二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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それぞれの意志

ある場所では、ティアが虚像と相対していた。

虚像から指摘されるのは、やはり同族のことだ。

 

『同族を救いたい、そう言いながら同族を殺め続けるあなたは、どうしようもなく救われないわよね?あなたに裏切られたせいで命を落とした魔人族が、いったいどれだけいるのかしら?』

 

ティアの脳裏には、王都侵攻の際に吹き飛ばした魔人族の顔がよぎる。

自分に向かって来た魔人族は揃って、「なぜ裏切った!」や「この裏切り者が!」と言った。

最初から話が通じなかった、という見方もできるだろう。

だが、それでも最初から話し合いをしない理由にはならないと、虚像はティアを責める。

 

『そのことで傷ついてばかりで、(貴女)は弱い女ね。だから、いつもツルギに縋ってばかりなのよね?いつもツルギに甘えてばかりで、嫉妬で意地悪なことして』

 

虚像の言葉に、ティアは心当たりがあった。

最初にツルギから雫の話を聞いた時、自分の知らないツルギを知っていると思うとそれが羨ましくなり、まんざらでもなさそうに話すツルギにもやもやとした感情を抱いた。

また、イズモがツルギを抱擁しているときも、ツルギがそれを受け入れている現場を見て少し本気で怒ることもあった。

その行為の、なんと醜いことか。

 

(貴女)には、ツルギしかいないものね?同じ過去を、苦しみを持つ人間は。結局のところ、あなたたちの関係は傷の舐め合いでしかない』

 

以前にも、ツルギが言っていたことだ。自分の気持ちは、ただの傷の舐め合いなのではないか、と。

それは、ツルギに限った話ではなく、ティアにも十分あり得る話なのだ。

その事実を虚像に突き付けられ続け、ティアの心はすでにボロボロになっていた。

だが、

 

「はぁ!!」

『くぅっ』

 

時間が経つごとに、拳や蹴りを交わすごとに、だんだん鋭くなっていく。その心はボロボロのはずなのに、少しも戦意を衰えさせない。それどころか、瞳に宿る輝きがさらに強くなっていく。

そして、少しも虚像のステータスが強化されなくなった。

最初は互角の戦いを繰り広げていたはずだったが、今では虚像は反撃すらままならない。

 

『っ、おかしい、ですねっ。たしかにっ、あなたの抱える闇のはずっ、ですがっ!』

「えぇ、わかってるわよ!そんなこと、私だって自覚してた!」

 

実際、ツルギに不満をぶつけることも、困らせてしまうこともあった。

だが、

 

「それでも、ツルギは私を必要としてくれた!イズモは私を受け入れてくれた!シズクとだって、仲良くなることができたっ!!」

 

ツルギは、たとえそれが本当に傷の舐め合いだったとしても、自分にもたれかかったり、あるいは自分を優しく抱きしめてくれる。

イズモは、たとえ不満をぶつけても、受け入れ、時に慰めてくれた。

雫は、最初はいけ好かない女としか見えなかったが、今では胸を張って親友だと言えるほどの関係になった。

 

「それに、私にはツルギだけじゃない!イズモだって、シズクだって、ハジメにユエやシア、ティオだっている!助け合える仲間がいる!!」

 

普段はそれぞれの恋人、想い人と一緒にいることがほとんどだが、時間があれば交流することだって珍しくもない。ユエと夜の話をすることだってあるし、シアに家庭の技術を教えてもらうこともあるし(進歩はあまりない)、ティオを殴り飛ばすこともある。

それが一般的な仲間の定義に当てはまるかどうかはともかく、たしかに仲間内の繋がりは存在する。

 

「私が殺した魔人族の魂は、もう戻らない。でも、それをツルギだけに押し付けるわけにはいかない!私だって、ツルギと一緒に進みたいから!」

 

自分の手で同族を殴り殺したときの感触、相手の表情や恨み言は、たしかにまだ残り、ティアを蝕んでいる。

だが、それが何だと言うのか。

ツルギは、その感覚を10年、自責の念と共に背負ってきた。

であれば、ツルギの隣にいる自分がそれを放り捨てるわけにはいかない。

 

「私にはやらなきゃいけないことがある!だから、邪魔しないでっ!!」

 

裂帛の気合とともに、拳を打ち出す。

それをかろうじて防御することができた虚像は、しかし踏ん張ることができずに吹き飛ばされてしまう。

 

『・・・なるほど。自らが傷つくたびに、何度でも乗り越えてきた。そんなあなたにとって、この試練は壁にすらならないということなのね』

 

虚像は、観念したような、納得したような呟きとともに苦笑する。

それに構わず、ティアは虚像に近寄り、拳を構える。

 

「私は、前に進まなきゃいけない。だから、これで終わらせる。“禁域解放”!」

 

そう言って、ティアは昇華魔法による疑似限界突破で翡翠の魔力を吹き上がらせる。

虚像も試練としての役割を果たすために立ち上がり、拳を構える。

そして、同時に踏み出す。

 

『はぁっ!!』

 

虚像は、低下したステータスながらも、今までで一番の動きで拳を突き出す。

だが、ティアは拳を打ち出すだけにとどまらない。

ティアは、自分の欠点について考えていた。

それは、魔法の習熟度だ。

ティアはユエと同じくすべての属性の魔法を扱えるが、ユエと同じように、ではない。

ティアの魔法の才能はあくまで平凡で、この世界基準の天職持ちに匹敵するかどうか、といったところだ。

自身の魔力量とアーティファクトの補助によってなんとかユエと同じような結果を出せるまでには至ったが、技量自体はユエに遠く及ばず、アーティファクトを使っても複数の魔法を展開することはできない。

また、戦闘スタイルが近接に傾倒していることもあって、魔法に関しては持て余し気味だった。

せっかくの力、使わないわけにはいかない。

そこで、ティアは思いついた。

“フェンリル”なら、魔法としてではなくエネルギーとして扱えるのではないかと。

例えば、火の魔法ではなく、火の魔力として拳に纏わせたり、だ。

このことをツルギとハジメに提案し、それができるように“フェンリル”を改造した。

これによって、以前よりも容易に拳に属性を付与することができるようになり、複合も行えるようになった。

そして、純粋な疑問とユエの魔法を見て、ある意味偶然の結果で身に付けたのが、

 

「“五天掌”!!」

 

すべての属性を無理やり収束させ、一発に乗せた拳。

それによりもたらせるのは、単なる破壊ではなく、異なる属性によって生み出された莫大なエネルギーと、様々な負荷を一度に浴びせることで起こる崩壊。

ティアの突き出した拳からは、全ての色がごっちゃ混ぜになったような灰色の奔流がほとばしり、それに飲み込まれた虚像は死に際の言葉すら発することができずにボロボロに崩れ去り、消滅した。

 

「・・・終わってみると、案外あっけないわね」

 

突き出した拳を下ろし、ティアは呟く。

たしかに、大迷宮の試練と言うだけあって一筋縄ではいかなかったが、それでも“ツルギを想えば”で乗り切れたのだ。

それだけツルギへの想いが大きいのか、あるいはどこぞの化け物と同じく開き直りが含まれていたのかはわからないが、クリアできたのならそれでいいとティアは考えることにした。

 

「たしかに最初は、私にとってツルギがすべてだと思ってたけど・・・でも、私の周りには、私が思っている以上にたくさんの人がいるって教えてくれたのも、ツルギだもの」

 

だから、ツルギが最優先事項であっても、それだけではない。自分には、信頼できる仲間や親友だっているのだから。

 

「さて、先に進みましょうか」

 

虚像を倒したことで現れた新たな道に、ティアは足を踏み入れた。

新たに現れた道を進むこと10分ほど、新しい空間へとつながった。

そこでは、ちょうど試練が終わったところだった。部屋の中心に立っていたのは、

 

「イズモ」

「む?ティアか」

 

声をかけられて振り向いたイズモは、少しの疲労も見せなかった。

 

「イズモも、問題なかったのね」

「そういうティアも、問題なさそうだな」

「えぇ。ちなみに、イズモはなんて言われたの?」

 

特に深い意味はないが、なんとなく気になってティアはイズモに尋ねる。

 

「なに、昔のことをいろいろと言われただけだ。だが、私もティオ様も、それを言われただけで揺らぐような心構えではない。試したいことも試せたから、そういう意味では満足できる結果だな」

「そう。ちなみに、試したいことって?」

「大迷宮相手に悟らせないように、感情の強弱をコントロールできるかやってみたのだ。これができれば、神とやらにも優位に立ち回れるだろうからな」

「そ、そう。さすがね・・・」

 

ある意味ごり押しで突破したティアと違い、大迷宮の試練を実験台にする余裕まであるイズモに、ティアはわずかに「私、戦い方がユエたちに染まってきたのかも・・・」とへこんだ。

別に悪い意味ではなく、ステータスに任せたごり押しスタイルは自分の長所を生かした悪くない戦い方なのだが、ツルギにまったく勝てないことや目の前のイズモの余裕を見てしまうと、やはりこのままなのはダメかもしれないとつい思ってしまうのだ。

そう考えると、イズモやティオは精神力がカンストした精神チートなのかもしれない。

まぁ、それでも今までも同じようなことを考えながら、なんやかんや言って改めない辺り、ティアはすでに染まってしまっているのだろうが。

そんな風に、ティアが微妙な内心になっていると、すぐそばの壁から誰かが出てきた。

 

「あ?ティアとイズモか」

 

その声の主は、ハジメだった。

 

「あ、ハジメ」

「ハジメ殿か」

「おう。やっぱ、この通路は他の空間とつながっているみたいだな」

 

新たに現れた通路を始めて通り抜けたハジメは、自分の推測を呟く。

 

「そうね。私も新しく出てきた通路を通ったら、イズモと合流したから」

「ついさっきのことだがな。さて、ここで立ち話しているのもなんだし、先に進むとするか」

 

つい話し込んでしまったティアとイズモは、そろそろ行かなくてはとハジメを促す。

ハジメも特に反論せず、一緒に通路へと踏み入れた。

そこで、再びティアがハジメに試練の内容を問いかけた。

 

「そう言えば、ハジメはやっぱり、日本のこととか言われたのかしら?」

「そうだな。化け物や人殺しに居場所はないとか、ユエのことは保険でしかないとか、ツルギにずっと嫉妬してたとか、そんなところだな」

 

このハジメの言葉に、ティアとイズモは意外そうな顔をした。

ユエのこともそうだが、ハジメがツルギに対して嫉妬していたというのが意外だったのだ。だが、人型と戦っていた際はハジメはツルギに向けてオルカンをぶっ放そうとしていたから、まったくあり得ない話ではないかもしれない。

それを感じ取ったのか、ハジメはツルギのことを話し始めた。

 

「嫉妬してたってのは、日本にいた頃の話だ。自分で言っちゃなんだが、俺は向こうでは本当に平々凡々でボッチだった。だが、ツルギは昔から才能にあふれていた。それなのに俺と仲良くしていたことが意外で、疑問だった。どうして俺と、ってな。まぁ、その理由はあんときに聞いちまったが」

 

ハジメの言うあの時とは、ツルギがティアに自らの過去を告白した時のことだろう。思わぬツルギの重い過去に盗み聞きしたことを軽く後悔したハジメだったが、ツルギのハジメに対する評価に、内心照れたのは秘密の話だ。

それはそうと、ツルギに対して嫉妬していた事実を認めたハジメだが、ティアたちは他の疑問を持った。

 

「だったら、どうやって攻略したのかしら?」

「それほどのことなら、攻略も一筋縄ではいかないと思うが」

 

この問いに対し、ハジメは何ともないように答えた。

 

「決まってるだろ。それがどうしたって言ってやったよ。自覚してたことだから今さらだし、考えるだけ無駄だってな」

「「・・・」」

 

要するに、開き直り100%で突破したのだと聞いて、ティアとイズモは思わず呆れてしまった。

つまり、ステータス上は互角の相手に、それこそごり押しで撃破したということだ。

やはり、奈落の化け物様は、変わらず化け物していたということだろう。

そのことに、ティアとイズモは思わずツルギの苦労を思ったが、攻略できたんだから別にいいやと思うことにし、話題転換をした。

 

「そう言えば、他はどうかしらね?ツルギやユエたちは大丈夫でしょうけど」

「まぁ、あの勇者(笑)にとっては天敵だろうけどな。必死に否定しようとしてはあしらわれる光景が簡単に目に浮かぶ」

「あと、雫殿も厳しそうだな」

「あ?あの八重樫が、か?」

 

イズモの予測に、ハジメは疑問の声を上げる。

ハジメの知る雫の姿は、やはり他と同じように凛々しくも世話焼きなオカンなのだから。

だが、ティアはイズモの言葉に同意する。

 

「そうね。シズク、ここに来るまでもだいぶ辛そうだったし。それに、ツルギのことでいろいろ悩んでそうだし」

「あ~、そう言われると、たしかにそうかもな」

 

ツルギと雫が、日本にいた頃からいつの間にか2人でなにやら話していたり、たまにツルギが雫のフォローをしていたことは、ハジメもなんとなく知っていた。

そして、その頃からか、あるいはそれより前からか、それともこの世界に来てからなのか、はっきりとはしないが、雫がツルギのことを少なからず意識していたのだろうとは、ハジメも感じていたことだ。

 

「案外、ピンチになった八重樫をツルギがすんでのところで助けていたりしそうだな?」

「あ~、それでシズクがツルギに惚れていてもおかしくないわね。シズクってば、けっこう乙女だし」

「香織殿から話を聞いた限り、自分を助けてくれる王子様に憧れていたそうだしな」

 

実際は、雫の方からがっつりツルギに甘え、雫の想いに気づいたツルギが胃痛をこらえながら冷や汗を流しているのだが、今のティアたちにはわからないことだ。

そんな他愛無い会話をしながら、しばらく歩いていると、出口が見えてきた。その先からは、かなりの数の気配がある。

 

「俺たち以外にも合流しているメンバーがいるみたいだな」

「この数だと、ほとんどが揃っていそうね」

「そうだな。全員と言うには少し足りないが・・・確かめればわかることだ」

 

果たして誰と合流するだろうかと考えながら進み、出口を抜ける。

その先にいたのは、

 

「・・・ハジメぇ!」

「ハジメさん!」

「ハジメ君!」

 

待っていました!と言わんばかりにハジメに突っ込んだユエとシアと香織だった。

 

「おう。なんだ、今回はずいぶんと甘えん坊だな」

 

ハジメもあまりの勢いに少し面食らったが、苦笑しながらも受け入れた。

足下ではユエと香織がガシガシと足を蹴り合っているのだが、いつものことだとスルーした。

 

「ティオ様もいらしたのですか」

「うむ。ティアとイズモも、無事なようじゃな」

 

珍しく、おとなしく後方で待機していたティオに、イズモが声をかける。表面上はいつも通りを装っているが、ティアには珍しくまともなティオを見てひたすら安堵しているようにも見えた。

 

「・・・これだから、手を出す気になれないんだよ」

「・・・龍太郎くん、ドンマイ」

 

その後ろには、龍太郎と鈴がどこか疲れた様子で近づいてきた。

この部屋にいるのは、これで全員だ。

 

「そう言えば、ユエとカオリの服が少し汚れているけど、何かあったのかしら?」

「別に、たいしたことではない。いつものケンカじゃ」

「あぁ、なんつーか、くんずほぐれつしてたな」

「それをシアさんが止めようとしていたんだけど、南雲君たちが来る直前くらいにすぐにやめて、そこの壁に向かって走っていったんだよね」

 

ハジメに対してだけは異様な第六感を持っているユエたちは、こういうときだけは仲良くするらしい。ユエと香織の喧嘩も、その一環であるのはすでに一致した考えでもある。

それはともかく、

 

「これで合流していないのは、ツルギとシズクとあの勇者ね」

「ティアさん、せめて名前くらい呼んであげようよ・・・」

 

相変わらず光輝に対してヘイトを向けているティアに、鈴は呆れ気味の声を出すが、ティアは他のことが気になっていた。

 

「・・・面倒な予感がするのは、私だけかしら?」

「いや、私も同じだ」

「うむ、そうじゃのう」

 

ついさっき話題に上がっていた人物たちが、揃って合流していない。

このことに、ティアはまさかと考えた。

それはハジメも同じなようで、いったんユエたちを離れさせて号令をかけた。

 

「とにもかくにも、さっさと先に進もう。そうすれば、あいつらがどうしているか・・・」

 

そう言いながら、ハジメは中央の通路に近づいたのだが、その先に感じた気配に、足を止めた。

ユエやティアたちも、通路の先から伝わってくる気配に、それぞれの表情を見せた。

 

「・・・案の定、か」

「・・・どうする?処す?」

「ユエ、まだそうと決まったわけじゃないわよ」

「そういうティアも、嫌そうな表情を隠せていないぞ」

「これは、そういうことでしょうかねぇ」

「ここで考えても仕方なかろう。先に進むしかあるまい」

 

ティオの言うことももっともであるため、ハジメたちは先に進んだ。

龍太郎と鈴は、気配がわからないため、何がどうなっているのかわからないまま。香織は、できれば自分とユエのようなただのケンカであってほしいと願いながら。

だが、その香織の願いが届くことはなかった。

通路を抜けた先でハジメたちが見たのは、

 

 

ツルギと光輝が、本気で殺し合っている光景だった。




「今のシアさん、すっごい頼りになるんだよね」
「あぁ。ユエさんと香織のケンカを拳骨1発で黙らせたからな」
「ふ~ん、シアも成長しているのね・・・」
「? ティアさん、どうかしたの?」
「いえ、別に。何でもないわ」

精神的に大人になり始めているシアに、焦りを感じ始めたティアの図。

~~~~~~~~~~~ 

今回はちょっと簡単めに。
谷口あたりの話も書こうか考えたんですが、同じ展開になるくらいなら、ってことでスルーしました。
あくまでこの作品は、剣サイドを重点的に書いていくことを心がけているので。
次の光輝vs剣から本気だすので、それまでお待ちを。
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