二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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魔王の正体

ゲートで繋がれた先の巨大テラスは学校の校庭ほどの広さがあり、俺たち全員が降り立っても余裕があった。まぁ、灰竜や神の使徒は飛行していたが。

灰竜たちはどこかへと飛び立っていき、神の使徒も十数名を残してどこかに行った。残った神の使徒は、油断なく俺たちを囲んでいる。

いや、どちらかといえば、主に俺に意識を向けているようだ。それだけ、先ほどの攻撃を警戒しているのだろう。あるいは、集団なら勝てると踏んでいるのか。

もしそうだとしたら、戦闘データも取っていないのによくもそんな自信がでるものだと呆れるしかないが。

フリードがゲートを閉じると、リヒトが無言で俺たちの方を見て顎をしゃくった。どうやら、黙ってついてこいということらしい。俺たちも、特に何も言わずに黙ってリヒトについて行った。

 

「光輝く~ん、あの化け物、恐かったよぉ~、ボクを慰めてぇ~」

「え、恵里っ、君はっ」

 

すると、中村が急にニタニタと笑いながら悪びれる様子もなく天之河に抱きついた。それだけならまだよかったが、発情したように頬を赤くしながら息を吹きかけたり耳元でなにかをささやくなど、見るに堪えない光景にまで変化した。

俺としてはさっさと引きはがしてやりたいが、ここで下手に動くのもよくない。クラスメイトの手錠は破壊したとはいえ、強化された魔物や神の使徒には手も足も出ないことはわかっている。

それは天之河も同じなようで、中村を無理に振りほどこうとはしない。

そんなこんなで石造りの廊下を進んでいくと、巨大な扉が現れた。おそらく、ここが謁見の間に繋がっている扉だろう。

フリードが扉の前にいる魔人族に視線で合図を送ると、その魔人族が扉の一部にスッと手をかざし、その直後、重厚そうな音を響かせて扉が左右に開いていった。

扉の奥には、フリードが“仙鏡”で見せた豪華な空間が広がっており、クラスメイトや姫さん、アンナ、ミュウとレミアさんの姿もあった。

向こうも俺たちの姿が見えたようで、クラスメイトは大きく目を見開き、肩を叩かれて気がついた愛ちゃん先生と姫さん、アンナも驚いたように大きく息を呑んだ。

アンナはここでも申し訳なさそうに俯きそうになっていたが、「大丈夫だ」と視線で伝えると、力強い瞳で頷いた。

愛ちゃん先生と姫さんも、神の使徒に囲まれているのを見てわずかに表情を曇らせたが、ハジメがここで初めて唇の端を吊り上げて笑ったのを見て感極まったように涙ぐみ始め、そしてハジメの名前を呼ぼうと・・・

 

「ツルギお兄ちゃーーん!!パパぁーー!!」

「ツルギさん!!あなた!!」

 

よし、ちょっと待とうか、レミアさん。

ミュウがハジメのことをパパと呼ぶのは、まぁ、まだよしとしよう。

だけど、レミアさんがハジメを“あなた”と呼ぶのは違うのではないでしょうか。

ほら、愛ちゃん先生と姫さんが剣呑な眼差しをレミアさんとハジメの間で行ったり来たりさせてるし。

 

「ミュウ、レミア。すまない、巻き込んじまったな。待ってろ。直ぐに出してやる」

「パパ・・・ミュウは大丈夫なの。信じて待ってたの。だから、わるものに負けないで!」

「あらあら、ミュウったら・・・ハジメさん。私達は大丈夫ですから、どうかお気を付けて」

 

そんな中、ハジメさんはあくまでミュウとレミアさんを気にかけている様子で、完全にスルーされた愛ちゃん先生と姫さんはしょぼくれていた。

そこにフリードが忠告しようと口を開きかけたところに、玉座の方から声が響いた。

 

「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というものは。私にも経験があるから分かるよ。もっとも、私の場合、姪と叔父という関係だったけれどね」

 

玉座の後ろの壁がスライドして開くと、中から金髪に紅眼の初老の美丈夫が現れた。漆黒に金の刺繍があしらわれた質のいい衣服とマントを着ており、髪型はオールバックにしている。

そして、漂うただ者でない気配。

おそらく、こいつが魔王で、アルヴ様とやらなのだろう。

俺の隣に立っているティアも、その姿を見て戦意を瞳に宿すが、人質のこともあってすぐに奥に収めた。

だが、この金髪紅眼という風貌、どこか見覚えがある。

まさかと思ったが、その答えはユエの口からもたらされた。

 

「・・・う、そ・・・どう、して・・・」

「ユエ?」

 

ユエはハジメの呼びかけに気づいた様子もなく、瞳を大きく見開いて真っすぐと魔王を見ていた。

 

「やぁ、()()()()()()。久しぶりだね。相変わらず、君は小さく可愛らしい」

 

魔王がユエに掛けた言葉は、とても初対面とは思えないほど親愛に満ちたものだった。

ここで、俺の推測は確信に代わり、ハジメも気づいたらしい。

そして、ユエが決定的な一言を放った。

 

 

 

 

「・・・叔父、さま・・・」

 

 

そう、目の前にいる魔王こそが、かつてユエを封印した叔父であるのだ。

まさかの事態に俺たちも驚愕を隠せず、そんな俺たちを尻目に魔王は昔の名でユエに語りかけた。

 

「そうだ、私だよ。アレーティア。驚いているようだね・・・無理もない。だが、そんな姿も懐かしく愛らしい。300年前から変わっていないね」

 

魔王は微笑み、ユエは思わず1歩後ずさった。

ユエは震える口で何かを呟こうとしたが、それを制するようにアハトが口を開く。

 

「アルヴ様?」

 

無表情ながらも疑問の声だと分かる声音で尋ねる。おそらく、魔王のユエに対する態度が予想外だったのか。それはフリードたちも同じなようで、僅かに訝しんでいる。

それに対し、魔王はうっすらとほほ笑み、使()()()()()()()()()()手をかざした。

次の瞬間、謁見の間を黄金の魔力の光が埋め尽くし、それが収まった時、神の使徒やフリードたちは全員倒れ伏していた。

突然の出来事で唖然としているユエたちを前に、魔王は緊張の糸が切れたように息を吐き、手を頭上に掲げてパチンッと鳴らして術を発動した。発動したのはどうやら障壁のようだが、通常の攻撃を防ぐためのものではない。

 

「これは、盗撮や盗聴なんかを防ぐ障壁か?」

「そう、私が用意した別の声と光景を見せるというものだ。これで、外にいる使徒達は、ここで起きていることには気がつかないだろう」

「・・・なんのつもりだ?」

 

まるで神の使徒と敵対しているような魔王の言葉に、ハジメが警戒心丸出しで尋ねる。

 

「南雲ハジメ君、といったね。君の警戒心はもっともだ。だから、回りくどいのは無しにして、単刀直入に言おう。私、ガーランド魔王国の現魔王にして、元吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相、ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは・・・神に反逆する者だ」

 

ハジメの問いに、魔王が威厳を以て答えを返した。

俺は警戒心はそのままに、倒れている中村に近づいて脈を調べた。

 

「・・・死んではいないか」

 

俺の言葉に、今にも飛び出しそうだった谷口は胸をなでおろし、魔王・・・ディンリードも「不安にさせてすまない」と謝罪を口にした。

ついでに、神の使徒は一時的に生体機能を停止させたのだと説明した。

俺も油断なく周囲を見回し、ハジメが真意を尋ねようと口を開きかけたが、その前にユエが叫ぶような、必死に否定するような声音で叫んだ。

 

「うそ・・・そんなはずはないっ。ディン叔父様は普通の吸血鬼だった!確かに、突出して強かったけれど、私のような先祖返りじゃなかったっ!叔父様が、ディンリードが生きているはずがない!」

「アレーティア・・・動揺しているのだね。それも、当然か。必要なことだったとは言え、私は君に酷いことをしてしまった。そんな相手がいきなり目の前に現れれば、動揺しない方がおかしい」

「私をアレーティアと呼ぶなっ!叔父様の振りをするなっ!」

 

おそらく、ハジメですら見たことがないだろうユエの興奮している様子に、ディンリードは悲し気にほほ笑む。

対するユエは、荒れ狂う内心に身を任せたように、ディンリードに向けて“雷龍”を放った。

ディンリードは、微笑を浮かべたまま余裕の態度で指をはじき、玉座のある祭壇の縁に沿うようにして障壁を展開した。よほどの強度なのか、ユエの“雷龍”でも突破できる気配がしない。

 

「アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール。歴代でもっとも美しく聡明な女王、私の最愛の姪よ。私は確かに、君の叔父だよ。覚えているかな。私が、強力な魔物使いだったことを」

「なにをっ」

「今の君ならわかるはずだ。当時の私がどうしてあれほど強力な使い手だったのか」

「・・・っ、神代魔法・・・変成魔法」

「その通りだ。更に言うなら、私は生成魔法も修得していた。生憎、才能に乏しく宝の持ち腐れだったけれどね。代わりに変成魔法については頗る付きで才能があったと自負しているよ。相応の努力もした。その結果、単に魔物を作り出すだけでなく、己の肉体に対しても強化を施すことが出来るようになった。寿命が延びたのはそういうわけだよ」

 

あくまでおだやかな表情のディンリードに、ユエはさらに“雷龍”に魔力を込めようとしたが、その前にさりげなくレールガンを放って防がれたハジメが肩に手を置いた。

それでようやくユエは冷静さを取り戻し、“雷龍”を解除した。

そして、語気は荒いままだがディンリードに対して追求し、ディンリードから事情説明がされた。

ディンリードの話によると、アルヴはたしかにエヒトの眷属神で、最初の頃はエヒトの手足となって動いていたが、エヒトの数々の悪逆非道な行いに疑問を持ち続け、そのまま数千年過ごすうちに反逆の意志を抱くようになったらしい。

だが、主神であるリヒトに自分が敵わないと悟っていたから、表向きはエヒトの駒として動きながら、その裏でエヒトに抗いうる戦力を探し続けていたのだという。

だが、肉体を持たないアルヴが地上で活動するには器となる肉体が必要であり、それこそが魔王なのだという。魂の憑依も普通なら器となる人物が拒絶すれば上手くいかないが、自分が神であることを示すことで問題なく憑依で来たのだとか。

その中でも、ディンリードはこの世界の真実を知っている者であったため、アルヴと同志となり、いろいろと助けてもらったのだとか。

それが、ユエが王位に就く少し前のことだった。

ユエを封印したのは、先祖返りとしてとてつもない実力を持っていたから。突出しすぎた力は、ハジメのような“イレギュラー”としてエヒトに殺されてしまうか駒として利用される可能性が高い。

さらに、国の上層部はほとんどがエヒトを信仰する者で占められていた。それはユエの両親も同じであり、無条件に信仰させるのを防ぐためにユエを両親から離し、教師役としてディンリードがついた。

そして、本格的にユエの暗殺が計画されることになり、切り札となるユエを失わないために、暗殺が実行される前に殺したことにして、ユエをオルクスに封印したのだということだった。

この情報はユエの記憶の断片に当てはまるようで、感情が行き場を失ったように瞳が不安定に揺れる。

それでも、ユエは最後の疑問をディンリードに投げかけた。

 

「・・・人質は? 貴方が本当にディン叔父様なら・・・私を裏切っていなかったというのなら、どうして」

 

そう言うと、ディンリードは苦笑しながら「そうだった」と呟き、パチンと指を鳴らすと檻を覆っていた輝きが消えていき、檻自体の鍵も開いたようだった。

囚われていたクラスメイトたちやミュウたちが、キョトンと鍵の外れた扉を見つめる。

 

「こうでもしないと会うことすらしてもらえないと思ってね。それに、いざというときのために彼等を保護するという目的もあった。怪我に関しては許して欲しい。迎えに行ったのが使徒だったことと、彼女達の手前癒して上げることが出来なくてね。一応、死なせないようにと命じてはいたんだ。これからアレーティア共々、仲間になるかもしれないのだしね」

「・・・なか、ま?」

 

ディンリードが言うには、そういうことらしいが、ユエはディンリードから数々の無視できない情報を与えられ、その声音から力をなくしていた。シアたちやクラスメイトたちも、困惑を隠せないでいる。

そんな中、ユエの内心を見透かすように目を細めたディンリードが、微笑みを浮かべながら祭壇から降りて来て、ゆったりとユエに近づいていく。

 

「アレーティア。どうか信じて欲しい。私は、今も昔も、君を愛している。再び見まみえるこの日をどれだけ待ち侘びたか。この300年、君を忘れた日はなかったよ」

「・・・おじ、さま・・・」

「そうだ。君のディン叔父様だよ。私の可愛いアレーティア。時は来た。どうか、君の力を貸しておくれ。全てを終わらせるために」

「・・・力を、貸す?」

「共に神を打倒しよう。かつて外敵と背中合わせで戦ったように。エヒト神は既に、この時代を終わらせようとしている。本当に戦わねばならないときまで君を隠しているつもりだったが・・・僥倖だ。君は昔より遥かに強くなり、そしてこれだけの神代魔法の使い手も揃っている。きっとエヒト神にも届くはずだ」

「・・・わ、私は・・・」

 

ユエはディンリードの言葉に困惑し、ディンリードはそんなユエを抱きしめようとするかのように腕を広げた。ユエは瞳を揺らし、近づくディンリードを拒絶しない。

ディンリードの微笑みはますます深まっていき、あと少しでユエを抱きしめて迎えようとするところまできた。

 

「さぁ、共に行こう。アレーティ」

 

その直前、

 

 

 

ドパンッ

 

ズパパンッ

 

聞き慣れた銃声と共にディンリードが後ろに倒れ込みそうになり、そこに俺がさらに両手足と首を切断し、四肢と胴体、頭にそれぞれ槍を突き刺して追い打ちをかけた。

ディンリードを銃撃した人物は、言うまでもない。

 

「ドカスが。挽き肉にしてやろうか」

 

後ろを振り向けば、そこではハジメがドンナーを構えたまま額に青筋を浮かべていた。

 

「いや、ハジメ。すでに俺が串刺しにしたんだが」

 

俺もそう言いながら、無造作に腕を振り下ろして、倒れている使徒たちとフリードたちに特大の電撃を浴びせて消し炭にした。

そこでようやく、周囲が我を取り戻した。

 

「ちょ、ちょっと!峯坂君!なんで!?なんで恵里を消し炭にしちゃったの!?」

「そうですよ!あとハジメさんもですけど、ユエの叔父さん相手に何してるんですか!?」

「そ、そうだよ!脈絡と躊躇いがなさすぎるよ!ああ、頭を撃たれちゃってるし、首も斬られちゃってるぅ。あ、あと心臓も貫かれて・・・は、早く再生魔法で・・・」

「か、香織ぃ、急いでぇ!超急いでぇ!どう見ても即死級だけど、貴女ならなんとか出来るかもしれないわ!」

「な、南雲はいつかやらかすと思っていたが、まさか峯坂まで・・・」

 

谷口とシアを皮切りに香織と雫が騒ぎ出し、坂上が失礼なことを言いながら戦慄の表情を浮かべていた。

だが、ティオとイズモは顎に手をやって考え込んでおり、ティアも「さすがにちょっと・・・」みたいな表情になりながらも比較的落ち着いていた。

そして、目の前で叔父を恋人とその親友に惨殺されたユエは、

 

「・・・ハジ、メ?ツルギ?」

 

呆然と目を見開きながら、俺とハジメを交互に見ていた。

そんなユエに、ハジメは油断なくディンリードたちに銃口を向けつつ口を開いた。

 

「ユエが自分で区切りをつけるまでは、と思って黙っていたが、どうもユエが動揺しすぎてあの戯言を受け入れそうだったんでな。強制的に終わらせてもらった」

「俺としては、あんな茶番劇、わりと早い段階でさっさと切り上げたかったんだけどな。結局タイミングはハジメに任せたが」

「・・・戯言?茶番劇?どういうこと?」

 

やはり、突然の出来事で動揺しまくっていたらしいユエは気づいていなかったらしい。

これなら、俺がさっさとやっておけばよかったかもしれない。ハジメも、さっさと殺さなかったことを少々後悔しているような感じだった。

 

「いや、どう考えても穴だらけのめちゃくちゃな説明だったからな。下手すれば、バカ丸出しの天之河と同レベルだったぞ」

「ツルギの言う通りだ。ユエだってもう少し冷静であれば気がついただろ・・・まぁ、身内と同じ姿でいきなり登場されちゃあ仕方ないか」

 

まだ完全に理解できていないようで、俺とハジメから説明を入れた。

まず、隠す必要があったにしても、事を終えてからユエを直接迎えに行かなかったこと自体がおかしい。この招待のタイミングからしても、明らかにユエがオルクスから出てフリードたちと対峙した以降、おそらくは王都侵攻の時にユエの存在を知ったような感じだ。でなければ、その王都侵攻でフリードがユエに敵対感情を丸出しで殺しにかかるはずがない。

それに、数千年前から戦力を集めていたというのなら、解放者の話がでなかったことも明らかに不自然な話だ。少なくとも、氷雪洞窟とオルクス大迷宮の内部を熟知しているというのなら、フリードやリヒト以外にも過去に攻略者がいるはずだし、オルクス大迷宮に“真の大迷宮の攻略”のために偵察に行かせるのもおかしい。

さらに、ハジメ曰く、ユエに対して施された封印処置は徹底的に気配を遮断し、自分も死ぬことで完全に秘匿するという、間違いなく死後のことも考えて作られたもので、封印自体に到底ではないが愛情など込められていないという。

たしかに、口ぶりからして真実も含まれているんだろうが、それはむしろ相手を騙すための常套手段だ。

とはいえ、俺たちはディンリードのことを直接知らないし、300年前の時点でユエを迎えに行かなかった理由もわからない。

だから、俺とハジメ、それぞれでディンリードの言葉の真偽を確かめたのだ。

ハジメにはユエの邪魔をしないという目的もあったから俺から手は出さなかったが、俺としてはかなり早い段階で偽物だと気づいていた。

なぜなら、ディンリードの魂にはユエに似通っている部分は皆無で、むしろ他の薄汚い魂魄しか見えなかった。

普通、魂魄は人の身体と密接に結びついており、調和した状態で体の中心で輝いているものだ。そして、ディンリードの魂魄は中村の死霊術のように、死体に魂魄を憑依させたものだった。

だから、わざわざハジメから手を出すまで待ったものの、躊躇なくディンリードを殺害し、神の使徒やフリードたちも消し炭にしたのだ。

もちろん、ディンリードの魂魄がどこかに封じられている可能性も0ではなかったが、ハジメが撃つまで待った分まで探査した結果、あの体にディンリードの魂魄は一片すらも残っていない。

だから、さっさとぶち殺すことにしたのだと纏めると、他のメンバーもポカンとしながら「たしかに」とうなずき始めた。

ついでに言うなら、今までの話し方も不自然だった。

まるで、インパクトの強い情報を羅列することでごり押しして、無理やりユエを手中に収めようとするかのような、一時的にでも引き込めればいいという口ぶりだった。

 

「そういうことだから、あれの言っていたことには正当性の欠片もない、信じる理由なんて微塵もないってことだ」

「ツルギの言う通りだ。それにな・・・」

 

すると、俺の言葉に続いて、ハジメが未だ苛立ちが収まらないような口ぶりで、

 

「なにが“私の可愛いアレーティア”だぁ、ボケェ!こいつは“俺の可愛いユエ”だ!大体、アレーティア、アレーティア連呼してんじゃねぇよ、クソが。“共に行こう”だの抱き締めようだの、誰の許可得てんだ?ア゛ァ゛?勝手に連れて行かせるわけねぇだろうが。四肢切り取って肥溜めに沈めんぞ、ゴラァ!!」

「「「ただの嫉妬じゃない(ですかっ)!」」」

 

おい、ハジメ。お前はそっちが限りなく本音だろ。俺が丁寧に説明した時間を返してくれ。

まぁ、ぶっちゃければ、ハジメが「娘さんをください」って丁寧に接する光景自体思い浮かべないわけだが。どれだけ相手が好印象でも、「娘さんはいただきました、異論は認めません」ってなるに決まっている。

そういう俺だって、「娘さんはもらいました。認めないならどうぞかかってきてください」を実演したわけだから、あまり強く言えないわけだが。

そして、ハジメの本音を受けたユエは、

 

「・・・ハジメが嫉妬。私に嫉妬・・・ん。嬉しい」

 

未だ敵地とあって若干自制しているものの、あふれる喜びを隠しきれていなかった。

とはいえ、これでユエも正気に戻ったようで、完全に我を取り戻したようだった。

 

「・・・ハジメ、格好悪いところを見せた。ごめんなさい。もう大丈夫だから」

「謝る必要なんてない。ユエの中で、奈落に幽閉される前の出来事がどれほど大きいものか、俺はよく知っているから」

「・・・ハジメ。好き。大好き」

 

あ~あ。またイチャイチャし始めやがった。

 

「お前ら、いちゃつくのは後にしとけ・・・まだこれからだぞ」

 

俺がそう言った直後、パチパチと拍手の音が響いた。

 

「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね。まさか、そんな理由でいきなり攻撃するとは・・・人間の矮小さというものを読み違えていたようだ」

「勘違いすんな。こんな真似をする奴がハジメ以外にいてたまるか」

 

思わずツッコミを入れてしまったが、気を取り直して、声のした方に視線を向けた。

そこには、何事もなかったかのようにたたずんでいる、まったく無傷のディンリードの姿があった。




「そういえば、まだイズモのところにもお付き合いの挨拶に行かなきゃいけないんだよな」
「そういえば、そうだな」
「それで、ツルギさんはなんて言うつもりなんですか?」
「ツルギなら、やっぱり誠実に・・・」
「今のところ、『イズモとお付き合いしていただいてます、異論はありませんよね?』で通すつもり・・・」
「南雲君とあまり変わらないじゃない!」
「考えてみれば、私の時も結局は力づくだったわよね・・・」

やっぱりどこか似通っているハジメとツルギの図。


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さっくりツルギも虐殺に加担させました。
基本的にハジメの肩を持っていますし、これくらいはね?

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