二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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タダでは終わらない

「ツルギ・・・ツルギぃ!!」

 

俺が姿を見せて地面に降りた途端、ティアは瞳に涙を浮かべて思い切り抱きついてきた。

先ほどまで大暴れしていたからか、抱きつく力はまだ弱いが、絶対に離さないと言わんばかりにしがみついてくる。

 

「ツルギ、ツルギぃっ・・・!」

「やれやれ、甘えん坊なのは変わらないな」

 

苦笑を浮かべながらティアの頭を撫でていると、背中と右腕にも誰かから抱きつかれた。

首を動かすと、背中にはイズモが、右腕には雫が抱きついていた。

 

「なんだ、雫とイズモも甘えん坊か?」

「・・・ツルギは、もう少し私たちのことを考えるべきだ」

「そうよ・・・目の前でツルギが殺されて、私たちがどういう思いで・・・」

 

俺は半ば茶化すように口を開いたが、2人の言葉で苦笑を消した。

たしかに、いくらこうして現れたとはいえ、あの時に、目の前で俺が殺される光景を見せつけてしまったことに変わりはない。

そのとき、他のみんながどのような気持ちだったか・・・想像に難くない。

 

「そう、だな。すまない。心労をかけさせてしまって」

「・・・もう少し、このままでいさせてくれ」

「そうしたら、許してあげるから」

「あぁ、好きなだけそうしてくれ」

 

2人の要望を、俺は甘んじて受け入れる。2人に味合わせてしまった絶望や失望に比べれば、むしろ軽すぎるくらいだ。

3人に抱きつかれたままじっとしていると、今度は正面からアンナがやってきた。

相当抵抗したのか、衣服はあちこち破けており、手に持っているナイフもボロボロだ。

 

「ツルギ様・・・」

「アンナ・・・お前にも、いろいろと心配をかけたな」

「いえ・・・私も、()()()も、こうしてツルギ様が戻って来てくださったのなら、それで十分です」

 

俺の謝罪に、アンナは姿勢を正して頭を下げる。

アンナの言う私たちとは、ティアや雫、イズモはもちろん、ハジメたちのことも含まれているのだろう。

本当に、いつの間にか俺の周りにも人が増えたものだ。

その事実に思わず苦笑を浮かべると、ハジメがアンナの後ろから近付いてきて、俺に問いかけてきた。

 

「さて、そこの4人にはわりぃが・・・いろいろと質問させろ。いったい、どういうことだ?お前は、エヒトに殺されたんじゃなかったのか?」

「当たり前だろ?心臓を握りつぶされたわけだし」

 

俺だって元は人間だし、むしろ心臓を握りつぶされても生きていられるのは、“自動再生”を持っているユエしかいないだろう。

 

「なら、今のお前は一体何なんだ?まさか、大迷宮の記録媒体みたいなものか?」

「まさか。俺は俺だ。偽物でも、記録媒体でもない」

「だったら・・・」

「答えは、エヒトが言っていただろ?」

「あのクソ野郎が?・・・まさか」

 

エヒトの煽りを青筋を浮かべながら思い出していって、ハジメも気づいたようだ。

 

「そう。この刀に、俺自身を組み込んだ、って。つまり、こいつは“無銘”であり、俺でもあるってことだ。原理的には、香織の魂魄を使徒の体に定着させたのと近いか。この体も、剣製魔法で作った魔力体だ」

「だが、あれはエヒトに折られただろ?つーか、なんでバレなかったんだ?」

「折られた程度で黙る俺だと思ったか?それに、あの手のバカは、一度壊した道具には目もくれないからな。まぁ・・・」

 

俺はそう言って、虚空に腕を伸ばす。

すると、何もないところからもう1本の“無銘”が現れた。

折られた方の“無銘”も、折れた切っ先が浮かんで近づき、眩い光を放つと共に折れる前の姿に戻った。

 

「万が一、こっちの“無銘”が分解されたときに備えて、空間の位相をずらした場所にも予備を生成しておいたからな」

 

最初に大量の魔力を収束させたとき、その陰に隠れてこことは違う位相にもこっそりと“無銘”を作っておいた。

どのみち、俺がこうして復活する分にはまったく問題なかった、というわけだ。

 

「・・・相変わらず、用意周到だな。だが、まさかとは思うが、あそこでお前が死んだことも、わざとじゃねぇよな?」

「当たり前だ。もちろん、あの時は殺すつもりで戦った。俺だって、自分が死ぬ前提の作戦なんてくまねぇよ」

 

俺がしたのは、あくまで死んだときのための備えであって、初めから死ぬつもりだったわけではない。

結果的に、備えが功をそうしたというだけだ。

 

「そんで、今聞いときたいのはこれで最後だが、その体でどれだけ動けるんだ?」

「そうだな・・・ぶっちゃけると、もって1週間、ってところか。まぁ、あくまで戦うことを前提にした日数だし、その分、最終的には前の体よりも動けるように仕上げるつもりだ」

「えっ、ツルギ、まだ戦うつもりなの?」

 

俺の言葉に、ティアがハッと顔を上げる。

その目には、もう無理はしないで欲しいと浮かんでいた。

ティアの気持ちも分からなくはないが、そうも言っていられない。

 

「戦うにしろ戦わないにしろ、この体には限りがあるし、そもそも俺の死体はエヒトに持っていかれたんだ。きちんと返してもらわなきゃな・・・!」

 

俺の体を好きにいじくるとか、今考えるだけでもはらわたが煮えくり返る。そのけじめをつけなきゃ、俺の気が治まらない。

それに、

 

「どのみち、4日後には向こうから攻めてくる。戦いは免れられないだろう。そのためにも、一度情報を整理しておこう」

 

俺は優しくティアたちを引きはがして立ち上がった。

そこで、ふとあることを思い出した。

 

「そういえば、ハジメが持ってた魔法陣、全部ダメになったんだよな」

「あぁ。隠してたのも1つ残らずバラバラにされちまった」

 

ハジメの言葉に、俺はふむと頷き、ハジメに昇華魔法を使った。

 

「おい、何をしたんだ?」

「お前の“錬成”を最終派生まで開花させた。つっても、2つしかないが。その中に“想像構成”もあるから、錬成に限れば魔法陣無しで発動できるぞ」

「「「「は?」」」」

 

何でもないような俺の説明に、ハジメたちはあんぐりと口を開けた。

そもそも、昇華魔法の真髄は情報への干渉だ。派生技能を目覚めさせるくらい、どうってことないと思うが。

それにもちろん、こっちの方が都合がいい。

 

「さっそくなんだが、先にそこの魔人族を檻で囲っといてくれ。言っちゃあなんだが、作戦立案には邪魔だし、ここに来て抵抗もしないだろう」

 

今残っているのは、女子供と老人だけの一般人だ。先ほどのティアの姿を見て、俺たちに襲い掛かっては来ないだろうが、念のためにある程度拘束しておく必要がある。

それに、ここに来て殺してしまうというのも、精神衛生上、あまりよくない。

 

「ったく。わあったよ」

 

それは、ハジメもわかっているのだろう。大人しく俺の指示に従い、サクッと床の石で檻を作り出した。

 

「すまない、気を遣わせてしまって・・・」

 

後ろから、リヒトが頭を下げてきたが、俺は軽く腕を振るにとどめた。

 

「なに、気にするな。っていうか、これくらいの名目がないとハジメがサクッとやりかねないし」

 

何をするのかは、ここでは口にしまい。

 

「ほら、お前らもさっさとこっちに来い。お前らだって、無関係じゃないからな」

 

続いて、俺はクラスメイト達にも号令をかけた。

立て続けに起こった出来事でいろいろと困惑しているようだったが、一応は俺の指示に従ってこっちに近づいてきた。

この後、ハジメに巨大なテーブルとを2つイスを人数分用意してもらい、それぞれ席に着いたところで俺が話を切り出した。

 

「さて、今確定しているのが、エヒトとやらはユエの体を乗っ取って、俺の死体も持ち去った。エヒトの言葉が正しければ、ユエの体の掌握と俺の死体を使った人形の製作に、合わせて4日かかる」

 

俺の確認に、一同が痛ましそうな表情になった。

だが、当のハジメには微塵も諦めた気配はなく、シアたちも微塵も揺るがない決意を瞳に宿す。

俺たちの中では、ユエや俺の体の奪還はもはや決定事項であり、必ず取り戻せると確信している。だからこそ、暗い表情になる理由はどこにもない。

俺も頷き、情報整理を続ける。

 

「ユエを奪還するには、あいつらの言う神域とやらに突入する必要があるが、リヒトはどこまで聞かされている?」

「俺が聞いたのは、神域は魔人族の楽園であり、そこに迎えられることでさらに高位の種族になれる、ということくらいだ。だが、あやつの言葉が正しければ、魂魄だけでも存在できるように整えられた、奴ら専用の世界、という方が正しいかもしれん。神門とやらも、おそらくはエヒトのみが開ける、神域へのゲートといったところだろう」

「ついでに言えば、入る奴を制限することもできる。暴走状態のティアでも傷1つつかなかったあたり、相当の強度だろう」

「ですが、ユエさんを取り戻すには、どうにかして神域へ行かなければなりませんよね?でしたら、別の対策が必要になります」

「そうね・・・こっちで神域へ行く手段を別に手に入れるか、4日後の大侵攻のときに出現すると予想される神門を、突破できる手段が必要だわ」

「ふむ、直接行く方法としては・・・ご主人様よ。やはり、クリスタルキーは・・・」

 

ティオの問い掛けに、ハジメはため息を吐きながら首を振った。

 

「ダメだ。宝物庫と一緒に、な。確かに、あれがあれば神域へ直接乗り込むことは出来るだろうが・・・ユエがいなきゃ、精々劣化版を作れるかどうかだろう」

「だが、ツルギなら作れるのではないか?」

 

今度はイズモから俺に尋ねられるが、俺も首を横に振る。

 

「たしかに、代わりのクリスタルキーを作るだけなら、どうにでもなるだろうが・・・俺の本命である、俺の体を使った人形・・・ここでは“ヌル”と呼称するが、俺にはそいつとの戦いがある。そいつのステータスが未知数である以上、戦闘前の消耗はできるだけ避けたい。今の魔力体だと、概念1つ作るだけでもバカにならない負担になるからな。世界を超える概念ならなおさらだ。いざ戦うときに体が動かなくなったり、最悪維持できなくなるのは本末転倒だ。だから、4日後まで待って、神門が現れた時に劣化版クリスタルキーを使った方がいいだろう。それなら、座標を指定する必要もないし、クリスタルキーよりかは簡単かつ、同じゲートへの干渉力の強いものを作れるだろう。その辺りは、ハジメに任せる」

 

俺は淡々と今後の予定を組み上げていくが、ここでクラスメイトの方から待ったがかかった。

どうやら、俺たちが俺たちが地球に戻る手段を手に入れたことを知らなかったようで、そのことを雫の口から説明した。

そしたら案の定、驚愕の声があがった。

 

「うるさいっての。どっちにしろ壊されたんだから意味ねぇよ。騒ぐな」

「でも、でも、せっかく帰れるかも知れなかったのに・・・」

「そうだよ!なんとかもう一度作れないのか!?」

「頼むよ、南雲、峯坂!ガッツを見せてくれ!」

 

園部や野村、玉井が懇願するような言葉を送り、他のクラスメイトもそれに賛同する。

そのすべてを、俺が斬り捨てた。

 

「なんども言わせるな。ハジメだけでは同じものを作れないし、俺も消耗を避けるためにここで作るわけにはいかない。そもそも、さっさと帰ったところで、今度は地球があのクソ野郎に狙われるんだぞ。俺たちの第一目標はユエと俺の体の奪還だが、それを抜きにしても地球への帰還は後回しだ」

「うっ、そう言えば・・・」

「確かに、そう言ってたな・・・」

「ちくしょうぉ・・・もう、放っておいてくれよぉ」

 

俺の正論に、クラスメイトは顔を覆ったり机に突っ伏したりして嘆くが、それを尻目に俺は話を続けた。

 

「とりあえず、さっきも言ったように、方針としては劣化版クリスタルキーを作ったうえで神門を突破する方がいいだろう」

「そうだな、口惜しいが・・・4日後の大侵攻まで待つしかないだろう」

「アルヴヘイトが戻らないことを気にして、向こうから出て来てくれたら楽なんだけど・・・」

「まっ、それはないだろうな」

 

おそらく、エヒトはユエの体を完全に掌握するまではでてこないだろうし、“ヌル”を作り上げるにも1日かけると言った以上、同じく引きこもるはずだ。

 

「・・・それ以前に、勝てるのかな?」

 

そうぽつりと呟いたのは、谷口だ。

エヒトに手も足も出なかったことを思い出しているのだろう。その表情には濃い影が差している。

それでも敢えて、俺は軽く口にした。

 

「勝つに決まってるだろ」

 

俺の軽い口調に、谷口は少しムッとした表情で反論した。

 

「・・・手も足も出なかったのに?」

「そうだな。だが、それでもだ」

「どうして、そう言い切れるのっ!言葉一つでなんでも出来て、魔法なんか比べ物にならないくらい強力で、おまけに使徒とかフリードとか魔物とか・・・恵里と・・・光輝くんまで向こう側に・・・正真正銘の化け物なんだよ?」

 

どうやら、少し心が折れかけているようだ。

それくらいに、先ほどの敗北は衝撃的で、自然と委縮してしまうのだろう。

それでも、俺は言った。

 

「で?それが?」

「え?」

「たしかに、手も足もでなかった。だが、俺たちにとどめを刺さずに帰っていった。それも、自分たちの情報を与えた上で、だ。つまり、向こうは俺たちを見くびってるってことだ。そういう馬鹿を出し抜くことくらい、呼吸と同じくらい簡単なことだ。そもそも・・・」

 

そう区切って、俺は視線をハジメに移す。

ハジメも俺の意図に気づいたようで、口を開いた。

 

「お前らも、忘れてないか?俺は、お前等が無能と呼んでいたときに奈落へ落ちて、這い上がって来たんだぞ?」

「あっ・・・」

 

谷口が思わず呆け、絶望の表情を浮かべてうつむいていたクラスメイト達も顔を上げる。

 

「誰の助けもない、食料もない、周りは化け物で溢れかえっている。おまけに、魔法の才能もなくて、左腕もなかった・・・だが、生き残った。なら、同じことだ。相手が神だろうと、その軍勢だろうと、な」

 

ハジメの眼がギラギラと殺意に輝き、犬歯をむき出しにして口角を上げる。

その獰猛な姿に、いくつか生唾を呑む音が聞こえる。

俺もハジメの言葉に頷き、続きを口にする。

 

「ユエも俺の体も奪い返すし、あのクソ野郎もきっちり殺す。自分が神で特別だと勘違いしているバカに、キツイ仕置きをくれてやるさ」

「あぁ、攻守どころの交代だ。俺たちが狩人で、奴が獲物だ。地の果てまでも追いかけて断末魔の悲鳴を上げさせてやる。自分が特別だと信じて疑わない自称神に、俺こそが化け物なのだと教えてやる」

 

ハジメの言葉に、俺は苦笑を漏らしつつも頼もしさを感じる。

なにやら、一部の女子が頬を赤くしている気もするが、見ないふりをして谷口に視線を向けて尋ねる。

 

「谷口。もう無理だって言うなら、目を閉じて、耳を塞いで待ってろ。俺たちが全部、終わらせてやる」

 

これは、谷口に気を遣っての言葉ではない。むしろ、谷口を試す言葉だ。

ロクに言いたいことも言えないまま、相手にされないまま、終わってもいいのかと。それでもいいと言うなら、中村を始末することを含めて終わらせてやると。

逆に言えば、ここで谷口が立ち上がるようなら、あとは好きにやらせるということでもある。

そして、同じ問いを含んだ視線を雫と坂上にも向ける。あの2人にも、天之河のことがある。ここで俺たちに任せるのであれば、当然、天之河は抹殺コースだ。

俺の言わんとすることはハジメも同じで、同じ問い掛けを視線に宿す。

しばしの静寂の後、最初に口を開いたのは谷口だった。

その表情に先ほどまでの陰鬱な雰囲気はまったくなく、決然とした表情を俺たちに向ける。

 

「必要ないよ、2人とも。恵里のことも光輝くんのことも鈴に任せて。神域でもどこでもカチ込んでやるんだから!」

 

いつものムードメイカー然とした雰囲気を放ちながら、ニッと笑う。

その雰囲気に触発されて、今度は坂上が声をあげる。

 

「だぁあああああっ!よしっ、くよくよすんのは終わりだ!南雲たちや鈴にばっか格好はつけさせねぇ!光輝の馬鹿野郎は俺がぶっ叩いて正気に戻してやるぜ!」

 

坂上は胸の前で片手の掌に拳を打ち付け、同じく不敵に笑う。

俺の見た限り、坂上も何もでなかったことに自信喪失気味だったが、もう心配はいらないようだ。

雫もそれを見て、「ふふふ」と笑った。

 

「そうね。光輝の馬鹿にはキツイ、それはもうキツ~イお仕置きが必要だし、恵里のあのニヤケ面は張り倒さないと気が済まないわ・・・そ、それに、ツルギの行くところなら、どこでもついて行くつもりだし・・・そのずっと、ね・・・」

 

ちらちらと俺に熱い視線を向ける雫に周囲が「まさか?」みたいな雰囲気になる。

そうだよ、雫からも告白されたよ。ついでに言えば、イズモのことも受け入れているよ。今は言わんけど。

こそこそ話しているクラスメイトからいったん視線を外し、ハジメたちに向き直る。

 

「なら、神域突撃組は、ハジメ、シア、ティオ、坂上、谷口、雫だな」

「・・・あれ?ツルギは?」

「ツルギ君、私は?」

 

俺の提案に雫と香織から疑問の声が挙がる。

俺は若干雫に申し訳ない視線を向けながら、理由を口にした。

 

「エヒトが言っていた限り、“ヌル”は大侵攻で使徒と共に降りてくるだろう。俺はそいつを迎え撃つ必要がある。香織は、エヒトには使徒の創造者権限があるから、また無力化されないとも限らない。だから、地上にお留守番だ」

「あぁ・・・そう言えば、そうだったわね」

「うっ、言われれば、そうかも・・・」

 

俺の言葉に、思い切り恥ずかしい勘違いをした雫は羞恥に顔を赤くし、香織もバツが悪そうな表情になる。

それでも、雫はすぐに気を取り直して、違うことを尋ねた。

 

「それなら、地上に残るツルギたちはどうするのかしら?」

「これから、そのことを話すつもりだ」

 

そこでいったん言葉を区切って、ハジメの方に視線を向ける。

 

「まず、神門を塞いで使徒の侵攻を食い止めることはできないだろう。神門への影響は、エヒトの方がでかいだろうからな。だから、現れる使徒を迎撃する必要がある。ハジメとしても、何もかもエヒトの思い通りにさせるつもりはないだろう?」

「あぁ、この世界の住人がどうなろうと知ったことじゃないが・・・だからと言って、今際の際に虐殺された人々を思って高笑いなんてされたら不愉快の極みだ。だから、使徒も眷属も、フリードも、その魔物共も皆殺しコースだ。奴のものも、その思惑も、根こそぎ全部ぶち壊してやる」

 

やる気満々でけっこう。ずいぶんとあくどい笑みを浮かべているが、今回は流しておこうじゃないか。

一部の女子がハジメにポーと熱に浮かされたような表情を浮かべているが、それもこの際は放っておいて、今度は姫さんに視線を向ける。

 

「そういうわけで、今回はハジメも協力的だからな。だから、ハジメ謹製のアーティファクトを大解放させるつもりだ。細かい部分は後で詰めるが、まずは全員に武装させて、対空兵器も完全配備させるところから始めようか。まぁ、4日しかないから、それなりにシビアなところではあるが・・・その辺は、そっちも協力してくれるだろ?」

 

俺の問い掛けに、姫さんは考え込むように瞑目し、一拍後に口を開いた。

 

「使徒の襲撃で混乱はしていると思いますが、幸い、私達を攫うことに目的を絞っていたようなので、一般兵や騎士団にはさほど被害はないはずです。しかし、それでも4日以内に動員できる戦力には限りがあると思います。一騎当千の使徒相手に十分と言えるかは・・・それに、仮に人数を集めたとしても、それだけの数の、それも使徒に対抗できるほど強力なアーティファクトを用意できるのですか?また、どこから侵攻してくるかもわからないままですし・・・」

「侵攻場所については、あらかた予想できる。おそらく、神山から来るはずだ。あそこは、地脈的にもっともエヒトが干渉しやすい場所のようだからな。アーティファクトに関しては、おそらくなんとかなると思うが・・・そういえば、どうやって集めるか、まだ考えてなかったな・・・」

「それなら問題ない」

 

俺が兵士を集める方法に頭を巡らせると、ハジメの方から声がかかった。

 

「実は、替えの効かないものとか、いくつか重要なものはシュネー雪原の境界で、ゲートをくぐる前に転送しておいたんだ。地中に」

「ということは、ゲートキーも無事ってことだな?」

「あぁ。何かあったとき、ミュウ達を逃がすためにと応用の利くクリスタルキーは持って来たから裏目に出たが・・・羅針盤とか攻略の証とか残りの神水とか・・・もちろんゲートキーも埋まっているはずだ。あ、あと、香織の元の体な。地中だから比較的冷えているだろうし、大丈夫だとは思うが・・・なるべく早く掘り返さないと氷が溶けて土葬になっちまう」

「か、回収をっ!回収を急がないとっ!私の体が・・・」

 

香織があわあわし始めるが、何気にファインプレイだった。なにせ、あのまま香織の体を宝物庫の中に入れっぱなしにしていたら、香織の身体がおじゃんになるところだった。

まぁ、さすがにちょっとやそっとじゃ溶けないだろうとはいえ、土葬と聞かれて慌てるのも仕方ないだろう。

慌てる香織をハジメが撫でて落ち着かせたところで、姫さんがさらなる問題を指摘する。

 

「なるほど、よく分かりました・・・しかし、もう1つ、問題があります。果たして、4日後に世界が終わるかもしれないと言われて、一体、どれだけの人が信じて集まってくれるか・・・まして、戦うのが使徒となれば、最悪、こちらが悪者になる可能性も・・・」

「それについては問題ない。香織とティオ、イズモ、俺で再生魔法を使う」

「再生魔法・・・ですか?」

 

聞き覚えのない魔法に姫さんが首を傾げるが、香織たちは俺の言わんとすることを察したようで、ポンと手を叩く。

 

「過去の光景を“再生”するんだね?メルジーネの大迷宮で体験したときみたいに」

「そういうことだ。ここであったことを再生して、映像記録のアーティファクトに保存して、各地の上層部に見せる。ひとまず、ブルックのキャサリン、フューレンのイルワ、ホルアドのロア、アンカジのランズィなら頭から疑ってかかることはないだろうし、フェアベルゲンのアルフレリックと帝国のガハルドはすでに真実を知っている。他と比べれば、比較的戦力を集めやすいだろう」

 

ここに、姫さんと王都のギルドマスターが加われば、指揮系統に関してはなんら問題ないだろう。

それにしても、随分と豪華なメンバーと知り合いになったものだ。やっぱ、こういう時に人とのつながりは役に立つ。

すると今度は、ハジメがなにやらニヤリと笑って愛ちゃん先生の方を見た。

 

「それと後は、先生に扇動でもやらせればいいんじゃないか?」

「えぇ!?わ、私ですか!?っていうか扇動!?」

 

愛ちゃん先生は突然名指しされたことに慌てるが、割といい案ではある。

愛ちゃん先生はすでに、“豊穣の女神”として信仰されつつある立場にある。ウルでの出来事もあるし、エヒトへの当てつけにもちょうどいいだろう。

それに、このハジメの提案で、面白いことを思いついた。

 

「ツルギ、何を考えているの?」

「今のツルギ、さっきの南雲君と変わらない、あくどい笑みを浮かべてたわよ」

 

思わず口角が吊り上がったのを、ティアと雫に指摘されてしまった。

 

「いやなに、こうなったら、愛ちゃん先生にも、とことん協力してもらおうと思ってな」

「えっ!?わ、私に何をやらせるつもりですか!?」

「そうだな・・・これくらいなら、ここで作っても問題ないか」

 

愛ちゃん先生の言葉には耳を貸さず、俺は剣製魔法を行使して、1つのペンダントを生成した。

 

「えっと、これは?」

「こいつは、エヒトが神になるための魔法を元に作ったペンダントだ」

「えっと、それはどういうことですか?」

 

姫さんの問い掛けに、俺はなるべく簡単に答える。

 

「詳しい説明や推測はここでは省くが、エヒトは元から神だったのではなく、信仰を力に変換する術式を使って神性を手に入れたんだ。こいつには、その考えを元に作った術式を組み込んである。違うのは、信仰心を変換して得た魔力を信仰者に還元する、ってことだ。これをつけて愛ちゃん先生が“豊穣の女神”としての立場を存分に見せつければ、兵士たちをさらに強化することができる」

「え、えぇ・・・」

「とはいえ、こいつはまだ粗削りだ。微調整はハジメに任せる」

「おう、任された」

「け、決定事項なんですか・・・」

 

ハジメもすでにノリノリになっている中、愛ちゃん先生はいまだに渋っている。

おそらく、自分に向けられる“豊穣の女神”コールを想像しているのだろう。

ハジメは苦笑を浮かべながら、愛ちゃん先生に“お願い”する。

 

「人類総力戦となるべき戦いだ。戦力を集めても烏合の衆じゃ意味がない。強力な旗頭が必要なんだ。それには一国の王くらいじゃ格が足りない。出来るのは愛子先生だけなんだ。いっちょ頼むよ」

 

ハジメの言葉に、愛ちゃん先生はビクン!と震えたが、何かに怯えているというよりかは、なんだろう、聞き逃せない何かを聞き取った、みたいな感じだろうか・・・。

 

「な、南雲君。今、最後の方、なんて言いました?」

「ん?いっちょ頼むって・・・」

「い、いえ、そうではなく・・・私のこと、あ、愛子先生と呼びませんでした?」

「・・・なにか、問題が?」

「い、いえ。南雲君は、いつも“先生”とだけ呼ぶので・・・」

「そうだったか?」

 

ハジメは首を傾げているが、俺はこの辺りでだいたいの展開が予想できた。

というか、愛ちゃん先生の頬とかが赤くなってもじもじし始めた時点で、だいたいの面子がわかってしまっただろう。

 

「そうですよ・・・その・・・もう一度、今の言ってくれませんか?」

「・・・今のって、最後の方を?」

「はい。但し、今度は、“先生”を抜いて・・・」

 

はい、確定しました~。もう完全にそういう関係ですね、そうですね。

愛ちゃん護衛隊の主に男子からも、歯ぎしりの音が聞こえる。

ハジメは助け舟を求めてくるが、シアたちは苦笑しながら首を横に振るだけで、俺たちもなるべく無関心を貫いた。

視線が集中する中、ハジメはため息を吐きながらも、意を決して口を開いた。

 

「・・・愛子、頼む」

「っ!!はい!任せて下さい!もうバンバン扇動しちゃいますよ!社会科教師の本領発揮です!」

 

社会科教師の本分が扇動とか、初めて聞いたよ。

いい具合に、愛ちゃん先生もハジメ色に染まって来ちゃったな・・・まぁ、やる気を出してくれる分には構わないけど。後になって部屋の隅でうずくまることになっても知らないけど。

 

「ご、ごほんっ!な、南雲さん・・・わ、私も頑張りますね!」

 

するとなぜか、姫さんも声を張り上げた。

その瞳からはキラキラがあふれ出ている。

 

「・・・ああ、頑張ってくれ、姫さん」

「・・・頑張りますね!」

「ああ」

「頑張りますね!」

「・・・」

「頑張りますね!」

「・・・」

「が、頑張ります、ね、ぐすっ」

「・・・・・・・・・・・・・頼んだ、リリアーナ」

「リリィ」

「ぐぅ・・・頼んだ、リリィ」

「はい!頼まれました!王女の権力と人気を見ていて下さい!民衆なんてイチコロですよ!」

 

おいこら王女。仮にも真っ当な王族が「民衆を操るなんてチョロい」みたいなことを言うんじゃないよ。

 

「・・・ハジメに関わった女性は、皆変わっていくんだな・・・」

「あぁ、そうだな。ティオ様も・・・」

「そうね、香織も、ね・・・」

「ちょ、ちょっと!元気を出して、2人とも!」

 

ハジメによって知り合いが劇的に変わってしまった代表2人が、遠い目をしながらつぶやく。ティアが必死に励まそうとするが、この2人の、特にイズモの傷は未だに完全には癒えていないのだ。またあとで、俺からも慰めておこう。

 

「・・・続けるぞ。“ヌル”と戦うのは、俺、ティア、イズモだ。他は全員、使徒の迎撃にまわってもらう」

「3人でいいの?」

「むしろ、数が多すぎると攻撃のタイミングを作りづらくなる。俺とティアが前に出て、イズモに中、遠距離で援護してもらう方が戦いやすいだろう」

「わかりました。ですが、リヒトさんは魔人族です。皆さんが受け入れてくれるでしょうか?」

「過去再生には、リヒトがエヒトに攻撃を加えたところも映す。それを上層部に見せておけば、まだなんとかなるだろう。それに、ティアも魔人族だ。あと1人くらい増えたところで今さらだ」

 

それに、いざとなれば変装用のアーティファクトで人間族の姿に似せればいいし、愛ちゃん先生と姫さんの扇動でどうにでもなる。

むしろ、防衛組の最高戦力の1人を出さないわけにはいかないから、勝つために必要とあらば、ひとまずは受け入れてくれるだろう。

それに、ここにいる魔人族の問題もある。ここで変に溝を作りたくはない。

 

「さて、それぞれの目標と役割は決まったな。それじゃあ、これからの予定を伝える。まず、ハジメはオルクスでアーティファクトの量産に入ってくれ。助手にミュウとレミアさん、香織も頼む」

「うん、わかったよ!任せてね、ハジメ君!」

「はいなの!お手伝いするの!」

「私に出来ることは何でも言って下さい」

 

3人から元気のいい返事が返ってくる。

この3人を選んだのは、ハジメの身に周りの世話をするのにちょうどいいということもあるが、ミュウとレミアさんの身の安全のこともある。万が一。人質として再び2人が誘拐されてはたまったものではない。エヒトが奈落50層のユエを感知できていなかったことから、オルクスの隠れ家なら十分大丈夫だろう。

 

「シアは、ライセン大迷宮に行ってくれ」

「・・・なるほど、ミレディさんの協力を仰ぐんですね?」

「その通りだ。神域の情報もそうだが、使えるアーティファクトももらえるだけもらっておいてくれ。この非常時だ。ミレディも出し渋ることはないだろう。ショートカットの方法はわからんが、攻略の証を持っていけばなんとかなるだろ。ブルックの泉で反応しなければ、大峡谷の方から入ってくれ」

「多分、それでも通してくれると思いますが・・・ダメでも、今度は半日でクリアして見せますよ。今の私なら、あの大迷宮は遊技場と変わりません」

「たしかに、そうだろうな。頼んだぞ」

「はいです!」

 

元気に頷くシアに、ハジメが微笑んでいる。やる気満々なのは、俺としてもいいことだ。

 

「ティオとイズモは・・・」

「いや、言われずともわかる」

「うむ。妾たちに里帰りせよということじゃろう?」

「察しが早くて助かる。竜人族と妖狐族にアーティファクトを渡せば、使徒とも十分渡り合えるだろうからな」

「そうじゃな。流石に、竜人族と妖狐族もこの事態で動かんという選択はない。その強さも保証しようぞ。ただ・・・」

「隠れ里は、それなりに遠い。仮にウルから出発しても、ティオ様でも4日以内にたどり着けるかはわからない」

「そこは、ハジメのアーティファクトに何とかしてもらおう。頼むぞ」

「おう」

 

今回の作戦、ハジメの負担がかなりのものになってしまっているが、それでもハジメは迷いなくうなずく。本当に、頼もしい限りだ。

 

「雫は帝国の方に行ってくれ。そこならゲートで行けるし、ゲートキーも複製してもらうから、ガハルドを説得して戦力を王都に送ってくれ」

「それは・・・いいけれど、どうして私なの?」

「まず1つ目に、ガハルドは雫のことを気に入っているからな。俺の方から軽く脅しておいたとはいえ、まだ諦めたわけではないだろう。それと、誓約の首輪のことで恨んでいる奴も多いだろうからな。そう考えると、帝国にある程度歓迎されやすくて腕っぷしもある雫が適任だ。なに、余計なことをするようなら、俺の名前を出してくれ。雫に手を出したら、峯坂ツルギが黙っていないってな」

「っ・・・ずるいわよ。そんな、不意打ちで・・・」

 

雫も、僅かに頬を赤くしながら了承する。

 

「愛ちゃん先生と姫さんは、王都に行って演説で士気を高めて、使徒相手でも戦えるようにしてくれ。あと、リヒトも連れて状況説明を頼む。2人からの説得なら、俺たちが言うより受け入れてくれるはずだ。そして、戦場は神山前の草原にするから、住民の避難誘導もしっかりな」

「わかりました。そうなると、王都の住民は避難させる必要がありますね。ゲートが使えるとはいえ、4日で全住民の避難・・・急ぐ必要がありそうです」

「避難先は帝都にしてもらえ。兵士を引き抜く分、十分な余裕はあるはずだ」

「でずが、峯坂君。空を飛ぶ使徒相手に平原での戦いは不利なのでは・・・」

「空なら香織もリヒトも飛べるし、対空兵器や重火器なんかも用意してもらう。他にもいろいろと準備してもらうつもりだ」

 

そして、今度はクラスメイトの方に視線を向ける。

 

「野村!」

「ぉお!?」

「お前には、王都の職人や鍛冶師、土系統の魔法に適性がある者をまとめて、平原に簡易的な要塞を作ってくれ。要塞と言っても、でかい壁くらいの認識でかまわない」

「お、おう・・・ていうか、なんで俺の適性がわかったんだ?」

「俺なら見るだけでわかる。天職やステータスも含めてな。それはさておき、壁づくりは王都の専門家に詳しいことを聞いてくれ。後でお前専用のアーティファクトも用意してもらう」

「わ、わかった。やってみる」

「次に・・・」

 

そうして、俺はクラスメイト達に次々と指示を出していく。

なにかやることがあった方が緊張がいい具合にほぐれるだろうし、ハジメの兵器の扱い方の理解も多少はある。役目を果たしたやつから、兵器のレクチャーに入ってもらうつもりだ。

 

「あと、谷口と坂上は樹海に行ってハウリアとフェアベルゲンに事情を説明しに行って、戦える奴らを王都に送ってくれ。それが終わったら、谷口はハジメに連絡を入れてオルクスに迎えてもらって、時間いっぱいまで奈落の魔物を手なずけてくれ。坂上は、王都に残ってリヒトと一緒に鍛錬だ」

「わかったよ!」

「お、おう。わかったが・・・なんで俺だけ?」

「逆に聞くが、お前、魔法を、それも神代魔法をまともに使えるのか?」

「うっ・・・」

 

俺の指摘に、坂上は口をつぐむ。本人にも自覚があったのだろう。

だが、ここで終わりではない。

 

「坂上に魔物を手なずけるのは難しいだろうが、変成魔法にはリヒトが使っている“天魔転変”がある。これなら魔法の性質上、坂上と相性がいい可能性が高い。頑張って自分のものにしろ」

 

“天魔転変”とは、魔石を媒体に自分の体を魔物と同じものに作り変えるものだ。この魔法はその性質上、自分の体のことをよく理解している必要がある。

空手を習っていたらしい坂上なら、けっして相性は悪くないはずだ。

 

「おう。そういうことなら、わかったぜ!」

 

俺の説明に坂上も納得し、拳を打ち鳴らす。

ちなみに、俺は基本的に各所に細かい指示を飛ばしつつ、兵士の練度をできるだけ上げるつもりだ。ティアとアンナにも、その補助にまわってもらう。

一通り、今後の予定を話し終え、俺はハジメに視線を向ける。

 

「さて、今回の作戦、ハジメに負担をかけてしまうが・・・」

「構わねぇよ。あのクソ野郎を叩きのめすためなら、これくらい容易いことだ」

「頼もしいな。それで、今回の兵器作成だが・・・」

「おう、どうすればいい?」

 

ハジメは、俺に意見を求めるように真っすぐに見るが、俺はあえて突っぱねた。

 

「俺からは何も言わない。すべてハジメに一任する」

「あ?そんなんでいいのか?」

「構わない。すべて、ハジメの好きにしてもらう」

「・・・つまり、どういうことだ?」

「言い方が悪かったか?なら、敢えてこう言おう。今回、自重も遠慮も一切しなくて構わない。お前の思いつく限りの兵器を作ってくれ。なんなら、地形を変えるくらいのものを作っても何も言わん。すべて、お前の好きにしろ」

 

今回の兵器作成、俺は最初からハジメにすべて一任することにした。

兵器に限れば、俺なんかよりもハジメの方が頭が回る。下手に俺が口を出すよりも、すべてハジメに任せた方がいいだろう。

俺の言葉に、ハジメはようやく意図を察して、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「あぁ、そういうことなら任せろ。度肝を抜くような奴を、大量に用意してやる」

「任せるぞ。あと、こいつを持っておけ」

 

そう言って、俺は懐から鱗状の黒い物体を取り出してハジメに投げ渡した。

 

「これは?」

「さっきのティアの体組織の一部」

「ちょっ、なんてもんを渡してんだよ!」

「大丈夫だ。魔力を込めなきゃ何も起こらん」

 

まぁ、先ほどまで大暴れしたティアの概念を含んだものだから、安全とは言い難いが。

 

「だが、どうしてこいつを?」

「エヒトを殺す分には有効だと思ってな。雫が斬った時、こっそりくすねておいた」

「くすねるって・・・だいたい、こいつがどう役に立つってんだ?」

「さっきティアが発動した概念・・・“全テヲ喰ラウ獣”とでも呼ぶか。こいつは、変成魔法と魂魄魔法で対象の肉体、魂魄を分解したうえで、昇華魔法で情報体として再構築して取り込むってものだが、こいつをちょいといじくって、再構築ではなく消滅に持っていくように仕向けた。アルヴヘイトにも効いたんだ。エヒトにも効果は望めるだろう」

「なるほどな・・・まぁ、切り札はいくつあっても困らんし、もらっておくか」

 

ハジメも納得し、少しビビりながらも鱗を受け取った。

 

「さて、最後に・・・ハジメの方から、気の利いた言葉を頼むぞ」

「あ?ったく、しょうがねぇな・・・」

 

ハジメはガシガシと頭を掻きつつも、不敵な笑みを浮かべて全員に視線を向けた。

 

「敵は神を名乗り、それに見合う強大さを誇る。

軍勢は全てが一騎当千。常識外の魔物や死を恐れず強化された傀儡兵までいる。

だが、それだけだ。

奴等は無敵なんかじゃない。ティアがそうしたように、神も使徒も殺せるんだ。

人は、超常の存在を討てるんだよ。

顔も知らない誰かのためとか、まして世界のためなんて思う必要はない。

そんなもの、背負う必要なんてない。

俺が、俺の最愛を取り戻すために戦うように、ここにいる者全員がそれぞれの理由で戦えばいい。

その理由に大小なんてない。重さなんてない。

家に帰りたいから。家族に会いたいから、友人のため、恋人のため、ただ生きるため、ただ気に食わないから・・・なんでもいいんだ。

一生に一度、奮い立つべきときがあるとするのなら、それは今、このときこそがそうだっ。

今、このとき、魂を燃やせ!望みのために一歩を踏み込め!そして、全員で生き残れ!

それが出来たなら、ご褒美に故郷へのキップをプレゼントしてやる!

だから・・・・・・勝つぞ」

 

「「「「「「「「「「オオォォォォーーーーー!!!!!」」」」」」」」」」

 

そう締めくくって返ってきたのは、無数の咆哮だ。

戦意は十分。策もあらかた考えた。準備はこれからすませる。

さて、最後の戦争、そのための準備を始めるとするか。




原作では、2つの派生技能に目覚めたという話でしたが、自分にはどうしても2つ目を見つけることができませんでした・・・。
もし知っている方がいらっしゃるなら、教えていただけると嬉しいです。
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