「そうか、ユエの記憶が・・・」
「なるほどな」
「・・・ん」
八重樫の告白の後、俺はハジメに盛大にからかわれ、八重樫はユエたちから祝福と励ましの言葉を贈られ、それから一段落したところで先に進んだ。
その道中で、ユエから過去のことで話があった。
簡単に言えば、今までの『ユエの叔父が裏切って封印した』というのは記憶違いで、本当は『何か重大な事情があって封印せざるを得なかった』ことと『ユエの両親や臣下はエヒトを狂信する信徒みたいだった』ということだ。
それに対して、ハジメの反応は、
「ていうか、ユエって昔はそんなおしとやかな口調だったのか」
「!?」
ユエから「えっ、そこ!?」みたいな顔を向けられるくらいには的外れな感想だった。
ついでに言えば、
「あと、ユエの本当の名前って、割と長かったんだな」
「!?」
ユエから「えっ、そっちも!?」みたいな顔を向けられるくらいには、見当はずれな感想を抱いた。
ユエの本当の名前は“アレーティア”と言うらしいんだが、なんだろう、思っていたよりも“ユエ”って名前と同じくらいしっくりくる。
シアやティアたちからもユエと似たような表情を向けられているが、ぶっちゃけ、本当にそれくらいしか感想がなかった。
さらに、ハジメはユエに「昔のお姫様な口調が聞きたい」とストレートに願望をあらわにし、真っ赤になったユエにポカポカと叩かれていた。
ついでに、珍しく目に見えて羞恥心をあらわにするユエを香織が煽り、渾身の右ストレートを放ちもした。
「・・・なんだか、意外とそっけないというか、適当な感じね」
その光景を眺めていると、ティアがそんな疑問を呈した。
まぁ、たしかにそうかもしれないが、
「ぶっちゃけ、すごい今さらなんだよな、それ」
そうとしか言いようがなかった。
ハジメも、俺の言葉にうんうんとうなずく。
「・・・もしかして、ハジメとツルギは気づいてた?」
「あぁ」
「だいぶ前にな」
ユエの言う通り、俺とハジメはその可能性にだいぶ前から気づいていた。
なにせ、ユエから過去の話を聞いた時、いろいろと違和感があったからだ。
「ユエの“自動再生”は魔力に依存する。謀反を起こされたって言ってたあの時、ユエはまともに抵抗することも、逃げることすらできなかった。なのに、殺しきれずに封印するしかなかったっていうのは、おかしな話だからな。おそらく、“殺す”のではなく“封印”するだけの理由があると考えたんだ」
「俺としても、ユエを万が一にも死なせるわけにはいかなかったからな。その対抗策についてツルギと話していたときに、自然とそういう話になったんだ」
もちろん、ハジメも俺に話す前からこの可能性については考えていたようだ。
それでも、そのことをユエに言わなかったのは、
「だが、奈落にいた時に色々話した限りじゃあ、どうもユエはその辺りのこと覚えてない感じだったろ?突然の裏切りに呆然としていて、気がついたら封印されていたって」
「・・・ん」
「それならさ、その違和感のある点を無理矢理記憶をほじくり返して調べるよりも、単純に俺が何とかすればいいと思ったんだ。もしかしたら、覚えていないのは辛い記憶だからかもしれないわけだし。結局、ユエがどんな存在であれ、俺の結論は変わらないからな」
そんなハジメの臭いともとれる台詞に、ユエは頬を赤く染める。
まぁ、言っちゃえば、ユエを不幸にするものは全部まとめてぶっ壊す、ってことなんだけどさ。
親友としては、必要な分はともかく、あまりに度が過ぎたデストロイは控えてほしいところではあるけど。
だが、そんな言葉をかけられたユエは細かいことなんて吹き飛び、ハジメの首にガバチョ!と首に抱きつき、そのままハジメの唇を貪った。
反応が遅れた香織は、背後に般若さんを出現させるが、ユエは少しも気にとめない。
さらに強烈なブリザードが追加され、ハジメサイドに修羅場が出現している中、
「・・・はぁ、胃が重い」
俺は、深いため息をついた。
ついでに、
「イズモ。こう言っちゃなんだが、そろそろどいてくれないか?頭重いし、歩きづらいし」
別に嫌だと言うわけではないんだが、最初に抱きついてからずっとこのままというのは、さすがに疲れてくる。
「なんだ。私は疲れているであろうツルギのために、こうしてツルギを癒しているのだが」
「精神的な疲れはとっくに取れてるっての。むしろ、そろそろ首とか肩がこりそうだ」
イズモのその大きな膨らみのおかげで、天之河をボコした時の分の精神的疲労は取れたが、精神的疲労回復のために身体的に疲れると言うのは、本末転倒だろう。
「そうよ、イズモ。そろそろ峯坂君から離れないと」
そこに、八重樫からも言葉がかかった。
だが、微妙に視線がうろついている。顔の赤みはだいぶ収まっているが、耳とか頬はうっすら赤いままだ。
そんな八重樫に、ティアが少し意地悪気に話しかける。
「それで、本音は?」
「うらやま・・・ゴホンッ、TPOを弁えましょうってことよ。うん」
八重樫よ、欲望を隠せていないぞ。
そんな八重樫は、俺の3歩後ろをしずしずとついてきて、俺の贈り物である黒鉄を大事そうに抱えている。
そんな八重樫に、ティアは何を思ったのか、にやりと笑い、
「だったら、シズクもツルギにくっつけばいいじゃない」
「えっ!?ちょっ、ティア・・・」
「えい!」
有無を言わさず、ティアは八重樫の背中を押して、強引に俺の方に近づけた。
イズモも、息ぴったりに八重樫の腕をつかみ、俺の腕に絡ませるように動かした。
突然のことに八重樫は顔を再び真っ赤にするが、なぜか離れずにそのまま腕を絡ませて、体をくっつけてきた。
「・・・なぁ、さっきのキスもそうだが、自分で注意しといて何やってんだ?」
乙女心全開なのはまだいいにしても、ずいぶんと遠慮がないというか、自分のことを棚の上にあげているというか。
若干の揶揄も込めて尋ねると、八重樫は顔を赤くしたままもじもじして、
「だって、私だけしたことがないのは、寂しいし・・・」
そんな言い訳じみたことを呟いた。
そこに、イズモがからかうように尋ねてきた。
「そう言っても、ほっぺにだったがな。剣士ならば、潔く斬りこむのではないか?ツルギの唇を奪うなら、多少強引なくらいがちょうどいいぞ?」
そういうイズモも、初めてのキスは唇じゃなかったけどな。あくまで、唇の真横に、だけど。
「う、奪うだなんて・・・はしたないじゃない。そういうのは、ちゃんとしたシチュエーションで、お互いの合意の上でするべきだと思うし。その、出来れば、峯坂君の方からだと・・・・・・嬉しいわ」
対する八重樫は、そんなことを言いながら、顔をさらに真っ赤にして抱きつく力を強めた。
・・・あれ?こんな生き物っていたっけ?
俺やハジメの周りにいた女性は、積極的と言う意味なら、良くも悪くも肉食系ばかりだ。
そんな肉食系ばかり見てきたからだろうか。八重樫みたいなおしとやかと言うか、草食系な女子がすごい珍しく思えてしまう。
今しがたのユエ然り、キス1つではしたないとか俺たちじゃまずありえない考え方だし。
う~ん、俺もこう考えてしまっているあたり、ハジメサイドに毒されてしまったのか・・・。
いや、それを言ったら、一番最初にティアがユエに毒されたんだけどな。今でもたまに、ユエにそういうことを聞いては実戦で試そうとするし。
そう考えると、ある意味、ティアってユエの一番弟子・・・いや、シアと合わせて姉妹弟子か?普通に下世話な方面だけど。
「・・・すごい乙女力ね。私たちじゃ、シズクの足元にも及ばないわ」
ティアから、戦慄とも感心ともとれる声音で言った。
ユエたちもその評価は一緒なようで、戦慄を込めた眼差しで八重樫を見ている。香織は「さすが、私の雫ちゃん!」と、なぜか喜んでいる様子だった。
だが、ティアはまだまだ足りないのか、
「でも、ダメよ、シズク。もっと自分から行かなきゃ!」
なぜか、八重樫の背中を押しまくっていた。
いくら親友とはいえ、進んで自分の恋人との仲を発展させようとするのは、どうなのだろうか。
「だ、ダメよ!こんな人前でだなんて・・・」
幸い、八重樫は勢いに押されずに常識を保ってくれている。若干満更でもなさそうな顔をしたような気がしたが、気のせいに違いないと思うことにする。
「むぅ、つれないわね・・・」
「ティアは、もうちょっと恥じらいってのを覚えような」
悪い意味でユエに似てきてるぞ。
だが、やはりティアはただでは止まらず、
「だったら、せめて名前で呼んだらどう?それくらいなら別にいいでしょう?」
そんな妥協案を提示した。
たしかに、八重樫から告白されてからも、“峯坂君”って呼んでるけど、別にそれくらい気にしなくても・・・
「うっ、そ、それは・・・私も、名前で呼びたいけど・・・」
めちゃくちゃ気にしていた。
え?なんなの?今時、名前で呼ぶかどうかで恥じらう女子がいるの?ていうか、八重樫も俺の頬にキスしたり、腕を絡めてたよな?
いまいち、乙女心の基準がわからん・・・。
だが、八重樫にとっては大事なことだったのか、
「うぅ・・・つ、つるぎ・・・」
掻き消えそうな声で、ぼそりと呟いた。
それだけで、今日だけで何回そうなったのかわからないくらい、顔を赤くした。
なんつーか、八重樫みたいなザ・草食系を相手にすると、いまいち調子が狂うな・・・。
今まで、肉食系ばかり相手にしたり目の当たりにしてきたからだろうか。
ティアも、可愛いものを相手にしているときは、相応に一般的な女の子なんだけどなぁ・・・。
「はい、ツルギも!」
「あれ?俺も?」
突然、ティアから話を吹っ掛けられた。
今まで、八重樫の背中を押してたよな。なんで、急に俺?
「だって、シズクがツルギのことを名前で呼んだんだから、ツルギもシズクを名前で呼ばなきゃでしょ?」
「俺には、その思考回路がわからないんだが」
これは、あれだな。良くも悪くも、シアの影響も受けている。
『細かいことは考えない。とにかく突っ走る!』みたいな。
さらに困ったことに、ティアは一度こうと決めたら、滅多に曲げない。
そして、八重樫も、恥ずかし気にしながらも、期待するような眼差しで俺を見てくる。
・・・参ったな。本当に、俺は押しに弱い。
「・・・はぁ。これでいいか、雫」
「・・・うん」
・・・うっわ。うんってなんだよ、うんって。しかも、顔を真っ赤にしながら。
マジで初めて見たぞ、こんな乙女な八重樫、いや、雫。
ティアもティアで「もう、たまらん!」って感じで雫に抱きつくし。
・・・もう、わけわからん。
とりあえず、
「そこでニヤニヤしている奴ら。あとで拳骨な」
「「「「「ッ!?」」」」」
面白そーに見守っていたハジメたちがうざかったから、八つ当たりさせてもらうことにする。
べつに、これくらいならいいよな?だって、助けてくれないし、うざいし。
「・・・あんな雫、俺も見たことがねぇが、合流した後の方が疲れるってのはどういうことだよ」
「シズシズが可愛いのは同意だけど、早く先に進もうよ。鈴はもうお腹いっぱいだよ」
後ろから、呆れるような坂上と谷口の声が聞こえたが、聞こえないふりをした。だって、俺のせいじゃないし。
そんなこんなで、軽い雰囲気で進むこと10分。ようやく、行き止まりに到着した。
そこは、それぞれの大迷宮の紋章が七角形の頂点にあらわした魔法陣が刻まれており、俺たちが近づくと淡く光りだす。
そして、もうすでに見慣れた光の転移門が形成された。
先頭の俺が、後ろを振り向いて視線を巡らせて確認をとってから、転移門に足を踏み入れた。
ハジメたちも、俺に続いて足を踏み出していく。
そして、転移門を抜けた先には、
「・・・どうやら、分断はされなかったようだな」
「あぁ。それに、これでクリアのようだ」
そこは、幾本もの太い円柱形の氷柱に支えられた綺麗な四角形の空間で、足元が水で溢れていた。中央にはこれまた荘厳な宮殿のような建物が鎮座している。
この広場にも、どういう理屈か水が流れているようで、小川や噴水があり、所々に点在する小島には氷でできた花が咲き乱れていた。
今まで見てきた中でも、最も芸術美に満ちた空間だ。
「やっぱり、寒くねぇな。涼しくて空気も澄んでいる。快適な空間だ」
ハジメがエアゾーンを切ったところで、この光景に見惚れていた面々も正気を取り戻す。
「ハジメ。やっぱり、ここが・・・」
「あぁ。氷雪洞窟の最深部、ヴァンドル・シュネーの隠れ家だ」
俺の問い掛けに、ハジメが口角を釣り上げて、断言した。
それに対し、谷口は感極まるでもなく、落ち着いた声音で再確認した。
「・・・そっか。攻略、したんだね」
「落ち着いてるな、谷口。やっぱ、昇華魔法を習得してると、余裕も出てくるか」
「うん。それに、鈴はこれからだから」
谷口が言っているのは、中村のことだろう。
すでに、先のことを考えている。この様子なら、ここで谷口の覚悟を問うのは野暮だな。
「まっ、話は変成魔法を習得してからだ。おそらく、あの宮殿に魔法陣があるんだろう」
景色を楽しんだり攻略の感慨にふけるのもそこそこに、俺は先を促した。
宮殿に近づくと、足元には精緻な魔法陣があったが、ここで踏んでも反応しないあたり、帰りのショートカットだろう。
宮殿の扉も、フリードとリヒトが近い過去に開けたからか、スムーズに動いた。
そして、宮殿の中に入った最初の感想は、
「なんつーか、ずいぶんと凝った造りだな」
「あぁ。それに、オスカーのところに似ているな。こっちの方がでかいし派手だが」
オスカーの隠れ家がどのようなものかは知らないが、それはまたの機会にしよう。
「ハジメ。魔法陣は?」
「ちょっと待ってろ・・・正面の通路を進んだ先だ」
羅針盤で魔法陣の位置を確認したハジメの案内に従い、俺たちは先に進んだ。
それと、中に入って気づいた事だが、この宮殿の中には普通に木製の家具が多くあるし、建材の氷もひんやりとするが冷たいと言うほどではない。こっちも、ハジメのエアゾーンのような処置を施しているのだろうか。
宮殿の内装に感心しながら先に進むと、ひと際重厚な扉にたどり着いた。
「この中だな」
ハジメの呟きを聞き、俺が扉を開けると、たしかに中に魔法陣があった。
一部の面々、特に坂上が初めての神代魔法ということで、先を急かすような目で見てくる。
俺としても焦らす理由はないから、先に進んで魔法陣の上に乗る。
全員が魔法陣の上に乗ると、いつもの感覚とともに変成魔法についての知識が刻み込まれていく。
若干ふらつく雫を支えながら、ようやく最後の神代魔法を習得した・・・いや、俺とティア、シアはまだ生成魔法が残っているか。そっちはどうするか・・・
「ぐぅ!?がぁああっ!!」
「・・・っ、うぅううううっ!!」
次の瞬間、苦悶の悲鳴が上がった。
悲鳴の先にいたのは、ハジメとユエだ。
その様子は尋常ではなく、激しい頭痛を堪えるように膝をつきながら頭を抱えている。
「ハジメさん!?ユエさん!?」
「っ、落ち着かんか!香織!呆けるでない!」
「え? あっ、うん、すぐに診るから!」
シアが突然のことにウロウロし、ティオが突然のことに動きを止めている香織を叱咤して診察させるように促す。
「・・・っ」
「・・・んっ」
だが、その前に、2人は大量の脂汗をかきながら意識を失ってしまった。
咄嗟に、ハジメを俺が、ユエをシアが咄嗟に抱きかかえる。
この2人が気を失うだなんて、よっぽどのことではない。
何が起こったのかと、呆然としていた空気が流れる中、ティアが当然の疑問を投げかける。
「ハジメとユエ、大丈夫なのかしら?」
「・・・おそらく、身体的には問題ないと思うし、心当たりが全くないわけじゃないが・・・2人の目が覚めないことにはわからないな。とにかく、適当な場所で休ませよう」
俺には、この2人が気を失った理由に心当たりはある。というより、気を失った2人の共通点から考えて、だが。
とにかく、まずはハジメとユエをどこかに寝かせようと、俺はどこかに寝室がないか探すように指示を出した。
「はぁ」
「どうしたの?」
「いや、これでまた義妹の連中がめんどくさくなるな、と」
「うっ、その、ごめんなさい、剣」
「いや、雫が謝らなくてもいいんだよ。めんどくさいが、いつも通り適当にあしらうとするさ・・・ていうか、どちらかと言えばアンナたちの方が心配なんだが・・・戦争を起こしそうで」
今後の“義妹結社”と“ツルギ様専属メイド会”の動きに頭を抱えるツルギの図。
「はっ!お姉様が誰かの毒牙にかかった気配が!まさか、あの野郎が!?」
「むっ!ツルギ様が誰かとくっついた気配!まさか、八重樫様と?」
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まぁ、とりあえず軽めに書きつつ、雫のイチャイチャを5割増しに。
こういう、とにかく甘いの、好きっちゃ好きなんですが、一人身勢としては、そこそこ心を抉られると言うか、割り切っているのに割り切れないと言うか・・・。