない。

だから、

 

「“炎柱”」

 

空中に展開している剣の3本を大鷲に向け、炎の収束砲撃を放った。間に何体も大鷲が飛んでいたが、それらもすべてまとめて貫通し、八重樫を襲おうとしていた大鷲を蒸発させた。銃を生成して撃ちぬいてもよかったが、そっちだと少なからず衝撃が発生してしまうから、あえて魔法のごり押しで蒸発させておいた。

八重樫から驚愕と感謝の視線が俺に向けられるが、あえて気づかないふりをして他に視線を向けた。

坂上の方は、相変わらず脳筋の塊のように突撃しているが、谷口がいフォローを入れているし、坂上自身も障壁の機能を使って直撃を免れている。

天之河の方は、聖剣を上段に掲げて魔力を溜めていた。あの構えは、“神威”だ。大火力の一撃で終わらせるつもりなのだろう。

普通ならその溜めの隙を狙われるが、八重樫と坂上が亀の注意をひきつけているし、谷口のフォローもある。時折谷口でも対応できない場面があったが、その時は俺やユエが的確に援護を入れる。

そして、

 

「雫!龍太郎!下がれ!」

 

とうとう天之河のチャージが終わり、八重樫と坂上が亀から離れた。

 

「行くぞ、化け物!・・・“神威”!!」

 

天之河から螺旋状に魔力があふれ、最後の詠唱とともに聖剣の剣先から純白の光が放たれた。

純白の砲撃は、亀の背中に直撃した。

 

「クワァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!」

 

亀も前面を円錐状にして威力を分散させることで必死に抵抗しているが、もともと高い威力を持つ“神威”に、ハジメがさらに聖剣に施した改造によってさらに向上したことから、その抵抗も焼け石に水といったところだ。

とはいえ、あの亀の再生力もかなりのもので、それを最後の砦として耐えていた。

 

「このまま消えてくれぇ!!俺は、俺にはっ!力が必要なんだぁああああ!!!」

 

しぶとく耐える亀に、天之河が必死の形相で雄叫びを上げる。

だが、目を見ずとも、その声音でヘドロのような感情が溜まっているのがわかる。谷口も、天之河の表情を見て怯えたような表情をしているが、天之河はそれに気づく様子もない。

あの雄叫びは、まさしく()()()()()()を否定するかのような、そんな必死さが込められている。それを天之河がどれだけ自覚しているかはわからないが。

だが、その拮抗も終わりが見えた。

 

ピシッ。

 

何かがひび割れる音が聞こえたかと思ったら、あの亀全体に無数の亀裂がはしっていき、

 

ドパァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

すさまじい轟音とともに、天之河の“神威”は亀の身体を貫き、地面と背後の壁ごと砕かれ、ただの残骸となって崩壊した。

力を出し切った天之河は、ぐらりと体を傾けさせ、谷口が慌てて支えた。

だが、今回はあの亀、というか魔石が一枚上手だ。

 

ボバッ!

 

亀の残骸の中から、爆発したかのような勢いで大鷲が飛び上がってきた。その爪には、魔石が握られている。

あの亀は、天之河の“神威”を防げないと悟るや、あの大鷲の足下に魔石を移動させていたのだ。実に、大迷宮の魔物らしいしぶとさと狡猾さと言えるだろう。

まぁ、俺自身、あれだけで仕留めきれるとは思っていない。防御であれだけ時間を稼いだのだから、何かしらの策を弄するだろうとは思っていた。

そして、それは俺だけではない。

 

「刻め、“爪閃”!」

 

大鷲が氷壁に飛び込む直前に八重樫が真横に躍り出て、魔石を取り込んで変形し始めた大鷲を“風爪”を付与した抜刀で切り刻む。

 

「砕け、“衝波”!」

 

続いて、抜刀の勢いのまま回転し、鞘に付与した“衝撃変換”で魔石をたたきつける。その一撃で魔石にひびが入り、

 

「疾ッ!」

 

ダメ押しの回し蹴りによって、完全に破壊した。

魔石を破壊したことで、部屋全体にはびこっていたゾンビや大鷲たちはただの氷塊となって崩れ落ちていった。同時に俺の足場もなくなり、風魔法で体勢を整えつつ着地する・・・

 

「ツルギ!」

 

つもりだったのだが、俺の下に来たティアがお姫様抱っこの要領で俺をキャッチした。

 

「・・・さすがに恥ずいんだが。ていうか、これくらいなら大丈夫だって知ってるだろ?」

「えへへ、一度やってみたかったの」

 

普通、男がするもんだと思うけどなぁ。

 

「それで、ツルギは大丈夫なの?」

「あぁ、基本的に跳びまわってばっかだったからな。特に危ない場面もなかったし」

 

少なくとも、勇者パーティーの様子を見るくらいには。ついでに、どこぞの兵長みたいなスタイリッシュアクションを体験できて、個人的にも満足だ。

・・・まぁ、満足できてない奴もいるけど。

ちらっと勇者パーティーの方を見た。そこでは協力してあの亀を倒せたことを喜んでいるが、天之河だけがどこかやりきれない表情になっている。大方、自分一人で倒せなかったことが悔しいのだろう。だからといって、俺から何かを言うわけでもないが。

 

「お~い、余韻に浸るのはいいが、そろそろ出発するぞぉ!」

 

余韻に浸るのもそこそこに、ハジメがあの魔石を砕いた事で現れたアーチ状の入り口に視線を向ける。

ちなみに、広場には1000体以上の魔物の残骸が転がっており、それを相手していたハジメたちは実に涼し気な表情だ。

八重樫たちも、俺たちの近くに駆け寄ってきた。

 

「お疲れさん。それなりに苦戦したようだが、問題なく大迷宮の魔物を倒せたな」

「あぁ、これくらいやれるなら十分だろう」

 

俺の労いの言葉にハジメが追随すると、天之河たちが珍獣を見るような目をハジメに向けた。

それにハジメが目をすがめるが、何かを言う前に八重樫が話し始めた。

 

「えぇ、どうにかね・・・それと、峯坂君、ありがとう」

「ん?なんのことだ?」

「あのとき、援護してくれてたでしょう?あれのおかげで助かったわ」

「あぁ、あれな。あれくらいなら気にすんな。基本的にお前たちにやらせるつもりだったが、必要なら援護くらいするからな」

「というより、ここだと火の魔法は使えないんじゃないの?」

「限界まで圧縮してのごり押しと、柄にエアゾーンの効果を付与させた状態で発動してみたんだが・・・正直、他の魔法使った方がいいな、これは」

 

効果範囲をできる限り狭め、柄のエアゾーンで外の寒波の影響を受けないようにしてみたのだが、思った以上に効率が悪かった。刀身に維持するだけなら“高速魔力回復”込みで実用範囲内だったが、“炎柱”を発動したときはかなりの魔力が削られてしまった。早い段階でこの方法が使えるか確かめておきたかったが・・・やはり、この迷宮で火魔法を使うのは控えた方がいいようだ。

 

「それより、峯坂。俺たちに倒させてもよかったのか?」

 

そこに、俺と八重樫の会話に不快感を感じたのか、天之河が横から割って入ってきた

 

「それは、大迷宮に攻略を認められなくなるんじゃないかってことか?」

「あぁ」

「その点は大丈夫だろう。迷宮のコンセプト的にな」

「それは、どういう・・・」

「単純に物量と強力な魔物で押しつぶすだけなら、オルクス大迷宮でも経験できる。今まででも試練の内容が被ったことがないことを考えれば、本番はこれからだろう」

「あぁ、俺もツルギと同意見だ。おそらく、ここではふるいにかけただけなんじゃないか?おそらく、大迷宮に挑むだけの最低限の力があるかを試したんだろう。それほど重要視されていないはずだ」

「一応、私たちも3桁以上は倒しましたしね」

「1000体近い魔物を倒したんだから、不合格ってことはないと思うよ」

「・・・ん、問題ない」

 

俺の推測にハジメも同意し、シア、香織、ユエも倒した魔物の数から問題ないと断言する。

これに天之河は、納得顔を見せながらも、瞳の奥に一瞬、どす黒いものを宿した。天之河はそれを自覚する前に押し殺したが、明らかに無理をしていることはわかる人間はわかる。八重樫もそれにうっすら気づいたようで、声をかけようか迷っていた。

だが、その前に出発した。

この大迷宮、試練以前の問題でやっかいになりそうだが、その時はその時に考えよう。もちろん、無いに越したことはないが。




今回は小話は無しで。
投稿が少し遅くなってしまって申し訳ありません。
最近、新学期やらサークルのイベントの準備やらでバタバタしてたので。

今回の台風は直撃コースでしたが、自分のところは事前情報よりは被害は少なかったですね。
まぁ、隣の市になれば悲惨なことになっていますが。
なんやかんや言って、でかい台風にぶち当たっても自分のところの被害が少なくんでるのアは、いいことですね。

アニメ2期制作決定に驚きを禁じ得ない自分です。
1期の時点であれだったのに、どうしてやろうと思ったのか・・・。
とりあえず、帝国編はやらなさそうですね、皇帝はちょろっと出たものの、フェアベルゲンは皆無だったので。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。