二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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魔獣の産声

「ふん。神の力を開花させたとはいえ、所詮は人間の領域。私に敵うはずもなかったか。まったく、無駄な努力であったな」

 

ツルギの心臓を握りつぶしたエヒトは、つまらなさそうな表情で腕を引き抜き、その拍子に落ちたティアとペアルックのペンダントを視線も向けないで踏みつけにした。

ツルギが殺されるのを、ハジメたちは見ることしかできなかった。

だが、仮に神言による拘束がなかったとしても、果たして何ができたか。

それほどに、先ほどのツルギの一撃は何よりも速く、鋭いものだった。ともすれば、ハジメのドンナーを上回るほどの。

にもかかわらず、エヒトはあっさりと受け止め、逆にツルギの心臓を握りつぶした。

クラスメイト達は何が起こったのかわからないといったように呆然としており、ハジメやイズモたちは一刻も早く拘束を解いてツルギの遺体を取り戻し、魂魄魔法で蘇生しようともがき、リヒトも拘束を解くために力を集中していた。

 

「いや、いや・・・」

 

その中で、ティアだけは他と違った。

その表情は絶望の色で塗りつぶされ、涙を流しながらうわ言のように「いや」と呟くだけ。

だが、それは最初だけの話。

 

 

 

 

 

 

「イヤアアアァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、ティアの悲鳴と共に、先ほどのツルギと同等の魔力の奔流がティアを中心に巻き上がった。

その色は、本来の翠色ではなく、どす黒い赤。あり得ないはずの色の魔力の奔流は、ティアの身体を覆い尽くしていき、外から見えないほどに膨れ上がった。

さらに、その奔流はエヒトの神言すら弾き飛ばし、ハジメやイズモたちも動けるようになったが、ティアに起こっている現象がわからないでいる。

だが、ハジメだけは魔眼石によって、ティアの身体に起こっている異変に気が付いた。

 

(こいつは、“悪食”と同じ・・・!)

 

ハジメから見たティアの体は、すべてが赤黒い魔力で満たされており、本来の翠の魔力はどこにも見当たらない。

そして、ティアの心臓部にある魔石がティアの身体を侵食していっているのを確認して、そこでハジメは戦慄を覚えた。

つまり、今のティアは、自らの身体を本当に魔物のように変化させているのだ。それも、フリードが強化したような魔物ではなく、それこそ“悪食”のような規格外の化け物のように。

もちろん、ハジメもユエが奪われたことに対して、今までにないくらいの怒りの感情が渦巻いている。それこそツルギの行動がなければ、今にでもエヒトに襲い掛かろうとしていたくらいに。

だが、ティアの感情の爆発は、それこそハジメの怒りを上回っていて、ハジメも幾分か正気を取り戻すほどだった。

おそらく、爆発した感情が魔力の暴走を引き起こし、さらにその感情が魔力に乗せられて概念を形作っているのだろうと推測したが、今のハジメにどうにかすることもできない。

そうこうしているうちに暴風のような圧力と共に魔力の奔流が解除された。

中から現れたのは、ティアとは似ても似つかない化け物だった。

髪は血のようにどす黒くなり、肌には爬虫類のような鱗が所々に現れている。爪や犬歯は鋭くとがっており、目も本来の翠が見る影もなく、黒目が赤に、白目が黒に染まっていた。

そして、なにより目を引くのが、臀部から生えた竜のような尻尾だ。だが、表面は人肌のようなもので覆われており、見る者に怖気さすら感じさせる。

その容姿は魔物というにはあまりに禍々しく、赤黒い魔力を身に纏う姿は、もはや魔獣と言うべきものだった。

その中で平静さを保っているのは、エヒトとアルヴだけだ。

 

「ふむ、ずいぶんと醜い姿になったものだ。このような姿になるのなら、この者を器にしなかったのは正解であったな」

「我が主よ。いかがいたしますか?」

「どうでもよいことだ。この肉体がある以上、あの者にこだわる理由もない。だが、このまま殺さずに生かしておくのも、それはそれで面白そうだ」

 

この会話が聞こえたのか、それともエヒトしか眼中になかったのかはわからないが、ティアはエヒトを見据え、雄たけびを上げながらエヒトに突撃した。

 

「ヴヴゥ、ア”ア”ア”ア”ァァァーーーー!!」

 

ティアの上げる雄叫びは、もはや人のものではなく、獣と称すべきものだった。

床の岩石を砕きながらエヒトに迫るが、スピードは先ほどの剣と比べて格段に遅く、使徒が間に入る方が早かった。

 

「行かせません」

 

使徒は双大剣を交差させ、防御の姿勢を取りながらティアと相対する。

対するティアは、無造作に右腕を振り上げ、双大剣の上から殴りつけた。

たったそれだけで、使徒は目に留まらぬ勢いで吹き飛ばされ、エヒトの真横を通り過ぎて壁を貫通していった。

 

「っ、使徒様と主様を守れ!」

 

ここでようやく、魔人族が動き始めた。ハジメたちの周囲に展開させていた魔物の一部を、ティアに襲わせる。

スピードだけなら、強化された魔物でも十分対処できる。

だが、その選択は間違いだった。

 

「ア”ア”ァァ!」

 

ティアは両サイドから襲い掛かってきた狼を鷲掴みにし、その隙をついた他の狼がティアに噛みつくが、牙は少しもティアの肌を傷つけることができない。

それどころか、ティアに触れていた狼は、次第にその体がティアと一体化していき、最終的にティアの身体に飲み込まれてしまった。

その後も、灰竜やオーガといった数々の魔物がティアに襲い掛かるが、例外なくすべての魔物がティアに傷1つつけることもできず、逆に取り込まれてしまった。

魔人族は目の前のあり得ない事態に困惑するが、ハジメは目の前で起きた現象が何かを理解し、声を張り上げた。

 

「お前ら!絶対にティアに触れるな!今のティアは、触れた生物をすべて取り込んで力に変える概念の化け物だ!捕まったら、絶対に逃げられないと思え!」

 

ハジメの言う通り、今のティアは自らを概念に組み込むのではなく、自分そのものを概念にして異形化していた。

その概念は、“全テヲ喰ラウ獣”。名前の通り、自らに触れた生物すべてを取り込み、自らの肉体として強化する概念だ。

よく見れば、ティアの身体には今まで取り込んだ魔物の特徴が新たに現れている。

最初の使徒が取り込まれなかったのは、双大剣で防御していたからだ。おそらく、生身に攻撃を受ければ、成すすべなくティアの身体に取り込まれただろう。

ハジメの警告は敵にも知らせるものだったが、今のハジメにそれを気にする余裕はなかった。

なにせ、今のティアの様子を見た限り、下手をすればツルギの遺体やユエの身体さえも取り込みかねない。

だが、ティアを止めるには、決してティアに触れてはいけないし、だからといって殺してしまうのは論外だ。

幸い、無機物や魔法ならティアに取り込まれることはないが、それでも今のティアを拘束し続けること自体難しい。元々使徒の拘束のために開発したアーティファクトはあるが、その使途を軽々と吹き飛ばすティアにどれほどの効果があるのかはわからないのだ。

ハジメはどうするべきか、必死に頭を回す。

今のティアなら、あるいはエヒトに届くかもしれないが、確証はないし、それでユエの身体を取り込ませるわけにもいかない。

今の最善手は、なんとかしてティアの正気を取り戻すこと。

だが、

 

(ツルギがいない今、俺たちにそれができるのか?)

 

ティアの変異のトリガーは、ツルギの死亡だ。

なら、手っ取り早いのはツルギを蘇生することだが、そのためには少なからずエヒトとアルヴを相手取る必要があるし、最悪ティアからも身を守らなければならない。

さらに、仮にツルギの遺体を取り戻せたとしても、魂魄魔法による蘇生には長い時間がかかる。その間、今のティアを殺さずに抑えることが、果たしてできるのか。

少なくとも、ハジメには即答できるほどの自信はない。

使徒や魔人族の意識がティアに向けられているおかげで意識の大半を思考に割くことができているが、名案は浮かばない。

 

「っ、私がなんとかしなきゃ!」

 

すると、考える暇もないと雫が“縮地”を使って一気にエヒトに肉薄しようとした。

雫のスピードは、“禁域解放”を使えばハジメパーティーにも引けをとらない。

エヒトからツルギの遺体をかっさらうくらいなら、なんとかできるかもしれない。

そう思っていたが、

 

「行かせないよ、雫」

「くっ」

 

雫が動き出した直後に、光輝が間に割り込んできた。

雫は思わず歯噛みしながらも、黒鉄を抜刀して光輝に立ち向かう。

 

「どきなさい、光輝!私たちは、早くツルギを助けて、ティアを正気に戻さないといけないのよ!」

「そんなことはさせない。峯坂は、平気で人を殺す悪人なんだ。そんな危険な奴を蘇生させたら、次は誰が犠牲になるかわからない。あの魔物も、あとで俺が倒せばいい。そうすれば、皆助かるんだ。だから、雫こそ俺たちの邪魔をしないでほしい」

「このっ・・・!いい加減にしなさい!!」

 

光輝の自分勝手な、それこそ雫の想いを踏みにじるような発言に、雫は怒りをあらわに光輝に立ち向かう。

今、光輝に構っている暇はない。早く光輝を気絶させて、ツルギを回収しなければ。

その焦りが、致命的な隙を作ってしまった。

 

「行かせないよぉ。“堕識”!」

「っぅ」

 

横から恵里に“堕識”をかけられてしまう。

それでも雫は一瞬で立て直したが、使徒の力を手に入れている恵里にその一瞬は致命的だった。

恵里の双大剣による一撃をなんとか防いだものの、ツルギとの距離は開いてしまった。

それでも、なんとかツルギの遺体を回収しようと雫も策をめぐらすが、ティアが行動する方が早かった。

 

「ァアアアアアアア!!」

 

いつの間にか、ティアの周りには魔物が一切いなくなっていた。ティアに襲い掛かった魔物を、ティアがすべて取り込んだということだ。

邪魔がなくなったことでティアは再び咆哮をあげ、エヒトに迫る。

 

「ふん、ただの獣が、身の程を知るがいい。“捻れる界の聖痕”」

 

エヒトがそう言うと、ティアの頭上に空間の歪みによって作られた十字架が5本浮かんだ。

エヒトは視線だけでそれを誘導し、十字架をティアに落とした。

最初の1本をティアの背中に、時間差で残りの4本をティアの四肢に落とすことで、ティアを完全に押しつぶし、さらに十字架を固定することであっさりと自由を奪った。

ティアは必死にもがくが、ティアが吸収できるのは生物体であり、魔法は喰らえない。

だが、これはハジメたちにとっても好都合だった。

ティアが動けなくなったタイミングで、一斉にツルギの元に向かおうと足を踏み出そうとする。

それを、エヒトが許すはずもなかった。

 

「“喰らい尽くす変生の獣”」

 

シアたちの足下の床が石の狼のように変形し、その爪や牙をシアたちの身体に突き刺して動きを奪う。

香織は即座に分解で拘束を解こうとするが、

 

「エヒトの名において命ずる、“機能を停止せよ”」

「ぁ」

 

使徒の管理者権限によって香織の機能を停止させ、香織をあっさり無力化した。

エヒトは、今度は雫たちに向けて言葉を紡ぐ。

 

「“捕える悪夢の顕現”」

「っ、あ」

「ひっ」

「う、あ」

 

それだけで、雫たちは本当に現実に起こったと錯覚するほどの暗示をかけられ、首や手足が繋がっているか確認するように手を当てるが、立てそうにもなかった。

 

「“四方の震天”」

「がはっ!」

 

リヒトがため込んだ力を爆発させてエヒトに肉薄しようとしたが、周囲全ての空間を爆砕する衝撃波に見舞われ、その場に崩れ落ちた。なんとか腕をついて倒れるのは避けたが、立ち上がる気配はまったくない。

これで、残りはハジメだけとなった。

 

「くそっ・・・!」

「ふむ。まぁ、こんなものだろう。我が現界すれば全ては塵芥と同じということだ。もっとも、この優秀な肉体がなければ、力の行使などままならんかっただろうがな。聞いているか?イレギュラー」

 

エヒトの煽りに、ハジメは言葉を返せない。

なんとかクロスビットを動かそうとしても、レミアたちの護衛にまわしていたものも含めてとてつもない重力によって地面に縫い付けられ、クラスメイトたちも使徒に阻まれて援護に行けない。

それならばと、オルカンなどの爆発物で使徒やシアたちを貫いている石の狼を吹き飛ばそうと宝物庫を輝かせるが、それを読んでいたらしいエヒトが指をパチン!と鳴らすと、ハジメの指に嵌まっていた宝物庫が消えて、エヒトの手元に現れた。

いや、ハジメのものだけでなく、シアたちの宝物庫も収まっている。どうやら、ゲートを作らずに複数の対象物をピンポイントで転移させたらしい。

それだけでなく、ドンナーやシュラーク、黒鉄など、ハジメが手掛けた数々のアーティファクトがエヒトの前でクルクルと回転しながら浮いていた。

 

「よいアーティファクトだ。この中に収められているアーティファクトの数々も、中々に興味深かった。イレギュラーの世界は、それなりに愉快な場所のようだ。ふふ、この世界での戯れにも飽いていたところ。魂だけの存在では、異世界への転移は難行であったが・・・我の器も手に入れたことであるし、今度は異世界で遊んでみようか」

 

そう言って、エヒトが手を握り締めると、全てのアーティファクトが粉みじんとなって崩れ落ちた。宝物庫の中に収納されていたものもまとめて破壊されたらしく、中からアーティファクトが飛び出てくることもない。

 

「クソッたれ!」

 

ハジメは舌打ちしながらも、ハジメは身一つでエヒトに突貫した。

武器を奪われても、ハジメのステータス自体が十分な凶器だし、義手のギミックも残っている。これらを駆使すれば、ツルギの遺体を奪還するだけなら何とかなるかもしれない。

だが、それはエヒトも同じだったようで、

 

「おっと、忘れるところであった」

 

エヒトが指に魔力を込めてパチンと鳴らすと、ハジメの義手がゴバッ!と音をたてて崩壊した。

ハジメの義手には疑似的な神経が通っており、触覚はもちろん、痛覚も感知できる。

突然左腕を粉砕された激痛に、さしものハジメも左肩を抑えてうずくまる。

 

「がぁああああ!!」

「よく足掻くものだな。その魔力といいステータスといい、お前を器とするのも良かったかもしれんな。300年前に失ったはずの我が器が、生存していたことに心が逸ってしまったか・・・いや、魔法の才が比較にならんか」

 

紅い魔力の奔流を受けながらも、エヒトは気にした様子もなくユエの体をじっくり観察しながら思案顔になる。

まるで、ハジメのあがきなど取るに足らないというかのように。

 

「舐、めるなああぁぁぁぁぁ!!!」

 

それを見たハジメは、さらに魔力をより強く、より激しく吹き上がらせた。

“限界突破・覇潰”。今まで限界突破で倒せない敵がいなかったハジメが、エヒトというはるかに格上の相手と対峙したことで、ついに開花したのだ。

 

「我が主!」

「よい、よい、アルヴヘイト。所詮、羽虫の足掻きだ。エヒトルジュエの名において命ずる、“鎮まれ”」

 

エヒトが神言に用いた名は、先ほどハジメを拘束したエヒトの真名だ。

これに、うねりを上げていたハジメの魔力が強制的にその輝きを収めていく。

だが、

 

「ぁああああっ!!」

 

ハジメが再度絶叫を上げると、魔力の奔流が明滅を繰り返し始めた。

つまり、僅かにだが、エヒトの真名を用いた神言に抗ったのだ。

これを見たエヒトは、顔を邪悪にゆがめる。まるで、新たな玩具を見つけたかというように。

 

「ほぅ、まさか我が真名を用いた“神言”にすら抗うとはな・・・中々、楽しませてくれる。仲間は倒れ、最愛の恋人は奪われ、親友を殺され、頼みのアーティファクトも潰えた。これでもまだ、絶望が足りないというか」

「当たり、前だ。てめぇは・・・殺すっ。ユエもツルギも、取り戻すっ・・・それで終わりだっ」

「クックックッ、そうかそうか。ならば、そろそろ仕上げと行こうか。一思いに殲滅しなかった理由を披露できて我も嬉しい限りだ」

 

血反吐を吐きながら殺意を溢れさせるハジメに、エヒトは笑いながら右手を軽く振り上げる。

そこで、ふと気づいた。

ツルギの心臓を握りつぶした時に付着した血液が、未だにこびりついていることに。

その直後、付着していた血液が刃となってエヒトの腕を貫いた。

 

「なんだ?だが、今さら何を・・・ぐっ、こ、これはっ」

 

最初は訝し気にしていたエヒトだったが、次の瞬間には表情を苦悶に歪ませる。

そう、ツルギはタダでは殺されていなかった。

自らの血液にも概念を付与させることで、エヒトとユエのつながりを“斬ろう”としたのだ。

それでも、ツルギ自身が生きて発動するよりも効果は落ちたが、ユエが抵抗する余地を生み出すには十分だったようだ。

 

『・・・させない』

 

空間に響くのは、エヒトが発するものと同じでありながら、ハジメたちからすればずっと可憐で愛らしい声。

 

「ユエっ!」

「ユエさん!」

 

ハジメたちが、声に喜色を乗せて叫ぶ。

シアたちは拘束から抜け出して立ち上がろうとし、ハジメも活力をみなぎらせ、エヒトに踏み込もうとした。

だが、

 

「くっ、図に乗るな、人如きが。エヒトルジュエの名において命ずる!“苦しめ”!」

 

脂汗をかきながらも放った真名を用いた神言によって体にすさまじい激痛に襲われ、さらに痛みに対して耐性のあったハジメはおよそ100倍はあるだろう超重力によって地面に縫い付けられてしまった。

 

「・・・アルヴヘイト。我は一度、【神域】へ戻る。お前の騙りで揺らいだ精神の隙を突いたつもりだったが・・・やはり、開心している場合に比べれば、万全とはいかなかったようだ。こやつの横槍のせいでもあるが、信じられぬことに我を相手に抵抗している。調整と人形を作る時間が必要だ」

「わ、我が主。申し訳ございません・・・」

 

アルヴの最初の語らいの目的は、ユエの心を一瞬でも開かせることでエヒトの憑依を完全なものにするためだったが、それをハジメとツルギによって妨げられ、少しでも精神にゆさぶりをかけるために放とうとした言葉もツルギによって遮られてしまった。

精神をすでに立て直していたユエとツルギの妨害があっては、さすがのエヒトも完全に憑依することはできなかったようだ。

アルヴは恐縮するが、エヒトは軽く手を振ってこたえた。

 

「よい。3,4日あれば掌握できるだろうし、こやつの死体を使って人形を作るのも1,2日あれば十分だ。この場は任せる。フリード、恵里、共に来るがいい。お前達の望み、我が叶えてやろう」

「はっ、主の御心のままに」

「はいはぁ~い。光輝くんと2人っきりの世界をくれるんでしょ?なら、なんでもしちゃいますよぉ~と」

 

苦しみに悶えるハジメたちを尻目に、エヒトはどうにかユエの意識を抑え込んだようで、アルヴたちに指示を出すと手を頭上に掲げた。

すると、ユエに降り注いだものと似たような光の粒子が舞い上がり、天井の一部を消し去って天へと昇るゲートを作り出した。おそらく、エヒトの言う神域に通じるものなのだろう。

エヒトは掲げた腕を下ろすとツルギの遺体と共にふわりと浮き上がり、天井付近からハジメ達を睥睨した。

 

「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。可愛らしい抵抗をしている魂に、身の程というものを分からせてやらねばならんのでね。それと、4日後にはこの世界に花を咲かせようと思う。人で作る真っ赤な花で世界を埋め尽くす。最後の遊戯だ。その際は、極上の人形を用意するとしよう。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている。もっとも、この場で死ぬお前達には関係のないことだがね」

 

どうやらエヒトは、本気でこの世界を終わらせて、今度はハジメたちの世界、地球で同じことをするつもりのようだ。

そして、そのタイムリミットが4日。ユエの肉体を掌握し、ツルギの遺体を用いた使徒を作り出すのに必要な時間。

 

「ま、てっ、ツルギと、ユエを、返せ・・・!」

 

ハジメは神言を解き、超重力に抗いながら立ち上がって、魔力をほとばしらせながら飛び上がろうとする。

だが、超重力の影響を受けていない神の使徒がすぐにハジメを組み伏せ、分解魔法によって仕込んでいた錬成の魔法陣を霧散されてしまった。

 

「ぐっ、おおぉぉぉ!!」

 

ハジメに続き、リヒトも傷ついた体に鞭を打って立ち上がるが、ハジメと同じように超重力をかけられて再び膝をついてしまう。

それでも、ハジメとエヒトは瞳に宿る戦意を微塵も衰えさせず、エヒトをにらみつける。

それを一瞥したエヒトは、口元を歪めて鼻で笑ってから、上空のゲートへと登っていった。

それにフリードと恵里、光輝も続いていく。

恵里は光輝の耳もとに近づいて何かを囁き、光輝も納得顔で頷いた。おそらく、理想の正しさを植え付けられているのだろう。その証拠に、真の敵であるはずのエヒトを前にして騒ぎもせず、むしろ仲間であるはずの雫たちに何かを決意したような視線を向けている。

鈴も、恵里に向かって何かを言おうとするが、苦痛によってそれも叶わない。

さらに3人に続いて神の使徒、傀儡兵、魔物も浮かび上がり、半数ほどが天へと昇っていった。

城の外では、おびただしい数の使徒や魔物、魔人族が上空のゲートを目指していく。

魔人族も、このことを知らされていたのか歓声を上げながら、自らゲートへと向かっていく。

エヒトは、そんな彼等に艶然と微笑むと、そのまま溶けるように光の中へと消えていった。

 

「ツルギぃいいい!!ユエェエエエエエエエエエッ!!!」

 

ハジメの絶叫がむなしく木霊し、手を伸ばしても何もつかめない。

 

 

この日、ハジメは最愛の人物と最高の友人を、同時になくした。




思ったより書くのが難しかったのと、大学の実習とかがあった関係で遅くなりました。
実習は終わりましたが、次は車検の合宿があるので、投稿の目途はあまりたっていません。
それでも、できるだけ早めに投稿できるように頑張ります。

余談ですが、皆様は新型コロナは大丈夫でしょうか?
自分の方も、新型コロナが原因で大学の実習の予定が大幅変更になりました。
いろいろと大変なことになっていますが、皆さんも手洗いうがい予防をしっかりしましょう。

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