二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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その瞳に映るのは

「さてと、指示は出したし、まずは自分の方だな」

 

そう呟きながら、俺は目の前の人型に向き直り、

 

「“魔眼”、“熱源感知”」

 

以前まではできなかった、“天眼”の技能の同時発動を行う。

それによって、今の俺には無数のレーザーの軌跡、人型と他のメンバーの位置がはっきりと見える。ちょうど真横から来たレーザーも、軽く後ろに引くだけで回避する。

 

「本当に、昇華魔法様様だな」

 

解放者たちからすれば、俺たちの攻略の順番は少しずれているんだろうが、そうなってしまったものはしょうがない。利用できるものは利用させてもらおう。

双剣では魔石を貫けないと判断し、物干し竿を生成する。

俺は人型に飛び掛かり、さっさと斬り伏せて終わらせようとするが、

 

「おうっ!?」

 

放った斬撃は明後日の方向に向けられ、無茶な位置だったため体勢を崩してしまう。

そこを狙ったかのように、人型はハルバードを振り下ろし、

 

「ちっ」

 

それを予測していた俺は、柄でハルバードの斬撃を逸らして事なきを得た。

着地していったん飛びずさり、斬撃を放ってしまった方向を確認する。

 

「ま、そうだよな」

 

そこには、当然と言えば当然だが、天之河の魔力が見えた。

この試練の厄介なところは、無意識に放ってしまうことにある。そのため、事前察知がかなりしにくい。俺なら“無意識の意識”の心得はあるが、目の前の人型と周囲の無数のレーザー、天之河や坂上からのフレンドリーファイアを同時に対応しながらというのは、さすがに難しい。

・・・せめて、遠藤相手にも使えるようになればいいんだけどなぁ・・・3回に1回は見逃すもんなぁ。

まぁ、それはともかく、若干めんどくさい状況だが、それでも対策は思いついていた。

周囲のレーザーを躱しながら呼吸を整えた俺は、再び人型に肉薄する。

人型は俺に向かってハルバードを振り下ろすが、難なく回避し、物干し竿を一閃させる。

振り上げた物干し竿は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。人型は物言わぬ氷塊になり、俺の目の前に出口へとつながるトンネルが形成された。

 

「ふぅ、上手くいくもんだな」

 

今俺がやったのは、簡単な話、最初から天之河ごと斬れる位置に移動しただけだ。無意識に攻撃を放ってしまうなら、人型を巻き込むつもりで攻撃すればいいと考えた。これなら干渉されようがされまいが関係ないと思ったが、予想以上に上手くいった。

天之河が聞いたら、また文句を言われそうな気もするが、俺の知ったことではない。

 

「おっと」

 

そこに、今の思考を察せられたのかどうかはわからないが、天之河の“天翔閃”が俺に迫る。もちろん、“魔眼”で核を見抜いてあっさりと斬り落とす。

今頃、天之河は顔を青くしているのだろうか。

 

「まぁ、それも知ったことじゃないんだけどな」

 

とにかく、俺の分はさくっと終わらせた。あとは他のメンバーの様子を見ることにしよう。

幸い、だいたいの動きだけなら見えるだろうし、ハジメのクロスビットもある。まったく様子がわからないことはないだろう。

 

「お、早かったな」

 

雪煙のトンネルを抜けると、ハジメが腕を組みながら待っていた。

 

「これくらいはな。ユエたちの方は・・・見事に分断されているな」

 

“魔眼”と“熱源感知”を併用して観察するが、見事にバラバラにされていた。この状態だと、谷口の負担がかなりのものになるだろうが、他が倒しても復活するだけだし、見守るしかない。

ていうか、本当にぼんやりとしか見えないから、もっときれいに見たいんだが・・・

 

「う~ん、ブリーシンガメンを使えばいけるか?」

 

ものは試しにと、ブリーシンガメンを八咫烏にして飛ばしてみる。

すると、不思議とレーザーは当たらなかった。

 

「ふーん?攻略したら攻撃はされないみたいになっているのか?」

 

正解なんて知りようもないが、楽に見れるならそれに越したことはない。

さっそく、早く終わりそうなところに飛ばす。

まずは、シアの方から見ようか・・・

 

「うりゃああ!ですぅ!」

 

見えた瞬間には、すでに魔石を体ごと破壊したところだった。

まぁ、シアは誰かに攻撃を向けることもなかったし、攻撃を向けられてもどうにでもなるメンバーだ。心配するだけ無駄だったな。

なら、次はティアの方を・・・

 

「あ、ツルギ!」

 

・・・見ようと思ったら、すでにこっちに向かってきてた。

あれ?見る意味、なくね?

 

「ツルギ?何してるの?」

「他のみんなの様子を見ようと思ったんだが、シアとティアは見る前に終わってな・・・」

「ふふっ、これくらい、どうってことないわよ」

「だろうなぁ」

 

まぁ、過ぎてしまったことは仕方ない。

幸い、他はまだのようだし、今からでも遅くはない。

俺は宝物庫からフリズスキャルヴを取り出し、映像を映し出した。

 

「さてと、ひとまずはイズモにユエ、香織、一応ティオも見とくか」

「ティオは一応なのね」

「ドMの変態にはそれくらいでいいだろ」

「一応言っておきますけど、ティオさんをそういう風にしたのは、紛れもなくハジメさんですからね?」

 

いつの間にかハジメとシアも追加して、鑑賞会みたいな感じになった。

ひとまず、さっき言ったメンバーのところに飛ばしてみる。

 

「イズモは・・・さすがだな。レーザーを避けながら重力魔法と空間魔法で対応している。得意な火魔法はほとんど使えないし、闇魔法もそれ自体に攻撃力はないから、少し心配だったんだが・・・」

「すげぇ身のこなしだな。あいつ、実はくノ一だったとか、そんなオチじゃないだろうな?」

「格好はくノ一そのものだけどな」

 

ティオの服もそうだが、竜人族や妖狐族は多分、日本でいう江戸時代辺りの文化が根付いているのかもしれない。この世界での東洋がどういうものかはわからないが。

 

「この調子なら、問題はなさそうね」

「だな。ティオの方は・・・」

 

そう言いながら、ティオの方に近づける。

そこには、

 

「うそ、だろ・・・?」

「あり、えない・・・」

 

俺とハジメは、揃って絶句してしまった。

なぜなら、

 

「あのティオが、避けながら攻撃している、だと?」

「いえ、それが普通ですからね?ティオさんがいろいろと普通じゃないだけで」

 

シアから呆れながらツッコまれるが、それにしたっておかしい。

いつものティオなら、レーザーを受けつつ恍惚の表情を浮かべながら戦うものだと思っていたのに。

まさか、これが話しに聞いたスーパーティオさんの一端なのか・・・

 

「あ、なんか顔を赤くしてはぁはぁし始めましたね」

「ハジメとツルギのSっ気を感じたのかしら」

「やっぱ、変態は変態か」

「期待した俺たちがバカだったな」

 

やはり変態は変態だった。

いったい、いつになったらスーパーティオさんが見れるのか。

まぁ、期待はしないでおこう。

あとは、ユエと香織か。

 

「あ、ユエさんの方は今終わりましたね」

「まぁ、順当と言えば順当か」

 

ユエは魔法に限れば俺たちの中でも特に攻撃手段が多い。火と水が使えなくても、“雷龍”でパクリといったようだ。

 

「香織の方は、苦戦しているな」

「さっきから攻撃がちょいちょいユエの方に向かっているからな。事前に察知もできないし、俺たちの中だと一番苦労するか」

 

実際、ユエと香織は傍から見ればかなり仲がいいが、香織がユエに対していろいろと思うところがあるのは最初からわかっていたことだ。しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。

となると、ユエはもう終わったから香織も少しは遠慮しなくても・・・

 

『ユエ~!45度でおねが~い!』

 

そう思っていたら、まじで1ミリの遠慮もない特大の分解砲撃を放った。

攻撃はユエに誘導されたままで、一直線にユエに向けられているが、ユエは香織の簡単な指示だけで意図を察したようで、すぐに“禍天”で分解砲撃の軌道を捻じ曲げて人型を消滅させた。

まさに、息ぴったりの連係プレイだったのだが・・・

 

「ユエの顔。これはとことん香織がいじめられるやつだな」

「まぁ、クリアできたならいいんじゃないか?」

「香織さんのこの後が少し心配ですけどね・・・」

「そっちも、仲がいいから大丈夫なんじゃないかしら?」

 

他人事みたいに話す俺たちだが、実際、他人事だし、悪いことでもないから大丈夫だろう。

そこで、ティオとイズモもちょうど人型を倒し終え、俺たちのところに向かってきた。

 

「お疲れ様、イズモ」

「あぁ、得意な魔法が使えなくて苦労したが、無事撃破できた」

「頑張ったな」

「んみぃ~!助けて~!」

「それで、ご主人様にツルギ殿よ。それは何を見ておるのじゃ?」

「これか?見ての通り、俺が八咫烏を飛ばして様子を見ていたんだ」

「あれ?誰か反応してよ~!助けて~!」

「・・・誰にも助けさせない。それに、私の手をわずらわせるなんて、いい度胸」

「あっ!ちょっと、ユエ!変なところ触らないで!」

「・・・わき腹を変なところと言うなんて、やっぱり香織はむっつり」

「別に私はむっつりじゃないもん!そういう発想を思いつくユエの方がむっつりでしょ!」

「・・・反省が足りない?本当にいい度胸」

「あっ!?そこは本当にダメだって!もうっ、せいっ!」

「ひゃんっ!?」

「ぷぷぷっ、ひゃん!だって、や~い」

「・・・本当に、いい度胸。そんなに調子に乗るなら、覚悟して!」

「望むところだよ!さっきまでは悪いって思ってたけど、私だってやるときはやるんだから!」

「・・・やれるならやってみろ!」

 

にゃー!にゃー!むいっ、むいっ!フシャー!

 

・・・あえてスルーしていたが、やはり思う。

 

「・・・本当に、仲がいいなぁ」

「やるときはやるって言っても、それは今なのか?」

「さぁな」

 

少なくとも、シアがちょっとジト目になるくらいには違うだろう。

俺としては、やりたいようにやらせればいいと思うが。

 

「さて、後は勇者パーティーだけだな。まずは、八重樫の方を見てみるか」

「どうして?」

「この中で1番早く終わるだろうからだ」

 

実を言えば、本当は少し心配だったからだが。

この迷路の囁きによる消耗度合いは、八重樫が天之河に引けをとらないレベルだ。本人は隠そうとしているようだが、少なくとも俺と香織、谷口、ティアにはばれている。

それに、八重樫の場合、隠すというよりは認めようとしないというのも僅かに存在するので、俺たちから何か言ってもあまり意味がない。

できるだけ、俺の方からもフォローを入れてはいるが、どこまで効果があるか・・・。

そう思っていたが、

 

『これで終わりよ!“衝破”!』

 

八咫烏を向けてみれば、ちょうど八重樫が鞘の先端を魔石に押し当てて砕くところだった。魔石を破壊された人型は、ただの氷塊となって崩れ落ちる。

八重樫の方も、それなりにボロボロだったから無事とは言い切れないが、すぐにわかるレベルの重傷はなかった。

 

「おーい、香織ー。八重樫がボロボロで突破したから見てやってくれ」

「え、本当?!わかったよ!」

「へぶぅ!?」

 

俺の言葉に反応した香織はユエを引きはがして立ち上がった。引きはがされたユエは顔面を強打して変な声をあげていたが、香織は目もくれずに八重樫の前に現れたトンネルを進んで駆け寄っていった。八重樫は、このまま香織に任せておこう。

さて、次は誰を見に行こうか・・・

 

「お?」

「・・・ん?」

「ふむ?」

「あらら?」

「ほう?」

「ふふっ」

 

すると、それぞれから意味ありげな声が聞こえた。なにやら、フリズスキャルヴの映像を見てニヤニヤしている。

俺はちょうど見ていなかったから、何があったのかわからないんだが。

 

「なんだ、何かあったのか?」

「いやぁ、別に?何も?」

 

俺の問い掛けに、ハジメがうざったらしく返してくる。

ティアの方を見ても、にこにこしているだけだ。

何があったんだ?

正直気になるが、八重樫が香織の肩に支えられて来たから、その思考をやめる。

 

「・・・ありがとう、香織。もう大丈夫よ」

「よかった・・・たくさん怪我してたから、オルクスの時のこと思い出して焦っちゃったよ」

「あの時に比べればずっとマシでしょう?少なくとも腕一本持っていかれたりはしてないわ。この程度、軽傷、軽傷♪」

 

無事、香織に治療してもらった八重樫だったが、かなりボロボロだったのにそれでも強がっている。香織の方も、困ったような笑みを浮かべている。

そして、ティアにも思うところはあったのか、

 

「シズク。シズクはもう少し、わがままを言ってみたらどうかしら?」

「ティア?」

「私たちも、シズクのわがままだったら受け入れるわよ?」

 

ティアの言葉に八重樫は困惑するが、香織もその通りだと言わんばかりに頷いている。

そして、困惑する八重樫をティアが抱きしめ、香織が魂魄魔法をかける。八重樫も、泣くのを堪えるように震えながらティアを抱きしめ返す。香織も、その様子をにこにこしながら見ていた。

その様子を、俺は感心半分面白半分で見ていたのだが、それに目ざとく気づいた八重樫が俺の方を少し頬を染めながらも威嚇してきた。

 

「・・・何よ?何か言いたいことでも?」

「いや、ずいぶんと仲良くなったもんだと思ってな。ぶっちゃけ、香織と同じかそれ以上なんじゃないか?」

 

少なくとも、最近八重樫が一緒にいる時間が多いのはティアだと思う。どちらかと言えば、香織がユエの方に行っていると思えなくもないが。

 

「そうね。私にとってシズクは親友だわ」

「ティア・・・」

 

そう言い切るティアに、八重樫がハッとティアの方を見て、様々な感情がこもったようにつぶやく。

 

「そうですねぇ。たしかにその通りです~」

「新たな親友ができるのはいいことじゃな」

「・・・香織が、まるでオカンのよう」

「ユエぇ!」

 

この様子を見て、シアやティオ、ユエも同意する。

いや、ユエはいつものからかいだった。まぁ、たしかにそんな風に見えなくもなかったけど。香織と八重樫の立場が逆転・・・いや、香織が八重樫に世話焼こうとすることもあるし、そうでもないのか?

そんなどうでもいいことを考えながら、再びキャットファイトを始めたユエと香織を見ていると、八重樫が俺に声をかけてきた。

 

「ちょっと、峯坂君。あれ、止めなくていいの?」

「さっきもやってたし、別にいいだろ。それとも、構ってほしいのか?なんなら、あそこに参加してみたらどうだ?」

「そういうわけじゃないわよ!」

 

俺のからかいに八重樫がムキになって噛みついてきて、それが面白くてケラケラ笑っていた。

だが、いったん笑いを収めて、真剣な表情に切り替えた。

 

「八重樫は、もうちょい気を抜いていいと思うぞ」

「え?」

「真面目過ぎるってことだ。ただでさえあの囁き声で精神すり減らしているからな。こういうときは、一緒に騒いでリフレッシュすればいいだろ。ここには、お前が世話を焼かなきゃいけない奴なんていないからな」

 

俺の言葉に、八重樫は大きく目を見開いて黙ってしまう。

そこで俺は、第2波を放つ。

 

「というわけで、イズモ」

「承知した」

 

俺の指示に素早く従い、イズモは八重樫とティアの背後に回り込む。

 

「え、ちょっ、峯坂君?」

「せっかくだ。イズモのモフモフを堪能して疲れを癒すんだ」

「なっ、べ、べつにそんなの・・・」

「なんだ、イズモのモフモフが欲しくないのか?可愛いもの大好きな雫ちゃん?」

「う、うるさいわね!結構よ!ていうか、そのニヤニヤをやめなさい!」

「イズモ、やれ」

「うむ」

「ちょっと!人の話を・・・」

 

途中までは頑張って反論していたが、イズモの尻尾に包まれてからは力が抜け、口元をだらしなく緩めた。

思ったより早かったな、陥落するの。

和やかな雰囲気に内心ほっこりしながら、俺は傍らにゲートを開いた。

次の瞬間、雪煙の中で純白の奔流がほとばしり、同じく純白の砲撃が俺に向かって放たれた。

 

「峯坂君!」

「大丈夫だ」

 

元々こうなることを見越していた俺は、俺に向かって放たれた砲撃をゲートで誰もいない場所に飛ばした。

 

「天之河のやろう、相当焦っているな?」

 

あの純白の奔流は、限界突破を使った証だ。よほど切羽詰まっているようだ。

 

「まぁ、放っておいてもいいか」

「え?こ、光輝はいいのかしら?」

 

俺のあっさりとした声に、八重樫がちょっとおろおろしながら尋ねてきた。

 

「限界突破の派生を使ってないってことは、使わなくても大丈夫なくらいには余裕があるってことだ。それに、この試練は1人1体倒すことが条件だ。ここで手を出した方が面倒だぞ?」

「それは、そうだけど・・・」

「あのなぁ、さっきも言ったが、八重樫は世話を焼き過ぎだ。そんなんだから、お姉様とかオカンって呼ばれるんだよ」

「お姉様はともかく、オカンは峯坂君しか言わないでしょう!まったく、失礼だわ!」

 

そうは言うが、八重樫。口にしないだけで、同じこと考えている奴は結構いると思うぞ。

それはさておき、そろそろ他の様子を見るとするか。

 

「谷口は・・・あそこか」

 

残りで心配なのは、他と比べて攻撃手段が乏しい谷口だ。

アーティファクトによってある程度解消した問題ではあるが、さすがに心配なところもある。

そう思って八咫烏を飛ばしたが、それは杞憂だった。

谷口の魔力が見えた方へ飛ばすと、雪煙の中から2つの輝きが浮かんできた。

その正体は、“聖絶”の輝きだ。

1つは、谷口を守るためのもの。もう1つは、人型を覆っているものだ。

人型を覆っているのは、“聖絶・焔”。“聖絶”に火魔法を付与することで結界内部を超高熱の空間にするものだ。人型も必死に砕こうとしているが、そのたびに重ね掛けして破らせない。

おそらく、手持ちの魔法では攻撃力が足らず、“聖絶・刃”も力が足りなかったのだろう。だから、氷雪洞窟のギミックを無視できる結界内部で、時間をかけて倒す手法を選択したのだ。

 

『うっ・・・はぁ、はぁ、もう少し・・・もう少しで・・・』

 

とはいえ、最高位の結界の同時展開・展開維持は精神的にも魔力的にもガリガリと削っていく。これは、谷口の魔力と集中力が勝つか、人型の耐久力が勝つかの勝負だ。

 

『負けないっ。はぁ、はぁ。何があっても、絶対に鈴は、恵里ともう一度話すんだからぁ!』

 

おそらく、この最中にも囁き声が聞こえているに違いない。

それでも、谷口の心は折れない。折れそうになる心を、雄叫びをあげることで奮い立たせる。

 

「鈴ちゃん・・・」

「よく頑張っておるな」

「あぁ。この調子なら、問題ないだろう」

「そう、ね」

 

谷口の様子を見た八重樫は、少し呆然としていた。

だが、それでいいと俺は思う。

たとえ八重樫が世話を焼かなくても、自分で何とかできる人物もいるとわかれば、何かが変わるだろう。

さて、後は坂上の様子を見るとするか。

坂上の方は・・・

 

『うぉおおおおおおおおおっ!!』

『ガァアアアアアアッ!!』

 

・・・なんともあほらしい光景が広がっていた。

坂上が人型をぶん殴るのはまだいい。

問題なのは、人型の方もハルバードとタワーシールドを捨てて殴り合っているということだ。

 

「おぉ!素手でのインファイトとは燃えますね!」

 

俺たちの中で唯一シアは感心していたが、他の俺たちは冷めた疑問でいっぱいだった。

なぜ、一歩も動こうとしないのか。

なぜ、人型まで武装を解いて素手なのか。

なぜ、お互いノーガードなのか。

なぜ、左の頬を殴られたら左の頬を殴り返し、右の頬を殴られたら右の頬を殴り返すなんて、不良のケンカのような殴り合いをしているのか。

 

「あぁ、バカだからか」

「脳筋だからだろ」

「ひ、否定できないわね・・・」

「龍太郎くん・・・」

 

まさかこの後、人型と友情を育むような場面までいったりしないだろうな?

見たところ、坂上に致命傷はないが、体のいたるところに傷がある。

おそらく、レーザーを避けながらの攻撃に業を煮やし、「自分が倒れる前に倒せばいい!」という結論に至ったのだろう。それだと人型の件が説明できないが、脳筋の考えることはわからないから頭の隅に追いやった。

 

「幸い、坂上もこの調子なら倒せるだろうが・・・香織。お前の幼馴染のことだ。頑張って治してやれよ」

「痛みだけ残す回復魔法ってなかったかなぁ」

 

さり気に怖いことを呟く香織だが、坂上の場合はまじでそれくらいしないと脳筋が治りそうにないのが悲しいところだ。

それから数分後、まず最初に天之河が人型を撃破し、“限界突破”の副作用である倦怠感に耐えながら、聖剣を杖代わりにしてトンネルを通ってきた。

次に、谷口が人型を撃破し、こちらも杖を支えにふらふらと倒れそうにしながらも歩いてきたのを八重樫が急いで肩を貸しにいった。

最後に、坂上が人型を撃破したのだが、それと同時に倒れこんでしまった。明らかにまずい量の出血をしており、血の海に沈んだままなぜか満足そうな表情をしながら気絶している。

坂上に直撃しそうなレーザーは俺の八咫烏で防ぎ、その間に香織に回収してもらった。

香織がこちらに戻ってくる途中で、雪煙やレーザー、人工太陽の輝きが消え、門が新たに輝き始めた。

 

「これは、転移門だな。通り抜けたら出口・・・なんてことはないか」

「そうですねぇ。嫌な予感がプンプンとしますぅ」

「シアよ。大迷宮でいい予感などした試しがないであろう?」

「多分、次の試練があるんでしょうね。最後かどうかはわからないけど」

 

さすがの俺たちもため息をつくが、特にシアが憂鬱そうだった。

まぁ、物理に限れば無敵のシアだが、精神面ではその限りではない。そうなる気持ちもわかる。

香織がこちらに戻ってきたところで、まとめて回復してもらった。

そこに、天之河が俺に近づいて来たんだが、無言かつ四つん這いで近寄ってくるのはどこか不気味だった。

 

「・・・峯坂・・・俺の攻撃が・・・悪い」

 

暗鬱とした表情で謝罪するが、その声に生気はこもっておらず、さらに嫌な予感がしてきた。

 

「気にするな。あれくらいならどうってことない。てこずるくらいなら、最初からやってても構わなかったさ」

「・・・そうだな。俺の“神威”が飛んできたはずなのに、お前は汚れ1つ付いてない。何をしても、お前には痛痒一つ与えられない。だから、俺は・・・」

 

俺としては当たり障りない程度に話したつもりだったが、その瞳には欠片の光も宿っておらず、浮かべる笑みも引きつっていた。

 

「光輝、大丈夫なの?何だかおかしいわよ?“限界突破”の副作用、そんなに辛い?少し横になる?」

「・・・」

 

八重樫が深い憂いを感じさせる声音で声をかけるが、それに対して天之河はなぜか怖れるような眼差しを向けた。

 

「・・・いや、いいよ、雫」

「そ、そう?」

 

だが、それは一瞬のことで、天之河はすぐに目を閉じて動かなくなった。

雫も何かしら思うところはあったようだが、結局大人しく身を引いた。

そして、天之河は俺にちらりと視線を向ける。

そこにあるのは、嫉妬、不満、憎悪など、様々な負の感情が入り混じった、どす黒い何か。

・・・本当に、厄介なコンセプトだ。

それからしばらくして、香織の治療が終わった。

 

「さて、ここで少し休憩するか?先に進むか?」

「先へ進もう」

 

俺が問いかけると、天之河が少し食い気味に、やけに強い口調で言ってきた。その視線は、俺から逸らされたままだが。

俺は軽く肩を竦めてから周りに確認するが、異論はないようだった。

 

「そうか。それなら、行くとするか」

 

俺の言葉と共に、俺たちは光の門の中へと入って行った。




「ねぇ、ツルギ。さっきシズクのことをちゃん付けで名前で呼んでたけど、どうして?」
「別に、他意はねぇよ。それよりも、さっさとイズモの尻尾の中に埋まったらどうだ?」
「わかったわよ。えい!」
「ちょっと!ティわぷっ!?」
「おっと、危ないから急に飛び込まないで欲しいんだが」

「・・・あれをどう思う?」
「・・・時間の問題」
「・・・そうですねぇ。雫さんは向こうに行きましたかぁ」
「・・・割とまんざらでもなさそうだよね」
「・・・なに、悪いことにはならなかろう」

ツルギサイドとハジメサイドに分かれ始めた瞬間。

~~~~~~~~~~~

お久しぶりです。
学祭を満喫しました。
同じくらいに疲れもしましたが、満足です。

だいぶ間が空いてしまいましたが、次からは、いつも通りくらいの投稿頻度に落ち着くと思います。

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