二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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世界を超える鍵

あまりの意思と魔力の大きさに思わず体がぐらつく中、それも一瞬で終わり、視界に色が戻った。

目を開けると、そこには紅と金の煌めきを内包した、半透明のアンティーク調の鍵が落ちていた。

名づけるなら、“クリスタルキー”と呼ぶべきか。

 

「って、ハジメさん!ユエさん!大丈夫ですかぁ!」

 

思わず鍵に目を奪われ、拾い上げてよく見ていたが、すぐそばでハジメとユエが手をつないだまま倒れていた。

真っ先に気づいたシアが慌てて近づき、香織も一瞬遅れてから近付いて診察を始めた。

 

「香織さん、お2人は・・・」

「・・・うん、大丈夫。気を失ってるだけみたい。原因は魔力枯渇だね」

 

たしかに、あれだけの魔力の放出だ。魔力が空になるのも無理はないだろう。

シアは香織の診断に安堵の息をつき、香織もすぐさま魔晶石から意識が戻る程度の魔力をハジメとユエに与えた。

幸い、2人の意識はすぐに戻り、ゆっくりと目を開けた。

 

「あぁ?・・・どうなった?」

「・・・んぅ。アーティファクトは・・・」

「それなら、ここだ」

 

目を覚ましたハジメに、俺はクリスタルキーを手渡した。

 

「2人は魔力枯渇で倒れたんだよ。一応、魔晶石1個分の魔力を均等に分けておいたから。アーティファクトの方は、私じゃよく分からないけど・・・」

「俺が見た限り、成功だな。実際に使わないことにはなんとも言えないが、羅針盤と同じくらいの力を秘めている」

「そうか。ありがとな、香織。魔力枯渇で倒れるなんて久しぶりだ。加減がよく分からなかったから、取り敢えず全力でやったんだが・・・」

「次があるなら、調整できるようにしておけ。毎回魔力枯渇で倒れられても面倒だ」

「・・・ん。大丈夫。何となくコツは掴んだ。概念に昇華できるほどの意志を発現できるかは問題だけど」

 

ユエの言う通り、極限の意思なんて、そう何度も発現できるものではない。まぁ、ユエがいるなら、その辺りはどうにかなりそうだが。

そう言っている間に、ハジメはじっくりとクリスタルキーを眺め、満足げな笑みを浮かべた。

 

「・・・たしかに、会心の出来だな。羅針盤に似たような、でかい力を感じる」

 

そう言って、ハジメは羅針盤を取り出した。どうやら、試運転をするらしい。クリスタルキーに魔力を注いで、前方に突き出した。

羅針盤を取り出したのは、やはり目的地の距離や場所をイメージできないと上手く転移できないからだろう。これだと、羅針盤とクリスタルキーはセットになりそうだ。

クリスタルキーは、ゲートキーのように、何もない空間にずぶりと刺さった。

ただし、ゲートキーと違い、吸いだされる魔力量が尋常ではなく、開くのもゲートキーよりも遅い。どうやら、クリスタルキー単体で空間座標を固定するのに少し時間がかかるようだ。さらに、それにも魔力が吸い出される。

ハジメの表情を見ると、眉をしかめていた。どうやら、かなりの量を持っていかれているらしい。

それでも、動作自体は問題なく進み、目の前の空間が揺らいで楕円形の穴が生じる。

 

「あぁん!」

 

次の瞬間、嬌声のような声が聞こえて、ハジメがピクリと動きを止めた。ついでに、鞭でたたくような打撃音も聞こえる。

なんだか、何が起こっているのか見たくなくなってきたが、性能を確かめるためにも開く必要がある。

ハジメは意を決して、ゲートを完全に開いた。

その奥に見えたのは・・・

 

「この恥知らずのメス豚がぁっ」

「あぁ!カム様ぁ!流石、シアのお父様ですわぁ!すんごいぃいい!!」

 

恍惚の表情で鞭打たれてしなだれているアルテナと、わりとノリノリで鞭を振るっているカムの姿だった。

 

「うぼぁ」

 

シアの口から、白い魂みたいなものが飛び出た。

俺は内心ドン引きしながらも、「あぁ、致命的に手遅れだったかぁ・・・」と思いながらシアを魂魄魔法で癒した。

すると、俺たちの微妙な気配を感じたのか、カムが俺たちの方を振り向いた。

 

「ボ、ボスぅ!?そ、それに兄貴も!?な、なぜこんな場所に、ボスのゲートが!?」

「ぇ?って、シア!それに皆様まで!」

 

めちゃくちゃ狼狽えるカムと、驚愕しながらも嬉しそうになるアルテナに、ハジメとユエが冷たい声音と視線で話しかけた。

 

「よぉ、カム。悪いな、お楽しみの最中に邪魔して」

「・・・ん。2人がそういう関係だったなんて知らなかった。シア、気をしっかり」

「ふふ、同志アルテナよ。よいご主人様を見つけたようじゃごふぅ!!」

「駄竜は黙れ」

 

妙にうれしそうなティオを殴って黙らせつつ、俺もカムをジト目で見る。

ハジメとユエの物言いに、カムは「ご、ごごごご、誤解ですぅ!」と、娘そっくりの口調で必死に弁明するが、すでに手遅れだ。

ハジメの横で、シアが淡青白色の魔力を吹き上がらせながら、プルプルとふるえていた。

ゆらりと一歩前に出たシアは、ドリュッケンを取り出し、砲撃モードにして構えた。

 

「ま、待て、シア!お前は猛烈に誤解をしている!父は決して・・・」

「シア!カム殿は素晴らしい御人ですね!流石、シアのお父様ですわ!ちょっとシアの私物を拝見しようとしただけの私に、あんなに激しく!しかも力加減が絶妙ですの!」

 

これにカムは慌てて必死の弁明を始めるが、アルテナがにこやかにぶっ潰した。

カムが「余計なことを言うなっ。ぶっ殺すぞ!」みたいな視線を向けるが、アルテナはむしろゾクゾクと体を震わせる。

・・・もう、致命的だな、うん。

一応、アルテナがシアの私物を盗もうとしたという事情はあるようだが・・・

 

「カム。お前も、割とノリノリだったよな」

「兄貴ぃ!?」

 

と、いうわけで、

 

「いっぺん死んでこいですっ、この変態共がっ!」

 

シアは問答無用で引き金を引いた。

弾丸が通った直後に、ハジメはゲートを閉じたが、完全にゲートが閉じる寸前に、爆音と「ぎゃあああ!」とか「あぁあああん!!」とかいう悲鳴が聞こえた気がしたが、聞こえなかったことにした。

 

「・・・シア、元気出して」

「大丈夫だよ、シア。あれは・・・そう、ちょっとした気の迷いだよ。きっと、さっきの一撃でお父さんも目を覚ましてるはずだよ」

「・・・ぐすっ、ユエさん、香織さん、お気遣いありがとうございますぅ。でも、あれくらいじゃうちの父様は死んでないでしょうから、ハジメさんの世界に行く前に息の根を止めておきますぅ・・・うぅ、ミンチにしてやるですぅ」

 

ユエと香織がシアを慰めるが、すでにシアは決意を決めてしまったようだ。

日本に戻る前に、カムの命が危ない。いや、だからといって、止める気があるわけではないけど。

 

「・・・ハジメ。お前がどうにかしろよ。元はと言えば、お前がまいた種なんだからな」

「・・・おう。日本に戻る前に、俺が矯正しておいてやるよ。だからシア、とりあえず泣き止んでくれ」

「うぅ、ハジメさぁ~ん!」

 

ハジメの言葉に、シアがハジメの胸に飛び込んだ。

ぶっちゃけ、ハジメも似たり寄ったりなんだか、それかこの際スルーするとして、気を取り直すためにも、いったんリビングに戻った。

 

「さて、初めての試みで色々と手際の悪さは目立ったが・・・帰る手段を、手に入れたぞ」

 

ニヤリと笑みを浮かべたハジメの言葉に、まずは谷口が飛びあがって喜びをあらわにし、それにつられるようにして坂上もガッツポーズをした。香織と雫も抱き合い、天之河も薄っすらとだがほほ笑んだ。

俺も、ようやく終着点にたどり着いた事に、口元が緩む。

だが、だからといってすぐ帰れるわけではない。

 

「それで、ハジメ。再召喚防止の概念はどれくらいでできそうなんだ?」

「どうだろうな。主に意思の面で苦労しそうだし、試行錯誤しなきゃいけねぇからな。厳密にはわからないが、少なくとも、ミュウを迎えに行ったり、ティオとイズモの帰省の間にできるとは断言できないな」

 

となると、早くても1,2週間、下手をすれば1ヵ月近くかかるかもしれないか。

 

「それは仕方ないよ。それでも帰れるっていうだけで・・・本当に・・・すごいよ。ぐすっ、ハジメくん、ありがとう・・・」

 

そこに、香織が涙ぐみながらハジメの手をギュッと握った。

香織の言う「ありがとう」には、いろいろな意味が込められているのだろう。ユエたちも、珍しく肩を竦めて静かにその様子を見ていた。

ハジメも、香織の頭を優しく撫でながら、今後の方針を口にした。

 

「取り敢えず、俺達は召喚防止用アーティファクトの作製に取り組みながら、ミュウ達を迎えに行こうと思う」

「そいつを使わないってことは、やっぱ消費魔力が問題か?」

「あぁ。さっきの調子だと、日本に繋ごうと思ったら、今の俺の魔力の4,5倍は必要になりそうだ」

「そうか・・・」

 

さすがに、概念魔法を組み込んだアーティファクトは燃費も桁が違うか。

だが、トータスでなら、移動も十分可能ってことか。

なら・・・

 

「・・・悪いが、もう一度そいつを使ってくれないか?行っておきたいところがある」

「あ?どこだ?」

「オルクス大迷宮だ」

 

俺の言葉に、天之河たちはピンとこなかったようだが、ハジメはすぐに俺の意図に気づいたようだ。

 

「あぁ、そういえば、ツルギとティア、シアは、あとはオルクスの生成魔法だけだったか」

「一応、ハジメの目的はある程度達成したが、概念魔法を使えるメンバーは増やしておいて損はないだろう。帰りは、ゲートキーを使えばいいしな。とりあえず、3日くれ。それで終わらせる」

 

今の実力なら、限界まで飛ばせば真のオルクス100層も、それくらいでなんとかなるはずだ。

正直、ハジメにまたクリスタルキーを使わせるのは申し訳ないが、あそこにゲートホールは置いてないし、移動にも時間がかかるから、しょうがないだろう。

 

「わかった。その間、俺たちはここにいた方がいいか?」

「・・・そうだな。念のため、攻略が終わるまではここで休憩していてくれ。谷口と坂上も、その間に変成魔法でどこかしらの魔物を従えればいいだろう。あとは、俺の他に誰が行くかだが・・・」

 

残りが生成魔法だけなのは、あとはシアとティアだが・・・

 

「私は、ハジメさんと一緒にいたいので、お留守番してますぅ」

 

シアは、恋人と一緒にいる選択をしたようだ。

やはり、シアも成長して・・・

 

「それに、せっかくですから、タイマンで挑んでみたいですしね!!」

「あぁ、そう」

 

いらん成長もしちゃったなぁ。最初に会った頃が懐かしい。

 

「私は、ツルギと一緒にいくわ」

 

ティアは、俺についてくるようだ。

なんというか、順当な結果になったな。

あとは、

 

「なら、イズモも来てくれるか?」

「ふむ?・・・あぁ、介抱役はいた方がいいか」

「あぁ。雫は・・・」

「私は、遠慮するわ。今の実力だと、ツルギたちについていくのは難しいだろうし。代わりに、鈴と龍太郎についていくわ」

「わかった」

 

たしかに、いくら谷口と坂上に実力がついたとはいえ、世話役は必要だろう。天之河には特に。

 

「魔物を従えるなら、樹海のやつがいいか?」

「そうだな。ゲートホールもあるし、実力的にもちょうどいいだろう。それに、あそこには気配操作が上手いやつらが多いからな。従えて強化すれば、有用な戦力になるだろう」

「なるほど・・・うん、わかった!やってみるよ!」

 

谷口も、俺たちの意見に賛成した。

 

「なら、また3日後にな。ハジメ、頼む」

「おう」

 

俺はハジメに頼み、クリスタルキーでオルクスまでのゲートを開いてもらった。粋なことに、ハジメの記憶の中で見た、奈落の最初の階層らしき場所だ。俺とティアは表の100層まで攻略しているし、これくらいなら許してくれるだろう。

 

「さて、行くぞ。ティア、イズモ」

「えぇ」

「うむ」

 

そう言って、俺たちはゲートをくぐって奈落へと踏み出した。




「よし。せっかくだし、ハジメがいたぽっい場所のツアーもしてみるか。幸い、俺は過去視で当時の状況を見れるし」
「さっさと終わらせるって言ったのはツルギでしょ!」
「いや、冗談だ」
「冗談には聞こえなかったぞ、ツルギ」

攻略の前にちょっとした茶目っ気を見せるツルギの図。

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今回は、かなり短めです。
さくっと終わらせてつなげるのもいいんですが、せっかくだからツルギパーティーVSヒュドラを書きたいのと、このまま続けると中途半端な内容で長くなりそうな感じがしたので。
とはいえ、1話丸々がっつり戦闘シーンで埋める技術は自分は持っていないので、戦闘シーンは全体の半分くらいになりそうですが、なるべく気合を入れて書きます。

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