二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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リヒトの真意

ハジメの銃撃と俺の斬撃+串刺しがあったにも関わらず、ディンリードには少しの傷跡も残っていなかった。床に突き刺さったままのゲイボルグがなければ、白昼夢を疑うようなレベルだ。

 

「ったく、随分とタフなんだな。斬った時に傷口がつながらないように細工して、ゲイボルグもしっかりと固定したはずなんだが」

「あの程度で拘束される私ではない。だが、せっかくこちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは・・・あの御方に面目が立たないではないか」

「・・叔父様じゃない」

「ふん、お前の言う叔父様だとも。ただし、この肉体はというべきだがね」

「・・・それは乗っ取ったということ?」

 

ユエの尋問に、ディンリード、いや、その皮を被った神は口元をニヤーと裂きながら口を開こうとするが、その前に俺が答えを出した。

 

「いや、厳密には死体に憑依したってのが正しいだろうな。降霊術師でも似たようなことはできるんだ。神サマとやらができてもおかしくはない。おそらく、ディンリードがユエを隠したことにエヒトが癇癪起こしてかつての王国を滅ぼしたんだろう。なら、殺したのは十中八九、向こうのご自慢の使徒だな」

「・・・ふん、減らず口を。だが、いいのかね?実は・・・」

「今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれない、ってのはなしな。ありきたりすぎてつまらん。あと、死に際にディンリードがユエを憎んでいたってのもなしな。悪役なら、もうちょっと凝った台詞を考えろよ」

「・・・・・・」

「あぁ、どこに隠れてるかまでは知らんが、そっちの戦力もさっさと出してこい。ハジメの魔眼石は誤魔化せても、俺の天眼は誤魔化せないからな」

 

あの体にも魂魄にもディンリードの魂魄が欠片もないのは確認済みだ。今のユエはともかく、俺にも揺さぶりをかけるなら、もうちょっと頭をひねってほしい。

それに、倒れていた中村やフリードが本人ではなく何かしらのアーティファクトであることも、変成魔法や生成魔法によって識別能力がさらに向上した“看破”によって見抜いていた。だから、遠慮なく消し炭にしたわけだし。

俺の言葉を受けて、神、おそらくはアルヴの表情が消え、スッと片腕を上げた。

俺も両手に双剣を生成しようとした直後、

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

後ろにいた天之河が()()()()()聖剣を振り下ろしてきて、それを防ぐために生成した黒剣を天之河の防御にまわさずを得なくなった。

 

「っ」

 

そこに、ユエの頭上から白銀の光が真っすぐと振り落ちて来た。

あれがろくでもないものだと瞬時に察した俺は、ある魔法を行使した。

 

「“堕識ぃ”!」

「“震天”!」

「おおぉぉっ!」

 

その直後、何もない空間から中村、フリード、リヒトが現れ、中村はユエに、フリードはレミアとミュウに、リヒトは俺に向けてそれぞれ魔法や攻撃を放った。

 

「お返しだ、イレギュラー」

「駆逐します」

 

さらに、アルヴがお返しと言わんばかりに特大の魔弾を放ち、神の使徒数十体が一斉に俺たちに襲い掛かってきた。

ハジメは苦虫をかみつぶしたような表情になるが、俺は即座にハジメに目配せした。

すなわち、「ここは俺に任せてユエをどうにかしろ」と。

ハジメは「なに?」と一瞬眉を寄せるが、その答えはすぐに出た。

なぜなら、中村とフリードの魔法も、俺以外を狙った神の使徒の攻撃も、すべて明後日の方向へと飛んでいったから。

例外は、俺を狙ったリヒトの拳と数体の神の使徒の双大剣、アルヴの魔弾、そして、ユエの頭上の光だけだ。

 

「ちっ、“二倍加速(ダブルアクセル)”!」

 

俺は舌打ちしながらも、即座に再生魔法で俺の時間を少しの間2倍に加速させ、白剣を神の使徒の隙間を縫うように投擲、包囲網を抜けた先で白剣を基点に転移し、アルヴの魔弾を神の使徒が現れた空間に向けて逸らした。

そこで、ハジメたちも行動に移るが、今度こそ神の使徒や中村たちの意識はしっかりとハジメたちを捉えており、それぞれハジメたちの足止めに動いた。

ハジメたちも、ユエの頭上の光に対応するだけの余裕がない。

せめて俺がユエを突き飛ばせればと体勢を整えるが、

 

「はあぁっ!」

「くそっ」

 

俺の転移先を予測していたリヒトが、俺のすぐ近くにまで迫っていて、そっちを対処せざるを得なかった。

せめて、ユエがその場から逃げれればと、一瞬だけユエの方に目を向けたが、俺の視界に移ったのはティオともども中村の“堕識”によって一瞬呆けてしまい、動けないでいるところだった。

ティオも中村の跳び蹴りによって吹き飛ばされ、まずいと思ったときには手遅れだった。

 

ユエは、光の柱の中に閉じ込められてしまった。

 

「ユエっ!」

「ユエさん!」

 

ハジメとシアが、思わずといったように焦燥に駆られた声音で叫び、俺も対処できなかったことに歯噛みした。

昇華魔法“蜃気楼”。位置情報を強引にずらすことことによって対象の攻撃を外させる魔法だったが、下手に刺激しないために十分な準備ができなかったことに加え、クラスメイトたちやミュウたちにも使ったせいで、効果が不十分だった。

結果的に、天之河の攻撃を防ぐために動いた俺は効力が切れてしまい、神であるアルヴと神の力によるものだろう光の柱は誤魔化すことすらできなかった。

もっと言えば、安全をとるためにかなり強引な方向に捻じ曲げたから、同じ手は警戒されて使えない。

というより、半端な援護自体、目の前のリヒトが許さないだろう。

 

「もうすぐ、私の悲願が叶うのだ。大人しくしてもらうぞ!」

「悪いが、そんなことも言ってられないんだよ!」

 

ユエに降り注いでいる光がロクでもないことくらい、すぐに想像できる。なんとかして、ユエを救出しなければならない。

 

「ちっ。できれば、こいつは使いたくなかったんだがな」

 

俺はそう呟きながら、自分の宝物庫の中から赤黒い刀身の短剣を取り出した。

リヒトは、俺が取り出したものを一目で理解したらしく、興味深そうにつぶやいた。

 

「ほう、毒か。それも、魔物の魔力を使った」

「ご名答。ついでに言えば、さらに強化したものだがな」

 

1人で表のオルクスに潜っていたころ。食料調達のために魔物の肉から魔力を抜いて食べていたが、抜いた魔力をそのまま捨てるほど俺は考えなしではなかった。

なにせ、魔物の魔力は人間には劇毒だ。使わないのはもったいないだろう。

このナイフは、抜いた魔物の魔力を剣製魔法によって液状にしてとっておいたものを圧縮・硬化させ、刃にしたものだ。

使う機会がなかった分、神代魔法によってさらに強化された毒は、人間相手であればほんの少し斬られただけで死に至るし、それなりの量を流し込めばおそらく使徒も殺せるはずだ。

もちろん、俺としてもこんなものを開発し、使うのは気が引けたが、戦争であれば武器は多ければ多い方がいいと割り切っていた。

まさか、こんなところで使うことになるとは思わなかったが。

リヒトと言葉を交わしながらちらりと周囲を確認すると、ミュウとレミアさんはハジメのクロスビットによる結界である程度の安全を確保できたものの、アルヴによってさらに魔物と使徒、魔人族、人間族が召喚されていた。人間族はおそらく、中村によってさらなる強化が施された傀儡兵だろう。

ハジメはユエの救援に向かい、ティアとイズモもハジメを援護するように動いているが、使徒の妨害にあって思うように動けないでいるし、シアは愛ちゃん先生たちを守るのに、ティオ、雫、坂上、谷口も大勢の魔物や魔人族、傀儡兵に囲まれており、身を守るのに精いっぱいといった感じだ。ティアとイズモも、ハルツィナ樹海で似たような相手との戦闘は経験済みだが、使徒と実際に戦うのは初めてなこともあって攻めあぐねている。

そして、香織はなぜか天之河から襲われており、状態異常回復の魔法も通用していないようだった。

パッと見た限りは、天之河の意識が誘導されているようにも見えた。おそらく、中村によって()()()()()“縛魂”され、中村の思う通りの天之河にされた、というところか。

とはいえ、この状況を把握するのに使った時間は0.5秒。それがリヒトを目の前にしてとれる最大限の時間であり、分析する時間はなかった。

さらに、使徒が何体か俺のところに来た。

この状況は、かなりやばい。

 

「“禁域解放”!」

 

俺は即座に昇華魔法を発動して、一瞬だけ自分のステータスを10倍にまで引き上げ、魔力爆発でリヒトや使徒を吹き飛ばし、

 

「“魔導外装・展開”、“接続(コネクト)”!」

 

俺の奥の手である“魔導外装”を一瞬で展開・接続まで済ませた。

 

「“魔剣・虹玉(こうぎょく)”!」

 

さらに、昇華魔法による強化を3倍にまで落としてから、全属性の魔剣を、各属性ごとに10本ずつ生成、俺の周囲を円状に回転させるように展開した。

このまま俺もユエの救出に向かおうとするが、

 

「行かせません」

 

俺の魔力爆発の範囲外にいた別の使徒が分解の光を纏った双大剣で俺の魔剣を片っ端から消滅させていった。

元々手数重視の武器、耐久力は度外視だ。さすがに使徒の分解に耐えれるとは思っていない。

 

「いや、行かせてもらう」

 

俺は毒短剣を腰のホルスターに納め、再び白黒の双剣を両手に、今度は俺も分解を付与して突っ込んだ。

使徒は俺を迎撃しようと双大剣を振るうが、俺は小刻みにステップを刻むことで動きに緩急をつけ、無数の残像を魔力を使わずに生み出すことで使徒の目をかいくぐりながら首を切り飛ばしていく。

ハジメのいるところまで、あと30m。

 

「っ、止まりなさい!」

「“三倍加速(トリプルアクセル)”!」

 

さらに10体の使徒と魔物の大群が俺に向かってきたが、俺の時間を3倍に加速させて隙間を潜り抜けながら首を斬り落としていく。

ハジメのいるところまで、あと20m。

 

「止まりなさいと言っているのです!!」

「“千断・斬”!」

 

もはや連携もなく、壁となって使徒が俺の道を塞ごうとしたが、空間を直接斬ることで使徒を両断して突破した。

ハジメのいるところまで、あと10m。

ここまでくれば、もう十分だ。

 

「“震天・(つらぬき)”!」

 

空間の振動を一点に集中して威力と貫通力を増大させた“震天”を、アルヴとフリードにむけて放つ。

フリードは飛びずさることでこれを回避し、アルヴはハジメの壁になっているティオへの攻撃を中断して障壁を展開することでなんなく防いだ。

だが、これでいい。

 

「行け、ハジメ!」

「おう!」

 

俺の呼びかけにハジメは力強く応え、数体の使徒を粉砕してとうとう光の柱にたどり着いた。

 

「ユエっ!!」

「ッ!!」

 

ハジメの呼びかけにユエは口を開くが、声はでない。肩で息をしていることから、そうとう魔法を行使したようだ。表情に焦燥と苦痛を浮かべ、時折何かを振り切るように頭を振っていることから、もう余裕がないのは明らかだ。

 

「ぶち壊してやるっ」

 

ハジメはパイルバンカーを取り出し、光の柱に当てた。

阻止しようと飛んできた使徒は、俺がハジメの後ろに転移して迎撃することで時間を稼ぐ。

そして、ハジメのパイルバンカーのチャージが完了し、引き金を引いた。

 

ゴガァアアアアアアアン!!!

 

凄まじい轟音と共に、パイルバンカーが光の柱を貫いた。

ここで、俺は疑問を覚えた。

なぜ、ユエの魔法でも傷一つつかなかったのに、今になってあっさりと貫通を許したのか。

そして、なぜこの局面になって、アルヴは余裕の表情を崩していないのか。

 

「・・・まさかっ」

 

その答えに行きついた瞬間、ハジメがさらに“豪腕”と“振動破砕”の合わさった義手の拳によって、光の柱を完全に破壊した。

地上へと降り注いでいた光は氾濫したように荒れ狂い、光の粒子を撒き散らしながら、一時的に周囲からハジメとユエの姿を隠してしまう。

かろうじて、ハジメの傍にいたおかげでなんとかハジメとユエの姿を見ることができた俺は、ユエを視た。

 

「っ、ユエ!」

 

ハジメも嫌な予感がしたのか、必死にユエに向かって呼びかける。

 

「ユエっ」

「・・・ここにいる」

 

何度目かの呼びかけに、ユエはようやく応え、ハジメの胸の中に飛び込んだ。

だが、俺はわかってしまった。

ユエが、すでに違う何かに乗っ取られていることに。

 

「よかった。ユエ、なんともないか?」

「・・・ふふ、平気だ。むしろ、実に清々しい気分だ」

「あ?ユエ?お前・・・ッ」

 

ハジメも途中で気づき、急いで距離を取ろうとしたが、少し遅かった。

至近距離から、ユエの細腕がハジメを貫こうとし・・・

 

 

 

 

「・・・これでいいんだよな?()()()

 

 

 

 

その直前、俺はハジメとリヒトを空間魔法で入れ替えた。

 

「がはっ」

 

ハジメと位置を入れ替えたことで、ユエの細腕はハジメの代わりにリヒトの腹を突き破り、代わりにリヒトは()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「えっ、父さん!?」

 

光の奔流がやみ、俺たちの姿を見て1番に反応したのはティアだった。

他の面々も、何が起こっているのかわからずに困惑している。

特にひどいのは、フリードだ。

 

「なっ!?リヒト、貴様!なんのつもりだっ!!」

 

フリードの表情は、まさに弟の愚行に怒り狂っているようにも見える。

それについて答える前に、俺は飛びずさって使徒の隣に立ち、リヒトと位置を入れ替えて再生魔法によって傷を治した。

身代わりに使った使徒は、入れ替えた直後に業火に呑まれて消し炭になった。

 

「・・・どういうことだ?」

 

心臓を刺されたユエ・・・いや、エヒトは、細めた目でじっと俺とリヒトを見据える。

これに俺は、簡単に答えた。

 

「本当に神殺しを為そうとしていたのはリヒトだった。それだけの話だ」

「なっ!だが、貴様らはそんなこと、少しも話していなかっただろう!!」

 

俺の返答に、フリードが理解できないといったようにまくし立ててくる。

俺はどうしたものかと一瞬眉をひそめたが、ハジメやティアたちも気になっているようだったから、説明することにした。

 

「最初に違和感を感じたのは、王都侵攻の時だ。あの時のリヒトは半端ない殺気を放っていたが、よくよく探れば殺意や敵意は微塵も感じなかった。ついでに言えば、アルヴのことについて一言も言及していなかった。この時点で、リヒトの目的が別にあると疑った。確信を持ったのは、氷雪洞窟の書庫だ。あそこは魔法とかの技術書や美術に関する資料なんかは大量にあったが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。オルクスの書庫には歴史書が充実していたことから、オスカーに対抗意識を持っていたらしいヴァンドル・シュネーの氷雪洞窟の隠れ家にないのはおかしい。ここで、リヒトの目的が神殺しであることを完全に察した」

「そっ、それだけでは不十分だろう!!」

「考えてみれば、ティアの件に関しても不自然だった。グリューエン大火山で会った時点でも、人間族軍の横やりが入った程度で逃がすなんて考えづらい。わざと見逃したんだろうって考えに思い至ったのも、そのことに気づいてすぐだ。おそらく、ティアに施した魔物化の実験は、エヒトの器を人為的に作る目的もあったんだろう。魔石を埋め込んだ後も変成魔法をかけ続ければ、魔法の適性も上げることができるだろうからな。そのことに気づいたリヒトは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あわよくば、神殺しに足る人物を味方につけることも見越してな」

 

俺の解説に、ハジメたちは「え?マジで?」みたいな表情で顔を見合わせ、ティアは思わずリヒトの方を見て涙を流し、イズモと雫が慰めていた。

それでも、フリードはまだ納得できないようで、疑問をぶつけてくる。

 

「だ、だがっ、お前たちは間違いなく本気で殺し合っていた!」

「そりゃあ、そうだ。リヒトに負ける程度じゃ、とうてい神に勝てるはずもないしな。それに」

 

そう言って、俺はちらりとティアを振り返り、

 

「曲がりなりにも、ティアを奪った身だ。本気の殺気には本気の殺し合いで挑むのが筋だろう?」

 

そんなわけあるかっ!と雫やクラスメイト達からツッコミの念が送られたが、気づかないふりをした。

ハジメもうんうんとうなずいてシアたちから呆れた視線を向けられていたが、それも見えないふりをした。

フリードはようやくリヒトの神殺しの意志が本当であると理解したようで、血走った目でリヒトをにらみつけるが、ふと何かに気づいたかのように余裕の表情を取り戻した。

 

「ふんっ、だが、短剣で刺した程度で、神が死ぬはずがないだろう?」

「いいや、殺せる。そいつは、俺特製の毒だからな」

 

そう言った直後、エヒトの方からカランと音が鳴った。

見れば、短剣の柄だけがエヒトの足下に落ちていた。

 

「その短剣は、魔物の魔力を元に作った毒でできている。魔物の魔力が人間に毒なのは、魔力の流れが比較にならないほど速いからだ。魔物には、それを制御するために徐々に魔石が生成されるが、魔石を持たない人間は魔力の流れを制御できずに体組織を破壊され、絶命する」

 

このことは、すでにこの世界で仮説の1つとして存在するものだ。俺が今説明したのは、それが正しいということだけ。

だが、ここからが重要だ。

 

「この魔物の魔力を使った毒の肝は、()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。体という器を破壊されたら、器をなくした魂魄は数分で消滅する」

 

これも、魂魄魔法を習得した俺やハジメたちならすでに知っていることだが、そこで気づいたようだ。

俺の考えた神殺しというのを。

 

「それは、神であろうと同じだろう?」

 

ついさっき、アルヴが言っていた。地上で活動するには、相応の器が必要であると。

逆に言えば、器がなければ神であろうと地上では消滅しうるということだ。

 

「すでにお前の魂魄は捉えたし、今まで集めた魔物の魔力の毒はすべてお前の中に注ぎ込んだ。たとえ途中で逃げ出そうとしても、俺が逃がさないぞ」

 

俺がそう言うと、フリードや他の魔人族が焦燥の表情を浮かべ、ついで怒りに満ちた顔でエヒトが逃げる時間を稼ごうと動き出そうとした。

 

「ふふふ、ハハハハハハ!!」

 

その直前に、エヒトが笑い始めたことで、魔人族の動きも止まる。

そこで、俺もようやく気付いた。

エヒト、厳密にはユエの身体が、微塵も崩壊していないことに。

 

「その程度で、この我を殺せると思っていたのか?この程度の毒に適応できるように改造することなど、造作もないことだ」

 

そう言って、エヒトは自信の指を傷つけ、傷口から赤黒い液体をまるで意思があるかのように操作しながら取り出し、そのまま地面のシミにした。

 

「我ながら、お前を殺せてユエも助け出せる、一石二鳥の手だと思ったんだがな」

「残念だったが、まだ足りぬなぁ、人間?」

 

少し悔しそうに頭を掻く俺に対し、エヒトは盛大に口元に嫌らしい笑みを浮かべて煽ってくる。

やっていることからしても相当性格がねじ曲がっているだろうと思っていたが、実物はさらにうざいことこの上ないなぁ。

そう思っていたのだが、急にエヒトの態度が変わった。

浮かべる笑みや心底見下しているような声音は変わらない。だが、確実に何かが変わった予感がした。

 

「だが、そうだな。人間に我を殺せなくとも、貴様は別であろうな?」

 

そう言って、真っすぐに俺を見据え、衝撃的なことを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、神の末裔よ?」




しばらくは、小話は無しですかね。
全力のシリアスにネタをぶっこむのは、自分にはできませんでした。
前回?あれはまだセーフです。

さて、今回は2つほどぶっこんでみました。
一応、伏線と言えるかどうかわからない伏線はあったので、それを回収した形になりますが。
剣君のことに関しては、次回をお待ちください。

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